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こころのしずく 第04話

『第03話』の続きっぽく。

今回はよく揺れる震源地こと白蓮さんです。


霖之助 こころ 白蓮








 こころの暴走に端を発する異変はひとまずの決着をみせた。
 しかし一時期に比べ落ち着いたとはいえ、人里ではいまだ連日屋台が立ち並んでいる。
 しばらく快晴のようだし、夏の開放感も手伝って季節の終わりまでこの陽気な日々は続くのだろう。


 そしてまた、ここ香霖堂の店先……空を見上げる霖之助の前にも、そんな祭りの余波は広がっていた。





 霊力で形作られた薙刀が大きく、鋭い弧を描く。
 青白い波動がその軌道を空に残すが……それだけだ。手応えはない。

 こころは躱されたとみるや素早く薙刀を消失させ、身を翻して距離を取った。
 次の瞬間には、先ほどまで彼女がいた場所を蓮の形をした光が埋め尽くしていた。


「踏み込みが足りませんよ、こころちゃん」
「……3人まとめて相手した時より、強い」
「お褒めにあずかり光栄です」


 余裕の笑みで答えるのは、黒い法衣に身を包んだ住職……白蓮だ。
 喋っている間にも彼女は距離を詰め、今度は自分のターンとばかりにこころに迫る。
 独鈷から生じた光の剣とこころの薙刀が数度打ち合い、周囲に派手な音を轟かせた。


「やっぱり足の引っ張り合いをしなくて済むから?」
「ノーコメント、です」


 二人がやっているのは、この夏流行した決闘スタイルの弾幕ごっこだ。
 もっともこの場にいる観客は霖之助一人のため、厳密には違うのだが。


「私と最強の称号を賭けて闘え!」


 きっかけはこころのそんな一言だった。
 店に来たばかりの白蓮に突然、である。

 たまに思うのだが、幻想郷の少女というのは弾幕ごっこを挨拶代わりかなんかと認識しているのだろうか。
 ……それにしても、あの変な前口上をこころに教え込んだ人物にはあとで文句を言うべきかもしれない。


「では、そろそろ今日の最強を決めましょうか……お望み通りに」


 再び距離を離すと、白蓮は魔人経巻を振り上げた。
 それだけで彼女の詠唱は終了する。
 対するこころも側に浮かぶ仮面に命令を与え、迎撃の姿勢を取った。

 今度の激突は……しかし長くは続かない。


 ――喜符『昂揚の神楽獅子』


 押され気味のこころは起死回生を賭け、スペルカードを宣言した。
 虚空から現れた大きな獅子舞がこころの顔を隠し、生じた光の奔流が周りの空間ごと薙ぎ払っていく。

 ……ずっと獅子舞が何の感情を表すか疑問だったのだが、本人が喜符というからには喜の感情なのだろう。

 見物しながらそんなことを考える霖之助の視界で、少女達に動きがあった。
 どうやら決着が付いたらしい。


「王手、ですね」


 文字通り目にも止まらぬ速度でこころの背後に回り込んだ白蓮は、ぽんと彼女の肩に手を置いた。

 幻想郷は、今日も平和だった。







「どうもご無沙汰しております」
「こちらこそ、こうして会うのは久しぶりな気がするね。
 といっても祭りの会場で顔は合わせてたから、そうでもないのかな」
「そうかもしれません。でもやっぱり、こういうことはちゃんとしておきませんと」


 カウンターを挟んで正面に座り、深々と白蓮は頭を下げる。
 先ほどまでわりと激しく動いていたはずだが、息ひとつ切らせてないのはさすがと言うべきか。


「なかなかどうして、賑わっているようじゃないか」
「はい。おかげさまで」


 夏祭りの会場は人里と主な宗教施設で、当然ながら彼女の命蓮寺も含まれている。
 敷地内に建つ屋台の管理に加えて定期的な遊覧飛行、さらに信徒も増えたことで忙しい毎日を送っているようだ。

 そしてそんな状況を作り出した元凶はというと。


「……私の時よりいいお茶……」


 自分の前で湯気を立てる湯飲みを見つめ、なにやら呆然と呟いていた。


「こころ、何か言ったかい?」
「それに栗ようかんまでついてる……」
「……まあ、彼女は上客だからね」


 何故か拗ねた様子で言われ、霖之助は頬を掻いた。

 早朝から突然押しかけてきた初対面の謎の少女と、顔なじみの上客では対応に差が出て当然だと思うのだが。
 ようかんに関しては丁度貰ったからであり、霊夢に持って行かれる前に食べてしまおうとしていたタイミングだったのだ。

 だからそんなに睨まれても困る……という視線のやりとりをしていると。


「ふふっ」


 聞こえてきた笑い声に、霖之助は肩を竦めた。


「すみません。こころちゃんが楽しそうでつい」
「今のがそう見えたのかな、君は」
「ええ、うちで修業していた時より表情が出てきたんじゃないでしょうか」


 そう言って白蓮はこころの顔を眺めていた。
 いつも通り無表情に見えるのだが、これでも変わってきているらしい。


「そういえばこころはしばらく君のところにいたんだったね」
「はい。感情をコントロールしようと頑張ってましたよ」
「なるほどね。成果はあまりでてなかったようだが……」
「本気を出さなかっただけ。なんと言っても私は最も悟りに近い妖怪」


 自信たっぷりにこころは薄い胸を張った。
 白蓮が苦笑しているところを見ると、彼女の入れ知恵なのだろう。

 人から聞いたことをすぐに信じてしまうのは、彼女の美点と言うべきか欠点と言うべきか。


「あくまで近いというだけの話だろう。悟るためには修業を続けなければならないんじゃないのかな」


 霖之助に問われ、しかしこころは澄まし顔で首を振る。


「私の居場所はここですから」
「あらあら」


 嬉しそうに、そして楽しそうに白蓮は笑顔を浮かべた。
 霖之助は気まずげに視線を逸らし、わざとらしい咳払いをひとつ。


「けどよかったですね、本当に」
「ん、そうかい?」
「こころちゃんが霖之助さんのところにお世話になってるって聞いて安心したんですよ。
 本当はずっとうちに居てもらうつもりだったんですが」
「ああ、なんかそういう取り決めがあったらしいね」
「ええ、そうなんですよ」


 確かバランスがどうこう、という話だったような気がする。
 それがパワーバランスなのか人気のバランスなのかはよくわからなかったのだが。


「こころちゃん、なかなかどこで引き取るか決まらなくて」
「そうなのかい?」
「ええ、みんな自分で引き取るつもりだったみたいで」
「……なるほど」


 長引いたのはむしろ引き取り手が多すぎたせいらしい。
 苦笑いを浮かべる霖之助に、白蓮は軽く首を振って言葉を続ける。


「その話があったのはうちで修業してた時だったんですよ。
 でもなかなか話が付かないから、マミゾウに住める家を探してもらってたんですが……いつの間にかふらりと居なくなってて。
 それでしばらくしたら、住むところをみつけたって挨拶に来たものですから驚きましたよ」
「ああ……」


 それがあの日の朝なのだろう。
 霖之助は合点がいったとばかりに頷きながら、隣に座るこころに視線を向けた。





「ようかん美味しい」


 当の本人はのほほんとお茶を啜っていた。
 どうでもいいがいつの間にか霖之助のようかんがなくなっているのはどういうことなのだろうか。


「それであなたのところならいいかって話になったんですよ。
 もし何かあっても、なんとかしてくれるでしょうしね」
「お褒めにあずかり恐縮です」


 笑顔の白蓮に、霖之助は恭しく頭を下げた。
 それから顔を上げ、期待するような瞳で彼女の顔を見つめる。


「でも君も、その何とかしてくれる人物の一人だろう? 白蓮」
「そうですね。すぐに駆けつけますよ」


 大魔法使いは任せてくださいとばかりに頷く。
 そしてこころの頭を撫でながら、口を開いた。


「でも気が向いたらいつでもうちに来ていいですからね、こころちゃん」
「ほとぼりが冷めるまで待つんじゃなかったのかい?」
「私は、マスターと一緒だから」
「ええ、もちろんわかってますよ」


 こころは顔を上げ、白蓮と霖之助を交互に眺めた。
 すると彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、じっと霖之助の瞳を覗き込む。


「ですから、霖之助さんもご一緒にいかがですか?」
「僕もかい?」
「はい。お寺の生活も楽しいものですよ。みんなも喜びますし、なんなら近くにお店を作ってもいいですし。それならこころちゃんの希望通りでしょう?」
「……まさか僕ごと勧誘とはね。抜け目ないことだ」
「鍛えられましたから。これくらいできないと幻想郷で住職はやってられませんよ」


 彼女も色々苦労しているらしい。
 まあ楽しそうで何よりである。


「気が向いたら、ね」


 そう言って、霖之助は笑みを浮かべた。
 そして話題を変えるように、白蓮へ問いを投げかける。


「ところで今日の用件は挨拶だけなのかい?」
「あら、ご不満ですか?」
「そういうわけじゃないが……忙しい君がわざわざ来なくてもと思ってね。
 お寺の買い物は先日村紗が来たばかりだし、足りないものは無いはずだけど」
「ですから先ほども言った通りですよ。こういうことはちゃんとしておきませんと」


 白蓮はにこやかに答えながら、そこでぽんと手を合わせた。


「あ、どうせなら霖之助さんに会いに来ました、と言ったほうがよろしかったでしょうか」
「それなら次は僕が君に会いに行くよ、と答えるべきかな」


 冗談交じりに返す霖之助。
 対する白蓮は……なにやら目を瞬かせているようだった。


「……自爆してしまいましたね」
「なにがだい?」
「いいえ、何でも無いですよ」


 慌てて手を振る彼女に、今度はこころが何か気づいたように顔を上げた。


「……あ」
「ん?」


 白蓮と霖之助を見比べながら、彼女は席を立つ。


「お茶が切れたから注ぎ直してきます。一番いいやつで」
「せめて二番目にしてくれ」
「わかりました、マスター」


 ぱたぱたと軽い足音を立てながら台所に向かうこころは、去り際にちらりと二人を振り返る。





「私はあの感情を知っている……かも」




 二人に聞こえないよう呟いて。
 先ほどの白蓮の表情を思い出しながら。

 こころはひとり、首を傾げるのだった。

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非公開コメント

No title

聖様の落ち着いた雰囲気にほっこりとさせて頂きました。ゆれるしんげんちばんざい。

どうやらこころちゃんも嫉妬の感情も学んだようで、これからも目が離せませんわ!

No title

相変わらずかわいいこころちゃん描くのに定評あるな。個人的なリクエストになるけど、これの続編読みたいな。今度は神子様と聖さんの両方挟んで、個人的には道草さんの書く神子様ももっと読んでみたい

No title

もうすっかり馴染んだこころちゃん。 そして感情がアバアバ

No title

すっかり香霖堂に馴染みましたねこころちゃん。終いには定位置が"膝の上の聖域"に
なったりしてwww

・・・ところでこころちゃんの薄い胸が大きくなる展開はまだですかね(2828)

No title

霖くんはどうやら受け答えに関しては最強だね!(朴念仁としてのな!)
いやー、今回はこころちゃんではなく白蓮さんが正ヒロインみたいな回だな。
つまり、これは嫉妬あたりの感情を期待してエンジン掛けてもOKですね?答えは聞いてない!

このまま平穏無事に霖くん巡っての争いがおきないと・・・・・・否、おきますように。←こころちゃんじゃなくてそっちかよ

No title

嫉妬こころん可愛いですね^^
霖之助さんと聖の掛け合いが地味に夫婦っぽい件w

No title

ひじりんと店主さん仲良し!
そしてこころちゃん可愛いです

No title

ジェラシーしてるこころちゃんまじキュート。
白蓮さん、母親ポジと恋人ポジと上客ポジの総取りとは・・・流石です。
太子様とのエンカウントが楽しみですねぇ(2828)
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Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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