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鈴の音とともに02

小鈴ちゃんの単行本が出たので。
『第01話』の続きっぽく。

小鈴ちゃんは無自覚天然黒幕ですね。


霖之助 小鈴









 目は口ほどに物を言う、とは実に上手く表現したものだ。

 人里の外れにある貸本屋、鈴奈庵。
 そのカウンターに持ってきた本を並べながら、霖之助はそんなことを考えていた。


「わぁぁ……」


 まるで宝物を前にした子供のように……実際にそうなのだが、この店の看板娘である小鈴はきらきらと目を輝かせている。
 犬だったらしっぽを振りまくっているところだろう。
 端から見てよくわかるほど、彼女は喜んでいるようだった。

 よほど霖之助が持ってきた妖魔本に興味があるらしい。


「とりあえず、店にあるのを適当に見繕ってきたわけだけど。
 ええとこれが甲子夜話という随筆の写本だよ。妖怪や人魂についての記述も載っていて……この本はさらに河童が加筆をしたっていう改訂版なのさ。事実かどうかは知らないがね」
「河童ですか。私も何度か会ったことありますよ」
「ああ、原本は江戸時代に外の世界の殿様か誰かが書いた本らしいんだけど……ひょっとしたら河童と仲が良かったのかもしれないな」
「いいですねぇ。私も河童さんと仲良くなったら本の一冊くらい書いて貰えるでしょうか」
「さて、それは君の努力次第だと思うよ」


 とはいえ臆病なわりに気のいい彼女たちのことだ。
 頼んだらあっさり聞いてくれそうな気もする。


「それでこっちが魔術書だよ。難易度も低い代わりに危険度も少ない……魔理沙が魔法を覚えたてのころに教科書代わりにしていたようなものかな」
「なるほど、入門書ってやつですね」
「まあね。だからってこれを読んだだけで魔法が使えるようになるわけじゃないと思うけど」
「十分です。私が欲しいのは、魔法じゃなくてその本ですから」


 頷く小鈴に、霖之助は苦笑を浮かべる。
 どうやら彼女の本好きは筋金入りのようだ。

 他にもいくつかの本を紹介してみたが、どれも小鈴は強い興味を示していた。

 そんな彼女は、興奮した様子で霖之助に熱い視線を送る。


「それにしても霖之助さん、よくこんなに蒐集されてますね」
「ああ、うちには本好きな助手がいるからね」
「そうなんですか。いいなぁ」


 羨望の眼差しを受けながら、曖昧に頷く霖之助。

 まあ助手というかなんというか。
 読書仲間の朱鷺色の少女は妖怪のくせに恐がりなので、これらの本はどれも彼女の趣味に合わなかったものだったりする。
 それでも次から次へと拾ってくるので置き場所に困り、紅魔館の図書館に寄贈しようかと思っていたところなのでこの取引は渡りに船だった。

 ……あの子は香霖堂を倉庫かなんかと勘違いしているのだろうかとたまに思うことはある。


「ところでこの本、見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ。そのつもりで持ってきたんだし」
「ありがとうございます。では早速」


 小鈴は嬉々として本に手を伸ばした。
 その様子を眺めつつ、思い出したように霖之助は口を開く。


「あと言われたとおり、破れたり汚れたりして読めない本とかも包んできたんだが」
「本当ですか? やったぁ!」
「まあどうせ捨てるしかないものだからかまわないけど……何に使うんだい、こんなの」「それはその、企業秘密ですよ」
「企業秘密なら仕方ないね」


 答えをはぐらかされ、ため息ひとつ。

 いくら貸本屋と言え、商品になりそうな状態ではないのだが。
 もしくはリサイクルや復元作業にでも使うのかもしれない。

 しかしもし復元できたとしても、解読にまた手間取りそうな気がするものの。
 気にはなったが、聞いても教えてくれそうにないのでそれ以上の追求を諦めることにした。


「そんなに本が好きなら、紅魔館の図書館とかに足を運んだらいいんじゃないのかい?」
「話には聞いたことありますけど、入ったことはないんですよね」
「そうなのかい?」
「はい。というか、いきなり押しかけて図書館に入れてくれとは言えないもので」
「そうか。そう言えばそうかもしれないな」


 人間離れした人間が周りに多いので忘れがちであるが、普通の人間があの館に入ること違い難しいのかもしれない。
 図書館は気むずかしい魔女が管理しているし、門番もいるので追い返されるのがオチだろう。
 ……たぶん。

 ふと気さくな門番の顔が思い浮かび、霖之助は肩を竦めた。
 そもそもここのような貸本屋が成立するということ自体、あの図書館が外に解放されてないことの証明なのだし。


「じゃあ霊夢や魔理沙に紹介してもらうってのはどうだい?」
「うーん。それも考えたんですけど」


 ページをめくる手を止め、小鈴はうーんと唸ってみせる。


「ちょっと霊夢さんには頼みづらいんですよね。博麗の巫女に妖怪を紹介してもらうってのも変な話ですし」
「当人は気にしないと思うがね」
「そうかもしれませんけど、ちょっといろいろありまして」
「ふむ?」


 言葉を濁す小鈴に、霖之助は首を傾げた。
 まさかと思うが、何か後ろ暗いところでもあるのだろうか。
 とはいえ彼女が異変の首謀者になるとはとても思えないのだが。


「ええと、それより」


 会話が途切れたのを気にしてか、はたまた別の要因か。
 小鈴は慌てたように、次の話題を口にする。


「魔理沙さんの紹介というのは……」
「確かに、愚問だったね」


 魔理沙がマークされていることをすっかり忘れていた。
 泥棒の紹介で入ったりしたら、彼女も泥棒と思われかねないということだろう。


「じゃあ咲夜ならどうかな。よく人里で買い物しているだろう?」
「ええ。でもあの方はあまりうちの店に用事はないみたいですし、なかなか……」
「そうかい? あれでいて彼女は結構漫画好きなんだがね。特に外の世界の少女漫画とか……」
「それをうちに優先的に卸してくれるならなんとかなるかもしれませんけど」
「なるほど、じゃあ無理だね」
「そんな、諦めないでくださいよ」


 霖之助としても、上客が足を運んでくれる理由をみすみす手放す気はないわけで。
 小鈴はがっくりと机に突っ伏していたが、思い出したように顔を上げた。


「あ、でも一度来店されたことはあるんですよ。たしか月の本をお探しでした。
 残念ながら、うちでは取り扱ってなかったのですぐお帰りになりましたけど」
「ああ、あの時か」


 言われて思いだした。
 もう結構前の話だが、月に攻め込むとか何とかで紅魔館の主が張り切っていたことがある。
 確かその流れで、月に関する書物をあのメイド長が探しに来たのだった。

 香霖堂に来る前、この店にも足を運んでいたらしい。


「まあ機会があれば、君のことを話してみようか」
「本当ですか? ぜひお願いします!」
「とはいえ相手がどう言うかわからないし……もしOKを貰えたとしても、君の両親の許可が必要だけどね」
「そんなぁ……」


 ぱっと顔を輝かせたかと思えば、まるでこの世の終わりとばかりに曇らせてみたりする。
 ころころと変わる表情と、その拍子に音を立てる鈴の音を聞きながら、霖之助は笑みを浮かべた。


「さて盛り上がっているところすまないが、僕の用件も聞いてくれるかな」
「え、本を持ってきてくれただけじゃなかったんですか」
「さすがに僕はそこまで暇じゃないよ」
「すみません、つい」
「しっかりしてくれよ、小さな店番さん」


 自分のことを棚に上げ、霖之助は小鈴を窘める。
 ……無論暇じゃないと言ってもいつも通り客は居ないし、これといって急ぎの用事もないのだが。

 そんな霖之助の考えには気づかず。
 小鈴は手早く本を片付けると、店員スマイルを浮かべた。


「では霖之助さん、今日はどんなご用件でしょうか」
「それなんだが、僕がこの前返した本があっただろう」
「はい、おかげさまでたんまり儲けさせていただきました」
「……それについての是非はともかくとして」


 当然、小鈴が儲けたと言うことは霖之助がそんをしたと言うことである。
 まあ自業自得なのでそれは仕方ないものの。

 満面の笑みで言われても、反応に困るわけで。


「返す前、久しぶりに読み返したら続きが気になってね」
「そうえばあの本って続刊でしたね」
「そうなんだよ。それで次の巻があれば借りていこうと思ったんだ」
「了解です! でも古い本ですから調べてみないとわかりませんね。ちょっと待っててもらっていいですか?」
「ああ、それは構わないよ」


 小鈴は椅子から立ち上がると、棚から目録を取り出した。
 ページをめくり、内容を目で追っていく。

 もう十年以上前に借りた本なので、続きがあるだけ僥倖というものだろう。
 見てるだけも暇なので、霖之助は湯飲みを傾けながら口を開いた。


「しかしさっきの話だけど、突然の臨時収入に君のご両親は驚いただろう」
「え? えーっと……そう、ですね」


 何の気なしに振った話題なのだが、小鈴の歯切れが悪い。
 気になって顔を上げる霖之助の視線から逃れるように、彼女は瞳を逸らす。

 その様子を見て、霖之助の脳裏に閃くものがあった。


「まさか小鈴、君はもしかして」
「あ、あはは……」


 冷や汗を流しながら乾いた笑いを立てる彼女に、霖之助は思わず肩を落とす。
 そういえば店の売り上げを勝手に使って妖魔本を買っている、と彼女は言っていた。

 ……今回もどうやら、そのひとつのようだ。


「今度は一体何を買ったんだい」
「ずっと欲しかった妖魔本がありまして、つい……」
「……はぁ」


 やれやれと霖之助は肩を竦めた。
 なんだかどっと疲れた気がする。


「この前君の親父さんと会った時、小鈴に感謝しろよと言われた理由がようやくわかったよ」
「私のお情けで、一週間分の延滞料金で手を打ったってことになってますからね」
「つまり差額が君の懐に入ったというわけだ」
「ご名答! ……もうほとんど残ってませんけど」


 まったく、とんだ放蕩娘である。
 いや仕事はしているからちょっと違うかもしれないものの。

 彼女のことを筋金入りの本好きと判断したが、どうやら間違いだったらしい
 もはやここまでくると一種の病気だろう。
 よくこれで商売が成り立つものである。

 ……まあ霖之助もあまり人のことは言えないのだが。


「お父さん達には秘密ですよ?」


 そう言って小鈴は唇の前で人差し指を立てる。


「さて、どうしようかな」
「ああっ、お願いですよ霖之助さん!」
「……今回だけだよ、まったく」
「はい、まかせてください」


 胸を張る彼女は、しかしあまり信用できそうにない。
 きっとまたやらかすだろう。なんだかそんな確信があった。

 とはいえ、霖之助としても商売人が商売人に騙されたなどと人に言えるはずもなく。
 ここで恩を売っておくのも悪くない、と判断したのである。


「それと霖之助さんの本、あるみたいですよ」
「ほう、それはよかった」
「すぐ用意しますからね~」


 ふんふんと鼻歌交じりに、彼女は本棚に駆け寄る。
 小さい頃の魔理沙に似ているかもしれない、などと霖之助はぼんやり考えていた。

 まだ彼女が幼い頃、霧雨店に顔を出すと店の手伝いをしようとちょろちょろ走り回っていたものだ。
 実際手伝いになっていたかはともかくとして。


「えっと、確かこの棚の上に……」
「手伝おうか?」
「いーえ、だいじょぶです!」


 ある意味予想通りの返答に、懐かしい感情がわき上がっていた。
 小鈴はカウンターの横に置いてあった踏み台を抱えると、本棚の前に置いて段差を登る。


「よっ」


 それから精一杯の背伸びをして手を伸ばす。
 どうやら目的の本はそこにあるらしい。

 霖之助は次の展開を予測し、対応するべく行動に移すことにした。


「わ、わわっ」
「だから言ったのに」


 踏み台の上で無理な体勢をしていた彼女は、運悪くバランスを崩し……。
 ぽす、と霖之助の腕の中に収まった。


「……す、すみません」
「なに、構わないよ」


 前にも似たようなことがあった気がする、と思いながら。
 霖之助は彼女を下ろし、頭を撫でる。


「ではこの2冊を借りても構わないかな」
「は、はい」


 自分の目線より少し上にあった本を手に取り、小鈴に見せる。
 どうやら古い本はだんだんと隅の方へ追いやられていくのだろう。
 彼女の身長ではなかなか難しいはずだ。


「どうかした」
「え? あ、いえ……」


 ふと、小鈴がじっと霖之助を見つめていることに気がついた。
 問い返してみると、慌てたように目を逸らす。


「阿求が英雄に推薦した理由が、ちょっとわかった気がします」


 霖之助に抱きかかえられたまま。
 彼女はそんなことを言うのだった。

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腕の中にぽすんと抱えられた小鈴ちゃんを想像するとほっこりしますね。
どの店でも店主というのはしたたかな人間なんでしょうかねぇ。

No title

腕の中にいる絵を思い浮かべたらまた血が(グフッ)
だが、まだ子供にしか見られていないと断定できる!
『霖之助は彼女を下ろし、頭を撫でる。』
この一文がそれを証明している!頭を撫でるという行為は子供にすること、つまりまだこの先進展するということなんだ!

ちょっと熱くなりすぎました。これが霖之助さんが読者に与える力か・・・。
とりあえず、かわいいということですねわかりますよ!

小鈴ちゃんの強かな面と乙女な面がよいですねー。
この性格なら、欲しい者は何がなんでも取りに行きそうですね。

妖怪が書いた本が好きなら、東方香霖堂にも興味を持ちそう(笑)。

No title

ほう、小鈴ちゃんも隅に置けませんな……
鈴奈庵版のマミゾウさんとかとの遭遇も楽しみに……

No title

霖之助の口から次々と自分以外の女性の話題が出るのに嫉妬の「し」の字も出てこない小鈴が何だか新鮮ですなwww

それにしても腕の中にすっぽりと収まるくらいの女の子って可愛いですよね///

No title

これは阿求さんと朱鷺子さんパルパルもんですね(ゲス顔)
この気心知れたやりとり、ご馳走様でした。

・・・とりあえず金髪の子は反省すべきかと(泥棒)
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道草

Author:道草
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