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鈴の音とともに

東方鈴奈庵の新キャラ、小鈴ちゃんが可愛かったのでいてもたってもいられず。
書籍に霖之助が出てきて話の流れがちがうじゃん、と言うことになっても霖之助が書籍に出られればよし、ですよね!


霖之助 小鈴









 鈴奈庵。

 人里にある貸本屋である。
 わびのある佇まいと言えば聞こえはいいが、庵を掲げた文字看板が傾いているところから見るに繁盛度合いは推して知るべし、だろう。

 日よけのためか、玄関の暖簾は長く店内を窺い知ることは出来ない。
 事情を知らぬ者が見れば一瞬躊躇いそうなその店構えに苦笑を漏らしつつ、霖之助は入り口の引き戸に手をかけた。


「いらっしゃいませ」


 店の中に足を踏み入れると、幾重にも並べられた巨大な本棚が目に付いた。
 来客を出迎えるのは、人工の光と少女の声。
 まだ幼さの残るそれは、カウンターに座る少女が発したものだ。

 明るい色の髪を両サイドでまとめた彼女は、目の端に未練を宿しながら読んでいた本から顔を上げた。


「初めてのご利用ですか? 当店では本の貸し出し、販売を行っておりまして……」
「いいや。今日は借りていた本を返しに来たんだ」
「はい?」


 霖之助の返答に、少女は首を傾げる。
 その拍子に彼女の髪をまとめている鈴がちりんと音を立てた。
 この店の屋号にも使われているくらいなのだから、あの鈴は彼女のトレードマークなのだろう。


「すみません、お会いしたことありましたっけ? 私、一度来店したお客さんの顔はだいたい覚えてるんですけど……」
「ほう、それはなかなか大したものだね」
「こんな商売ですから。それに、誰が誰だかってほどお客さんがいるわけでもありませんし」


 そう言って彼女は肩を竦める。
 なるほど、と改めて霖之助は感心の吐息を漏らした。
 貸本屋という職業上、借りたままにするという客がいないとも限らない。
 顔を覚えていると言うことは、それだけでそういった事態の予防策となり得るのだ。

 ……とはいえ、今日の霖之助にはいささか耳の痛い話ではあるが。


「あるといえばあるし、ないといえばない、かな。実は本を借りたのは随分昔のことでね。
 先日偶然発見して……延滞を重ねてしまったが、今更ながら返しに来たというわけさ」
「そうだったんですか。それはわざわざありがとうございます」


 深々とお辞儀をする少女に、霖之助は首を振る。


「お礼を言うのはこっちだよ。あと謝罪ね。……延滞料の方は、お手柔らかに頼むよ」
「ええ、前向きに検討させていただきますね」


 彼女はにっこりと微笑むや否や、早速そろばんを取り出した。
 年端もいかない少女ながら、商売人の顔をしている。

 ……きっと両親の教育がよかったのだろう。必要に応じての可能性もあるが。

 霖之助はそんなことを考えながら、思い出すように言葉を続けた。


「ちょうどその本を借りた時、君にも会ったことはあるんだよ。
 まだ小さかった時だけど。名前は確か……小鈴だったかな」
「ご名答です。本居小鈴、よろしくお願いしますね」


 少々不安だったのだが、どうやら記憶は当たっていたらしい。

 彼女の方も、両親の知り合いと知ってか表情が柔らかくなった気がする。
 人懐っこい笑顔を浮かべる小鈴に、霖之助は相好を崩した。


「ご両親は元気かい? 昔いろいろよくしてもらっていてね。
 最近はすっかり足が遠のいてしまっていたが、久しぶりに挨拶をと思ったんだよ」
「それはもう。最近は私に店番を任せきりで、作業場にこもってばかりですよ。
 店の収入的にもそっちがメインだから仕方ありませんけど」
「稗田の幻想郷縁起も手がけたんだったね」
「はい。あ、読まれましたか?」
「ああ。出来れば製本の前に少し手を入れて欲しかったよ……」


 大きく肩を落とした霖之助の嘆きは、しかし彼女に届かなかったようだ。
 気を取り直し、店内を見渡しながら口を開く。


「それにしても作業場にこもりきりとは、職人のあの人達らしいね。
 本居君はずっとひとりで店番をしてるのかい?」
「あ、小鈴で構いませんよ。まあ私は読書……じゃなかった店番が好きですし、本があれば幸せなのでむしろご褒美です」
「なるほどね」


 会話から察するに、彼女の商人顔は必要に迫られ身についたものらしい。
 もっとも、本人の資質もあるのだろうが。

 霖之助は昔この店に通っていた時代を思い出し、郷愁に目を細めた。


「あ、なんでしたら呼んで来ましょうか?」
「いや、あとでゆっくり伺わせてもらうよ。作業の邪魔をするのも悪いしね。
 それより僕は借りっぱなしにしておいたこの本と汚名を返上したいんだが」
「かしこまりました」


 これ以上延滞料が増えてはたまらない、とばかりに霖之助は持ってきた本をカウンターの上に並べた。
 魔法の森の入り口に店を出す際、返さずに一緒に持って行ってしまったらしい。
 あらかた整理したつもりだったのだが……やはり何かしらミスというものはついて回るようだ。


「ずいぶん古い本ですね」
「もう何年になるかな。借りた時から古かったけど」
「でも綺麗に保管されてたようで」
「借りたものだからね。汚したりはしないさ」


 自信たっぷりに言い放ち……それから少し、肩を竦める。


「まあ、忘れていたんだけど」
「ふふ、こうして返しに来てくれただけでもありがたいですよ」


 小鈴はそう言って笑うと、巻末の貸し出し記録に目を走らせた。
 記載されていた年月に苦笑を漏らすと、その下にある名前を読み上げる。


「えーと、借出人は霧雨……」
「それはまだ人里に住んでいた時の名前なんだ。今は森近と名乗っているよ」
「……霖之助さん?」


 突然少女は顔を上げた。


「貴方が、霖之助さん?」
「あ、ああ」


 小鈴の目に宿る輝きに、面食らって霖之助はたじろいだ。
 だがそんな彼に構わず、彼女は彼の顔を覗き込むようにして身を寄せる。


「霊夢さんからお話はたまに聞かせていただいてます。
 それに阿求の本にも載ってましたね。印象違うから、すぐに気づきませんでした」
「構わないよ。あの本で気づいてもらっても困るし……どうせろくな話は聞いてないだろう?」
「いいえ、そんなことは」


 幻想郷縁起の項目を思い出したのだろう。彼女の瞳に笑みが踊った。

 それにしても、御阿礼の子を呼び捨てにするとは少々意外だった。
 そういえばかなり親しい間柄だと、どこかで聞いた気がする。

 ……他ならぬ阿求本人からかもしれないが。


「人間と妖怪のハーフなんですよね」
「まあ、ね」
「人里離れた辺鄙な場所に住んでる変わり者で」
「否定はしないよ」
「趣味で店をやってるようなぐうたら店主で」
「うん?」
「貴重なものは全て非売品にして」
「誰がそんな」
「外から流れ着く本を独占してるっていう……」
「ちょっと待ってくれないか、小鈴」


 剣呑な光を宿し始めた彼女の瞳から逃れるように、霖之助は大きく頭を振った。
 どうしてこんなことになったのか……は、わりと簡単に予想できるから困ったものだ。


「君の認識は大きく間違っていると言わざるを得ないね」
「そうなんですか? 霖之助さんを倒せば珍しい本が手に入るって霊夢さんが」
「彼女の言うことを真に受けないように」
「阿求も言ってましたよ」
「……あの二人には厳重な抗議を申し入れておくとしよう」


 霖之助はどこかの巫女のように、通りすがりの妖怪から本を巻き上げたりしたことはない。
 ……自分の所行を人の責任にしてもらいたくないものである。


「荒事で商品を入荷したことはないよ。うちにある商品は全て正当な交渉で手に入れたものばかりさ」
「……もちろん」
「今目が泳ぎましたよ!?」
「気のせいだ」


 一瞬の迷いは魔理沙から不当に安く商品を仕入れているからと、荒事の果てに手に入れた本を買い取ったことがあるからだ。
 嘘が下手、とよく言われるのだが、こんな時は実に不便だと思う。


「だいたいうちは古本屋ではなく古道具屋だよ」
「そういえばそんなことを聞いたような気が。そちらには興味がないので覚えてませんでした」
「……君ははっきり物を言う子だね」
「はい、それが私の美点ですから!」


 今日一番の笑顔で、彼女は言った。
 ……阿求と親しい時点で、一癖ある人物だと覚悟しておくべきだったかもしれない。

 霖之助は痛む頭を押さえつつ、深いため息をついた。


「まあ本も取り扱ってはいるから、全てが間違いじゃないんだけど」
「あ、その話は聞いたことあります」
「技術書とか科学書とか……あとは外の世界の魔術書とか、妖魔本も少しあるね」
「本当ですか!?」


 突然上げた大声に、彼女自身も驚いたらしい。
 小鈴は恥ずかしそうに笑うと、まるで告白するかのように居住まいを正した。


「……実は私、本が好きなんです」
「ああ、うん」
「離れたくないんです」
「見てればわかるよ」
「愛してるんです!」
「わかった。少し落ち着こうか」


 このままでは何となくよろしくなさそうな気がして、霖之助は降参とばかりに両手をあげた。

 彼女も我に返ったらしい。
 ごめんなさい、と呟きながら、小鈴は照れ笑いを漏らす。


「……失礼しました。それでひとつお願いがあるんですけど」
「だいたい予想はつくが、言ってごらん?」
「はい。霖之助さんが持っていらっしゃる本で、売っていただけるようなものがありましたらぜひ当店へお持ちください。
 あと私、幻想郷一の妖魔本コレクターを自負してまして……妖魔本がありましたら、ぜひに。でもこっちは両親に内緒で集めてるので、秘密にしてくれると嬉しいです。
 本当は私がお店まで行ければいいんですが、店番がありますので……」
「僕も一応店主なんだがね」


 ひょっとしたら暇人のように思われているのだろうか。
 だとすればとんでもない誤解である。

 しかし、まあ。


「別に構わないよ。今度持ってこよう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「ちょうど何冊か本を借りていこうと思っていたところだしね。
 次返しに来た時、一緒に渡すことにするよ」
「おまちしてますね! では延滞料、うんと値引きしておきますよ」
「それは助かる」


 何年分もの延滞料だ。
 正直考えたくもなかったので、渡りに舟というやつだろう。

 支払いを済ませ、身も心も……ついでに財布も軽くなった霖之助は、深く安堵の吐息を吐き出した。
 何とか持ってきた手持ちで足りたのは、僥倖と言わざるを得ない。

 ……その大部分は、彼女が値引きをしてくれたおかげなのだが。


「それにしても、霖之助さんって奇特な方ですね」
「ん?」
「ここまで借りていたら、いっそ知らないふりをすれば切り抜けられるかもしれませんでしょう? 書類の不備だ、とかいって」


 言いながら、小鈴は小さなため息をついた。
 ひょっとしたら昔、そんな事例があったのかもしれない。

 ……霖之助はひとつ苦笑を漏らすと、彼女の頭に手を置いた。
 ぽんぽんと軽く撫でると、少しだけ驚いていた小鈴の瞳がやがて柔らかいものへと変わっていく。


「さっきも言ったとおり、僕はここの人たちに世話になったからね」
「両親に、ですか?」
「ああ。それに同じ商売人としての矜持もある。それだけだよ」
「そう、ですか」


 彼女はそう呟くと、なにやら確かめるように頷いた。
 それから肩を竦め、笑みを浮かべる。


「阿求の記載も、あまりあてになりませんね」
「あてにしてもらっちゃ困るんだけどね、僕としては」


 つられて霖之助も苦笑で返した。
 そんな彼女に、霖之助はふと口を開く。


「小鈴」
「はい、なんでしょう」
「霊夢達から吹き込まれたことは、綺麗に忘れてくれると嬉しいんだが」
「ん~……」


 小鈴は少し考え、霖之助の顔をじっくりと眺める。
 それから彼が持ってきた本を見比べ……にっこりと微笑んだ。


「それは自分の目で、判断させていただきますね」


 なるほど、と霖之助は肩を竦める。

 長い付き合いになりそうだ、などと。
 そんな予感を、抱きながら。

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さすが道草さん早い!
本、店繋がりで楽しめそうな新キャラに今後の期待が持てます。

漫画本編はまだ読めてませんが、今度こそ霖之助の出番があると信じて…っ!俺達の戦いはこれからだ!

噂の新キャラ、小鈴ちゃんですかー。
まだ本編は読んでいないですが、本好きといういかにも朱鷺子と相性が良さそうなキャラですね。
まさかの再登場はありますかねぇ?

No title

小鈴ちゃん可愛いですよねぇ/// 本好き繋がりと言うことで霖之助との相性も良さそうですし、
こりゃ本編の方に霖之助が登場するのを期待してもいいかも。

しかし霧雨時代の知り合いって設定だと幼魔理沙と幼小鈴ちゃんで霖之助を取り合っていた
みたいな感じのエピソードもできそうでいいですよね(笑)

また新たな本好きの登場ですね
小霖は今後も続々と増えそうな予感が

でもそうなると
元祖本好きのパッチェさんが
パルパルしそうですね
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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