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名前で呼んで 09

めておさんに挿絵を描いていただいたのでひとつ。

そういえばpixivのほうで『きっとこんな先代霖』ってのを作ったりしてみました。
きっとこんな先代霖



霖之助 先代巫女






相合い傘


「いや助かったよ。持つべきものは巫女だね」
「そういう問題じゃないでしょ、まったくもう」


 巫女のため息を聞き流しながら、霖之助は彼女に借りた番傘を持ち直した。
 狭い傘では二人とも濡れないようにするのはなかなかに難しい。

 ほんの1時間ほど前から降り出した雨は勢いを増し、今ではすっかり本降りの様相を醸し出している。


「ほんとにのんきなんだから。わたしが通らなかったらどうするつもりだったの?」
「その時は雨が止むまで待つか、通りかかった誰かに傘に入れてもらうしかないかな」
「あんな辺鄙な場所、誰も通らないと思うんだけど」
「まあ、君みたいな奇特な人間くらいだろうね」
「別に、たまたまだよ」


 傘を叩く雨音と巫女の小言が現在のBGMだ。
 雨具を忘れて立ち往生していた霖之助を彼女が見つけ、こうやってひとつ傘の下、肩を寄せ合っているというわけである。

 霖之助がいたのは里の端の裏路地という場所だったので、確かに巫女が通らなかったらずっとあの場所にいた可能性もあった。


「お店にいないから、どこに行ったのかと思ってたら……あんなところにいるんだもの」
「ああ、今日は非番だったんだよ。さっきまで貸本屋で本を読んでいたんだけど、気がついたら雨が降り始めていてね。
 小降りだったから大丈夫だろうと踏んだんだが……読みが甘かったかな」
「ふーん?」


 よどんだ空を見上げて肩を竦める霖之助に、ふと彼女は首を傾げる。


「貸本屋って、里の外れにあるあそこ? どうせなら傘を借りてくればよかったのに」
「まあ確かにそうなんだが、話せば長い事情があってね」


 そこで霖之助は言葉を切った。
 しかし巫女はにっこりと笑い、彼の話を促してみせる。


「どうぞ、聞いてあげるよ?」
「……いつもみたいに遠慮しないのかい?」
「霖君らしくないじゃない。いつもみたいに、勝手に話すかと思ってたのに」
「やれやれ」


 霖之助はばつの悪い表情を浮かべ……それから諦めたように、苦笑いを漏らした。
 里の交差路を曲がった拍子に少しずれた傘の位置を巫女の方向へ倒し、空いた手で空を指し、口を開く。


「今日は朝から天気が悪いことは知ってたし、雨が降ると予想はしてたさ。
 だけどうっかり傘を忘れたまま出かけてしまったんだ」
「そうだねー。雨の日によく見る妖精が騒いでたし。降るのはすぐにわかったよ」
「ああ。だからこそ、最初は本を借りてすぐに帰る予定だったんだよ。
 しかしあそこの旦那から薦められた本を読み始めてみると、これが面白くてね」
「で、つい長居しちゃったと?」
「そんなところだね」


 霧雨の親父さんの紹介で教えられた、里外れの貸本屋。
 看板が半分傾いたその店は、しかし見る者が見ればまさに宝の山に感じることだろう。
 しかしながら今のところ見る者はそう多くなく、傾いた看板そのままの経営状態に見受けられた。
 よくこれで潰れないものだと感心するのだが、どうやら製本業務という副業があるらしく、もっぱら最近はそれがメインになっているようだ。



「雨で本が濡れるなんてことはあってはならないことだよ。
 だから僕は本を借りてすぐ帰ろうと思ったんだが……ここでひとつ、問題が起こった」
「財布を忘れたとか?」


 揚々と話していた霖之助の口が、ぴたりと動きを止めた。
 そして落ちてくる雨粒を眺めながら、ぽつりと呟く。


「……この雨、いつ止むんだろうな」
「そんなことだろうと思ったよ。だいたい霖君が長い話って前置きするのは、だいたい霖君が失敗した時だもの。
 変に意地を張るから、そんなことになるのよ」
「しかし散々立ち読みだけしておいて傘だけ借りて帰るなんて、みっともないじゃないか」
「ほんとにもう、変なところで遠慮するんだから」


 巫女の呆れ顔に、霖之助は曖昧な笑みを零す。

 霖之助が雨が降り出したことに気がついたのは、読書を初めてどれくらい経ってからのことだっただろうか。
 その間他の客は一人も来なかったのだが……店の主人も、製本作業にかかってしまい出てこなかった。

 ……体よく店番に使われた可能性もあるが、楽しめたからよしとしよう。


「でも君が来てくれて嬉しかったかな」
「……へ?」
「ひとつ見てもらいたいものがあって、ちょうどこの後神社に行こうかと思ってたからね。
 すれ違いにならず、助かったよ」
「ああ……嬉しかったってそういうこと……」
「ん、どうかしたかい?」
「べっつにー。じゃあ神社に行こうよ。ほら早く早く!」


 何故かがっくりと肩を落とす巫女に、霖之助は首を傾げるのだった。









 幻想郷の一番東に位置するのが博麗神社である。
 その神社は人里から少々離れており、赴く人間は多くない。

 神に直接頼み事が出来る幻想郷では神社の御利益がそれほど重要視されず、博麗の巫女に対する人々の依頼は妖怪退治が主な仕事だ。

 妖怪退治の専門家。それが幻想郷の巫女の役割だった。


「はい、どうぞ」
「ありがとう、巫女」


 神社の和室に通され、巫女と向かい合って腰を下ろした。
 雨はまだ降り続いているが、屋根の下に入ってしまえば気になるほどではない。

 霖之助はまだ湯気を立てている湯飲みに口を付け、ほっと息をつく。


「相変わらず、お茶を入れるのが上手だね君は」
「ふふーん。お茶を語らせるとちょっとはうるさいよ、わたしは」
「元々僕が選んだ茶葉だったはずだけど」
「そこはそれ、目利きを信用したってことで」


 自信たっぷりに胸を張る彼女は、ちろりと舌を出してみせる。
 もう何年も前に話になるが、巫女と一緒に茶店でお茶を選んだことがある。
 その時にお茶の選び方やおすすめを色々教えたことがあったのだが……彼女は未だに覚えているらしい。


「ところで霖君、見せたいものってなんなの?」
「ああ。少し前、君が注文した品があっただろう?」
「……あったっけ」
「あっただろう、ほら、これだよ」


 首を傾げた巫女に、霖之助は大きくため息をついた。
 だがそれも半分予想できていたので、気を取り直して鞄を開ける。

 白い布に包まれたそれを机の上に置くと、ゆっくりと広げた。


「とりあえず試作品を持って来たんだ。意見を聞かせてくれると嬉しいね」
「ああ、針! うん、覚えてる覚えてる」
「目が泳いでるよ、巫女」


 博麗の秘宝と言えば封魔針、そして陰陽玉だろう。
 だがそのどちらも妖怪退治に向かないので改良して欲しい、と先日相談を受けていた。

 弱いのではなく威力がありすぎて、妖怪を完全に滅ぼしかねないのだ。
 そこで霖之助は手始めに封魔針の威力を弱めた複製を作って持ってきた、と言うわけだった。

 陰陽玉の方は勝手に増えたり形態を変えたりするらしく、未だ手つかずのままになっている。


「今回質より量という注文だったからね。生産性を上げるために、僕は材料から見直すことにしたんだ。
 通常の金属を使っていては精製に時間がかかるし、持ち運びに難がある。
 そこで僕は硬化の魔法に目を付け、芯に髪を使い、それを術式を組み込んだ紙で覆ったのさ。
 まだまだ紙は貴重とはいえ破れた障子なんかもあるし、ちょっと山へ足を運べばばらまかれた新聞が拾えるからね。
 これは外の世界の書物に毛を針にして妖怪と戦う書物を読んで閃いたもので、紙と髪は神に通じ、巫女である君にはぴったりの属性を持ってるんだよ。
 元にする紙で威力も変わるし、追加効果も付与しやすいんだ。特にこの……」
「ふーん、そーなんだー」
「……巫女、話を聞いてるのかい?」
「聞いてない」


 巫女は端的に言うと、机の上のそれを1本掴むと目にも止まらぬ早業で外へと投擲。
 それから続けざまに4本ほど投げると、満足そうに頷いた。


「なかなかいい投げ心地だね。でももう少し先に重心があると使いやすいかな?」
「了解、今度改良してくるよ」


 もう癖を見抜いたらしい。
 彼女は慣れた様子で複数本の針を一度に投げ、間隔を確かめているようだ。
 10メートルほど離れた木の幹には、ほとんど同じ場所に何本もの針が突き刺さっていた。
 そして次第に的を遠くの木に変えていき、ほんの数分ほどで全ての針を投げ終わっていた。


「うん、これなら実践でも十分使えるかな。で、投げたあとはどうしたらいいの?」
「自分で回収するか、放っておけば消えるよ。なんたって元が髪と紙だからね」
「なんだ、残念。陰陽玉なら蹴っ飛ばしても勝手に戻ってくるのに」
「複製品に何を期待してるんだい、君は」


 まるでブリューナグだね、と霖之助はため息を漏らしながら。
 式神のような命令式を書き込めばあるいは可能かもしれない、などと考えていた。

 陰陽玉といえば、一度だけ霖之助は巫女がそれを使うのを見たことがある。
 幽香の魔法弾に対抗するため彼女が引っ張り出してきたのだが。

 ……蹴って使うのが正式な使い方と言っていたが、本当かどうかは定かではない。


「しかしただ妖怪退治をするわけじゃないんだね、君も」
「そりゃあねえ。このご時世、倒してはいおしまいってわけにはいかないもの。
 もう少し遊びがほしいのよ」
「妖怪退治の専門家が、妖怪退治に遊びか」


 博麗大結界以降、妖怪達は誰彼構わず人間を襲うことができなくなった。
 代わりに食料は安定して供給されるようになったものの、やる気が低迷しているらしかった。
 そんな中、結界の管理者とはいえ殺しても死にそうにない人間……博麗の巫女が有名になってきたこともあり、幽香のような大妖怪と彼女の戦闘が一部で人気だという。

 要するに、適度な刺激に飢えているのだ。


「幽香とわたしが戦ってる姿を見てるのか、たまーにその辺の妖怪がちょっかいかけてくるのよね」
「ふむ。でも君ならまさに鎧袖一触だろう?」
「あしらうのは簡単なんだけどー。
 でもそういうのが里の人間に手を出すようになると、こっちも困っちゃうのよ。
 だからそれなりに相手をしないといけないんだけど、手加減って苦手なのよね」
「なるほど、だから遊ぶための道具が必要なわけだね」
「そーいうこと」


 針も投げきり暇になったのか、巫女はころんと大の字に寝そべった。
 長い黒髪が畳の上に広がり、豊かな胸が呼吸に合わせてゆっくりと上下する。


「だから全力で手を抜けるよう、わたしは霖君の道具を活用することにしたの」
「真面目なのか不真面目なのか、さっぱりだね」
「真面目だよ、これでもかってくらいにね」


 なるほど、だから真面目に手を抜くことにしたらしい。
 まったく巫女というのも、なかなかに大変な職業のようだ。


「じゃあ僕は君が全力で戦えるよう、ふさわしい道具を作ることにしようか。
 なあに、すぐに妖精とも対等な勝負が出来るようになるさ」
「その言葉だけ聞くとなんだか不安になるけど、お願いね」


 巫女はひらひらと手を振り、応えてみせた。
 霖之助は針を入れていた布を綺麗にたたむと鞄の中にしまい、そして外を眺める。
 雨は一向に止む気配がない。


「時に巫女、傘を貸して貰ってもいいかな」
「やだ」


 即答。
 思わず目を瞬かせ、首を傾げる。


「……僕に貸す傘はないということかな」
「誰もそんなこと言ってないよ、霖君」


 巫女は上体を起こすと、霖之助の顔を覗き込んだ。
 それから楽しそうな笑みを浮かべると、外の天気を示してみせる。


「泊まっていけばいいじゃない。こんな雨だし、せっかくなんだし」
「しかし僕は明日も仕事なんだが」
「夜明けには雨止むと思うよ。業務時間までに戻れば平気でしょ?」
「それはまあ、そうかもしれないけど」


 逆に言えば、明日の朝までは降り続けるらしい。巫女が言うならそうなのだろう。
 博麗の巫女は勘がいいのだ。


「霧雨さんも霖君のこと、朝帰りでいいって言ってたし。気にしないでよ」
「……それはむしろ、気にするべきなんじゃないかな」
「ふ~ん、どうしてかな?」
「いいや、別に」
「じゃあ決まりね。泊めてあげるんだから、今日の晩ご飯は霖君担当だよ。食材は自由に使っていいから。あ、お風呂は先に入る? それとも……」


 嬉々として準備を始める巫女に、霖之助は素直に従うことにした。

 きっと明日は晴れるのだろう。
 そして彼女はまた、店に遊びに来るのだろう。

 そんな未来を、予想しながら。

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波紋ヘア・アタックですね

龍神をぶん殴って雨を降らせて霖之助を神社に泊まらせる……まさか、そんなね?

No title

>お風呂は先に入る? それとも……
それとも、なんなんですかねぇ巫女様。まさか御一緒ですか? 御一緒にお風呂入って霖之助とテーレッテーですかあぁぁあぁ!?(即死

先代巫女様モノは幸せになって欲しいと思いつつ、絶対にあり得ないとわかってしまっているから悲しいなぁ……。

ところで勝手に増えたり形態変化したり挙げ句の果てにオートで戻ってくる陰陽玉って……>もしかして:トランス○ォーマー

No title

きっと先代巫女のことだから霖之助がお風呂に入っているときに乱入してくるんでしょうなwww
果たして本当の意味で「朝帰り」になってしまうのかが気になるところです。まぁなってもならなくても幽香の反応が恐ろしいことは間違い無しでしょうが(笑)

No title

かみのけばr…いえなんでもございませぬ
針は誰の髪の毛を素材に使ってるんでしょうか…霖之助の髪の毛だったら先代はこれから霖之助の体の一部を肌身離さず持つことになるような気が…うへへ((

No title

>先代巫女様モノは幸せになって欲しいと思いつつ、絶対にあり得ないとわかってしまっているから悲しいなぁ……。

それはどうかな?(遊戯王風)

道草さんは「例えばこんな○○END」シリーズを作っているから
それに出れば…




えっ?


違う?

No title

このやり取り・・・もう夫婦かカップル」のそれじゃないですかー!やったー!
そして親父さん、ナイスアシスト。
二人が朝帰りした、との情報を聞きつけた幽香さn(ドグチャァァ

No title

ぐはっ!なんて強烈なんだ!
なるほど朝帰り・・・。これ以上は恥ずかしくて無理です。
とてもおいしゅうございます!
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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