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夢見る宝石箱 第04話

先日の誕生日にいただいたSAGさんのイラストを元ネタに。
アリアリ霖第3話。前回はこちら。
感謝感謝!


霖之助 アリス アリス


夢見る宝石箱







「おめでとう!」
「おめでとう、アリス」


 ぱん、と軽い音を立て、クラッカーから紙吹雪が舞った。
 赤と青の紙テープが伸び、色とりどりの欠片がアリスの金髪を彩る。

 小さなパーティ会場と化した香霖堂のお茶の間には、霖之助とふたりのアリスが肩を並べていた。


「ありがとう、ふたりとも」


 当の本人はというと、照れの混じった笑みを浮かべ畏まっている。
 そして頭の上に落ちた紙テープを取りながら、少しだけ困惑したように呟いた。


「それにしても、まさかこの歳になって誕生日が出来るなんて思わなかったわ」
「だってアリスがきちんとアリスになった記念日だから、ある意味誕生日でしょう?」
「なんだか『誕生日』をやりたいだけの気もするが、とりあえずおめでとう」
「う、うん……ありがとう、でいいのかしら?」
「そうそう、素直に受け取っておくのが一番よ」
「そうだね」


 ――誕生会を開きましょう。

 魔界のアリスがそう言ったのは昨日のこと。
 ふたりのアリスが和解したすぐあとだった。

 妙に乗り気な彼女に押されるかたちで、霖之助はアリスを祝うべく準備を始めたのだが。
 凝り性な彼はついついのめり込み、パーティグッズまで用意してしまった。

 もちろんのめり込んだのは、霖之助がそう望んだからでもあるわけで。

 アリスがアリスとなった記念の日。
 一日遅れの誕生会である。


「何より僕らが祝いたいんだ。君という存在の、誕生日をさ」
「そういうこと。じゃ、続きをしましょ」
「……うん」


 瞳を潤ませ、森のアリスは頷いた。
 そんな彼女に、霖之助とアリスは顔を見合わせ、笑みを交わす。


「ねえ、次は乾杯かしら」
「そうだね。ああ、ケーキの準備もしておこう。飲み物は紅茶でいいかい?」
「霖之助さんのお薦めならなんでもいいわよ」
「わかった。じゃあアリスの好みに合わせるとしようか」


 霖之助はそれぞれのカップを温めつつ、ケーキを取り出す。
 これと言った順番を決めているわけではない。
 段取りが悪いのはご愛敬だろう。


「それにしても、誕生日なんて祝うのは何年ぶりだろうね」
「寿命の長い妖怪には、誕生日なんて認識がほとんど無いものね。
 私もあんまり聞いたこと無いわ」


 ふと漏らした霖之助の疑問に、アリスが首を傾げた。
 それから思いついたように顔をあげると、彼の瞳にじっと視線を送る。


「そういえば、霖之助さんの誕生日っていつなの?」
「さてね、いつだったかな。自分でも忘れたよ」
「自分のことなのに?」
「むしろ自分のことだからかな。長く生きてるとその辺が曖昧になっていくのさ」
「まあ、わかる気がするわね」


 魔界のアリスはそう言うと、ひとつ頷いた。

 そう言えば結局彼女は何歳なのだろうか。
 ついつい聞きそびれてしまっていた。
 まさか見た目通りと言うこともあるまいが。


「君には誕生日はあるのかい? アリス君」
「あるにはあるわよ。でも母さん……魔界の創造神のことだけどね。
 年に数回、周期的に魔力が高まる日ってのがあるのよ」
「ふむ、なるほど。確かに暦、天体、バイオリズムによる影響は人妖問わず魔法使いに与える影響は無視できないものがあるからね。
 創造神を同じ尺度で考えていいのかは疑問だが」
「とにかく、その年に数度の日ってのが、大多数の魔界人の誕生日なのよね。
 同じ誕生日なんて私の他にもたくさんいるわ」
「そうなのか、面白いね」
「ん、だから個人的に祝ったことなんてないわよ。その日は国民的なお祭りって感じだもの」
「逆に言えば、みんなで祝ってるようなものよね。楽しそう……」
「機会があれば、いつでも招待するわよ」


 アリスの呟きに、にっこりと微笑む。
 魔界への旅行は近いうちにと計画を始めているところだ。

 もっとも、具体的な日程はまだ未定なのだが。


「だから、こうして誕生日を祝うってのも新鮮で楽しいわ」
「……ありがとう」


 幼いアリスの言葉に、彼女は頭を下げる。
 最初はどうなることかと思ったものだが……なんとか打ち解けてきた気がする。

 ようやく一安心というところだろう。


「さ、ケーキを切りましょ。誕生日と言ったらケーキよね」
「たぶんね。本で読んだ限りは……」
「ま、細かいことは気にしない」


 一同はテーブルの上に載せたケーキへと視線を向ける。
 直径30センチほどのホールケーキ。たっぷりのクリームの上には、様々な果物が盛りつけられている。


「なんかすごく美味しそう。これアリスが作ったのよね」
「ええ、今日のケーキは上手く出来たの。ふたりに食べて貰いたくて……」
「主賓に用意して貰うのも心苦しいがね」
「それこそ気にしなくていいわよ、霖之助さん」


 この誕生会自体急遽企画されたこともあって、主賓であるアリスもなんだかんだで準備に関わっていた。
 このケーキも彼女が用意したものだ。
 メインを主賓に用意して貰うのもどうかと思ったのだが、本人が作りたいというので任せた。

 ……こうやって出来あがったものを見ると、その判断は間違ってなかったように思う。
 霖之助も作れなくはないが、ここまで上手くは出来なかっただろう。

 そんな事を考えながらケーキを切り分けていると、魔界のアリスが疑問を口に出した。


「あ、そういえば。ケーキと言えばろうそくを立てるんだったかしら? それで歌を歌うのだっけ?」
「さてどうだったかな……」
「あら、はっきりしないのね」
「まあいいんじゃないかな。細かいことは気にしないんだろう? こういうのは気持ちだよ」


 苦笑を漏らすアリスに、霖之助も肩を竦める。
 今回は書物に載っていた誕生会を真似てみたのだが、合っているかどうかは自信がないし勝手もよくわからない。

 そもそも誕生会を行うのは人間くらいのものだ。
 しかしながら霊夢はいまだ数えで計算しているから正月に歳を取ると言っているし、魔理沙にいたっては誕生日自体を祝いたがらない。
 ……実家にいたことを思い出すからだろうか。
 そう言えば、最後に誕生会をやったのは霧雨道具店で魔理沙のお祝いだった気もする。

 霖之助は紅茶を注ぎ分け、それぞれに配った。
 それからカップを軽く掲げ、咳払いひとつ。


「では改めまして」
「アリスの誕生を祝って」
「乾杯」
「……乾杯」


 そんな調子で、誕生会は穏やかに開始された。
 話すことはたくさんあるが……。
 ありすぎて何から話せばいいかわからないのだ。

 まずはお互いを知るところから、だろうか。
 とりあえずは、誕生会を無事に成功させることが第一だった。


「さて、誕生日といえばプレゼントかな」
「そうなの?」
「そうらしいよ」


 言い切る霖之助だが、もちろん確証はない。
 そしてないなら作ればいい。

 これが3人にとっての誕生会の形式なのだから。


「でもあれもこれもしてもらってばかりで悪い気もするわ。
 その上プレゼントだなんて……」
「誕生日くらいは素直に祝わせてくれると僕も嬉しいんだけどね」
「ええ、そうね。謙虚なのはいいけど、それだけじゃ取り逃しちゃうわよ」


 そう言って魔界のアリスは意味深に微笑む。
 見た目幼い彼女がそう言う表情をしていると、えも言えぬ凄みがあった。


「じゃあ僕からいいかな」


 霖之助は咳払いをひとつすると、腰に付けた箱から小さな包みを取り出した。

 いつか渡そうと思っていた道具のひとつではある。
 予想外に早まってしまったので、仕上げてラッピングするのに徹夜してしまった。


「これ……宝石箱、かしら」
「ああ。僕がアリスのために作った道具だよ。
 名称は……夢見る宝石箱、とでもしておこうか」


 彼女の手のひらに収まるくらいの、小さな宝石箱。
 夢を納めるその空間は、霖之助の予想通り彼女にとてもよく似合っていた。

 霖之助の見立ては成功といったところだろうか・


「その中に入ってるのは、私が魔界から持ってきた宝石よ、アリス」
「これかしら? 綺麗……」


 彼女は言われるまま、宝石箱を開く。

 そこに入っているのは、アリスの瞳と同じ色の美しい宝石だった。

 ……ひょとしたら、彼女がアリスを『創った』時に使用した宝石と同じものなのかもしれない。
 霖之助としては、アリスの瞳の方が綺麗だと思っているのだが。


「もちろんただの宝石箱じゃないよ。
 それには空間と時間を操る魔法がかけてあって……まあ紅魔館を参考にしたんだが。
 その気になれば君のグリモワールも入れられるくらいの許容量がある」
「それはすごいわね。宝石箱にはあまり入れたくないけど」
「そうねぇ、宝石を入れるためのものよねぇ」


 少し呆れたような目でふたりから見つめられ、霖之助は気まずそうに視線を逸らす。
 それから誤魔化すように咳をすると、改めて彼女に向き直る。


「いつかその中をいっぱいにしてくれると、造った者としても嬉しく思うよ」
「ありがとう、霖之助さん」


 アリスは深々と頭を下げると、大事そうに宝石箱をしまった。


「次は私ね」


 小さなアリスはそう言うと、脇に置いてあった箱に手を伸ばした。
 50センチほどのクーラーボックス。昨日霖之助が彼女に貸したものだ。


「じゃーん」
「……桃?」
「桃ね」
「そう、桃よ。天界から持ってきたの」


 アリスはクーラーボックスから数個の桃を取り出すと、果物ナイフで器用に剥いていく。

 天界産というその桃は、瑞々しく甘い香りがした。
 昨日はるばる天界まで行って取ってきたのだろう。

 桃がプレゼントかと思った矢先、アリスはふたりに問いを投げかける。


「ね、三国志って知ってる?」
「ああ、もちろん」
「霖之助さんに借りて読んだことはある……けど」


 と言っても魔界にその本はないはずだが、アリスの記憶を伝って知ったに違いない。
 彼女は鮮やかな手つきで桃を切り分けると、三等分してぞれぞれの前に置いた。


「なら話は早いわね。アレやりましょ。桃園とはいかないけど……ね」


 三国志で桃園といったら、あのエピソードだろう。

 桃園に誓うは、義兄弟の契り。
 アリスの提案に、霖之助は驚いた表情を浮かべる。


「僕も入っていいのかい?」
「あら、あのお話しは3人いてこそでしょう?」
「だけど……」
「妖怪として生まれたばかりのこの子をずっと見てきたのはあなただもの。
 資格は十分だと思うわよ」
「霖之助さん。その、私からもお願い……」
「……そうか。そこまで言われたら、断る理由はないかな」


 彼女はいい客にして、いい友人だ。
 同時に放っておけない少女でもあり、尊敬できる女性でもある。

 霖之助が頷いたことを確認して、アリスは手を合わせる。
 それから厳かに口を開いた。


「病める時も、健やかなる時も」
「なんか違う気がする」
「あなたが死ぬと私も死ぬ、だったかしら」
「……君達はもう一度三国志を読み返すといい」


 なんというか、まったくしまらない誕生会になってしまった。
 だが、自分たちらしくはある。
 こんな気安い関係を続けていけたらいいのかもしれない。

 切り分けた桃を口に運ぶと、甘く優しい味が舌の上に広がる。
 まるでそれは、アリスのアリスに対する気持ちのようで。


「とにかく、これであなたは私の家族よ」


 少しだけ頬を染め、彼女は宣言した。


「私のことは、姉と呼んでくれたらいいかな」
「見た目はむしろ逆なんだけどね」
「それこそたいした問題じゃないわよ」
「確かにそうだ」


 数千年生きてて見た目が少女な妖怪など幻想郷ではザラである。
 となれば、見た目は年上の妹が居ても何の問題もない。


「……姉さん」
「うん。よろしく、アリス」


 姉妹の挨拶を交わすふたりは、まだぎこちなく。
 だけどとても嬉しそうで。


「というわけで、姉妹ともどもお世話になるわね、お兄ちゃん」
「ん、僕が兄かい?」
「あら、不満かしら」
「いいや、そういうわけではないよ。ただ手のかかる妹分は十分間に合ってるからね」
「なんだ、じゃあ心配ないわよ。私もアリスもとってもいい子だからね」
「アリスに関しては心配してない。アリス君のほうは、まだこれからだね」
「ふふ、もちろん私もいい子よ。期待しててね、お兄ちゃん?」


 ……何を期待しろというのだろう。

 その言葉に一抹の不安を抱きながらも。
 ひょんな事から増えた家族に、霖之助は思わず口元を綻ばせるのだった。











「あ、義兄妹って言ってもね」


 小さなアリスは、霖之助に気づかれないよう大人のアリスにそっと耳打ちする。


「抜け駆けは全然オッケーだからね?」
「……えっ?」


 驚くアリスの視線の先には、姉となった少女がイタズラっぽい笑みを浮かべていた。

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No title

ロリスのお兄ちゃん発言に心をときめかせる俺がいるwww

タイトルの「夢見る宝石箱」も出てきて、これから展開が楽しみです。

・・・抜け駆けする話はまだかなぁ(笑)

抜け駆け…
それは魔界アリスにも言える事である。
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道草

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