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夢見る宝石箱 第03話

アリアリ霖第3話。前回はこちら。
ようやくプロローグ終了ってところです。


霖之助 アリス アリス









「私、人形なの?」


 重い沈黙を破り、ようやくアリスが口を開いた。

 魔界から来た少女が去ってからすでに1時間近くが経過していたが……。
 残されたふたりはどちらも動けないでいた。


「……らしいね」
「否定はしてくれないのね」
「嘘はつかない主義なんだ」


 口だけで嘘だと言うのは簡単だった。
 だが言ったところで彼女は信じないだろう。

 むしろその方が、彼女を傷つけてしまう。

 普段のアリスなら、どの口が言うのかしら、くらいの反論はしたのだろうが……。
 彼女は俯いたまま、何も喋らない。


「アリス。初めて会った時のことを覚えているかい?」
「ええ……そのはず、だけど」


 少女は虚空を見つめるようにして、記憶を呼び起こそうとする。


「僕が君に初めて会った時、君に名前と用途が見えた」


 しかし彼女の返答を待たず、霖之助は言葉を続けた。
 つまりは……そういうことだ。

 それが幼いアリスの言葉を霖之助が信じた理由でもある。


「……そう」


 ただそれだけ、彼女は言った。
 納得したのだろうか。

 あるいは、諦めたのか。


「全部借り物だったのね。力も、記憶も、なにもかも……借り物の人形」
「ああ」


 頷く。
 彼女の瞳に、哀しみの色が差した。


「僕と会った頃の君は、確かにそういう人形だったんだろう」


 しかし、と霖之助は首を振る。
 彼女に言い聞かせるように。

 元気づけるように。


「だけど出会って程なくして、君からは名称も用途も読み取れなくなった。
 無論今も、そしてこれからも」


 霖之助は真っ直ぐにアリスを見つめた。
 彼の瞳に、名前も用途も映ることはない。

 当然だろう。
 彼女はもう、道具ではないのだから。


「アリス。君の髪は金糸のようでとても綺麗だと思う。
 白磁のような肌も、宝石のような瞳も」
「え? えっと、その……ありがとう」


 突然の言葉に、アリスは顔を赤らめた。
 その様子に笑みを浮かべつつ、霖之助は彼女の髪に手を伸ばす。


「綺麗だと思うのは、君が生きているからだと僕は考えるよ。
 例え作られたものだったとしても、その髪も肌も、今はもう君のものだ。
 アリスはもう、立派に独り立ちしたんだから」


 この幻想郷には道具が年月を経て妖怪になった者も多い。
 傘の少女やアリスと同じ人形の少女。

 彼女たちは間違いなく生きている。
 その瞳には、共通して意志の光が宿っていた。

 妖怪化するとはそういうことだ。

 ……言っていて何となく照れてきたので、霖之助はそっとアリスから目を逸らす。


「少なくとも。今までこの香霖堂に買い物に来た時間は、作り物なんかじゃないだろう? アリス」
「……そうね、そうだったわ」


 そう言って、彼女はにっこりと微笑んだ。
 憑き物が落ちたような表情で。


「ありがとう、霖之助さん。私、どうして自立した人形を作りたがってたのか……わかった気がするわ」
「そうか」
「それにもし私が人形だとしても……何も落ち込む必要はなかったのよね」


 アリスはすっと手を伸ばすと、上海人形を呼び寄せた。


「だって、この子達と同じって事なんだもの」
「……そうだね」


 そうやっていると、まるで姉妹のように見える。
 霖之助の知っている、いつも通りのアリス。

 彼女は少し首を傾げると、霖之助の瞳を覗き込んだ。


「ねぇ、ひとつお願いがあるのだけど」


 瞬く宝石の瞳に見つめられ、息を呑む霖之助。
 アリスは一歩、また一歩と歩み寄り、やがて彼の胸に手を伸ばす。


「私の髪も肌も、私のもの……そう言ったわよね、霖之助さん」
「ああ、確かに言ったけど」
「綺麗って、言ってくれたわよね」
「……まあ、ね」


 彼女は霖之助の手を取ると、そっと自分の胸に押し当てた。
 柔らかな感触が、彼の脳髄を刺激する。


「霖之助さんの瞳に、私は何色に見えるかしら」
「……僕のよく知る七色の人形遣い、かな」
「私は……生きているように見える?」
「もちろんだとも」


 頷く霖之助に、少女はさらに身を寄せる。
 アリスは熱を帯びた視線を逸らすことなく、最後のセリフを口にした。


「本当にそうか……確かめてくれるかしら」












 窓の外には、雲ひとつ無い青空が広がっていた。
 出掛けるのにはうってつけの天気だろう。

 そんな事を考えていると、玄関のカウベルが音を立てる。


「答えは出たかしら」


 昨日と同じ時間に、再び魔界のアリスはやって来た。
 幻想郷のアリスは霖之助の近くに座り、少し緊張した面持ちで彼女を見つめている。


「いらっしゃい、香霖堂へようこそ」
「昨日と変わらず散らかってるわね」
「ちょっと忙しかったんだよ」


 霖之助はいつもと変わらない調子で肩を竦めた。
 その様子をアリスは眺め、ため息を吐く。


「それで、質問の答えを聞きに来たんだけど」
「ああ、すでに対価を受け取ってしまった以上、返品は道具屋としての沽券に関わるからね。
 君の招待にあずかるとしようか」
「了解。じゃあ魔界旅行決定ね」


 彼女の表情が喜色に染まる。
 霖之助は彼女の機嫌がいいうちにと、すかさず言葉を継ぎ足した。


「ただアリスも連れていっていいかな? ちゃんとした魔界の記憶を彼女にもあげたくてね」
「この子も?」
「…………」


 幼いアリスの真っ直ぐな視線を、アリスは正面から受け止める。
 自信なさげな昨日の態度とはずいぶん変わったと思う。

 そのことに彼女も気づいたのか、唇の端を上げてひとつ頷いた。


「ええ。構わないわよ、それくらいおやすいご用よ」
「……ありがとう」


 アリスが頭を下げる。
 彼女の故郷であることには変わりないわけだし。

 霖之助も何となく嬉しくなって、思わず笑みを零した。


「それからもうひとつ……昨日の答えは、考えてくれたかい?」
「ああ、あのこと」


 人形扱いをやめてくれ、と霖之助は言った。
 考えておく、と彼女は言った。

 アリスが固唾を呑む中、少女はあっさりと頷く。


「じゃあそうするわ。よろしくね、もうひとりのアリス」
「え、ええ」


 差し出された手を取り、ふたりは握手を交わした。
 よく考えてみれば見た目に反して魔界のアリスの方が年上なのだろうが……。

 そのあたりを聞いてみたところ、言葉遣いは気にしなくていい、らしい。


「それにしても、すんなり認めたね。正直、もう少し何か言ってくるかと思ったんだが」
「たいしたことじゃないわ。魔界のルールでね、自我を持ったら一個人って認める事になってるのよ。
 だからむしろ私の方が謝らないといけないわね、ごめんなさい」
「いえ、そんな事は……作ってくれて感謝してるし。
 そのおかげで、霖之助さんとも会えたわけだし……」


 いまだ緊張しているのだろうか。
 慌てたようなアリスの言葉は、霖之助の耳までは届かなかった。


「魔界ではやはり自我を持つ者が多かったりするのかな?」
「まあ、なりやすい環境ではあるけどね。でももっと別の理由もあるのよ」
「別の理由?」
「ええ。だって魔界に住む私達はすべて母さん……魔界神が作ったんだもの。
 そう考えると、全員が魔界神作のお人形さんってわけでしょ?
 でも母さんはそんなの嫌だって言うんで、個人個人を認めることになったの。
 まあ、一時期みんなが言うこと聞かないってヘコんでたこともあったけど……」
「なるほど」


 基本的な文化が違うのかもしれない。
 創造主に気軽に会えるとはどんな気分なのだろうか。


「魔界神は私の母さんだから、あなたのおばあさんになるのかしら」
「えっと……本人には言わない方がいいわよね、きっと」
「さあ、どうでしょ。喜ぶかもしれないし、落ち込むかも知れないわね」


 おかしそうに笑うアリスは、見た目相応の少女に見えた。
 こうしてみるとよく似ていると思う。

 まるで姉妹のようだ……実際は親子なのだが。


「では改めてこれからよろしくね、道具屋さん」
「ああ、こちらこそ。魔界旅行楽しみにしているよ」


 アリスの会釈に、霖之助は頭を下げた。
 これから広がる新天地と、まだ見ぬ道具に期待を寄せて……。









「ところでふたりともアリスという名前だと紛らわしいかな」
「んー、そうかもね。私のことは好きに呼んでくれて構わないわよ」


 そのあたりはあまり拘らないらしい。
 しばらく考えることにして、霖之助は次の質問を投げかける。


「そもそも君はどうしてうちに来たんだい?」
「んー、昨日もちょっと言ったけど」


 魔界のアリスは霖之助と、それから幻想郷のアリスをそれぞれ見比べた。


「この子を通して見てて、あなたに興味が湧いたのよね。
 アリスもずいぶん懐いていたようだし」
「えっと、その」


 アリスは頬を朱に染めた。
 何か言いかけていたようだが、言葉にならない。


「ああ、アリスを通して見ることが出来るんだったね」
「ええ、昨日まではね。もう解除したけど」
「そうなの?」
「ええ。一個人と認めた以上、プライバシーがあるわけだし」


 そこで彼女は言葉を切った。
 少し考えるような素振りを見せたあと、ついっと視線を逸らす。


「それに、見てるの恥ずかしかったし……」
「え?」
「……ええ?」


 霖之助とアリスは思わず顔を見合わせた。

 昨日のやりとりのすべて見られていたのだと。
 アリスのお願いも、霖之助の応えも。一部始終を見られていたのだと。


 それが紛れもない事実だということは……真っ赤に染まった小さなアリスの表情が、すべてを物語っていた。

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ナニヲタシカメタトイウノデスカー

番外編で何をしたのか詳しくー!(バンバンッ

No title

昨夜はお楽しみでしたね
何を確かめたのか番外編で詳しくお願いしますっ

No title

昨夜のやり取りをロリスの口から聴きたいですね(爆)。

愛……だね(ドヤ顔
アリスの誘い受けは既にプロの域ですね。おお、えろいえろい。


そして、アリスを個人として認めたロリスの今後の立ち振る舞いにも目が離せませんね。
ところで魔界ツアーとのことですが、ついに旧作が誇るサイドテールウィップの使い手が表舞台に姿を現すのでしょうか?
それにも目が離せませんね!

ところで、誰か魅魔様の行方を知らんk(ピチューン

No title

とりあえずロリスも混ぜたほうがいいよ絶対

なんかちょっと盛り上がりもなく終わってしまった感じだな

No title

霖之助の応えとやらの詳細を早う早う!
ていうか、アリスさんエロゐよ!

一番肝心な部分が描写されてないジャマイカ。
と、思ったらそんな米ばっかりwww

天狗の期待に答える道草様だと信じてます。

No title

アリスはえろいなぁwww そんなアリスさんが大好きです!
ぜひともどうやって確かめたのかが知りたいですね(笑)

・・・はたして覗いていたのはロリスだけなのだろうか(2828)
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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