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酉京都幻想 第8話

『酉京都幻想 第7話』の続きっぽく。
昔金閣寺に行ったら見事に改修中だった思い出があるわけですが。


霖之助 蓮子 メリー 夢美








「なかなかやるわね。口だけじゃなかったってことかしら」
「そうでしょう。霖之助君の料理はプロ並みなんだからね」
「だからなんで蓮子が威張るのよ」


 料理を箸で口に運びながら、夢美は感嘆のため息を吐いた。
 自慢げに胸を張る蓮子に、しかしメリーは肩を竦める。


「大丈夫よ、メリーの料理だってバッチリ美味しいから」
「え? あ、うん。ありがとう」


 正面から褒められたメリーは照れたように視線を逸らした。
 ……相変わらず蓮子の自信はどこから来るのかわからなかったが。


「ふむ、この味付けをこう来るのか。さすがと言わざるを得ないね」
「さんきゅ。ご主人様は偏食だからな。いろいろと考えなきゃなんだぜ」
「なるほど、それで素材が偏ってるのか」
「でも霖之助の料理もすごいじゃないか。
 あのご主人が野菜を食べるなんて滅多にないことだぜ」
「ちゆり、余計なことは言わなくていいの」


 小春日和の空の下。
 一同は持ち寄ったそれぞれのお弁当に舌鼓を打っていた。

 それぞれと言っても、料理したのは霖之助とメリー、ちゆりの3人だ。


「ところで教授の料理が見当たらないようですけど」
「あら、宇佐見の料理もないんじゃないかしら」


 火花を散らしながら、一見にこやかに視線を交わす蓮子と夢美。
 そんなふたりを見て、霖之助は苦笑を浮かべた。


「しかし、意外と空いてるんだな」


 好きこのんで少女の争いを眺めるものではない。
 ……弾幕ごっこならともかく。

 口直しとばかりに、霖之助は近くにある建物に視線を移した。
 煌びやかな装飾が眩しいそれは、京都屈指の観光スポットとして有名だった。


「この時間はね。みんな展望台でお昼を食べてるのよ」
「そう言うことか」


 霖之助達がいるのは、鹿苑寺……いわゆる金閣寺の敷地内にある飲食スペースだ。
 そして少し離れたところに、この周囲を見渡せるような高さのタワーがそびえている。

 確かにあちらの方が観光目的も果たせるだろう。
 そもそも、お弁当持参ということ自体流行らないのかもしれない。


「でもなんでいきなりピクニックなんです?」
「あら、約束したじゃない。今度料理の腕前を披露してくれるって」
「確かに、機会があればとは言いましたけど……」
「機会は作るものよ。それにどうせ授業空いてたからいいでしょ」


 突然夢美から連絡があったのはつい昨日のことだ。
 曰く、明日弁当持参で金閣寺に集合、と。

 元々今日はいくつか講義が入っていたのだが。
 霖之助も蓮子達も偶然休講が重なり、暇になっていた。
 そんな折、夢美から連絡が来たというわけだ。


「そもそもなんで私たちのスケジュールを教授が把握してるんですか?」
「あら、私は自分と関わりのある生徒のスケジュールはほとんど把握してるわよ」
「ふ~ん……。え?」


 最初は冗談かと思ったが……。
 夢美の表情は至っていつも通りだ。

 ……何となく、それ以上は考えないことにした。
 それは蓮子も同じだったらしい。


「それにしても、美味しいね霖之助君」
「ありがとう。頑張った甲斐があったよ」


 合成された食材が一般的となった社会。
 逆に言えば味が安定しているということでもある。

 そして素材がわかれば工夫の仕様もある。
 霖之助は勉強の合間に料理の研究を行っていた。
 これらはその集大成とも言えるだろう。


「どうかしら、霖之助さん」
「ああ、相変わらず美味しいよ。
 ……そうか、藍の味付けに似てると思ったが……藍が君の味付けに似てるのか」
「だって藍に料理を教えたのは私だもの。似てて当然よ」


 霖之助はメリーの料理に箸を付けながら、懐かしげに眼を細めた。
 そんな彼に、彼女はふと首を傾げる。


「あれ、霖之助さんって藍の料理食べたことあるのかしら」
「まあ、ね」
「何の話?」
「いや、実家のことだよ」
「ふ~ん?」
「それより君もどうだい? これなんか……」
「そんなに食べられないよ、霖之助君」


 蓮子は首を振ると、地面に敷かれたシートに大の字になって寝転がる。


「もうお腹いっぱい。幸せ……」
「食べてすぐ寝ると牛になるわよ、蓮子」
「私は太らない体質だからだいじょーぶ。
 それにこんなに気持ちがいいんだもん。寝ないと損でしょ。ほら」


 蓮子の視線を辿ると、ちゆりが既に寝息を立てていた。
 さっきから声が聞こえないと思ったら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「朝早くから起きて準備してたものね。
 電池が切れたんでしょ」
「そうか。しばらく寝かせておいてやろう」


 霖之助は少し笑みを零すと、彼女に上着を掛けた。

 ふと、何となく羨ましそうな視線を背中に感じたが……。
 それが誰なのかは、わからなかった。


「ねえ霖之助君、あの噂知ってる?」
「噂かい?」


 蓮子が寝たままの姿勢で、霖之助に声をかける。


「そうそう。あそこにあるでしょ、金ピカのやつが」


 彼女が指さした先には、金閣が立っていた。
 遠目からでも目立つそれは、確かに見に来る価値があるものだと思わせる。


「あれって立体映像って噂があるのよ。
 本物はずっと前に壊れちゃったんだって」
「映像ねぇ……」


 鏡湖池に映るその姿は、確かな現実感を伴っていた。
 距離があるので霖之助の能力も及ばないが、特に違和感を覚えることはない。


「僕の目には本物にしか見えないが」
「でもそういう噂が立つってことは何かしらあるんじゃない?
 ほら、火のないところに何とやらって言うでしょ」
「それってずっと前に集めてた噂話のひとつだったかしら」
「そうそう。あれも立派な秘封倶楽部の活動のひとつだよ」
「誰かが確かめたことはないのかな」
「近寄れないようにしてあるのよ。それが余計に疑問をかき立てるってわけ」
「なるほどね」


 言って、蓮子は大きく伸びをした。
 言うほど気にしてはいないのかもしれない。


「実際どうなんですか? 教授」
「知らないわよ。興味がないもの」
「なーんだ、役に立たないなー」
「私を何だと思ってるの」


 笑いながら、悪態を吐く蓮子と夢美。
 なんだかんだで仲がいいのだ、このふたりは。


「寺のことに詳しいかと思ってたんですけど」
「私の専門はもうちょっと違うところだもの。そもそも観光地としての信仰に用はないわ」


 夢美は金閣寺に視線を送ると、肩を竦めた。


「ま、例えそうだとしても不思議じゃないけどね。
 で、それが何か不都合があるのかしら」
「え? だって映像だと本物じゃ……」
「金閣は何度も改修されてるし、そもそも建て直されてるのよ」


 ちちち、と彼女は指を振る。


「もし調べて、実体のない幻だとわかったら、あれは消えて無くなるのかしら。
 この金閣寺に来てる人は偽物なのかしら」
「いえ、そう言うわけじゃないですけど」
「でしょう? 例え幻想の存在だったとしても金閣を見たという現実は消えるわけじゃないの。
 もっとも実際のところはわからないけどね」
「幻想の存在、か……確かにね」


 夢美の理論に、霖之助は頷いていた。

 幻想郷に住む霖之助は、こちらで言う幻想の存在なのだろう。
 しかしこうして外の世界に存在している。


 ――ならば仮想か現実かは大した問題ではないのではないのかもしれない。


 そこまで考えたところでふとメリーが手招きをしていることに気付き、霖之助はふたりから距離を離す。


「そう言えば、金閣で思い出したことがあるのよ」
「なんだい?」
「前回帰った時、皆に説明したんだけど……」
「説明? 誰にだい?」
「ええ、ちょっと、霖之助さんの近況をね。みんな……と言えばみんなかしら」


 何故か疲れた表情で、メリーはため息を吐く。


「で、京都にいるって言ったら、これを渡してくれって頼まれたのよ」


 彼女は懐から封筒を取り出した。
 なにやら厳重に封がされているそれは、霖之助の名前が書いてある。

 どうやら宛名らしい。


「これは……手紙? 僕宛かな」
「渡すつもりなかったから忘れてたんだけど、金閣寺の話題だったから。
 思い出さなければよかったわ」


 言ってメリーは唇を尖らせた。
 中は確認してないのだろう。

 彼女から手紙を受け取り中を確認すると、数枚の紙が入っていた。

 まず1枚目。

 『金閣寺の一枚天井を持ってくること!』

 輝夜だろうか。
 こんな場所で難題を突きつけられても、その、困る。


「何が書いてあったの?」
「いや……なんというか」


 霖之助は曖昧に首を振ると、手紙を読み進めた。

 2枚目
 『大丈夫! 永琳の攻略本よ』

 天井の入手法が事細かに記してあった。
 どうやら主従組んで永遠亭に呼ぶ気満々らしい。

 3枚目。
 『寂しいので一緒に死んで下さい』

 ……鈴仙だろうか。


「なんというか……うん」


 見なかったことにした。


「どうしたの?」
「土産の要求だったよ」


 手紙を大事に仕舞い、ついでに記憶も仕舞い込む。
 そんな彼に、メリーは苦笑を浮かべた。


「そう……。ひとつ、お願いをしていいかしら。
 お土産ってわけじゃないんだけど」
「なんだい?」


 珍しい、と霖之助は思った。
 メリーが彼に頼み事をするなど、初めてのことではないだろうか。


「そのうちでいいから、手紙を書いて欲しいのよ」
「構わないが、誰にだい?」
「幻想郷の知り合いに、かしら。人選は任せるけど」


 ふむ、と考える。

 ――香霖堂の管理などを頼みっぱなしでもあるし、確かにこの辺で送るのもいいだろう。


「わかった。暇を見つけてやっておくよ」
「お願いね。これで少しは大人しくなるかしら……」


 メリーの言葉はそれ以上聞き取れなかった。
 声が小さかったせいもあるし……横から邪魔が入ったせいでもある。


「霖之助君! 教授が変なことばっかり言うんだよ!」
「変とは何よ。私の専門を把握してないみたいだから信仰の重要さについて説明してあげてるだけじゃない」
「それが変なんですよ」
「オカルトサークルじゃなかったの、貴方」
「ええ、オカルトサークルですよ。墓荒らしの真似事をするくらいには。
 やったのはメリーですけど」
「不良ねぇ」
「蓮子がやれって言ったんじゃない……」


 メリーは蓮子に向かってため息を吐いた。
 そしてふと、笑みを浮かべる。


「まぁ、不良オカルトサークルとは思われてるわね」
「そもそも墓は荒らすものじゃなく作るものだよ」


 昔はよく作ったものだ。
 主に無縁塚で。


「じゃあ、そろそろ帰りましょうか、霖之助さん」
「その前に、あのふたりを止めないとね」
「ええ。骨が折れそうだけど」


 霖之助とメリーは顔を見合わせ、どちらからともなく笑い合った。
 ある秋のなんでもない一日を、存分に楽しみながら。

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No title

メ、メリーがヒロインをしているだと・・・!?珍しい
そして手紙の鈴仙にちょっとヤンデレ属性が垣間見えて2828

病んでれいせんktkr これでかつる!
てか、手紙っていったから何十枚かと思ったのに←

No title

ほのぼのしてますねww
メリーがヒロインとは珍しいwww

そして手紙の鈴仙が病んでるwww

これから紫が手紙を渡してくれると知った他の少女達からたくさん手紙が届きそうな気がするwww

No title

輝夜のてるよ具合と鈴仙の病みっぷりに、何故か安心感を覚える自分がいる。そりゃあ霖之助の服と残り香に包まれながら布団の中でふるふるしてる鈴仙の図も瞬時に妄想するさ!そして姫様、そのキャッチフレーズでは信用できる物も信用できませんwww
ところでゆかりん。手紙を出すのはいいと思うが、書いたら書いたで受け取った少女たちが大人しくなるどころか逆にヒャッハー状態になるんじゃなかろうか?

No title

蓮子ちゃんと教授が可愛いが、ちゆりの一人勝ちだと思うのは俺だけでいい

他の幻想少女からの手紙も気になりますね(チラッ

金閣と聞いた時点でお姫様を連想したが、まさか師匠の攻略法付きで手紙が来るとは(笑)。
メリーと紫、二つの顔がコロコロ替わる様は中々に不気味(笑)ですねぇ。

No title

in香霖堂

霊・魔理「「霖之助さん/香霖に手紙を送った・・・・・・だと・・・・・・?」」
輝「ええそうよ。でも意外ねぇ?まさか親しいあなたたちがそんなこともしてなかったなんて(ニヤニヤ 」
鈴「霖之助さん・・・・・ハァハァ(霖之助服裸で着用の上匂いを嗅いでいる 」


こんな状況が思い浮かんだわけだがwww

しかし一緒に死んでくださいってwwさすがヤンデ鈴仙マジパネェw

そしてメリーがヒロインっぽいだと・・・・・?馬鹿な、ありえn(スキマ

No title

気が付けばちゆりが霖之助さんを『香霖』と呼んで霖之助さんの服を着て膝に座ってる所まで幻視したwwww


靈「私の博麗の直感が告げている、誰かが(私の)霖之助さんの服を着てる……紫、どう言う事!?」
魔「私の恋色香霖ミニ八卦炉センサーが光ってるぜ、誰かが(私の)香霖の膝に座ってる……紫、吐け!?」
紫「…(手紙渡し辛いわね…)」
---
メ「霖之助さん、二人でこっちで生活しましょ…」
霖「とりあえず、落ち着け」


メリーさん、もっとヒロインして良いのよ。乙女して良いのよ。
一級旗建築士の技でどんどん旗を建てなさーい、今の霖之助さんなら回収してく……れ…る………多分…。
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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