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カラオケシリーズ10

宴会で魔理沙が「さくらんぼ」を歌い、対抗するように幽香が「ハナミズキ」を歌って自分に似合わなかったと落ち込んだところを霖之助に慰められ、それを見て拗ねた魔理沙は次に「カブトムシ」を……という電波が降ってきたんですが気にしないことにする。

幽香にはぜひ「枯れない花」を歌ってもらいたいところ。もしくは「罪な薔薇」。
そんな妄想。


霖之助 幽々子









「ここはいつでも暖かいわね」
「ああ、紫と彼女の式のおかげさ。
 感謝してもし足りないくらいだよ」
「本人に言ってあげればいいのに。きっと喜ぶわよぉ~」


 店に入ってくるなりストーブに近寄る幽々子に、霖之助は首を振った。
 そんなことを言えば、なんだか彼女に依存しているようではないか。

 ……現状、ストーブにおいてはあまり間違ってない気もする。


「感謝はしているが代償もそれなりに払ってるんでね。
 ただ彼女のようか大妖怪が僕と取引を持っていることに対しては……。
 ……まあ、素直に感謝しているよ。
 ただ、わざわざ改めて言うものでもないだろう」
「ん~、紫もかわいそうねぇ」


 その言葉を聞いて、幽々子は笑う。

 あまり寒がっているようにも見えないのだが、それでも火の近くで気持ちよさそうな表情を浮かべていた。


「やはり亡霊といえど、冬は苦手なのかい?
 なんというか、風流な生活を送っているイメージがあったものでね」
「あら、冥界にも火鉢くらいあるわよ。
 冬の早朝を楽しむのもいいけど、冬に暖かさを求めるのはどこでも一緒でしょう?
 だからこそ、春が待ち遠しいんだもの」
「なるほど、確かにそうかもしれないな」


 冬に暖を取る方法はいろいろある。
 しかしそれは熱源から離れればあっという間に感じられなくなってしまう儚いものだ。
 だからこそ余計に、暖かくなる季節への思いが強くなるのだろう。


「そうそう身体が温まったら次はお腹の中かしらね」
「ふむ、酒かい?」
「いいえ、今日はこれよ」


 そう言って幽々子はカウンターの上に小箱を置いた。
 蓋を開けると、白くて丸いものが六つばかり入っている。


「ほう、大福かな?」
「苺大福よ。一緒に食べましょう?」
「いいのかい?」
「ええ、そのために持ってきたんだもの」


 笑顔の彼女に後押しされ、霖之助はお茶の用意を始めた。
 甘いものに合うよう、玉露をやや濃いめに入れる。

 使ったのは、霊夢の魔の手からかろうじて逃れていた一番高いお茶だ。
 こう言う時にこそ飲むべきだろう。


「……ふむ、上品な甘さだね。
 正直、予想以上だよ」
「形がまるで幽霊みたいで面白いわよねぇ」


 霖之助がふたつ、幽々子が四つ。
 六つの大福はそんな風に分けられていた。


「……そう言えば、冥界の食べ物を口にしたら帰れなくなるという話を聞いたことがあるね」
「あら、よくわかったわね」


 口元を押さえ、妖艶に笑う幽々子。
 思わず背筋が冷たくなったが……そんなはずはない、と首を振る。

 帰ってこられないのはともかく、ここはそもそも冥界ではない。


「冗談よ。人里で買ってきたの。
 でも、そっちのほうがよかったかしら」
「怪談にはまだ早いよ。
 そう言うのはもっと暖かくなってからやってくれないか」
「幽霊でも連れてくればよかったわね」
「……よしてくれ」


 言って、大福のかけらを放り込む。
 甘みと酸味が上手く調和しており、いくらでも食べられそうだ。

 残念ながら、霖之助の手元にも幽々子の手元にも、もう大福は残ってはいなかったが。


「でも季節を先取りするのは人間の得意技でしょう?
 いっそ夏を先取りしてみたらどうかしら」
「今は春が待ち遠しいよ」


 彼女の冗談だとはわかっているが、そんなことで人生の岐路には立たされたくない。

 もっとも、人間の身でありながら霊夢や魔理沙、咲夜などはたまに冥界に行くらしい。
 彼岸まではさすがにいかないようだが……。


「心に春を持っていれば、そんなに執着はしないものよ」
「暖を取るのは春が待ち遠しいからじゃなかったのかい?」
「火に当たるだけが暖まる方法じゃないもの。
 例えば……」


 幽々子はゆらりと溶けるように移動すると、霖之助へと抱きついてきた。
 柔らかい肌触り。暖かい感触。


「人肌で、とかね」
「……古代の暑い国では人肌で涼を取ってたという話がある。
 温かいのは認めるが、離れてくれないか。
 君も他人に見られて誤解されたら困るだろう」
「誤解なんてさせておけばいいのにね。
 でも貴方がそう言うなら仕方ないわ」


 幽々子は笑いながら、身体を離した。
 その表情は笑顔。だからこそ……表情が読めない。


「あら、名残惜しそうな顔してるわね」
「……気のせいじゃないかな」
「そういうことにしておきましょうか」


 幽々子は霖之助の表情を楽しむかのように、くるりと回る。


「春色の汽車に乗って、海に連れて行ってよ」


 さんざんからかって満足したのだろうか。
 彼女はいつも通り、商品の物色を開始した。

 歌を、口ずさみながら。


「タバコの匂いのシャツに、そっと寄りそうから」


 霖之助はため息を吐くと、使った湯飲みと皿を片付けた。
 と言っても洗い物はまとめてやるので、置いてくるだけだ。

 あとはいつも通り、店番という名の読書を開始する。


「何故知りあった日から半年過ぎても、あなたって手も握らない?」


 一瞬視線を感じて、霖之助は顔を上げた。


「あら、どうしたの?」
「いや……なんでもないよ。
 ゆっくり選んでくれたまえ」


 ……気のせいか。
 幽々子に睨まれた気がしたのだが。


「好きよ、今日まで、逢った誰より
 I will follow you あなたの生き方が好き」


 瞬間、再び霖之助の身体に幽々子が抱きついて来た。

 彼女のこれは癖なのだろうか。
 そう言えば、妖夢にもよく抱きついている気がする。
 ……癖なのだろう。たぶん。


「……ねえ、霖之助さん」
「なんだい?」
「お茶、美味しかったわ」
「ああ、どういたしまして」


 耳元で囁かれると、なんだかとてもくすぐったい。
 ……それにしても、からかいにしては近すぎるのではないだろうか。


「さっきの話だけど」
「うん?」
「冥界の者が顕界の食事を食べたらどうなるのかしらね」
「どうって……」


 幽々子は神社の宴会にも参加していたことがあるし、食べたところでどうにもならないはずだ。
 ……たぶん。きっと。


「このまま帰れない……帰れない……。
 心に春が来た日は、赤い……スイートピー……」


 心に春を持てばいいのだと、彼女は言った。
 そうすれば、温かいのだと。


「……ねえ、霖之助さん。
 ここに来るといつも温かいわ。まるで春みたいに……ね」

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まさに幽々子様って雰囲気が良いです。
ゆかりんとは別のベクトルでの怖さが素敵。
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