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ブンキシャ! 第10話

他のところにアップして同じのをブログにアップする作業が面倒になってきたので。
そそわプチだともうそんなにコメントも付いてないし、まあいいよね。

と言うわけで久し振りに。


霖之助 文





「それで、なんで僕がこんな物を着せられているんだい?」
「似合ってるからいいでしょう」
「ええ。似合ってますよ、霖之助さん」


 香霖堂から紅魔館へと続く道中。
 霖之助は着慣れない洋服のせいか、しきりに着心地を確かめる。

 上等な品のようで不満はない。
 むしろサイズがぴったりなことの方が気に掛かったが。

 ……気が付いた時には黒いタキシードを着せられていた。
 髪型も何故かオールバックにされた上で。

 こんなことができるのはひとりしかいない。
 時間を操る彼女にとっては一瞬で着替えさせることくらい造作もないのだろう。
 どうやって着替えさせたかは……考えないようにしておく。


「ところでどうしてタキシードなんですか?」
「似合ってるでしょう?」
「はい、似合ってますね」


 答えになっていないが、文は納得したようだ。
 だが着ている本人が納得できなければ意味がない。


「似合ってる必要性はないと思うが。普段の格好で十分だろう」
「あら? 別の理由が必要かしら。じゃあ」


 咲夜は不満そうな霖之助に向かって瀟洒に微笑む。


「洋服の正装ですわ」


 ……それこそ、わざわざ紅魔館に行くのに正装する必要はないのではないか。
 別に初めてでもないし。

 これ以上尋ねても無駄だと判断し、霖之助は追求を諦めた。
 わからないことは考えない。
 とりあえず……害はないのだから。

 思考に沈んでいた霖之助をよそに、少女たちはずんずんと進んでいく。


「文、そんなに早く歩いたら服が傷む……かもしれないよ」
「あやや、それは大変ですね」


 霖之助の言葉に、文は少し歩みを弛めた。

 咲夜が買った服は、外の世界の箱……スーツケース4つほどの量だった。
 配達を依頼された身の上で、客に持たせるわけにもいかない。
 それだけの量の商品が売れたことは嬉しくもあるが、外の道具とは言い切れないので微妙なところだ。
 とはいえ、商品は商品なので売れるときに売っておきたいのも事実だった。


「う~ん、飛んで行ければ楽なんですけど」
「この荷物を担いではちょっときついわね……それに」


 ふたりの視線が霖之助に集まる。
 霖之助は居心地悪そうに身じろぎした。


「……なんだい?」


 聞いてみたが、言いたいことはわかっている。
 ふたりは答えず、そのままため息を吐いた。


「置いていくのも、ねえ」
「抱えていこうにもこの荷物では……」


 霖之助は文に抱きかかえられ飛んでいる自分を想像してみた。
 ……あまりいい光景だとは思えない。


「霖之助さんは飛ぼうとは思わないんですか?」
「空より地上のほうが面白いものが落ちている……というか、空には何も落ちてないからね」「そんなものですか」
「ああ。それに歩いた方がゆっくりと幻想郷を見て回れる」
「まあ、それは確かに」


 文はひとつ頷くと、言葉を続けた。


「でもやっぱり、空を飛ぶのは良いですよ」
「最速の天狗としては譲れないところかい?」
「いいえ」


 首を振る文。
 そして霖之助を真っ直ぐに見つめる。


「飛んだ方が早く会えるじゃないですか」
「……ああ」


 その素直な視線に、霖之助は照れたように視線を逸らした。
 いまだどう答えて良いか決めあぐねている。
 ……多分、どんな答えでも彼女は納得してくれる気もするが。

 そんなふたりに、咲夜がため息。


「仲がいいのはいいけど、あまりお嬢様に変なこと吹き込まないでよ」
「変とはなんですか。私は清く正しい射命丸ですよ」
「あ、咲夜さーん」


 彼方から、名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
 いつの間にか紅魔館前に着いていたらしい。


「あれ、香霖堂さん。今日は運送屋なんですか?
 変わった格好してますね」


 門のところにいた美鈴が、霖之助に気づき首を傾げる。
 霖之助はその言葉に、苦笑しながら肩を竦めた。


「何の因果かね……今日だけだ」
「あはは、手伝いますよ」


 ちらり、と咲夜を見る霖之助。
 彼女は何も言わなかった。
 手伝うのは構わないということだろうか。

 すると後ろから、文の囁く声がする。


「いいんですか? 門番の仕事サボってますよ?」
「いいのよ。私は今休暇中なんだし」


 つまりは見ないふり、と言うことだろうか。


「明日になったら、どうなるかわからないけどね」


 怖い笑いが聞こえてきた。
 霖之助は振り向くことが出来ないまま、美鈴と並んで歩く。
 ……本人には聞こえていないようだが……。


「……冗談よ。こういうのも門番の仕事だわ。
 美鈴、運ぶのはいいから門を開けてきなさい」
「あ、はーい」


 赤い屋敷の窓のないロビーに荷物を下ろし、霖之助はようやく一息つくことが出来た。
 置いた荷物は妖精メイドたちがわらわらと集まり運んで行く。
 行き先は……咲夜の部屋だろうか。


「これで仕事は終わりだな。
 帰ったら美味い酒が飲めそうだ」
「あやや、せっかくですから私はちょっと取材していこうかと思います」


 文は手帳を取り出し、目を輝かせる。
 堂々と紅魔館に入れるのは、きっと珍しいのだろう。


「貴方もしばらく休んで行ったらどう?
 配達が終わればお客様だもの。歓迎するわよ」
「ふむ」


 確かに紅魔館まで来てそのまま帰るというのももったいない気がしていた。
 せっかくここまで来たわけなのだし。

 しかし、同時に違和感を覚える。
 よくできたメイドである咲夜が、自分から歓迎するというだろうか。
 この館は咲夜ではなく紅魔館の主の物である。
 ……まるで、事前に主がそう命じていたかのように。


「……何か企んでいないだろうね」
「いえいえ、とんでもない」


 そう言って笑う咲夜の笑顔は、やはり完璧だった。







「なによ、騒がしいわね」


 話していたのが聞こえたのか、紅魔館の主が顔を見せる。


「あら咲夜、帰ってきたの? それに珍しい顔がふたつも」
「はい、お嬢様」
「来たくて来たわけじゃないがね。
 仕事だよ。もう済んだけど」
「お邪魔してます」


 3人それぞれの返答に、レミリアは肩を竦める。
 もとより返事はどうでもいいのだろう。

 階段を下りてくるレミリアを見上げながら、
しかし咲夜の発した一言で思わず霖之助は動きを止めた。


「本日、私に代わってお世話させて頂く人物を連れて参りました」
「……聞いてないが」
「あら、頼んだでしょう?」
「頼まれたのは配達だけだよ」
「似たようなものじゃない」


 そのための執事服らしい。
 ……きっと文がメイド服をいているのを見て適当に思いついたのだろう。
 服が欲しかったのは本当だろうが。


「あやや、面白そうですね。潜入捜査みたいで。
 じゃあ、私が一日メイド長ですね!」
「……何か不安ね」


 文の中では既に決定事項なのだろう。
 満面の笑みを浮かべる文に、苦い顔をする咲夜。


「咲夜」
「はい、お嬢様」
「帰ってきたのなら、私の相手をしなさい」
「ん? 咲夜は今日は休暇じゃなかったのかい?」


 霖之助の疑問に、レミリアは頷く。


「そうよ。だから、ひとりの人間として」
「……かしこまりました」


 恭しく頭を下げる咲夜に、苦笑するレミリア。
 咲夜である前にレミリアのメイド……なのかもしれない。


「話がまとまったところで、僕はそろそろ帰っていいかな?」
「え? 霖之助さんも働いてみましょうよ」
「ことわ――」


 言いかけて、ふと思い出す。


「そういえばここの地下に図書館があると聞いたんだが」
「ええ。私の親友が管理しているわ」


 そう言えばそうだった。
 新聞作りの時に何度か協力したことがある。

 その時にそんな話を聞いたことがあった。


「ちょっと見てみたいんだが、いいかな?」
「あら、地下に行きたいのね」


 ふーむ、と考えるレミリア。

 ……何故か、わざとらしい感じがした。


「本人に許可取ったほうが早いと思うけど
 いいわよ、送ってあげる」


 レミリアは咲夜に目配せ。

 彼女が霖之助から一歩離れたことに気が付いたときには、もう手遅れだった。


「ただし……地下は地下でも……」









 トラップか、誰かの能力か。
 気付いたときには、霖之助は暗い部屋にいた。


「なんだ……?」


 当たり前だが見覚えがない。
 地下なのに間違いはないようだが……。


「誰?」


 声がした。
 幼い少女の声。


「人に名を尋ねるときはまず自分から名乗るものだよ」
「あはは、何それ。面白い」


 暗がりの向こうから、少女が姿を現す。
 金髪に特徴的な羽根。

 ここは彼女の部屋なのだろうか。
 だとすると、むしろこの少女からしてみれば霖之助のほうが乱入者ということになる。


「私はフランよ。フランドール」
「ああ、僕は……」
「ねえ、そんなことよりせっかく来たんだし遊ぼうよ」


 瞬間、霖之助の身体を衝撃が突き抜けた。
 ただその少女に乗っかられただけだ、と気付くまでにしばらくの時間を要した。

 紙の山に突っ込まなければ背骨が折れていたかもしれない。

 少女の瞳に危険な光が灯る。

 ほとんど妖怪に襲われる事がない霖之助だが、いざこういう状態になってしまうとどうしようもない。
 単純に力で来られては、霖之助が敵う相手ではないのだから。


「……あれー? なんか見た事あるような……」
「うん?」


 倒れた霖之助に馬乗りになったまま、フランは首を傾げた。

 そんなふたりの上に、先ほどの衝撃で舞い上がった紙が落ちてくる。


「……君は……」
「あー、この顔だ」


 フランが指さしたのは、文が気まぐれで取った作者近影……の載った新聞記事だった。
 よく見ると積まれているのは文々。新聞の山。

 どうやら彼女は熱心な読者のようだった。


「もしかして、こうりん? 魔理沙が言ってた……」









「さて、死にはしないと思うけど。
 どうなったことかしらね」
「霖之助さんのことですからねえ。
 のらりくらりとやってると思いますよ」


 文はレミリアと一緒に、地下へと降りていた。
 一通り取材が終わった……というか、試しに掃除をしてみたところ散らかしてしまったため咲夜が怒ったのだ。

 ……飛ぶなら埃を舞い上がらせずに飛びなさい、と。

 そんなこと、時間を止めない限り無理だと文は思う。


「もし壊されてたりしたらどうする?」
「あり得ませんね。だってあの娘は……」
「それで? それで?」
「それで魔理沙がね」


 扉の前に来ると、なにやら声が聞こえてきた。


「霖之助さん、お迎えに上がりましたよ。
 ずいぶん楽しそうですね」


 扉を開けると、胡座をかいた霖之助の膝の上にフランが座り、一緒に新聞を読んでいるようだった。
 邪魔されたのが気に入らないのか、フランはふたりに不機嫌そうな視線を投げる、


「ああすっかり話し込んでしまったね。
 君は実に素晴らしい読者だ。ぜひこれからも続けて欲しいね」
「でしょう」


 胸を張るフラン。


「文々。新聞の読者に悪いひとはいないのです」
「それに比べて……」
「なによ」


 フランが送った視線に、レミリアはたじろいだ。


「あいつ、漫画しか読まないのよ」
「……そうか……」
「なによ、悪い?」


 胸を張るレミリアに、霖之助はため息をつく。
 助けを求めるように文を見るレミリアだったが、あからさまに視線を逸らされ思わず涙ぐむ。


「……さて、そろそろ帰ろうか」
「そうですね」
「な、なによ。何か言って行きなさいよ」
「またきてねー!」


 フランに見送られながら地下を後にする霖之助と文。
 残されたレミリアの隣に、いつの間にか咲夜が立っていた、


「大丈夫ですよ、お嬢様」
「そうよね。大丈夫よね」
「ええ。そこが可愛いんですから」
「……ん?」









 紅魔館から出ることには、すっかり日が暮れていた。
 あの建物の中は時間の経過がわかりにくい、

 空間をいじってあるという話だから無理もないのかもしれない。
 機会があったら調べてみたいところだ。


「しかし、吸血鬼の館に放り出すとはひどい話だな」
「でも大丈夫だったじゃないですか」


 悪びれもなく微笑む文に、霖之助は苦笑で返す。


「ねえ、霖之助さん」


 文は軽く飛び上がると、霖之助の前で滞空した。
 それから彼を見上げるようにして微笑む。


「面白かったでしょう? 今日の取材は」


 文の問いかけに……霖之助は迷わず頷いた。

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非公開コメント

ちゃんと読ませてもらってます

最後の文可愛いよぅ

今更だけど中盤辺りの文章、「服をいている」ではなくて「服を着ている」では?…あ、あとできれば続k(ry

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No title

この続きってどこありますか?気になります~><w
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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