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船幽霊のすゝめ

毎日更新が最近のトレンドって誰かが言ってたかもしれない。

船幽霊と言えばカレーを薄める存在です。
エアカレーでも可。

途中、はみゅんさんのSSと展開が被ってしまったかもしれないことをお詫びいたします。


霖之助 水蜜









「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」
「はぁ、どうも」


 白いセーラー服に身を包み、身長の高さほどもある錨を背負った小柄な少女……水蜜は、霖之助の挨拶に目を丸くした。

 香霖堂の店内は意外と広く、天井も高い。
 だがその空間を埋めるように、雑多な道具が置かれていた。
 一見しても……いや、よく見たところでそれが何であるかわからない物が多い。


「どうしたんだい、驚いた顔をして」
「えっと、ナズーリンがあそこの店主は無愛想だって……いえ、すみません」
「構わないよ、よく言われるからね。
 ……不思議なことに」


 霖之助は心底不思議そうに首を傾げた。

 もっとも、ナズーリンが相手の場合は下手に愛想良くしようものならいくら値切られるかわかったものではない。
 さすがは賢将、油断ならない相手なのだ。
 まあ、それが楽しかったりもするのだが。


「そうそう、なにやら星とナズーリンがお世話になったようで」
「ん? ああ、ちょっと無くし物を探すのに協力しただけだよ。
 お代は頂いたがね。……まだすべて払ってもらったわけではないが」


 聞いた話によると、星が無くしたあの宝塔は聖……彼女らの長の復活に欠かせない大事なものだったらしい。
 そんな重要な物をギリギリまで無くしていたということは、言っていないようだった。


「それでナズーリンから、貴方が私を呼んでると聞いて、一度お礼をと……あ」


 水蜜はそこで何か思い当たったかのように言葉を発し……
自らの身体を護るように、一歩後退った。


「……まさか私を呼んだのは、借金のカタに……」
「何を想像しているのか知らないが、違う。
 君に来て貰ったのは別の用事だよ」


 まだなにやら警戒している水蜜を落ち着かせるように、席とお茶を勧める。
 この店で二番目に……いや、今は一番高いお茶だ。
 かつての一番は霊夢に持って行かれてしまった。


「村紗君。君は舟幽霊らしいね」
「そうですけど。ああ、呼び捨てで結構ですよ。
 もしくは、キャプテンでも船長でも、お好きなように」
「そっちは辞退させてもらうよ。
 ええと……」
「村紗水蜜だよ、霖之助君」
「……ナズーリンの真似かい?」
「はい。似てました?」
「……似てないことはないが……いや、似てないな。
 態度のでかさが違う」
「そうですか」


 そう言って水蜜は人なつっこい笑みを浮かべた。
 怪談に出る船幽霊とは思えない、明るい笑顔。


「君は星とナズーリンの仲間だね?」
「はい。
 でもどうしてそんなことを……? やっぱり」


 またもや水蜜がよくない方向に走ろうとしていたので、霖之助は前置きを飛ばすことにした。


「実は君に、香霖堂の店員をやってもらいたいと思ってね」
「はい?」


 ……少々飛ばしすぎたかもしれないが。

 水蜜は霖之助の言葉に首を傾げる。
 船幽霊と仲間で、どうしてそういう結論になるのだろうか。


「店員というと、つまり」
「もしかしても何も、香霖堂で道具を売る仕事だよ」


 悩む水蜜に、霖之助は苦笑した。
 とりあえず到達点を提示しておけば妙な方向に行くことはないだろう。
 これでゆっくりと説明できる。


「船幽霊は船乗りを水中に引きずり込む幽霊だ。
 そうだね?」
「はい、そうですね。
 私も昔はよくやんちゃしたものです
 今は聖のおかげで改心たのでやってませんが」
「……ん?」
「どうしました?」


 今はやってない、という言葉に霖之助は渋い顔を浮かべた。
 船を沈めていた方がよかったのだろうか、と水蜜は不思議に思う。


「いや、君が船幽霊であればいいだろう。在り方が変わるわけではないのだから。
 とにかく、つまり船幽霊というのは自分の同族を増やすことを目的にしているわけだ」
「はぁ、そうなんですかね。
 あまり意識してやったことないんですが」
「……本人にそう言われると、不安になるな……」


 言い切った霖之助の言葉に、水蜜は首を傾げる。
 今の自信なさげな霖之助の姿を常連が見ていたら、珍しいものを見た、と言っただろう。


「とにかく君は香霖堂で高額商品を買ったナズーリンの仲間であり、船幽霊でもある」
「……つまり、客を商品を買う仲間にしろ、と言うことで店員ですか」


 水蜜の言葉に、霖之助は頷いた。


「理解が早くて助かる。
 もちろん報酬は払うが……どうだい?」


 霖之助は別に必ずしも彼女の助けが欲しいわけではない。
 ただ思いついたから言ってみただけなのだろう。
 それは水蜜にもわかった。
 それが彼のやり方なのだと。


「そうですね……」


 悩むふりをする水蜜だったが、答えは決まっていた。
 ……霖之助が受ければ、だが。


「こちらの条件も飲んでいただけるのなら」









 聖たちの建てた寺は、週に一度くらいの頻度で空飛ぶ遊覧船として幻想郷を回っていた。
 飛ぶときは宝船へと姿を変えるそれが、人々に受け入れられるまでさほど時間はかからなかった。
 これで人型に変形すれば完璧なのに、と山の現人神が呟いていたのを霖之助は聞いたことがあったが……。

 人間と妖怪とが一緒に景色を楽しむその光景は見ていて不思議なものでもあるし、今の幻想郷らしくもある。
 そんな遊覧船の航路に、香霖堂は組み込まれていた。


「はい、こちらが香霖堂です。
 お土産はあそこで売ってますからよろしければどうぞ」


 船長たる水蜜のアナウンスで、遊覧船に乗った客は香霖堂……の軒先に設置されたお土産売り場に近づいていく。
 軒先だけなのは、騒がしくなるのを憂慮した霖之助に気を使って、ではない。

 単に店内に入りきらないからだ。
 そもそも週に一度、晴れた日にしか遊覧船は飛ばないので外でも問題なかった。


「やあ、今日も盛況のようだね」
「はい、おかげさまで」


 お土産を売りさばく星とナズーリンを見ながら、水蜜は霖之助に近づいてきた。
 売っているのは宝船のボトルシップ(霖之助の手作り)や根付、小物類、あと何故か木刀だった。

 水蜜が持ちかけてきた条件は、香霖堂で土産物を売ること。
 意外な商売っ気に霖之助は驚いたのだが……。

 なんでも、聖には人と妖怪が仲良くすることを第一に考えてほしいので、経営などはすべて水蜜たちでやることになっているらしい。
 遊覧船の代金もお賽銭程度の代金だ。

 とはいえやはりいろいろとお金がかかるのも事実。
 ならば別のところで商売をすればいい、という結論のようだった。

 霖之助にしても、遊覧船の客が道具を買っていくとは思っていないが、店の名前を覚えてもらうのは大事だと考えていたのでちょうどよかった。
 道具が欲しいのならば、後日改めて来るだろう。


「しかしさすがは船幽霊、と言ったところかな」


 遊覧船のない日、水蜜が香霖堂にいると売り上げが伸びた。
 咲夜など、上客の相手は霖之助がするのだが、最近たまに来るようになった里の客は断然彼女にやってもらった方が売り上げがいい。

 最近の外の世界の船幽霊は、耳元で買いたくなったら買っちゃいなと囁くらしいが……。

 そんな事を考えていると、水蜜は半眼で霖之助を見つめてきた。


「いいえ? 別に船幽霊の能力は関係ありませんよ」


 柄杓も貰ってませんしね、と首を振る水蜜。


「じゃあどうやってるんだい?」
「いいですか、霖之助さん」
「……ああ」


 指をピンと立て、彼女はささやかな胸を張った。
 まるで教え子に説明する教師のように。


「私は接客をしてるんです」
「……接客」


 つまりあれだ。遊覧船の艦長の接客だ。
 案内してくれた人が買いたくなるのも無理はないだろう。


「霖之助さん? 別に遊覧船は関係ないですからね?
 やれば出来ることですから。本読んだりせずに。
 というわけで、はいこれ」
「……なんだいこれは……」


 広げてみると、白い衣装がそこにあった。
 水蜜が着ている服の男用だろうか。


「まずは基本からですよね。
 とりあえず、遊覧船で働いてもらいましょうか。
 私の仕事ぶりをしっかり見て貰わないと」
「……僕にもやれと?」
「あれ? だって」


 戸惑う霖之助に、水蜜は悪戯っぽく微笑んだ。
 セーラー服の襟元から見える肌が、やけに眩しい。


「船幽霊は、仲間を増やすものですからね」

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