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せめて、毘沙門天らしく

乙女な星という話があったので。

星の頭に垂れた虎耳が見えて仕方ない。
あと尻尾も。
乙女は正義だと思います。


霖之助 星 ナズーリン







「霖之助君。調子はどうだい?」
「ぼちぼちだよ。君が借金を返してくれれば少しは景気も上がるんだがね」


 ドアから顔を覗かせたナズーリンに、霖之助は営業スマイルで返す。
 毘沙門天の宝塔を売ってくれと頼みに来たナズーリンと激しい値段交渉を行ったのがつい先日のこと。
 余程急を要していたのか彼女が折れる形で決着が付いたのだが、いまだその支払いは済んでいなかった。

 霊夢たちと会ったことがあるようなので、その場でツケを認めることにした。
 いざとなったら霊夢の勘で追いかければいいと思ったのだが……。
 意外と律儀な性格のようで、ナズーリンは定期的に顔を出している。
 一向に借金を返す気配がないのは置いといて。


「やれやれ、せっかちだな君は。会うなりすぐ金の話題。
 もっと心にゆとりを持たなければ、そうだろう?」
「ほう、では聞こうか。
 いらっしゃい。毘沙門天の秘宝も取りそろえていた古道具屋に何の用だね?」
「なに。私の小鼠たちがここの肉を食べたいと騒ぎ立てるものでね」


 霖之助を嘗め回すような視線を送るナズーリン。
 その視線を真っ向に受けながら、霖之助は肩を竦めた。


「コンビーフの缶詰なら先日入荷したね。味が濃いが大丈夫かな」
「うむ、問題ない。いただこう」


 ナズーリンは霖之助からいくつかの缶詰を受け取ると、対価をカウンターに置いた。
 早速鼠が集まってくる。
 一番食べているのは……彼女本人のようだったが。


「ふーむ。なかなか乙なものだねこれは」
「この宝玉もなかなかのものだと見るが、いいのかい?」
「ああ。過剰分は利子に充てておいてくれ」


 ナズーリンたちが食べ終わるのを待って、霖之助は再び口を開いた。
 ついでにおしぼりで彼女の口を拭いてやる。


「それで、今日は借金を返しに来たということかい?」
「いや、その借金のことで話があってね」
「ほう、とうとう返す目処が付いたのか」
「うん? 私は返す気はないよ」
「…………」


 霖之助は頭を抱えた。
 どうやら要注意人物リストにひとり名前を付け加えなければならないらしい。

 ちなみにそのリストの筆頭は霊夢、それから魔理沙だった。
 あとは紫と咲夜だ。
 その誰もが自由に出入りしているところを見ると、何の意味もないのかもしれない。


「勘違いしないでくれ、霖之助君。
 私は、と言ったんだ。
 借りたものは、その原因を作った本人が返すべきだろう?」
「……つまり、誰だい?」


 そこで初めてナズーリンは周囲を見渡した。
 ようやく気付いたように首を傾げる。


「おかしいな、確かに一緒に来たはずなのだが」
「いや、最初から君だけだったよ」
「最初から君だけ、か。なかなかいい口説き文句だね」


 その言葉に、彼女は頬を染める……ふりをする。


「話を逸らすということは、見つからないんだな」
「……恥ずかしながら。ちょっと探してくる」


 やって来たときと同じように、ナズーリンは突然出て行った。
 鼠だけあって落ち着きがない。
 彼女はもっとゆとりを持つべきだと思う。霖之助のように。


「やれやれ……」


 なんだったんだ、とため息を吐いた。
 すると、遠くの方からなにやら言い合う声が聞こえてきた。


「やぁ~! おうち帰る~!」
「幼児退行しないでください。元はと言えば自業自得なんですから」
「ついうっかりは誰にでもあることでしょう。わざとじゃないのよー!」
「ついうっかりが多すぎるんです。ちょっと根性を叩き直されてきてください。
 ていうかなんでこんな遠くにいるんですか。店までだいぶ距離がありますよ」
「だって、だって……」


 だんだんと声が近くなってきたかと思うと、店の壁をがりがりと擦る音がする。
 巨大なネコでもいるんだろうか、と霖之助は心配になった。
 もしそうなら、今日の夕食にと思って作っておいた肴の干物が全滅してしまいかねない。


「だって男の人とふたりきりなんて……その……怖い……」
「ふたりきりじゃありません。客も来ま……いえ、ふたりきりかもしれませんね」
「そんなぁ~!」
「大丈夫、痛いのは最初だけです。天井の染みを数えてる間に終わりますよ」
「痛いってなにが!? どこが!? どんなふうに!?」
「それはそれ、ほら……。
 ここから先は店主に教えてもらってください」
「うぅ……」


 不穏な会話が聞こえてきた。
 一体ナズーリンの中で霖之助の評価はどのようなものなのだろうか。

 ……若干不安に思っていると、ようやく香霖堂のドアが開いた。
 現れたのはふたつの影。


「待たせたね、霖之助君。
 紹介しよう。こちらが私のご主人様だ。
 毘沙門天様の代理をやっておられる」
「寅丸星と申します。
 先日は当方の不注意でご迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げる金髪の女性。

 とても先ほど聞こえてきた叫びと同一のものとは思えない、凛とした声。
 しかしその身体が小刻みに震えてるのは気のせいだろうか。


「と言うわけで、あの宝塔を無くした張本人が代金を払うことになったというわけだ。もちろん身体で」
「ちょ、ちょっとナズーリン?」


 ナズーリンの言葉に、あっさりと星の態度が崩れた。
 涙目でナズーリンを揺する彼女は……何というか、うって変わって幼く見える。

 ……大丈夫なのだろうか。


「しかし結構な額だ。労働で返すと言ってもかなりの期間になるが」
「その点は大丈夫。何と言ってもご主人様の能力は財宝が集まる程度の能力だ。
 きっと気に入ってくれると思うよ」
「ほう……?」


 その言葉に、霖之助はじっと星を見る。


「あ、あの……」
「おっと気をつけてくれよ。
 うちのご主人様は見られると興奮してしまうド変態なんだ」
「ちょっ、違っ……香霖堂さんも目を逸らさないで!
 ああでもやっぱり見ないで!」
「……どうしろというんだ……」
「あまりやり過ぎると本気で怒られてしまうな。
 このあたりにしておこう」


 霖之助がため息を吐くと、ナズーリンがハハッと笑い声を上げる。
 ずいぶんと楽しそうだ。

 従者をからかう亡霊は見たことがあるが、これはその逆パターンだろうか……。
 どちらも愛されていることは端から見ててよくわかる。
 それがいいかはさておき。


「僕には本気で怒っているように見えるんだが」
「まさか。
 毘沙門天たる者の怒りがこのくらいで済むはず無いだろう?
 その光景たるや地は裂け天は荒れ狂い……霖之助君もセクハラして逆鱗に触れないように気をつけたまえ」
「ああ。そうだね。
 まず口の軽い鼠にそう忠告しておくことにするよ」
「ああん、無茶振りでハードル上げないで……」


 すっかり気落ちしてしまっている星にふたりして視線を送る。

 ナズーリンは肩を竦めると苦笑しながら首を振った。


「ま、こんな調子だからね。
 宝船観光ツアーでも男性客が来ると使い物にならなくて困る。
 ひとつ鍛えてやって欲しいんだ。それ以外は優秀な人なんだが……」


 あと無くし物が多いこと以外はね、と言って笑う。


「上司に対してひどい言い草だな」
「上司だからこそ、さ。
 まあ上手く能力が発揮できなさそうだったら、一番の宝は君だったんだとか言えば丸く収まると思うよ」
「ナ、ナズーリン!」
「おっとっと、じゃあお邪魔鼠はこの辺で退散することにするから」


 器用に土煙を上げて、ナズーリンは去っていった。

 後に残されたのは霖之助と、いまだ固くなっている星。


「……それで、星、だったか。寅丸?」
「ああ、ええと、星でいいです。はい」
「じゃあ、星。さっそくだが……」
「は、はい……」


 星は覚悟を決めたかのように、霖之助に対面した。
 じりじり、じりじりと時間が過ぎる。


「……何でそう離れていくんだい」
「いえ、その、なんといいますか」
「別に何もしやしないよ。
 というか僕は見ての通り座っているだろう。
 襲いかかろうとしても無理な話だよ」
「襲いかかるんですか!?」
「……まず深呼吸したらどうだい?」
「すみません……」


 星が落ち着いたところを見計らって、再び霖之助は質問を投げかけた。


「早速だが、ひとつ聞きたいことがある」
「はひ?」


 その返事に、時期尚早だったかもしれないという不安がよぎったが……。
 これ以上待っても同じになりそうなので、言葉を続ける。


「ナズーリンが、能力が上手く働かなかったら、と言っていたがどういうことだい?」
「ああ……それはですね……」


 星は気まずそうに話し始めた。
 聖白蓮という人物のこと。封印されたこと。
 その後の千年、残された寺が荒れ放題だったこと。


「私の能力は毘沙門天の代理をしていて身についたものですから。
 ですから聖が……いえ、毘沙門天としての責務を果たさなければ」
「なるほどね。
 宝は失われていくというわけか。宝塔のように」
「あとはその……財宝は決して幸運だけ呼ぶわけではありませんし……」


 確かに昔話やおとぎ話を例えるまでもなく、財宝を持つのは退治される側が多い。
 財宝を持つということはそれだけでいろいろな危険をはらむものだ。


「じゃあ、そうだね。
 店番をしながら出来るだけ毘沙門天っぽく行動してくれ。
 まずはそこからだな」
「は、はい。わかりました香霖堂さん」


 固い動作でかしこまりながら返事をする星に、霖之助は首を傾げた。


「君も店員なんだから香霖堂という呼び名はどうかな。
 別に名前で呼んでくれて構わないんだが」
「え? あ、はい、そうですよね。
 りん……霖……」


 りん、という音を繰り返す星に、霖之助はばれないようにため息を吐いた。

 カウンターの席から立ち上がる。
 するとビクッと反応して星が距離を空けた。


「ちょっとお茶を入れてくるだけだよ。
 長期戦になりそうだからね」
「ええ、はい、すみません……。」


 まったく毘沙門天らしくない

 肩を落とす星を背中に、霖之助は苦笑を浮かべる。
 本当に。


 これはずいぶん、長期戦になりそうだ。








ゆうまさんに絵を描いていただきました。
感謝感激。
ナズ星

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No title

痛いのは:フラグを折られた場合
最初だけ:それでも建てに行くようになるw
天井のしみ:建てた数を数えて、そしておられた数を数える日々

いまさら、そんな妄想が浮かんだw
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道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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