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灰になるまで

妹紅×霖之助、後編。
リクエスト感謝です。
まったく関係ないけど寝起きの妹紅のリボンがずれているのを直す霖之助が浮かんできた。

さて次は小町でチルノでブンキシャだ。


霖之助 妹紅









 タン、と小気味よい音を立てて障子が開け放たれた。

 朝日が眩しい。
 今日もいい天気になりそうだ。

 竹林の中にある妹紅の庵。
 差し込んだ太陽の光は部屋の隅々まで照らし……その惨状を浮かび上がらせた。


「……はぁ……」


 いつもの光景に、大きくため息を吐く慧音。
 足下に落ちているゴミを持ってきた袋に詰め込んでいく。

 宴会でもしていたかのような有様だ。
 酒も呑んでいたらしく、酒瓶もあちこちに転がっていた。


「ん~……」


 隣の部屋から彼女の呻き声が聞こえてきた。
 どうやらまだ寝ているようだ。
 まあ、わかっていたことではあるが。


「いくら不死の身体だと言っても、肉ばかりでは健康に悪いぞ」


 わざと大きな声で聞こえるように呟く。
 まだ寝ているのか起きているのかはわからなかったが、どちらにせよ朝は起きる時間だ。

 あらかた床を片付け、机を片付け、皿を片付けたところで慧音は隣の部屋を覗き込んだ。


「妹紅、もう朝だぞ」


 こちらもひどい惨状だった。

 まるで酔っぱらったまま布団を用意しようとしたらバランスが崩れて布団に生き埋めになり、そのまま力尽きて眠ってしまったかのような。
 ……おそらくその通りなのだろうが。

 大きくため息。
 気合いを入れ、布団に手をかける。


「妹紅、起き……」


 ろ、の口の形のまま慧音は固まってしまった。
 布団の下には妹紅と、彼女と縺れ合うようにして眠る霖之助の姿。








 10分後。
 霖之助と妹紅は並んで正座させられていた。


「……先生はふたりを見損ないました」


 風を切りながらしなる教鞭が大変怖い。


「あの……慧音?」
「なんですか、霖之助君」


 手を挙げた霖之助を、キッと睨み付ける慧音。


「ひょっとして、その、なにか勘違いしてないだろうか」
「勘違い?」


 その言葉に、慧音は驚いたような表情を見せる。
 ……やけに芝居がかった、わざとらしい仕草で。


「勘違い、勘違い。
 いい歳をした男女が酒を呑んでひとつの布団で寝ていた。
 このどこに勘違いの余地があると?」
「……うん、まさにその言葉通りだよ。
 勘違いの余地はないな」
「そうだろうそうだろう。すると酒を呑んだふたりはきっと酔った勢いで……。
 あんなにぐっすり眠るほど疲れて……」
「もしもし、慧音?」
「無駄だよ、香霖堂」


 霖之助の横で、妹紅が首を振る。


「そうなった慧音は聞く耳をを持たないさ」
「……それはよく知ってるよ。僕もね」


 言ってふたりで苦笑。
 慧音はまだなにやら怪しい妄想を繰り広げていた。
 昨日は満月だったが……。
 少々歴史の作りすぎではないだろうか。


「ていうか知り合いだったんだな、慧音と」
「僕も驚いてるよ。竹林の中に知り合いがいるとは聞いたことあったが、まさか君とは」


 慧音の話では、竹林の守護者、人間の守護者。
 弱きを助け強きをくじくまるでヒーロー……のような人物像だったのだ。

 まさか竹林を焼いた上全裸で倒れてるなど予想だにできなかった。


「ああ、香霖堂が慧音のいつも言ってる男だとはな」


 妹紅も同じように考えていたようだ。


「……いつも?」
「ちょっ……」


 彼女の言葉に、ようやく慧音がこちら側に戻ってきた。


「ああ、いつもさ。
 ぐうたらでやる気が無いだとか、商売に向いて無いだとか、いくら誘っても人里にこないとか」
「それはひどいな」
「いや、あの」


 その言葉で気づかなかったとは妹紅は霖之助をそう思っていないのだろう。
 もっとも、慧音もただの愚痴だろうから本心とは限らないが……。


「あとは…そうだな。慧音の気持ちに気……」
「おおっともう寺子屋が始まる時間だ」


 慧音はしたっと片手を上げ、玄関に向かって歩き出した。


「妹紅、霖之助。ちゃんと飯食って風呂入れよ。
 あとまた来るから、ゴミはちゃんと捨てておくように。それから……」


 そんなときでも世話を焼くのを忘れず、さんざん喋って慧音は去っていく。
 残されたふたりは、どちらからともなく笑い出した。


「くく……あいつでも慌てることがあるんだな」
「そうか、君がね」
「ああ、改めて。
 慧音の友人の妹紅だ」
「慧音の友人の霖之助だよ」


 お互い同じ友人を持つのに、長い間気づかなかったらしい。


「慧音にも香霖堂の話をしたことがあったんだけどな」
「ふむ」
「……たぶん、商売人と言ったから気づかなかったんだろうな」
「すまないが、よく意味がわからないな」


 もしくは理解するのを脳が拒んでいるのか。
 妹紅はそれ以上言わず、すっかり片付いた部屋を見て呟く。


「……すっかり目も醒めてしまったな」
「ああ、僕もだよ。もう店を開ける時間だ」
「朝飯くらい食う暇はあるだろう? 用意してくる」


 言って、彼女は台所へと歩き出した。
 霖之助は改めて部屋を見渡し……ふと、疑問を発していた。


「妹紅」
「なんだ?」
「こう言うことを聞いていいのかはわからないが……」
「うん……はい、おまちどお」


 朝食を載せたお盆を抱えてやって来た妹紅に、いただきますの礼。
 箸を進めることしばし。


「人の身で千年生きるというのは、どんな感じなんだい?」
「そうだな」


 妹紅は考えるまでもなく、あっさりと言った。


「狂気、かな」
「それほどには見えないが」
「そう見えるほど狂ってるのさ。一回り……いや、何度も戻ってくるくらいにな。
 妖怪みたいに一定周期で記憶を整理してたら楽なんだろうが……」
「……すまない、そう言うことを聞きたかったわけじゃないんだ」


 咳払いひとつ。
 霖之助は言葉を探し……続ける。


「妹紅の家にはずいぶんものが少ないと思ってね。
 例えば……世話になった相手とか、仲良くなった友人とかいれば、思い出の品とかできるだろう?」


 事実、香霖堂の倉庫にはたくさんの非売品がある。
 その中の何割かは……そう言った捨てるに捨てられない思い出の品々だった。


「そういう道具を仕舞っておくだけでも場所を取るんだが、どうやってるのかと思ってね」
「ああ、私の場合はな……」


 妹紅はお盆の上に置いてあった海苔を手に取った。
 海のない幻想郷ではわりと高級品だ。

 パン、と手を合わせると真っ赤な炎が燃え上がる。


「思い出はすべて燃やして灰にしてしまうのさ」


 はい、と妹紅はよく焼けた海苔を霖之助に差し出した。
 香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。


「なるほどね」


 納得したように頷く。

 しかし、霖之助の頭の中には別の答えが浮かんでいた。

 不死鳥は灰の中から蘇る。
 つまり妹紅は灰……思い出を糧に生きているということではないか。
 それがいいものであれ、悪いものであれ。
 大事に抱えすぎるからこそ、過去の因縁が今でも続いているのではないか。

 それは霖之助の勝手な想像だったが、なんとなく彼女らしい気もした。
 本人に言ったら、否定されるだろうが。


「なんだよ」
「いいや、なんでもない」


 彼の視線を勘違いしたのか、妹紅は悪戯っぽい表情を浮かべた。


「心配しなくても霖之助が死んだら燃やしてやるから」
「……あ、ああ」


 妙な考えのせいで、その言葉に少し動揺が走る霖之助。
 とはいえ、彼女から大事な思い出扱いされたことは嬉しかった。


「その時は、お願いしようかな。
 でも僕は長生きだよ」
「心配ないさ。私はどんな相手でも常に見送る側だからな」


 言って、妹紅は少しだけ寂しそうな表情を見せる。
 その横顔に、霖之助は思わず呟いていた。


「それじゃあ、その時まで見ててもらおうかな」
「ん?」


 言った後に恥ずかしくなった。
 これではまるで……。

 と、そんな霖之助の考えをよそに、妹紅は満足げな笑みを浮かべた。


「ああ。慧音と一緒に3人で、な」

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