ふたり暮らし
霖之助もパチュリーも、頭の中は行動的。
たぶん。
霖之助 パチュリー
外の道具なら何でもいいというわけではない。
幻想郷にない、優れた外の道具だから惹かれるのだ。
映像を見る、音楽を聴く。
どれも素晴らしい機能だ。
……使い方は、わからないのだが。
それはそれとして、手軽に火をおこせる使い捨てライターや早く移動できる乗り物類、離れていても会話できる電話なども魅力的だった。
人の身で同じ現象は起こすことができるものもあるが、これらを使用することで遙かに労力を省くことができる。
これもまた、外の世界の道具の在り方と言えるだろう。
「ということで、僕はこのライターを推すね」
「単に火が出るだけでしょう?
魔法を使えば済むことじゃない」
「それは魔法使いの前提だ。
ただの人間から見た視点で判断して欲しいね。
外の世界に魔法使いはいないんだ。
それに、火をおこすのがどれだけ大変か君は知っているかい?」
「でも原理的には簡単でしょう? 発火素材でも使えばいいわ。
わざわざ実験してみるほどではないわね。次よ」
テーブルに向かい合って、霖之助はパチュリーと議論を交わしていた。
紅魔館の地下にある大図書館。
薄暗い空間に置かれた広いテーブルの上は、道具や本であふれかえっている。
ふたりが行っているのは、外の世界の道具の用途と同じものを幻想郷で作るならどうするか、という試みだった。
結論だけならほとんどの道具は実現可能だ。
それどころか一部の技術、魔法の品なら外の世界を凌ぐと言っても過言ではない。
だがあくまで道具は誰にでも使え、そして簡単に手に入るものでなくてはならない。
経済性、量産性、普遍性、まで含んだ上での考察は、なかなか奥が深いものがあった。
「いやいや待ってくれ。
常温で保存でき、保存も簡単。
何より手軽だ。
これは一考の余地があると思うね」
「そもそも火をおこすだけよりは、もっと目的を持った道具の方が良いわ。
……私が作ってみたいのは、これね」
「ふむ、コンロか……」
パチュリーは、広げたカタログを指さした。
霖之助が持ってきた道具を資料に使うこともあれば、外の本を参考にすることもある。
重要なのは目的と用途だ。
どうせ作るのだから、使用方法は関係ない。
実に霖之助に合った議題だった。
「だが手軽さ、だけで考えるならこちらの電気ポットのほうがいいと考えるね。
いつでも熱湯を出せる。つまり常時火の属性を支配し続けると言うことだ。
魔法でもなかなか難しいかもしれないな」
「……紅茶をいつでも飲めるのは確かに良いけど。
味が落ちないかしら」
う~ん、と悩むパチュリーだったが興味はあるようだ。
コンロとポットを見比べる。
「でもやっぱり、用途が同じだとしても使用目的が異なる場合が多いわ。
どっちもあると便利なのは確かよ。
コンロでもお湯は沸かせるでしょうけど、手軽さには欠けるわね」
「それなら……」
霖之助はカタログに載っているコンロとポットに赤ペンで丸をつけた。
「両方作ればいい」
「そうね」
「あれ、パチュリー様。それに香霖堂さん」
頷くふたりに、遠くから声がかかった。
本の整理をしていたらしい小悪魔は、小走りに駆け寄ってくる。
「ああ、お邪魔しているよ」
「呼んでくださればよかったのに。
パチュリー様、すぐにお茶を用意しますね」
挨拶もそこそこに、彼女は姿を消した。
今頃急いでカップを用意しているのだろう。
「……いろいろと構いたがるから黙ってたんだけど。
だから香霖堂でやりましょうって言ったのに」
「いやしかし、参考になる魔導書はこちらのほうが多いからね。
それに親切でやってくれるんだ。ありがたいじゃないか」
「でもあの子、勘違いが多いから……」
作りたいと思っても、難易度が高くては意味がない。
何より量産が出来ることが重要だった。
一品ものでは商品にならないのだから。
知的欲求が満たせて商品が増えれば、もう何も言うことがないではないか。
「……まあいいわ。
それで、コンロだけど。
置くとしたらここね」
「ほう、つまりそこがキッチンだね。
だとすると……風水的にはここに水があるといいな」
ふたりがノートに書いているのは、家の間取りだった。
最終目標は、自分たちで作った道具だけで生活するという思考実験である。
そうすれば何が必要か把握でき、つまり作るべき道具が決まってくる。
部屋の間取りは、外の世界の本を参考にしていた。
夢の3LDKという見出しが、いかにも幻想郷にぴったりだと思ったのだ。
3LDK、つまり3つ部屋があり、居間、食堂、台所を備えていると言うことである。
参考にした資料が男女で住むことを前提としていたため、霖之助とパチュリーで考えているのだが……。
「やっぱり狭いわね」
「紅魔館と比べたらどこでも狭いだろう?」
「そうだけど……」
最適化は魔法使いの基本。
限られたものを最大限使ってこそ。
……のはずなのだが。
「一部屋しかないんじゃ、ここを寝室にするしかないと思うの」
3つある部屋に、書斎がふたつ。
これは既に決定事項だった。
「ふむ。
……まあ、別に問題はないな」
「そうね」
あっさりと頷くふたり。
そこでふと、パチュリーが顔を上げる。
「それにしても遅いわね、小悪魔……」
「……そういえば」
もうお茶を入れに行って結構経つはずだが。
そう思っていたとき、恐る恐るといった様子で声が聞こえてきた。
「あ、あのう……。
お話は終わりました?」
「……何やってるのよ。そんなところで」
「いえ、邪魔しちゃ悪いかなと思いまして」
彼女は照れたように笑うと、いそいそとお茶の準備をし始めた。
持ってきたのはアイスティーのようだったが、氷がずいぶん溶けていた。
……もしかしたら、ずっと待っていたのかもしれない。
声が聞こえるような、すぐ近くで。
「あ、大丈夫ですよ。
おふたりは話を続けてください。
どうぞどうぞ、ぜひその先まで」
その先、というのがどこを指すのかわからなかったが。
「パチュリー様がどんな生活をするのか、私も興味ありますし。
あ、別に聞いてませんから安心していいですよ?
どうぞ話を続けてください」
夜の……と言いかけた小悪魔は、慌てて口をつぐんだ。
疑問符を浮かべるパチュリーが見えないのか、彼女は捲し立てる。
「そういえば鬼の人たちは大工の名人らしいですよ。
頼んでみたらどうです?」
「頼むって何をだい?」
「あれ? だって」
霖之助の疑問に、今度は逆に小悪魔は首を傾げた。
「おふたりの新居について、相談されてたんでしょう?」
ゆうまさんから小悪魔ネタを書いていただきました。
感謝感激。
たぶん。
霖之助 パチュリー
外の道具なら何でもいいというわけではない。
幻想郷にない、優れた外の道具だから惹かれるのだ。
映像を見る、音楽を聴く。
どれも素晴らしい機能だ。
……使い方は、わからないのだが。
それはそれとして、手軽に火をおこせる使い捨てライターや早く移動できる乗り物類、離れていても会話できる電話なども魅力的だった。
人の身で同じ現象は起こすことができるものもあるが、これらを使用することで遙かに労力を省くことができる。
これもまた、外の世界の道具の在り方と言えるだろう。
「ということで、僕はこのライターを推すね」
「単に火が出るだけでしょう?
魔法を使えば済むことじゃない」
「それは魔法使いの前提だ。
ただの人間から見た視点で判断して欲しいね。
外の世界に魔法使いはいないんだ。
それに、火をおこすのがどれだけ大変か君は知っているかい?」
「でも原理的には簡単でしょう? 発火素材でも使えばいいわ。
わざわざ実験してみるほどではないわね。次よ」
テーブルに向かい合って、霖之助はパチュリーと議論を交わしていた。
紅魔館の地下にある大図書館。
薄暗い空間に置かれた広いテーブルの上は、道具や本であふれかえっている。
ふたりが行っているのは、外の世界の道具の用途と同じものを幻想郷で作るならどうするか、という試みだった。
結論だけならほとんどの道具は実現可能だ。
それどころか一部の技術、魔法の品なら外の世界を凌ぐと言っても過言ではない。
だがあくまで道具は誰にでも使え、そして簡単に手に入るものでなくてはならない。
経済性、量産性、普遍性、まで含んだ上での考察は、なかなか奥が深いものがあった。
「いやいや待ってくれ。
常温で保存でき、保存も簡単。
何より手軽だ。
これは一考の余地があると思うね」
「そもそも火をおこすだけよりは、もっと目的を持った道具の方が良いわ。
……私が作ってみたいのは、これね」
「ふむ、コンロか……」
パチュリーは、広げたカタログを指さした。
霖之助が持ってきた道具を資料に使うこともあれば、外の本を参考にすることもある。
重要なのは目的と用途だ。
どうせ作るのだから、使用方法は関係ない。
実に霖之助に合った議題だった。
「だが手軽さ、だけで考えるならこちらの電気ポットのほうがいいと考えるね。
いつでも熱湯を出せる。つまり常時火の属性を支配し続けると言うことだ。
魔法でもなかなか難しいかもしれないな」
「……紅茶をいつでも飲めるのは確かに良いけど。
味が落ちないかしら」
う~ん、と悩むパチュリーだったが興味はあるようだ。
コンロとポットを見比べる。
「でもやっぱり、用途が同じだとしても使用目的が異なる場合が多いわ。
どっちもあると便利なのは確かよ。
コンロでもお湯は沸かせるでしょうけど、手軽さには欠けるわね」
「それなら……」
霖之助はカタログに載っているコンロとポットに赤ペンで丸をつけた。
「両方作ればいい」
「そうね」
「あれ、パチュリー様。それに香霖堂さん」
頷くふたりに、遠くから声がかかった。
本の整理をしていたらしい小悪魔は、小走りに駆け寄ってくる。
「ああ、お邪魔しているよ」
「呼んでくださればよかったのに。
パチュリー様、すぐにお茶を用意しますね」
挨拶もそこそこに、彼女は姿を消した。
今頃急いでカップを用意しているのだろう。
「……いろいろと構いたがるから黙ってたんだけど。
だから香霖堂でやりましょうって言ったのに」
「いやしかし、参考になる魔導書はこちらのほうが多いからね。
それに親切でやってくれるんだ。ありがたいじゃないか」
「でもあの子、勘違いが多いから……」
作りたいと思っても、難易度が高くては意味がない。
何より量産が出来ることが重要だった。
一品ものでは商品にならないのだから。
知的欲求が満たせて商品が増えれば、もう何も言うことがないではないか。
「……まあいいわ。
それで、コンロだけど。
置くとしたらここね」
「ほう、つまりそこがキッチンだね。
だとすると……風水的にはここに水があるといいな」
ふたりがノートに書いているのは、家の間取りだった。
最終目標は、自分たちで作った道具だけで生活するという思考実験である。
そうすれば何が必要か把握でき、つまり作るべき道具が決まってくる。
部屋の間取りは、外の世界の本を参考にしていた。
夢の3LDKという見出しが、いかにも幻想郷にぴったりだと思ったのだ。
3LDK、つまり3つ部屋があり、居間、食堂、台所を備えていると言うことである。
参考にした資料が男女で住むことを前提としていたため、霖之助とパチュリーで考えているのだが……。
「やっぱり狭いわね」
「紅魔館と比べたらどこでも狭いだろう?」
「そうだけど……」
最適化は魔法使いの基本。
限られたものを最大限使ってこそ。
……のはずなのだが。
「一部屋しかないんじゃ、ここを寝室にするしかないと思うの」
3つある部屋に、書斎がふたつ。
これは既に決定事項だった。
「ふむ。
……まあ、別に問題はないな」
「そうね」
あっさりと頷くふたり。
そこでふと、パチュリーが顔を上げる。
「それにしても遅いわね、小悪魔……」
「……そういえば」
もうお茶を入れに行って結構経つはずだが。
そう思っていたとき、恐る恐るといった様子で声が聞こえてきた。
「あ、あのう……。
お話は終わりました?」
「……何やってるのよ。そんなところで」
「いえ、邪魔しちゃ悪いかなと思いまして」
彼女は照れたように笑うと、いそいそとお茶の準備をし始めた。
持ってきたのはアイスティーのようだったが、氷がずいぶん溶けていた。
……もしかしたら、ずっと待っていたのかもしれない。
声が聞こえるような、すぐ近くで。
「あ、大丈夫ですよ。
おふたりは話を続けてください。
どうぞどうぞ、ぜひその先まで」
その先、というのがどこを指すのかわからなかったが。
「パチュリー様がどんな生活をするのか、私も興味ありますし。
あ、別に聞いてませんから安心していいですよ?
どうぞ話を続けてください」
夜の……と言いかけた小悪魔は、慌てて口をつぐんだ。
疑問符を浮かべるパチュリーが見えないのか、彼女は捲し立てる。
「そういえば鬼の人たちは大工の名人らしいですよ。
頼んでみたらどうです?」
「頼むって何をだい?」
「あれ? だって」
霖之助の疑問に、今度は逆に小悪魔は首を傾げた。
「おふたりの新居について、相談されてたんでしょう?」
ゆうまさんから小悪魔ネタを書いていただきました。
感謝感激。
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No title
絵の方のコメントなんだが、霖之助の服は着たままだと非常に寝にくいと思うんだが。
本文?……最高じゃないか!
本文?……最高じゃないか!
こあくまあっ!!!!!!!!
ナイスぅっ!!!!
パッチェさん可愛いよパッチェさん……by読む程度
ナイスぅっ!!!!
パッチェさん可愛いよパッチェさん……by読む程度
書き忘れwww
あああああああんっ!!!!もっとりんパチェぉぉおおおっ!!!!
りん慧もいいけどりんパチェもぉぉおおおっ!!!!
失礼しましたwwwo(_ _*)o
あああああああんっ!!!!もっとりんパチェぉぉおおおっ!!!!
りん慧もいいけどりんパチェもぉぉおおおっ!!!!
失礼しましたwwwo(_ _*)o