鵺の呼び声ぷち 01
今週はぬえ霖強化週間。
『鵺の呼び声』の続き。
霖之助 ぬえ
「脅かすのと怯えさせるのは違うものよ」
「でも私は驚いてくれても嬉しいよ?」
「それで毎回返り討ちに遭うのはナンセンスだわ」
ちっちっち、とぬえは指を振った。
今日もぬえは小傘の相談を受けていた。
彼女曰く、相談をするようになって何度か人を脅かすことに成功したらしいのだが……。
しかしそれは小傘に驚いたのではなく大声など他の要因に寄るところが大きい。
「驚いた人間は感情が揺れてるからね。
恥も手伝って逆上しやすいのよ。
……って霖之助が言ってた」
「あれ、さでずむじゃなかったの……」
「そういう人間もいるけど」
う~ん、とぬえは大きく伸びをする。
もうすっかり香霖堂にいるのも慣れた。
というか、いない日のほうが少ない気がする。
「その格好で人前に出たら違う意味で驚かれるかもね。そして心配されるわ」
ぬえの対面に座る小傘はぼろぼろの格好をしていた。
脅かしたはいいが、毎回スペルカードで吹き飛ばされているらしい。
それ見たことか、とぬえは思う。
そもそも人前に姿を現すこと自体があり得ないのだ。
見かねたので現在服と傘を修復している最中だった。
もちろん霖之助が。
「驚く? 本当?」
「たぶん、悪い意味でね」
少し離れたところに視線を向けると、霖之助が修復作業を行っているところが見える。
妙に楽しそうなのは、気のせいではないだろう。
「ふむ……。
これ自体にも意志があるのか?
妖夢の半霊みたいなものだろうか。
しかしむしろ本体は…………」
なにやら呟いていたが、内容に大して興味がないのでぬえは小傘に向き直る。
「あなたも妖怪なんだから、もっと近代的な驚かし方を考えるべきね」
「驚かし方? 教えて!」
「そうね、まずは……」
ぬえは最近のことを思い出してみた。
ちょうどいいサンプルが身近にいるのだから、これを活用しない手はない。
そのために普段からよく見ているのだから。
本当に。他意はなく。
「時間を止めていきなり現れるとか」
「止められないよぅ……」
「お金を払って商品を買っていくとか」
「……払うのが当然じゃないの?」
「何もない空間から上半身だけを出すとか」
「そんなこと出来ないよぅ……。
あ、でも首だけ出すとかはありかも……」
「そうそう、珍しい道具を持ってきたときとか驚いてたわね」
「そっかぁ~」
すっかり小傘は納得したようだ。
「なるほどぉ~。さすが師匠!」
「ふふん」
小傘に褒められ、なんでもない風を装うぬえだったが、小傘の言葉に羽根が小刻みに揺れていた。
「あ、そういえば」
「?」
思い出したように、ぬえが声を上げる。
……本命は最後にとって置くものだ。
「あの男、見ての通り極度の道具愛好家だからね。
下手に近づいちゃダメよ?
きっと全身を撫で回されて余すところ無く調べられるわ」
「ひぇぇぇ」
ふぇちずむ……と呟く小傘に、ぬえは満足げに頷く。
撫で回されているのは事実だから嘘は言ってない。
ただし唐傘のことだが。
「わかった? 私の許可無く近づいちゃダメだからね?」
「うん」
「気に入られちゃダメだからね?」
「うんうん」
「……盗っちゃダメ……だからね?」
「うん!」
頷く小傘に、ぬえはため息を吐いた。
――多分、いや間違いなくわかってないだろうけど。
「ずいぶん盛り上がっていたようだね」
小傘を見送り、霖之助は肩をほぐした。
ずっと作業をしていたため疲れたのだろう。
……作業自体はすぐ終わったようだったが、そのあとのチェックが長かった。
「妖怪としての怖がらせ方を教えてたからね」
「そうか」
そういえば、せっかく傘を直したというのに、渡す際妙に小傘がビクビクしていたのが霖之助には気になった。
……きっと人間の逆襲に遭ってトラウマになったのだろう。かわいそうなことだ。
「お疲れ、霖之助」
「君もね」
何かやり遂げたような顔をしているぬえに、霖之助は笑みを浮かべた。
心地よい疲労感を感じながら、台所へと向かう。
「じゃあ、お茶を入れてこよう。
なにがいいかい?」
「ジーザスブレンドで。
お茶菓子は……私が用意するわ」
「正体不明の、かい?」
「もちろん!」
霖之助の言葉に、ぬえは元気よく頷く。
この場合正体不明というのは、品物のことではなく……。
ぬえが適当に作った料理のことだった。
『鵺の呼び声』の続き。
霖之助 ぬえ
「脅かすのと怯えさせるのは違うものよ」
「でも私は驚いてくれても嬉しいよ?」
「それで毎回返り討ちに遭うのはナンセンスだわ」
ちっちっち、とぬえは指を振った。
今日もぬえは小傘の相談を受けていた。
彼女曰く、相談をするようになって何度か人を脅かすことに成功したらしいのだが……。
しかしそれは小傘に驚いたのではなく大声など他の要因に寄るところが大きい。
「驚いた人間は感情が揺れてるからね。
恥も手伝って逆上しやすいのよ。
……って霖之助が言ってた」
「あれ、さでずむじゃなかったの……」
「そういう人間もいるけど」
う~ん、とぬえは大きく伸びをする。
もうすっかり香霖堂にいるのも慣れた。
というか、いない日のほうが少ない気がする。
「その格好で人前に出たら違う意味で驚かれるかもね。そして心配されるわ」
ぬえの対面に座る小傘はぼろぼろの格好をしていた。
脅かしたはいいが、毎回スペルカードで吹き飛ばされているらしい。
それ見たことか、とぬえは思う。
そもそも人前に姿を現すこと自体があり得ないのだ。
見かねたので現在服と傘を修復している最中だった。
もちろん霖之助が。
「驚く? 本当?」
「たぶん、悪い意味でね」
少し離れたところに視線を向けると、霖之助が修復作業を行っているところが見える。
妙に楽しそうなのは、気のせいではないだろう。
「ふむ……。
これ自体にも意志があるのか?
妖夢の半霊みたいなものだろうか。
しかしむしろ本体は…………」
なにやら呟いていたが、内容に大して興味がないのでぬえは小傘に向き直る。
「あなたも妖怪なんだから、もっと近代的な驚かし方を考えるべきね」
「驚かし方? 教えて!」
「そうね、まずは……」
ぬえは最近のことを思い出してみた。
ちょうどいいサンプルが身近にいるのだから、これを活用しない手はない。
そのために普段からよく見ているのだから。
本当に。他意はなく。
「時間を止めていきなり現れるとか」
「止められないよぅ……」
「お金を払って商品を買っていくとか」
「……払うのが当然じゃないの?」
「何もない空間から上半身だけを出すとか」
「そんなこと出来ないよぅ……。
あ、でも首だけ出すとかはありかも……」
「そうそう、珍しい道具を持ってきたときとか驚いてたわね」
「そっかぁ~」
すっかり小傘は納得したようだ。
「なるほどぉ~。さすが師匠!」
「ふふん」
小傘に褒められ、なんでもない風を装うぬえだったが、小傘の言葉に羽根が小刻みに揺れていた。
「あ、そういえば」
「?」
思い出したように、ぬえが声を上げる。
……本命は最後にとって置くものだ。
「あの男、見ての通り極度の道具愛好家だからね。
下手に近づいちゃダメよ?
きっと全身を撫で回されて余すところ無く調べられるわ」
「ひぇぇぇ」
ふぇちずむ……と呟く小傘に、ぬえは満足げに頷く。
撫で回されているのは事実だから嘘は言ってない。
ただし唐傘のことだが。
「わかった? 私の許可無く近づいちゃダメだからね?」
「うん」
「気に入られちゃダメだからね?」
「うんうん」
「……盗っちゃダメ……だからね?」
「うん!」
頷く小傘に、ぬえはため息を吐いた。
――多分、いや間違いなくわかってないだろうけど。
「ずいぶん盛り上がっていたようだね」
小傘を見送り、霖之助は肩をほぐした。
ずっと作業をしていたため疲れたのだろう。
……作業自体はすぐ終わったようだったが、そのあとのチェックが長かった。
「妖怪としての怖がらせ方を教えてたからね」
「そうか」
そういえば、せっかく傘を直したというのに、渡す際妙に小傘がビクビクしていたのが霖之助には気になった。
……きっと人間の逆襲に遭ってトラウマになったのだろう。かわいそうなことだ。
「お疲れ、霖之助」
「君もね」
何かやり遂げたような顔をしているぬえに、霖之助は笑みを浮かべた。
心地よい疲労感を感じながら、台所へと向かう。
「じゃあ、お茶を入れてこよう。
なにがいいかい?」
「ジーザスブレンドで。
お茶菓子は……私が用意するわ」
「正体不明の、かい?」
「もちろん!」
霖之助の言葉に、ぬえは元気よく頷く。
この場合正体不明というのは、品物のことではなく……。
ぬえが適当に作った料理のことだった。