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酉京都幻想 第8.8話

今回はクリスマスの話です。
すっかり春ですが気にしない方向で!


霖之助 蓮子 メリー









 星明かりを遮るように、派手に飾られたイルミネーションが光を放つ。
 交通の要、京都駅周辺はクリスマスムード一色に染まっていた。

 今年も残すところ1週間。
 年末から新年にかけて行事が目白押しのせいか、往来を歩く人々はどこか忙しない印象を受ける。
 霖之助はそんな街の様子を眺めながら、感心したように口を開いた。


「信仰心が薄いという割に、なかなかどうして大したものじゃないか」
「ええ、実際すごいエネルギーだとは思うわ。でも残念、信仰とはなんの関係もないわよ」
「そうなのかい?」


 思わぬ否定を受け、霖之助は隣を歩く少女に振り返った。
 周囲とは対照的にあくまでいつものペースで歩くのは、マエリベリー・ハーン……妖怪の賢者のこちら側の姿だ。

 彼女は苦笑を浮かべ、どこからともなく取り出した扇で口元を隠す。
 それからすっと目を細めると、閉じた扇で道路脇のイルミネーションを指し示した。


「クリスマスの飾り付けがされているのは、単にセールスポイントのひとつってだけ。
 明確な共通認識を持たせることによって客を呼ぼうって魂胆ね。
 当の客も安くなってるってわかってるから、普段より店に足を運んでみようって意識が働くわ。
 これらはもはや、宗教儀式ではなくただのイベントなのよ」
「そういうものか」
「そういうものね。気になるなら寄ってみてもいいけど」
「いや、いいよ」


 肩を竦め、首を振る。
 どのみち霖之助はその宗教に詳しいわけではないし。
 それに、あまり時間に余裕があるわけでもない。

 改めて、周囲を取り巻くお祭り騒ぎに視線を向ける。
 こうなることを望んだのは店と客、どちらなのだろうか。


「要するに贈り物をする口実になればいいということか。お歳暮とどう違うのやら」
「むしろお歳暮の習慣があったからすんなり根付いた、というのはどうかしら?」
「ふむ、じゃあお中元にも別のイベントをくっつければ商売になるかもしれないな」
「あらあら、何か悪巧みでもしてそうな顔ね」


 メリーは霖之助の顔を見上げ、楽しそうに笑う。
 よそ見をしても歩調に淀みがないのは、さすがだと言うべきだろうか。


「あと、バレンタインデーとかも似たようなイベントかしらね。
 こっちも元は海外の宗教関連で、この国じゃチョコレートを贈るイベントになってるんだけど……そうなったのはチョコレート業界の陰謀だ、なんて説もあるわ」
「はっきりしないのかい?」
「うーん、きっかけなんて何でもよかったんじゃないかしらね。
 更に言うと、そのお返しをするためのホワイトデーなんてお菓子屋さんだか菓子組合だかが考案したのが始まりだって言うのよ。
 それが今じゃすっかり馴染んでるんだから大したものよね」
「そうなのか。それは何とも……商魂逞しい話だな。土用の丑の日みたいなものか」


 暑い時期に鰻を食べる丑の日。
 あの話も、確か元は鰻を売るために考案されたはずだ。

 ……今度、当時を知る妖怪に話を聞いてみるのもいいかもしれない。


「商人としては、羨ましいかしら?」
「いいや、僕は由来を大事にするべきだと考えているからね。真似しようとは思わないよ」


 からかうような紫の視線を、澄まし顔で避ける。
 すると彼女は何とも言えない表情で、ゆっくりと首を振る。


「……その言葉、感心するべきか負け惜しみと取るか悩ましいわね」
「そこはそれ、好きにとってもらって構わないよ」
「そんなこと言って、あっちに帰ったら嬉々として売り出すつもりだったりして」
「さて、どうだろうね。少なくとも僕は、そういうことも含めて勉強しにこっちに来たわけだし……」
「まったく、調子いいんだから」


 そんなやりとりをしながら、二人は駅構内へと足を踏み入れた。
 中央改札前は地下から吹き抜けとなっており、お土産屋も並ぶその区画は多くの人で賑わっている。
 人の流れを邪魔しないよう歩いて行くと、横手から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「霖之助君、こっちこっち」


 声に導かれて振り向くと、黒髪の少女……蓮子が手を振っていた。
 買い物帰りらしく、荷物を手に取ると二人に向かって歩いてくる。


「ごめんね蓮子、待った?」
「私が到着したのが18時24分17秒だから、今の時間から差しい引いて待機時間は21分38秒かな」


 空を見上げて、彼女は笑う。
 これはなんと言うか……新手の嫌がらせだろうか。


「……蓮子、わざとやってるでしょう」
「えへへ。でも嘘は言ってないよ」
「余計に反応に困るね、それは」


 クリスマスといえ、今日は平日である。
 霖之助とメリーは先ほどまで講義があったので、午後からフリーだった蓮子と京都駅で待ち合わせ、ということになっていた。
 出かけがてら、実家までの切符を買いに来たらしい。

 ここで待ち合わせをするとかえって遠回りになるのだが、彼女の希望でこうなったのだ。


「だから現地集合にしましょうって言ったのに」
「いいじゃない、私はここで待ちたかったんだから。じゃ、いこっか」
「そうだね。荷物は僕が持つよ」
「そう? ありがとう」


 霖之助は手提げ袋を受け取り、今度は3人並んで歩き出す。

 蓮子の発案で、今日はささやかなパーティを開くことになっていた。
 彼女の荷物はそのためのものだろう。
 そして3人で食材を買いに行くのが、これからの予定である。


「でもこんな日にまで講義入れなくていいのにね」
「こんな日だからこそ入れてるのかもしれないわよ」
「それはないと信じたいが……教授次第だろうね」
「まあねえ。けど、時間割なんて一年の最初から決まってるものだし……選択した人の責任かしら」
「じゃあやっぱり私が待ちぼうけしたのはメリーと霖之助君のせいってこと?」
「蓮子の場合は自業自得よ」
「あ、ひどーい!」


 七条から四条方面へ。
 かしましいやりとりに苦笑を浮かべながら、霖之助は肩を竦めた。


「僕が見た限り、休講もけっこうあったみたいだよ。自主休講も多かったようだけど」
「なるほど、空気を読む教授も多かったってことね」
「というか、年末だからでしょう。遠方からの学生も多いわけだし……」
「ふむ、すると人によっては早めの里帰りをするのかな」
「そんなところでしょうね」


 頷くメリーに、蓮子は顔を上げる。


「霖之助君は」


 そこまで言って……そして彼女は口を噤んだ。
 それから思い直したように、もう一度微笑みを浮かべる。


「霖之助君は……どこにも行かないんだよね?」
「ん? ああ。冬休みは家で試験対策をするつもりだよ」
「そ、そうなんだ。真面目だなあ」


 どことなく、不自然な笑い声。
 だが霖之助はあえて気にしないことにした。

 ……彼女が何を言いたいのか、わかってしまったから。


「…………」


 かすかに、メリーのため息が聞こえてきた。
 どんな顔をしているのかは、わからなかったが。


「ところで蓮子はクリスチャンなのかい?」


 話題を変えようと、霖之助は蓮子に質問を投げかける。
 しかし。


「え? 違うけど、なんで?」
「なんで、と言われても……」


 逆に問い返され、今度は霖之助が答えに困ってしまった。
 彼女はというと、本気で心当たりがないらしいようできょとんとした表情を浮かべている。


「だってクリスマスパーティをやろうって言い出したのは蓮子じゃないか」
「別にクリスチャンじゃなくてもやるでしょ、パーティくらい。だってせっかくのお祭りなんだもの」
「それはそうだけど、宗教行事にも歴史ってものがだね」


 そこまで言うと、蓮子はことりと首を傾げた。
 往来を飾るイルミネーションを眺めながら、ため息ひとつ。


「ん~、この国じゃ私の生まれるずっと前からこんな感じらしいし、ある意味伝統的だと思うよ」
「伝統的の使い方が間違ってる気もするんだが」
「いいじゃない、郷には入れば郷に従えってやつよ」
「やれやれ、それでいいのかね」
「あら、蓮子の言うことも間違ってないわよ。きっとね」


 可笑しそうに、メリーは笑っていた。
 こっちの彼女にとっても、すでにこういった宗教観は慣れたもの、なのだろう。


「霖之助君の田舎は信心深いんだね」
「信心深い、と言っていいのか微妙なところだけど」


 まさかその辺に神がいる、とはとても言えず。
 曖昧に誤魔化していると、今度は蓮子の瞳がメリーを捉えたようだ。


「メリーの田舎はどうなの?」
「うちは霖之助さんと同じ感じよ」
「ふーん、やっぱり親戚だから同じ土地柄なんだねえ」
「ああ……そう、だね」


 そういえばそんな設定だったことを思い出した。


「霖之助さんったらそういうの調べるのが昔から好きだったのよね」
「霖之助君って、やっぱり昔から性格こうだったの?」
「そうねえ。でも前はもっとものぐさだったわよ。興味のあることしか動かないし、人が尋ねてきても相手しないし」
「ほんとに? じゃあちょっとは真人間になったんだ」
「さあ、それはどうかしら」


 下手な受け答えをするとボロが出そうだったので、蓮子の相手をメリーに任せておくことにする。

 ……そのせいでありもしない設定がまた作られている気がするのだが。
 そもそも興味があるからこっちの世界に来たのであって、こっちでもぐうたらしていたらもったいないではないか。


「あら、ぐうたらしていたことは認めるのね」
「……人の頭の中を覗かないでくれないか、メリー」


 そんなやりとりをしていたせいだろうか。
 目的の百貨店が見えた時は地獄に仏を見た気がした。

 ……ということを考えていたら、またメリーに睨まれたわけだが。


「お肉に野菜、それからしらたきー」
「走ると危ないよ、蓮子」
「わかってるよ、子供じゃないんだから」


 早速買い物かごを持ち、食品売り場に直行する蓮子はどこからどう見ても子供だった。
 霖之助はメリーと顔を見合わせ、それから彼女の後を追う。


「で、鍋とすき焼きはどっちにするんだったかな?」
「私はすき焼きがいい」
「関東風かしら、関西風かしら」
「えーと、霖之助君が得意な方?」


 そしていつの間にか、調理担当が決定していたようだ。
 霖之助は豆腐と野菜と調味料を自分のかごに入れつつ、苦笑を漏らす。

 どうせ彼女のかごには肉と卵しか入っていないのだろう。
 あとはジュース、だろうか。


「ねえメリー、シャンパンとシャンメリーってどっちがいい?」
「お酒は大人になってからよ、蓮子」
「え、私はどう見ても大人でしょ?」
「……うん?」


 ドリンクコーナーでの蓮子の主張に、首を傾げ。
 そしてラベルを眺めながら、彼女は言った。


「そういえば気になってたんだけど」
「何かしら」
「メリークリスマスのメリーと、メリーのメリーって何か関係あるの?」
「え?」
「え?」


 顔を見合わせる、蓮子とメリー。


「蓮子、私の名前って覚えてるわよね」
「もちろん、いつも呼んでるじゃない」
「そ、そうよね」
「メリーでしょ?」
「蓮子、もしかして……いえ、いいわ」


 メリーは問いかけ……それ以上は聞かないことにしたらしい。
 それから達観したように、彼女はぽつりと漏らす。


「この辺で教授が登場してくれればいいんだけど」
「しかしだね、そうそう都合良くは……」
「あ、教授ならあとでうちに来るってメールがあったよ。だから料理は5人分だね」


 シャンパンとシャンメリーの両方をかごに入れつつ、蓮子は振り返った。


「自分に都合のいい登場であることは、間違いなさそうだな」
「何言ってるの霖之助君。あの教授だよ、わかってたことじゃない」
「それにしても蓮子、5人分にしてはずいぶん買うのね」
「なんとも豪勢なパーティになりそうだよ」
「うん、たまには教授に感謝しないとね。あ、ちゃんとレシート貰っておかないと」


 その言葉で、何となく察することが出来た。
 きっと丸々教授に請求する腹づもりなのだろう。

 ……どうしてこう、自分の周りの女性はしたたかなのだろうか。
 ふと霖之助は疑問を抱き……今更過ぎると割り切り、考えるのをやめた。


「しかしパーティとはいえ、うちでよかったのかい? 外食でもするって手もあったろうに」
「ん、うちだからいいのよ」
「ふむ? 外に行くより、ってことかな」
「当然じゃない、何言ってるの」


 当然のように、蓮子は言った。


「霖之助さん、郷に従えば郷に従えって、さっき蓮子が言ってたでしょ?」
「あ、ああ」


 当然のように、メリーも笑う。


「待ち合わせも、買い物も、準備だって正しいクリスマスの過ごし方なんだよ。
 だって……」


 仕方ないから教授もカウントしてあげるけどね、と言いながら。
 蓮子とメリーは、霖之助の腕に手を回すのだった。


「クリスマスは家族とか……大切な人と過ごすんだから、ね」

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No title

五人は一体どんな聖夜を送ることやら
毎度のように蓮子と教授が喧嘩(?)して、それを他の三人が眺めるのでしょうね

精夜になる気が全くしないあたり、流石霖之助さんだと言わざるをえないけれどもw

No title

親友に名前緒を覚えてもらえていないメリーが憐れすぎて仕方ないですな。
もっとも駅まで霖之助と恋人っぽい雰囲気醸し出していたのでチャラになるんじゃないですかね(笑)

No title

……どうしてこう、自分の周りの女性はしたたかなのだろうか。
 ふと霖之助は疑問を抱き……今更過ぎると割り切り、考えるのをやめた。

考えることは悪くないんだけど、これはね……。うん、僕も考えません
そういえば珍しくメリーが良い雰囲気に!
ああ、クリスマス補正か。メリークリスマスだからですね!←おい

No title

そういえばクリスマスってそうでしたよね。(家族や大切な人と一緒に過ごす)
紫さん、もう霖之助さんを家族として・・・(2828)

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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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