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おかしなくびわ

りーくーさんのSSを読んでハロウィンを思い出したのでひとつ。
咲夜さんは茶目っ気たっぷりのイタズラをしてくれると思います。

バーンナッコォくるみさんにイメージイラストを描いていただきました。
感謝感謝!


霖之助 咲夜








 10月31日はハロウィンである。
 西洋に起源を有するそれは、今年幻想郷で大きな賑わいをみせた。
 元が収穫祭らしく発起人となったのは秋神の姉妹だ。
 山の神社を見習い人間からも妖怪からも信仰を集めることにしたらしい。

 その意味ではハロウィンは相性がいい催し物だったと言えるだろう。
 彼女たちは人里の大通りを丸々使って大きな祭りに仕立て上げた。
 そして人間は妖怪の仮装をして、妖怪は思い思いの格好で、それぞれ好きに練り歩く。
 いわゆる全員参加型の百鬼夜行にしてしまったというわけだ。

 それに少女が強い幻想郷らしく、カボチャのスイーツを振る舞っていたのも効果が大きい。
 大通りの端と端に二つの広場を設け、そこで今年収穫された野菜を使った様々な料理が祭りの参加者に振る舞われる、と言った寸法だ。
 もちろん男性や甘い物が苦手な人のために、普通の料理も用意してあった。


 それほどの集団を先導しているともなれば、秋姉妹に対する信仰はまさにうなぎ登りである。
 しかし発起人が秋神ということで、各宗派の代表は静観することにしたらしい。
 どうせすぐに冬が来ることもあるし……食物関係の祝いでいざこざを起こすのもかえってマイナスになると踏んだようだ。

 かくして誰もが一参加者として楽しみ、祭りは大盛況のうちに終了。
 来年の開催を期待されつつ、秋神達は山の麓へと去って行った。
 おそらく冬ごもりの支度を始めるのだろう。


「美味いな、これ」


 夜の香霖堂で、霖之助はお礼にと貰った料理に舌鼓を打っていた。
 秋姉妹を見送ったのがつい先ほどのこと。これはその二人から貰ったものだ。

 直接参加こそしてないものの、ネタを仕入れたり企画の相談に乗ったり裏方の業務をいろいろとこなしていた。
 そのお礼にと、今日の祭りで振る舞われたかぼちゃ料理を持ってきて貰ったのである。

 ……と、そんな折。


「trick or treat?」
「間に合っているよ、咲夜」


 突然目の前に現れた少女に、霖之助はため息をついた。
 そのままゆっくりとお猪口を傾け、それから再度ため息を吐き出す。


「つれない返事ですね、店主さん」
「あいにくともう営業時間外でね、サービスタイムは終了したのさ。
 ……君に時間の概念を説いても意味が無いかもしれないけどね、咲夜」
「あら、サービスタイムがあったなんて驚きです」


 咲夜は霖之助の言葉に首を傾げ、それからにっこりと笑ってみせる。


「営業時間中だったらお菓子をいただけたのかしら」
「残念ながら、用意はしていなかったけどね。そもそも、今年のハロウィンはそういう趣向と違ったはずだが」
「私は本格志向ですから」


 人里で行われたハロウィンは、あくまで祭に特化したイベントになっていた。
 つまり、会場を大通りに限定したということだ。
 いかに幻想郷といえど、夜中妖怪が家を尋ねてくるのは抵抗があるのだろう。

 しかしそんな言葉は、彼女には通じないらしく。


「店主さんこそ、店先にかぼちゃを置いておくだなんて、ようこそいらっしゃいと言っているようなものですよ」
「ジャック・オー・ランタンは魔除けのはずなんだがね」
「ご心配なく、紅魔館でも今日はかぼちゃのデザートでしたわ」
「僕は別の意味で心配だよ」


 天然気味のある彼女と話していると、会話がどこかへ飛んでしまうことがよくあるから困る。
 霖之助はため息をつきながら、肩を竦めてみせた。


「片付けなかったのは僕のミスだが、ハロウィンはもう終了したと思っていたよ」
「日付が変わるまでがハロウィンですわ」
「家に帰るまで、じゃないのかい」


 もちろん、と頷く咲夜に、霖之助は苦笑を浮かべる。


「まったく、すでにイタズラされた気分だよ」
「これくらいで驚かれていては、私は満足できませんわ」
「どこかの唐傘お化けが聞いたらショックを受けそうな言葉だね。
 だいたい、君はうちにイタズラしに来たのかい?」
「それもいいですね。では trick or trick?」
「同じじゃないか、それは」


 せめて選択肢は欲しいものだと首を振りながら、霖之助は咲夜に席を勧めた。
 それから来客用の湯飲みを準備しつつ、かねてからの疑問を口に出す。


「で、今日の目的は何かな?」
「ですから、ハロウィンをしに」
「そんなことでわざわざ?」
「もちろんですよ、わんわん」
「似合ってはいるけどね……猫じゃないのかな、その仮装は」
「にゃん?」


 よく見ると彼女の頭にあるねこみみが動いている気がするのだが。
 ……まああの館には魔女もいることだし、何があっても不思議ではない。


「しかしさっきも言ったように、あいにくお菓子の準備はしてないんだ。煎餅も霊夢に持って行かれてしまってね」
「ご安心ください。最初からお菓子に期待していませんでしたから」
「さっき自分から要求したじゃないか」
「ですからいたずらをしに来たのですわ」


 彼女は澄まし顔でそう言うと、まるでおまけというように言葉を付け加える。


「最近寒くなってきましたので、小物系の防寒具を少々揃えようかと思いまして」
「ふむ、もう冬だからね。しかし去年もいろいろと買っていってくれたじゃないか」
「お嬢様はファッションリーダーでありますから、去年の流行はもう着ていられないそうですわ」
「流行っているところを見たことがないが、買ってくれるのは歓迎だよ。ところで去年の服はどうするんだい?」
「10年くらいしたらリバイバルブームが来ると思います」
「まあ、君たち妖怪なら体型も変わらないだろうけどね」


 和服なら人里に職人もいるのだが、洋服、なおかつ外の世界のものというと入手できる選択肢は限られてくる。
 紅魔館が外の世界の品を扱う香霖堂の上客なのは、ある意味当然の流れだった、


「しかし小物だけでいいのかい? コートとかもあるにはあるが……まあ持ち帰るのが大変かな」
「そこはご心配なく。紅魔館はパチュリー様の魔法でいつでも適温に保たれてますから、必要なのは外に出る時にちょっと身につける程度のものなのです。
 他のものは、また必要な時に」
「了解したよ。じゃあちょっと待っていてくれ」


 ちょうど月末かつ季節の変わり目で、商品を入れ替えようとしていたところが幸いした。
 まだ商品棚に並べてはいなかったものの、暖房器具や冬服をまとめて倉庫から持ってきていたのだ。

 霖之助は防寒具の入った衣装ケースを開きながら、なにやら楽しそうに微笑んでいる咲夜へ声をかけた。


「ところで今日は人里は賑やかだったみたいだけど、君たちは参加したのかい?」
「もちろんです。お祭りを黙って見逃すほど、お嬢様は忙しくありませんから」
「大変なのはメイドだけ、か。で、君の格好はその名残なのかな」
「見ての通り、ですわ」
「わかりにくいから聞いてるんだよ。君なら素でやりかねないからね……」


 髪の色と同じねこみみがすっかり馴染んでいるから不思議だ。
 長く伸びた尻尾も自然に動いており……おそらくパチュリーの作った魔法道具だと推測できる。

 霖之助の目を通して見ても、耳と尻尾としか名称が名付けられていないのはどうかと思うが。


「ということは、他の面々も仮装をしていたのかい?」
「はい。お嬢様は妖精の格好で、美鈴は御札を額に貼ってましたね。
 パチュリー様はいつも通り図書館においででしたけど」
「ほう? レミリアならそのままの格好で大丈夫だと思っていたが」
「吸血鬼が吸血鬼の格好をしても特に面白くは無いでしょう?」
「確かにそうだが」


 なんにせよ、ハロウィンを全力で楽しんでいるようでなによりである。


「店主さんも参加すればよろしかったですのに」
「僕も加勢はしたよ、裏方の方でね」
「見ているだけで十分、と言う場面ですわよここは」
「そう言ったら来年は君に拉致されそうだ」


 しかし話を聞いていると、なかなか楽しいイベントだったらしい。
 確かに見に行くのも悪くないと思える。機会があれば、だが。


「でも、今度はぜひ一緒に行きましょうね」
「考えておくよ」
「ではぜひ前向きに」
「まあ、ね」


 霖之助の考えを読んだかのように、咲夜が笑顔を浮かべた。
 頷きつつ、カウンターの上に様々な商品を並べてみせる。


「さて、こんな感じで集めてみたんだが……今回の目玉商品はこれだ」
「……なんか妖気を感じますけど」
「実はこのマフラー、狐と狸の毛が使われていてね。編まれてもこうしてケンカしているから、勝手に熱くなるという」
「遠慮しておきます。勝手に締まっていきそうですし……面白そうですけど」


 咲夜は困ったように首を振った。
 まるで呪いのアイテムですわ、と言っていたが……実際にそうなのだろう。
 かくいう霖之助自身、首に巻いてみる勇気は無い。


「それはともかく……最近は外の世界の技術の進歩で、熱を逃がさないようにする布とかもあるみたいだよ。
 インナーウェアとかによく使われるみたいだね」
「そういうものがあるのですか」
「ああ。残念ながらその素材のマフラーとかは入荷していないんだけど」
「残念です」


 咲夜が肩を落とすと、頭の上の耳がぺたんと垂れた。
 ……無駄にすごい技術である。


「インナーだと簡単に脱ぎ着できるわけじゃないから、暖かいお屋敷には向かないかな。
 人里向けには結構売れてるんだよ」
「なるほど。里にはあまりしっかりした暖房器具はなさそうですしね。どこかのお店が独占してしまっているせいで」
「燃料の供給が不安定なものを責任なく売り出すわけにも行かなくてね」


 霖之助は素知らぬ顔を浮かべつつ、視線を逸らす。
 咲夜は呆れたような吐息とともに、ひとつ疑問を浮かべて見せた。


「人里では和服の人を多く見ますが、洋服のほうがいろいろと楽じゃないでしょうか」
「そうでもないよ。体型に合わせて融通が利くと言う点もあるし……。
 ただまあ、和服を着ていてもブーツとかを買いに来る客も最近は増えてきたね」
「おしゃれの基本は足下から、ですから」
「なるほどね」


 男性と女性では目の行く場所が違うらしい。
 その辺を理解すると新たな商売が出来そうではあるが……。

 いつか女性店員を雇ったら考えようと思い、霖之助は頷くだけに留めておいた。


「ではこれをいただきますわ」
「毎度あり。今後ともよろしく頼むよ」
「そこは店主さんの努力次第ですね」
「無論、鋭意努力中さ」


 咲夜の選んだ商品を梱包しつつ、霖之助は自信たっぷりに答えてみせる。
 彼女は苦笑を漏らし……ふと、思い出したように顔を上げた。


「あともうひとつ、欲しいものがあるんですけど」
「なにかな?」
「店主さんとお揃いの首輪をくださいな」
「それは防寒具かい?」
「はい。同じものを身につけているだけで、心と体が温かくなるのですよ」


 にこやかに、彼女はそう言った。
 霖之助は言葉を選びながら咲夜の顔を見……困ったように肩を竦める。


「そもそも僕が身につけているのは首輪じゃなくてチョーカーであってね」
「あら、そうですか?」


 そう言って、彼女は首を傾げてみせる。


「ね? お揃いでしょう?」


 イタズラっぽく咲夜は笑う。
 いつの間にか、彼女の首には首輪が嵌められていた。

 違和感を覚えたのは一瞬のこと。すぐに霖之助は自分に何が起こったのか把握した。
 自分の首に、咲夜と同じタイプの首輪がかけられていることに。


「咲――」


 文句を言おうとし……霖之助は言葉を失った。
 文句を言えなかったのは、相手の顔がすぐ近くにあったからだ。


にゃんころ。


 trick。
 そう彼女は霖之助の腕の中で呟き。

 次の瞬間にはもう、咲夜の姿は見えなくなっていた。
 カウンターから商品がなくなっているとこを見ると、帰ったのだろう。


「やれやれ」


 代わりに置いてあった代金を納めつつ。
 霖之助は疲れたようにため息をついた。

 ……本当に、彼女はイタズラしに来ただけなのかもしれない。


「またのお越しを」


 腕に残る彼女の体温を感じながら。
 霖之助はそんなことを呟くのだった。

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首輪咲夜さん良いですね。
お揃いの首輪で可愛いです。

No title

悪魔の犬なのに猫の仮装とはこれいかに。
だがしかし、可愛いので何も問題はありませんね!

「はい。同じものを身につけているだけで、心と体が温かくなるのですよ」
という咲夜のさりげなくも大胆な台詞にときめきを覚えました。パンプキンパイより甘い!

ところで、狐と狸の毛で編んだマフラーとはまさか……
ハロウィンの正確な日にちって忘れちゃいますよねw

No title

くそ、相変わらず道草さんの咲夜さんは天然可愛いぜ
ところでお家に帰ってから自室であまりの羞恥心にベッドの上で手足ばたばたする咲夜さんはまだですか?

それにしても、藍さまとマミゾウさんの毛で編まれたマフラーとか、勝手に首が絞まるのさえ御褒美に感じるレベルの代物ですな。一本欲しいですw

悪魔の前では犬でも、霖之助の前では猫になる。

ところでこれは狐と狸のマフラーをめぐって狐と狸が衝突するフラグと見てよろしいのですか?

No title

咲夜さんキタ━(゚∀゚)━!ww
こんなイタズラを私もされたいですね~
私は今でも咲夜さんは天然なのを祈っています!w

No title

クラックシュゥ。ライジングタッコォ。パゥワァァァ、ゲイザッ。

No title

普段チョーカーをしているだけあって、首輪をしていても全然違和感ないですね霖之助(笑)
銀髪・メガネ・首輪と要素満載ですからこの姿をネタに霖之助受けのハードな同人誌とか描かれそうですねwww

それにしても、お得意様に何呪いのアイテムっぽいものを売りつけようとしているんですか。
こりゃ狐と狸に来てもらってお仕置きして貰わなくてはいけませんな(笑)

No title

畜生www咲霖で2828できると思ってたら狐と狸のマフラーに持ってかれたwww

次は寅の毛皮も参戦ですね、分かりまs(宝塔レーザー
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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