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鬼々迫る 第4話

『鬼々迫る 第3話』の続き。

そういえば今月華扇ちゃん漫画の続きが出ますね。
そして来月は例大祭でごわす。


霖之助 華扇








 にぎにぎ。
 にぎにぎ。


「あの」
「ん?」


 華扇の言葉に、霖之助は視線を上げることなく返事を返す、
 目はずっと自らの手元に注がれていた。


「貴方が私の義手を作ってくれたことには感謝してます」
「うん」
「それで、メンテナンスや研究のためチェックの必要があることもわかってます」
「うん」


 にぎにぎ。
 にぎにぎ。

 彼女の言葉にも生返事。
 華扇は大きくため息をついて、肩を竦めた。


「わかってますが……その、手をあまり触られると少し恥ずかしいんですけど……」
「僕は特に気にならないがね」
「私が気になるんです!」
「メンテナンスや研究のためチェックが必要なんだよ」
「それ、さっき私が言ったセリフですよね」


 大したことではないと言わんばかりの彼に、華扇は唇を尖らせた。
 しかもこのやりとりの中でも、顔を上げることなく霖之助は華扇の右腕を調べ続けている。

 彼女はしばらく手持ちぶさたに香霖堂の店内を見渡し……それから改めて、口を開く。


「だいたい女性の一部分をねちっこく堪能するなんて……相手が私じゃなかったら地獄行きですよ?」
「そうは言ってもね。こっちは僕が作った義手だし」
「それはそうですけど……一応感覚は繋がってるんですよ。
 だからさっきから感触とか視線を感じて、その」
「そうか」


 そう言って、ようやく霖之助は華扇の右腕を解放した。
 だがすぐに間を置かず、次の研究対象……華扇の左腕へと手を伸ばす。


「……そっちは自前の腕なんですけど」
「だって、見比べないと研究にならないだろう?」
「さっき私が言ったこと、聞いてました?」
「もちろんだとも」
「…………」


 自信満々に頷く霖之助に、華扇は苦い顔。
 そんな彼女の様子もどこ吹く風に、霖之助はさらなる研究を開始した。


「しかし、盲点だったな……」


 ひとり、呟く。

 きっかけは先日の話だ。
 いろいろあって香霖堂で鬼3人と宴会になったのだが、その余興として萃香と勇儀は腕相撲を楽しんでいた。
 だが華扇は誘われたのにも関わらず右腕を気にして辞退。
 代わりに霖之助が参加させられるハメになり……いや、それはともかく。

 鬼と言えば力比べである。
 腕相撲も考慮に入れておくべきだったのだ。

 質感なら触ったくらいでは義手と見破れないという自負がある。
 だが強度はどうだろうか。

 実際問題、鬼たちの全力の腕相撲でこの義手が耐えられたかといえば、あまり自信がない。
 その問題の解決とは、人工的な鬼の腕の完成……つまり最強の武器を造ることにも他ならないわけで。


 にぎにぎ。
 にぎにぎ。


「……もういいです」


 思考の海に沈んでいく霖之助に、華扇は呆れたようにため息をついた。
 しばらくされるがままになり、無言の時間が過ぎる。

 やがて存分に堪能したのか、なにやらメモを取りつつ霖之助は顔を上げた。


「耐久度は今後の課題として。ところで何か他に欲しい機能はあるかい?」
「まさか、まだ改造する気なんですか?」
「だって当然だろう?」
「何が当然なのかさっぱりですけど」


 驚く華扇に、不思議そうな霖之助。


「不便さというのはその時その時、状況に応じて変わるものだよ。
 それは自己の変化だけに留まらず、周囲の環境、状況によるものも大きい。
 ある意味で完成することのないテーマともいえるね」
「ひょっとして私、面倒くさい注文をしちゃいました?」
「いいや、道具屋にとってはこの上なくいい挑戦状だったよ」
「いえ、そういう事ではなく……あひゃん!」
「済まない、気になることがあってね。もうすこしこっちに手を寄せてくれないかい?
 ……ああ、で、なんの話だったかな?」
「……いえ、別に」


 華扇は空いた片手で口元を押さえ、顔を赤くしていた。
 変な声がでたことが恥ずかしいらしい。

 彼女はそれを誤魔化すように、話題を変えようと言葉を探す。


「最近不便と感じるのは……急には思いつきませんけど……」


 そこまで言いかけ、ふと動きを止めた。


「あー……」
「なにかあったかい?」


 歯切れの悪い華扇に、霖之助も彼女の腕から手を離す。

 彼女は何かを言いかけ……それからじっと霖之助の顔を眺めた。


「謝るのに便利な機能、とかあったらいいかなと」
「……謝る?」


 華扇の言葉に、しかし彼は首を傾げる。


「もう仲直りは済んだんだろう? 萃香も勇儀も、楽しそうに飲んでたじゃないか」
「ええ、その件はおかげさまで……」
「まあ、この間の宴会はさすがに驚いたがね」
「先日はどうも、ご迷惑をおかけしました」


 深々と頭を下げる華扇に、霖之助は苦い顔。

 先日香霖堂で行われた酒宴は結局鬼たちのペースに巻き込まれ、翌日は二日酔いでロクに動くことも出来なかった。
 まあその時に強度等の疑問を抱けたのでむしろプラスではあったのだが。


「すみません、あのふたりは一度暴れ出すと手が付けられなくて。
 今度会ったらよく言っておきますから……」
「他人事のように言ってるが、君も一緒になって暴れてただろう?」
「いえ、それはその」


 ついっと視線を逸らす華扇。
 そしてなにやら感慨深げにため息をつくと、ぽつりと漏らす。


「……何百年かぶりに、一緒に飲んだので」
「……そうか」


 霖之助はひとつ頷き……空になっていた彼女の湯飲みにお茶を注いだ。

 やがて華扇は姿勢を正すと、真っ直ぐに霖之助を見つめ、頭を下げる。


「貴方のおかげです。ありがとう……霖之助さん」
「いいや、僕は大したことはしてないよ」


 巻き込まれただけだしね、と付け加える。


「そうですか」


 彼女はそれだけ言うと、満足げに微笑む。
 そんな華扇に、霖之助はふと気づいたように声をあげた。


「……謝りたいって、もしかして萃香達じゃなくて、僕にかい?」
「ええ、その……てっきり怒ってるのかな、と」


 華扇は照れたように頬を掻いて、言葉を続けた。


「萃香と勇儀に頼まれたんですよ。よかったらまた一緒に飲もう、って」
「やれやれ……」


 肩を竦め、首を振る。
 鬼族というのは豪快な割に、変なところで心配性だ。

 ここしばらくの付き合いで、霖之助はそう感じていた。
 だからこそ、憎めないのだが。


「そんな回りくどいことをしなくても、また誘ってくれて構わないよ。
 気分が乗れば参加しよう。無理矢理は勘弁願いたいがね」
「そうですか?」
「ああ。特に断る理由はないよ」


 それに彼女たちが飲んだ酒代は、後日地下の道具を持ってきてくれたので帳消しになっていた。
 ツケとはこうありたいものである。

 ……とまあ、ふと浮かんだ巫女の姿はさておき。


「ただもう少し、控えめな酒量がいいけど」
「ええ、そこはもう。ばっちりと」
「よろしく頼むよ。さすがにあの二日酔いはつらいんだ」
「任せてください。私がしっかり監視しておきますから!」
「……いや、この前は君に一番飲ませられたんだが」
「え?」


 ふたりの間から言葉が消え、ただ見つめ合う。
 華扇の額に冷や汗が伝うのが見えた。

 霖之助は苦笑を浮かべ、彼女の右腕を見る。


「酒を控える機能とか追加してみようか」
「むしろ飲ませる機能が欲しいですね、嫌がられずに」
「いやそれは却下したいね、僕の身体を考えると」
「そんなぁ」
「だいたい、そんな事ならそれこそ自前の腕で足りるだろうに」
「それだと気持ちよくは飲めないでしょう?」
「あくまで飲むことが前提なのか」


 鬼らしい彼女の言葉に、ため息で返す。


「君はもう少し、自重という言葉を覚えた方がいい。
 ……って、普段説教する側の君に言うのもなんだか不思議な気がするね」
「はっ、それもそうですね」


 普段と立場逆転すると、何となく新鮮な気持ちだ。
 最初に会った時とはずいぶんイメージが違って見える。


「そうだね……義手に酔い止めの薬を仕込んでおくのもいいかもしれないな」
「あら、そんなもの私には必要ありませんけど」
「いいや」


 疑問符を浮かべる華扇に、霖之助は首を振った。


「僕に必要なんだよ。突然付き合うこともあるだろうし、ね」
「……それって……」


 彼女は霖之助の言葉をゆっくりと噛み締め、そして満面の笑みを浮かべた。
 自信たっぷりに胸を叩くと、彼女の自慢の胸がついでに揺れる。


「あ、でも無理な飲み方は私がさせませんから、任せてください」
「ああ、期待しているよ」
「でも介抱も任せてくださいね?」
「早速不安になるようなことを言わないでくれないか」
「鬼に二言はありませんよ」
「君は平気で嘘をつくらしいけどね」
「まさか、平気じゃありませんよ!」
「嘘をつくことは否定しないのか……」


 霖之助は肩を竦めると、ポンと手を叩いた。
 酒を飲まされる前に酔い潰してみたらどうだろうか。

 つまり。


「そうだ、右腕に神便鬼毒酒を溶かしこんでみたらどうかな」
「私が萃香に怒られるのでやめてください」
「いいアイデアだと思ったんだが」
「そもそも持ってるんですか? そんな酒」
「いいや、残念ながらね」
「そうですか、びっくりしました」


 首を振り、笑い合う。
 彼女とふたり、そんな事を話しながら。

 勇儀達に前々から誘われていた地下旅行に行くのも悪くない、と考えていた。

コメントの投稿

非公開コメント

恥ずかしがる華扇ちゃんが可愛すぎてつらいw

この終わり方だと、次は地底に旅行ですかな?

楽しみにしてます。

No title

鬼の腕の完全な複製とかだと、つまり鬼の全力に耐えきる強度って事になるから……
それってどんな妖怪でも破壊する事が不可能に等しい強度って事じゃないですかーー!!

そしてそのノウハウでアーマード小傘を作ると

No title

地下旅行→温泉→華扇ちゃんと混浴イベント→俺得で大勝利!
ていうか、もう「結婚したら新婚旅行はどこに行こうか?」的な雰囲気を感じた私は末期。

No title

>義手に酔い止めの薬

コレってつまり、華扇ちゃんの指チュp(ピチューン

No title

何とも良い雰囲気ですよね。シリーズ化してからこっち生きるのが楽しいです。
仕事熱心でズレてる店主さんに萌。

それにしても「あひゃん」て…。

No title

この二人の雰囲気……どう見ても夫婦か恋人です本当にウワナンダキサマナニヲスルヤメr(ボグシャア ←粛清されました

とりあえず次回は新婚旅行ですねわかりま(以下↑と同文
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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