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鬼々迫る 第3話

『鬼々迫る 第2話』の続き。

鬼勢揃いです。
本編でも新しい鬼が出ますように。


霖之助 華扇 萃香 勇儀









 大中小。
 霖之助が最初に抱いた感想は、その言葉だった。

 香霖堂のカウンター。
 目の前に並んだ3人の少女。

 その3人ともが、鬼だという。


「この度は、萃香達が迷惑をかけたようで」


 勇儀と名乗った少女が、深々と頭を下げた。
 少女にしてはやや大柄な彼女の額には、鬼たる証の一本角。


「いや、気にしてないよ。特に実害もなかったからね」
「そう言ってくれると助かるよ。喧嘩っ早いところは鬼の習性みたいなものでね。
 ああ、これは詫びの酒だ。受け取ってくれ」


 手を振る霖之助に、勇儀は笑みで返した。
 それから手に持った一升瓶をカウンターに乗せる。

 それを見て、隣に座っていた萃香がずずいと身を寄せてきた。


「あれ、これって勇儀が大事にしてたやつじゃん。
 私が飲ませてくれって頼んでも開けてくれなかったやつ」
「当然だろ。こう言うときのために取っておいたんだから」


 大中小の小。
 二本角の鬼、萃香は早速その酒に手を伸ばす。


「ちょっとちょうだい」
「ダメ」
「いいじゃん、たくさんあるんだから」
「そう言う問題じゃないの」
「なんだよ、勇儀のケチー」
「ケチで結構」


 言い合いがならも、なにやらぶつかり合う音が響く。
 ……どうやら目に見えないスピードで攻防が行われたらしい。

 あまりの出来事に、霖之助は思わず冷や汗を垂らす。


「頼むから店の中で暴れないでくれないか。壊れてしまう」
「おっとっと、ごめんよ」
「ニャハハ、謝りに来て謝ること増やしてちゃ世話ないね」
「誰のせいだと……」
「そうですよ萃香、反省しなさい」


 中。桃色の仙人、華扇。
 横合いから入れられた華扇のツッコミに、しかし勇儀と萃香はジト目を送る。


「黙れ元凶」
「そーだそーだ」
「げ、元凶って何よ!」
「……まあ、元凶だねえ」


 つい口に出てしまったが、気づいたときには時すでに遅し。
 華扇にキッと睨み付けられ、霖之助は肩を竦めた。


「貴方までなんてことを言うのです!」
「すまない、ついノリで……本当のことを」
「ほ、ほんとう……」


 どうやらショックを受けているようだ。
 だが言ってしまったものは仕方がない。


「やっぱり霖之助もそう思ってたんだよ」
「正直だねぇ、気に入ったよ」
「う、うるさいわよ!」


 噛み付くように、だがどこか楽しそうに言い合う3人。
 基本的には仲がいいのだろう。
 長年のわだかまりがとけたせいもあるかもしれない。

 霖之助は居住まいを正し、改めて勇儀に向き直った。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は森近霖之助。古道具屋を……」
「ああ、知ってる。ハーフなんだろ? で、売れない道具屋の店主」
「だいたいあってるが、売れないは余計だよ」
「はは、そうかい。とにかくよろしく頼むよ」


 言って、勇儀は豪快に笑う。

 萃香に聞いたのだろうか。
 それとも昔会ったことでもあるというのか。

 ……わからないことは考えない。
 霖之助は話題を変えようと、彼女の持ってきた酒に目を向けた。


「それにしても、これはかなりいい酒みたいだね」
「わかるかい? 私のとっておきさ」
「こんなものを……いいのかい?」
「さっきも言っただろ。こういうときのために飲むものだよ」


 勇儀は大きく頷くと、唇の端を持ち上げるようにして笑う。


「それに人を語るのは酒が一番だからね。私を知ってもらうにはうってつけかなと」
「確かに、それは言えるかもしれないな。
 普段飲んでいる酒のランクや飲んだときの酒癖などは、その人となりが出やすい場面だ」
「だろう?」


 それから一升瓶を持ち上げ、軽く振った。
 誘うような水音に、つい意識を持って行かれそうになる。


「というわけで、一献どうだい?」
「勝負はしないよ? 鬼に勝てるとは思わないから」
「もちろん、詫びの席だから大人しくするさ。いくら私が鬼でもね」
「……嘘じゃないだろうね」


 と言っても、鬼が嘘をつくはずはない。
 例外はあるが。


「それに、あのヒヨッ子がどう成長したのかも気になるしね」
「……ん?」

 彼女の言葉に、思わず動きを止めた。

 やはり会ったことがあるのだろうか。
 確かめようと、口を開きかけた瞬間。


「ちょっと待った」


 声とともに、萃香はドンと瓢箪をカウンターに置いた。
 それから腰に手を当て、宣言する。


「やっぱりこういう時ってさ、自分の尻は自分で拭うものだと思うんだ」


 突然何を言い出すのだろう。
 丸く収まりかけた舞台を、彼女は見事にぶちこわしてくれた。

 驚く勇儀を睨み付け、言葉を続ける。


「私のやったことで勇儀が頭を下げたら、勇儀が私の保護者みたいじゃんか」
「人に地下の仕切りを押しつけておいて、今更言うことかね」
「それはそれ、これはこれ。これじゃまるで四天王のトップみたいな立ち振る舞いでしょ?」
「アンタ、そんな序列をいちいち気にしてるのかい? どうだっていいだろ、そんなこと」
「どうだっていいけど気になるの!」


 ぶんぶんを腕を振り回し、萃香は叫ぶ。
 それからビシッと霖之助を指さし、自信たっぷり笑みを浮かべた。


「というわけで、礼は自分の手でやるよ!」
「なるほど、具体的には?」
「この前地下に行ったときにね、特製ブレンドの酒虫エキスを染みこませてきたから。
 だからこの瓢箪の酒をお裾分け」
「ふーん、じゃあ私の酒と勝負するんだ」
「そういうことになるかな」


 雲行きが実に怪しくなってきた。

 どうして急に勝負とかいう事態になっているのだろう。
 どうして霖之助そっちのけで話が進んでいるのだろう。

 謎は尽きない。いや本当に。


「ね、霖之助。私の飲んでくれるよね?」
「いやいや、ここは先着順だろう?」
「あー……」


 鬼ふたりに詰め寄られ、ため息をつく霖之助。
 もう酔っているのだろうか。
 その可能性は大きいが。

 霖之助は助けを求めるように視線を動かし……。


「仕方ありませんね!」


 偶然目が合った華扇が、待ってましたとばかりに声を上げる。


「自分の後始末は自分で、その通りだと思います。
 そして私は3人から元凶と呼ばれた身。
 ならばやはり、ここはまず私が……」


 言いながら、華扇はどこからとも無く酒瓶を取り出した。
 つまりは華扇も対抗馬に立候補、と言うことらしい。

 ……霖之助は静かに頭を抱えた。
 どうしてナチュラルに余計な事をしてくれるのか。

 だがそんな霖之助をよそに、萃香はまじまじとその酒瓶を見つめる。


「なにそれ、天界でも見たこと無いけど」
「これは仙人の酒です。確かに貴重な品ですが……。
 か、勘違いしないでくださいね! 普段お世話になっているお礼も兼ねてですから!」
「何を勘違いしろと言うんだい……」


 華扇は何故か顔を赤らめると、そっと右腕に手を触れた。
 彼女の右腕には前と同じように包帯が巻かれている。
 だがその下には霖之助が作った義手があり、知らない者が見ても彼女が隻腕だとは思わないだろう。


「美味しそうだね、それ」
「あげませんよ。これは彼に差し上げるものですから」
「そーだねぇ、最初は霖之助が飲むべきだよねえ」
「そのあと分けてくれと言わんばかりだね、萃香」
「気のせい気のせい」
「うーん、でも確かに美味そうだ」


 勇儀も酒瓶を見つめ、しきりに頷く。

 3人の持ってきた酒。
 そのうちふたつは見た目は一升瓶だが、油断は出来ない。
 中身も同じ量という補償はどこにもないのだから。

 萃香の瓢箪は言わずもがなである。


「で、店主。誰の杯を受けるんだい?」
「せっかくだから霖之助に決めてもらおうか」
「でも、答えは決まってるわよね?」
「…………」


 ニヤニヤと笑う萃香と勇儀を見て、ようやく気がついた。
 そして、彼女たちの目的も。

 面白がっているだけなのだ、このふたりは。

 華扇は……いつも通り、正義感が空回っているだけだろう。


「ちなみに勇儀のを選んだらどうなるのかな」
「そりゃ私が喜ぶさ」
「……質問を間違えた。勇儀のを選ばなかったら、どうなるのかな」
「詫びを受け取らなかったってことで、店主のせいで私と華扇に亀裂が……」
「そんな!? 貴方はそれでいいんですか?」
「僕を責められても困るよ」


 確信した。からかわれているのだ、霖之助と華扇が。
 それから華扇は本気で睨んでくるのを是非やめて欲しい。


「ちなみに萃香は」
「ん~? そりゃもちろん、明日も私と地獄に付き合ってもらうよ」
「力尽くで地下巡りさせる気かい」
「もっちろん! 霖之助が私の気持ちを受け取ってくれるまでね~」


 その言葉を聞いて、大きくため息。
 酔っぱらった萃香の赤ら顔を眺め、何となく彼女の頭に手を置く。

 なんにせよ、やることは決まった。
 あとは……。


「あれ、私には聞かないんですか?」
「必要ない。予想出来る」
「聞いてくださいよ、ここまで来たんですから」
「……じゃあ、華扇を選ばなかったらどうするんだい?」
「もちろん、お説教です」
「…………」


 やはり聞く意味はなかったらしい。

 霖之助は腰に付けた箱に手を伸ばし、中から薬を取り出す。
 永琳に作ってもらった即効性の酔い止めだ。

 常備薬や小さな道具などを入れられるので重宝しているのだが、山の風祝からはネコ型ロボットみたいだという謎の称号を頂いていたりする。


「君たちの言いたいことはよくわかった」


 薬を飲み、覚悟完了。
 当方に迎撃の用意ありである。

 ……あとは肝臓がどれくらい持つか、だが。


「おお、気合十分じゃない」
「答えは決まったかい?」
「おかげさまでね」
「では、どうするのです?」


 結局彼女たちはこの4人で騒ぎたかっただけなのだろう。
 嘘がつけない割に、素直じゃない鬼だと思う。


「こうするのさ」


 霖之助は棚から来客用のコップを取り出し、それぞれの前に置いた。

 杯はすべて受ける。
 そして返杯する。

 答えは最初からこれしかなかったのだ。

 ……ただひとつだけ、確認しておかなければならないことがあるが。


「……まさか、最初に誰を選ぶかまでは……気にしないだろうね?」

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No title

大中小と言うより、特大、大、無にみえr(ピチューン
可愛いな華扇ちゃん!あと姐さんいい女!

ツンデレ華扇ちゃん、かわいいよ華扇ちゃんウフフ。

あと、霖之助誰を一番最初に選んだんだ!?ハケッ!ハクンダッ!

No title

華扇ちゃんのツンデレマジ最高!

しかし、やっぱり霖之助は選べなかったか。
さすが朴念仁?唐変木?でしたっけ?(あれ?違った?)

これからどうなっていくか楽しみに待ってます!!

それでは失礼します
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道草

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