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鬼々迫る 第1.5話

『鬼々迫る 第1話』の後日談的な。
今後機能は増えていくのでしょうか。


霖之助 華扇






 いつ来ても散らかっている。
 華扇は香霖堂の店内に足を踏み入れ、そう思った。

 と言っても、来たのはまだ2回目だが。


「完成したって霊夢に聞いたんだけど」
「ああ、ちゃんと伝えてくれたんだね。待ってたよ」
「……大丈夫かしら? ずいぶん顔色が悪いように見えますけど」
「実はこのところ寝てなくてね……」


 言いながら、霖之助はあくびを噛み殺したような表情で華扇を見上げた。
 そんな彼に、彼女は呆れた視線を向ける。


「まさか、ずっと作業してたの?」
「つい熱が入ってね」
「呆れた……その間店はどうしていたのかしら」
「店にはいたよ」
「つまり商売する気がなかったということね」
「霊夢にも魔理沙にも同じことを言われたよ」


 どうやらこの男はこれ以上ないくらいの凝り性らしい。
 予想外もいいところだ。

 自分の眼鏡に適う義手なんて作れるはずがないと思っていたのだが。


「早速だが、とりあえずこれを装着してくれるかい?」
「そうね、勿体付けたら貴方がかわいそうだし」


 一見平静を装っているが、そわそわしているのが見てわかる。
 初めて会った時の落ち着いた様子とは全く違った、少し子供っぽいその仕草に華扇は思わす笑みを浮かべていた。

 カウンターの上に置かれている右腕。
 入念にデータを取った甲斐もあってか、見た目も触感も左腕そっくりだった。

 華扇はゆっくりとした動作で右腕を取り付けると、意外なほどすんなりと感覚が馴染んでいった。


「違和感はないかな?」
「ええ、問題なく動くわ」
「ああ、よかった。これで第1段階は成功だよ」


 第1段階という言葉に、少しだけ引っかかる。
 それではまるで、何段階もあるようで……。


「では機能の説明をしたいんだが、構わないかな?」
「機能って?」
「便利な義手って言うのが君の注文だったからね」
「確かに言ったけど」


 次第に嫌な予感が強くなってきた。
 これ以上聞くとロクな事にはならないような、そんな予感。

 だがそんな華扇の心情を無視して、霖之助は言葉を続ける。


「僕はまず便利とは何かという命題から追求してみることにしたんだ。
 便利とはつまり不便ではないということだ。では不便を感じる場面とはいつか?」
「いえ、命題ってわけでも……」
「言うまでもなく不便とは現状への不満、ひいてはより良くしたいという意思の表れと僕は案が得たわけだ。
 つまり不便に思うということは向上心がそこにあるということなんだよ」
「怠惰かもしれませんけどね」


 冷静なツッコミも、今の彼はどこ吹く風。
 かと思えば、いきなり霖之助は華扇の瞳をまっすぐに見つめてきた。


「時に君は、外で遠くを見るとき手をどうするかい?」
「えっ……そうですね、手でひさしを作ると思いますけど」
「そう、つまり手は太陽に打ち勝つ力を秘めていると言える。
 そして太陽と対比されるものと言ったら月だ。
 ……ちょっとそこに巻藁があるだろう?」
「ええ、ありますね。どんなツッコミ待ちかと思ってたんですが」
「それに向かって手を振ってくれないか」
「……こうですか?」


 華扇が手を動かすと、軽く風を切る音が鳴る。
 そして同時に、手刀の軌道に合わせ光の帯が生まれ、消えた。

 その光に巻き込まれるように、標的となった巻き藁は綺麗に消滅していた。
 斬れたなどという生やさしいものではない。

 断面は焼け焦げているため、熱衝撃によるものだとわかる。


「なに、いまの」
「月のように、太陽の光を萃めて光線に変える機能を取り付けた。
 使い方によっては今のようにブレードにもなるって寸法さ。
 名をムーンライトと言う。少し重いのが難点だが……」
「いえ、そう言うことを聞いているのではなくて」
「ついでに手首にセーフティがあるからね。普段は付けておくといいよ」


 もう反論するのも馬鹿らしくなり、華扇は大人しくセーフティをオンにした。
 この機能が生かされることはないだろう。間違いなく。


「ちなみに触媒に使ったのは髭切という刀でね……」
「えっ」
「どうかしたかい?」
「いえ、なんでも」


 驚く華扇に、霖之助は首を傾げる。
 慌てて誤魔化してみる華扇だったが、上手くいったか自信がない。


「ああ、もちろん本物はもったいないし、そもそも持ってないから使えないよ。
 慧音……知り合いの教師がレプリカを持っていてね、それを貰ったんだ」
「そうですか」


 疲れ気味の霖之助はそれ以上追求する気はなかったようだ。
 それより早く次の説明に行きたいらしい。
 目の輝きがそう言っている。


「次に手首をこう捻ってくれるかな?」
「こう?」
「もうちょっと強く……」


 カチリと音がして、目の前を白いものが舞った。
 シュルシュルという衣擦れの音とともに、包帯が右腕に巻かれる。


「自動包帯巻きですか?」
「今まで人前でも包帯をしていたみたいだからね。
 義手を付けたからと言って、包帯は巻いておいた方がいいんじゃないかと思って」
「ええ、確かにこれは便利ですね、ありがとうございます」
「そうだろう、そうだろう。じゃあ説明を続けるから、さっきと同じ操作で包帯を仕舞ってくれるかな」


 満足げに頷く霖之助。
 褒められたのが嬉しいのか、上機嫌な様子で説明を続ける。


「じゃあ人差し指の爪を押してくれ」
「押しました。なんですかこれ」
「鍵を開けるための道具さ。ピッキングはこれだけで完璧だね」
「まあ、それなら鍵を忘れたときも心配ないですね」
「だろう?」
「って、私に盗みに入れと言うんですか!」


 華扇の大声に、霖之助は目を瞬かせた。
 この顔は本気でいいことをしたと思っている顔だ。

 ……どこの世界に、ピッキング道具を仕込まれて喜ぶ輩がいるというのか。
 怪盗でもあるまいし。


「いや、便利かなと思って」
「うちは鍵をかけない主義ですから大丈夫です! いつでも動物がいますし。まったくもう」
「そうか、ふむ……」


 納得しているようだったが、何を納得しているのかがさっぱりわからない。
 やがてなにやらメモに書き留めたあと、彼は再び口を開いた。


「なら、薬指の爪を押して手の甲に口を近づけてくれるかな?」
「こうですか? って何今の……」
「声が変わるんだ」
「確かに霊夢の声でしたけど。……いったいどんな場面で便利なんです?」
「犯人を追い詰めるときとか……ちなみに人差し指を弾くと麻酔針も出るよ。
 あと他には……」
「いいえ、とりあえず今回はこれで結構」
「そうかい?」


 説明を打ち切られ、店主はすごく残念そうな顔を浮かべていた。
 そんな顔をしたって無駄だ、と言いたいところだが、何となく聞いてあげたい気分にもなってくるから不思議だった。

 だがそれはとても危険なことだと華扇の第六感が告げていた。


「ねぇ、貴方よく残念な人って言われない?」
「いや? そんなことを言うのは魔理沙くらいのものだよ」
「言われるのね、やっぱり」


 華扇はため息を吐きながら、右の手のひらを何度か握って、そして開く。

 動きは良好。
 不可思議な機能はともかく、義手としては申し分ないと言えるかもしれない。


「まあ、義手としてはなかなか優秀ですね、これ。気に入りました」
「そう言われると頑張った甲斐があるというものだよ。
 ただ、調整がもう少しかかるから何度か通ってもらうことになるけど、いいかな?」
「構いませんけど……お代はどうすればいいですか?」
「そうだね……仙人の道具とか、持ってないかな?」
「道具ですか」


 霖之助の言葉に、華扇はいくつか道具を思い浮かべた。
 水を酒に変える桃とか、竜宮城の柱から削り出した棍とか、いくつかあったはずだ。
 そしてそこから、売ってもいいような物を分けて考える。


「わかりました。いくつか見繕って持ってくることにします」
「よろしく頼むよ。この腕にどれくらいの価値を付けるかも、君に任せるからね」
「あら、私の目利きも試すつもりなんですか?」


 霖之助の自信たっぷりな顔に、華扇は苦笑いで返した。
 それからひとつ、思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「ついでに手土産ではありませんが、土産話もたくさん持ってくることにしましょう。
 少々性根を叩き直してさしあげたいことですし」
「説教は間に合ってるんだがね」
「あら、遠慮せずとも構いませんよ?」


 笑い合うふたり。
 最初の会った時の印象とはずいぶん違って見えた。

 訪れるたびにまた変わるのかもしれないと思うと、なんだか楽しみに思えてくる。


「じゃあ微調整だけやっておくから、右手と左手を出してくれるかな?」
「え? 今からですか?」
「なるべくベストの状態でしばらく使ってもらってから、そこからさらに調整したいからね」
「そ、そうですよね」


 再びたくさん触られるのかと思うと、華扇は少しだけ身体が熱くなった。

 そして気づく。
 右腕もまた、同じように熱くなっていることに。


 こんなところにまで凝らなくていいのにと思いながら……。
 華扇は恐る恐る、彼に身体を預けるのだった。

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非公開コメント

No title

仙人ともあろうものがこんなに動揺して! いいぞもっとやれ!

それにしても霖之助さんの道具作成能力は恐ろしいですな。

仕事が早いです。先生ッ!

にしても、華仙ちゃん乙女だなあ

No title

もう霖之助さんが華扇ちゃんの腕に、ロックバスターとか魔銃とか
取り付けても驚きません。


次はサイコガンですね

わかります

No title

仙人改めサイボーグで名が通りそうでもある

No title

封神演義に出てきた太公望の義手を思い出した
そういえばどっちも仙人だなぁ

No title

実際霖之助の道具を創る技術はどの程度なんでしょうんね。
まぁミニ八卦炉しかり霊夢の服や道具を見るとすごいのはもう一目瞭然なんですけどね。

ギャップ萌えにまんまとひっかk・・・惹かれていく華扇ちゃん最高でした。

初めまして

脳裏に浮かんだのはライダーマンの姿www
(仮面ライダーは原作漫画ではベルトではなく仮面を着けて変身します。
いや、だから何だって話ですけど。)

どうも初めましてcrowと申します。
いつも楽しく拝見させて頂いております。
これからも頑張って下さい
追伸
無自覚の恋心っていいですよね~

それでは、失礼します!

月光搭載の武器腕だと!?
なんて素晴らしい装備なんだ…
俺の機体にも欲しいぜ←自称「辻斬りブレーダー」

やっぱり貴方の書く話はどれも2828ものですね
華扇霖もっと増えると良いな

霖之助さんの能力が(半ば)無駄に発揮されていますねー。
偶然華仙ちゃんに因縁がある(?)名前が出てきて動揺する様は、いかにもですね。

No title

あとは通信できたりサッカーボールがでたり犯人が追跡できる機能がつけば・・・
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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