2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

子悪魔シリーズ番外『姉悪魔02』

『姉悪魔01』の続き。

またハzlさんに挿絵を描いていただきました。
感謝感謝。

オリキャラ注意。









 空を見ていた。
 果てしなく広がる、青い空。

 遙か彼方を、鳥が飛んでいるのが見える。
 マナミはなんとなくそれを見つめていると……その鳥はあっという間に近づいてきた。


「あやや、誰かと思えばあなたでしたか」


 数秒後には、人影となって羽ばたきを響かせる。
 黒い髪と、黒い羽根。


「こんなところでボーッとしてると、天狗に攫われますよ」
「…………」


 マナミの隣に降り立ち、彼女は笑う。
 最初に会ったときと少しも変わらない容姿。
 イメチェンは何度かしているらしいのだが、それで本質が変わるわけではない。

 それもそうだろう、彼女は天狗なのだから。


「紅魔館の屋上に人影が見えたので何かと思いましたよ。
 まあ吸血鬼がこんな昼間から出ているはずはないですがね」
「傘があれば大丈夫らしいですよ、日光浴見はレミリア姉様もよくしてますし。
 こんにちは、天狗さん」
「文ですよ、射命丸文。まだ覚えてないんですか?」
「覚えてる。よく写真撮りに来てる天狗さん」


 彼女の顔を見ながら、マナミは肩を竦める。
 父親そっくりのその仕草に、文は思わず笑みを零した。


「取材は私のライフワークですからね。
 清く正しい射命丸は、真実を常に追い求めるのです!」
「母様があの天狗には気をつけなさいって」
「あやや、まだ警戒されてるみたいですねえ」


 肩すかしを食らったように、バランスを崩す文。
 やがて気を取り直すようにマナミの正面に立ち、しげしげと彼女を観察する。


「でもちょっと見ないうちに、すっかり大きくなりましたね。
 やっぱり人間が入ってると早いんでしょうか?」
「独り立ちできるようになるまでは動物のほうがもっと早い」
「それもそうですね」


 生まれたその日に歩けるようになることなど、動物の中では珍しくもない。
 そうしなくては生きていけないのだから。

 そう考えると、鳥は悠長なのだろうか。
 だとすると人間は、どうなのだろう。


「ところで、何してたんですか?」
「空を見てた」
「おお、それはいい心掛けですね。
 空が好きなひとに悪いひとはいませんから」
「ふぅん?」


あややと少女


 マナミと同じように文は空を見上げ、なにやら頷く。

 幻想郷の空には人影があることも珍しくない。
 それは人間だったり、妖怪だったり、幽霊だったり、妖精だったり、あるいはハーフだったり。

 幻想郷はすべてを受け入れる。
 かつて出会った賢者が、そんな事を言っていた。


「空はいいですねぇ……」


 そして彼女はしみじみと呟いた。


「こうして見ると、つい昨日のようですね」


 それから、改めてマナミに視線を戻す。


「覚えてますか? 私、あなたを攫ったことがあるんですよ」
「…………」


 文の発言に、マナミは首を傾げる。
 そんな出来事があったのなら、大騒ぎになって覚えているはずなのだが。


「覚えてないですか。ま、生まれて数日くらいのことですから無理もないです。
 あの時はもう少しで妖怪の山と紅魔館が戦争になるところでした」


 あっけらかんと言う彼女だったが、マナミは内心驚いていた。
 ことの重大さと、その内容に。

 いまだかつてそんな話は聞いたことがない。
 ましてやその引き金が自分などと……。


「あ、もちろん命令されて仕方なくですよ。
 天魔様がどうしてもあなたを見ておきたいって仰ったので。
 説明せずに連れてったのはこちらの落ち度ですが、結果オーライですよね」
「……楽しそう」


 楽しそうに喋っていた文は、虚を突かれたように言葉を詰まらせた。
 それからにっこりと笑い、ひとつ頷く。


「そうですね。楽しかったですよ、あの頃は」


 そう言って……彼女は長く息を吐き出した。
 ため息とも付かないそれは、どんな感情が込められていたのか。

 ……マナミにはまだ、理解することは出来なかった。


「香霖堂に行ったり、仕入れを手伝ったり、変な道具の説明を聞いたり。
 知ってます? 霖之助さんって魔法の森の入り口で商売してたんですよ」
「うん」


 今は紅魔館のエントランスに、香霖堂の本店はある。
 元々の店舗がどうなっているか、そう言えば聞いたことがない。
 たまに霖之助が出掛けているところを見ると、潰してしまったわけではないようだが……。

 ひょっとしたら支店があるのかもしれない。

 わりと幻想郷中を出歩いているマナミも、その場所へ行ったことはなかった。
 何となく、憚られたからだ。
 原因はよくわからない。


「霊夢さんがいて、魔理沙さんがいて、咲夜さんや妖夢さんも常連でしたね。
 でも、お客はほとんどいなくて……」
「今と変わらない?」
「そうですね。その通りです」


 文はマナミの頭に手を置き、ぽんぽんと叩いた。
 それから少しだけ、遠い目をする。


「あなたのお父さんが結婚してから、変わってしまいましたね。
 いえ、それがきっかけというだけで要因はいろいろあったんでしょうけど」
「…………」
「ああ、こんな事を言うつもりはなかったんですが」


 腰を下ろし、マナミと視線の高さを合わせる文。
 彼女の頬を指先でつつき、ニッと笑った。


「知ってます? 霖之助さんって、結構人気があったんですよ。
 でもあなたのお父さんはあんな感じでニブいから、結局今の形になったんですけど」
「……うん」


 皆がマナミによくしてくれるのは、きっとそう言う理由なのだろう。
 それは薄々わかっていた。

 だから。


「ありがとう」
「はい?」
「父様を好きでいてくれて」


 一瞬、ぽかんと文は口を開けた。
 それから彼女は破顔一笑。


「やっぱりあの時、本当に攫ってしまえばよかったですね。
 いい天狗になれたでしょうに」


 立ち上がり、冗談めかして彼女は言う。
 だけどそれは彼女の本心であるように思えた。


「あのふたりの子供がどう育つか、皆が楽しみにしてるんです。
 これは幻想郷にいる妖怪の共通認識だと思ってくれて結構」


 文はくるりと空中で一回転すると、どこからともなく団扇を取り出し、口元を隠す。


「もちろん私も。いろいろとネタを提供してくれそうですしね」
「それはわかりませんけど」


 マナミはゆっくりと首を振った。

 聞いた話によると、博麗の巫女や普通の魔法使いは自分と同じくらいの歳にはもう独り立ちしていたらしい。
 それに比べると、どうだろうか。


「ありのままでいいんですよ。それを撮りたいんですから」


 そんなマナミの考えを読んだのだろう。
 文は安心させるように、肩を竦めてみせる。


「というわけでお尋ねしますが。
 どうです、天狗に攫われてみませんか?」


 天狗は手を伸ばし、マナミを招く。
 その手と彼女の顔を見比べ、マナミは少し躊躇した。


「でも、これから師匠と練習が」
「たまにはサボるのもいい勉強ですよ。死神あたりを見習って。
 だってこんなに天気がいいんですし」


 視線をもう一度、空へ。
 それからその下に広がる幻想郷へ。


「それに子供は子供らしく遊ぶものですし、ね?」


 差し出された手を、マナミはしっかりと握った。









「……遅い」
「別にいいじゃないの、これくらい」
「お父様は心配性ですねえ」


 無意味に部屋の中を歩き回る霖之助に、パチュリーはため息で返した。

 小悪魔はいつも通り、無意味に動き回っている。
 パチュリーはいつも通り、魔導書を読んでいるらしい。


「でも行き先も告げずにいなくなるなんて……」
「いえ、知ってますよ?」
「天狗が連れて行ったって、美鈴が言ってたわ。晩ご飯までには帰すそうよ。
 あなた、聞いてなかったの?」
「言われた記憶がないね」


 憮然とした表情で、霖之助は言い返した。

 そんな彼に、小悪魔はポンと手を合わせる。
 わざとらしく、思い出しだように。


「そう言えばお父様には言った記憶がありませんね」
「……わざとかい?」
「いえいえ、滅相もない」


 手を振る仕草さえ胡散臭い。
 どこかの胡散臭い妖怪が移ったのかと心配になるが、とりあえず今はそんなことが問題ではない。

 この問題に対しての疑問は後で解決するとして……。


「でもお父様の心配してる顔なんて久し振りに見ました。レアですね」
「…………」


 ニヤニヤとした表情の小悪魔に、霖之助は視線を向ける。
 すると小悪魔は突然思い出したような素振りをし、パチュリーを指さした。


「って、お母様が言えって言いました。あの人が悪いんです」
「わかった。君らグルだろう」
「いえいえ、滅相もない」


 二度あることは三度ある。
 これ以上小悪魔に構うとロクなことが起こりそうにない。

 それにこう言ったことはたいてい魔女が裏で糸を引いているに決まっているのだ。
 長い共同生活で、イヤと言うほどわかっていた。


「ちゃんと父親してるのね」
「僕は最初からそのつもりだが」


 先手を打ったようなタイミングで、パチュリーが笑う。
 そんな彼女に、霖之助は肩を竦めた。

 最近娘が真似するようになった、その仕草で。


「それに、君の夫のつもりだよ。ちゃんとね」
「そう。それならちゃんと証を立てて欲しいのだけど」
「これ以上、何を望むのかな」
「これ以上、何をしてくれるのかしら」


 見つめ合うふたり。
 ふたりが一歩踏み出そうとしたところで……横から小悪魔の声が飛んできた。


「盛り上がってるところ悪いんですけど、帰ってきましたよ」
「……あの、ただいま戻りました」
「あら、予定より早かったわね」


 パチュリーは慌てず騒がず、娘に向き直る。

 霖之助はなんだか気まずく、視線を逸らした。
 気まずい主な原因はそこで見ている小悪魔のせいなのだが。


「次の予定は、わかってるわね?」
「はい。先生の手伝いで、晩ご飯の準備です」
「なら遅れないようになさい。
 美鈴にはあとで謝っておくのよ」
「はい」
「ちょっと待った」


 踵を返し、部屋から出て行こうとする娘の背中に、霖之助は声をかけた。


「マナミ」
「……はい」


 怒られると思ったのだろう。
 彼女はおずおずと振り返る。

 そんなマナミに、霖之助は笑って見せた。
 本人が反省しているなら、わざわざ怒る必要はない。

 ……昔、霊夢や魔理沙に言った言葉だ。
 だから。


「楽しかったかい?」
「はい」


 パッと花が咲くように、彼女は笑った。
 その子供らしい笑みに、霖之助は何となく安心したような気分を抱いた。

 文に感謝だろうか。
 微妙に不本意ではあるが。


「おやおや、今度は誰に嫉妬してるんですか?」


 去っていくマナミと入れ替わるように、小悪魔が近づいてくる。
 ニヤニヤと、何か言いたそうな表情で。

 いや、何が言いたいのかあらかた察する事が出来るのが余計に彼女の狙い通りで困る。
 実に困る。


「小悪魔、最近人の心の隙間に入り込むのが上手くなっている気がするんだが、
 悪い妖怪と付き合ってないだろうね?」
「えー、ひどい濡れ衣もあったもんですよ!
 今日は珍しくお父様のお父様っぽいところが見られたから満足してたのにぃ」
「さっきも言っただろう、珍しくはないと」
「そう、さっき言ったわよね」


 霖之助の言葉に、パチュリーが同意の意を示した。

 それから彼女は彼の手を引き、自分の方に視線を向けさせる。
 首を傾げ、一言。


「で、さっきの続きはどうなったのかしら」
「……言わなきゃダメかい?」
「いいえ、言っただけじゃダメよ」


 つまり、その先まで。
 彼女は相変わらずだった。

 だからこそ……。





「触れたらヤケドしますねぇ、いろんな意味で」


 小悪魔はそんなふたりを見ながら、楽しそうな表情を浮かべていた。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

続編キター!!!
ハzlさんのイラストも最高でした!

ホント霖之助は保護者ポジがよく似合うなwww

No title

まさか続編が出るとは・・・
非常にニヨニヨさせていただきました。

霖之助からするとマナミちゃんは思春期真っ最中ってとこですかね?
もう少しデレ(甘え)ればいいのにw

小悪魔さん、あんたもう姉やない、おばあちゃんや(ポジション的な意味で)。

No title

なんていい夫婦w
マナミちゃんもこのまま子悪魔の影響を受けないでまっすぐ育って欲しいものですw
霖之助の父親っぷりもかっこよかったですw

No title

もしかしたら、と期待していた続編にニヤニヤが止まりません。
小悪魔もパチュリーさんもマナミちゃんも幸せそうで何より。
結婚や出産も記事にしただろう文の心中を鑑みれば、
霖之助はもっと父として男として色々と懊悩するといいよ。
さあ、お前の罪を数えろ!(泣かせた人数的な意味で)

No title

この話の続きが来るのを待っていた!
やはりパッチェさんはいい母親をしていますね。
純粋培養ばかりでは経験が不足しますし、過保護になり過ぎないのはいい事です。
いや、何だかんだで過保護なのかもしれませんが。紅魔館ぐるみで。
何か、この話にリンクした話で天魔様を書いてみようかどうかと思ったり思わなかったり。
結構キャラが個性的ですから、掴みが大変そうですけどね。

No title

続編キタコレ!!
霖之助の意外な父親っぷりに何か和んだw

さらわれて行った先はどこだろう・・・・・・神社と人里は間違いないだろうけど。巫女と先生的な意味でw

No title

幻想郷は一夫一婦制なのかな
個人的には多夫多妻もありのなんでもありっぽいけど
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
リンクはフリーですが、ご一報いただけたら喜びます。

バナーはこちら。

<wasre☆hotmail.co.jp>
メールです。ご用のある方は☆を@に変えてご利用ください。

スカイプID<michi_kusa>

ついったー。

相方の代理でアップしてます。

同人誌情報
最新コメント
カテゴリ
リンク