子悪魔シリーズ番外『姉悪魔01』
『最終話』から10年くらい後の話。
そしてハzlさんに霖之助とパチュリーの娘をデザインしていただきました。
感謝感謝。
オリキャラ注意。
マナミ=モリチカ(9)
鼻先数ミリを、紅い衝撃が走る。
圧倒的な破壊力を内包したそれは、標的を見失って虚空へと消えていった。
「へー、アレをかわすんだ」
楽しそうに笑いながら、フランドールはゆっくりと手を下ろす。
放たれたのは、レーヴァテインの光。
まともに受けたなら無事では済まないだろう。
回避できたのは、何度もやられた経験によるものだった。
……発射を見てからでは間に合わなかった。
「成長したねー、マナ」
「……おかげさまで」
マナと呼ばれた少女――マナミ=モリチカは、紅い吸血鬼を無表情のまま睨み返す。
油断無くロッドを構え、反撃に転じようとした矢先……。
「じゃあ、これはどうかな」
先に動いたのは、フランドールの方だった。
――禁忌「クランベリートラップ」
彼女の宣言に呼応し、周囲の力場が一瞬で変質した。
的確にマナミをめがけ、四方から弾幕が襲いかかる。
的確すぎて回避するのは可能だが……如何せん、数が多すぎる。
「さぁさぁ、どう逃げるの?」
弾幕を回避するマナミに、高みの見物をするかのごとくフランドールは余裕たっぷりに微笑んだ。
「……逃げない」
マナミは服の裏側から、二振りのナイフを取り出した。
これは紅魔館のメイド長がかつて異変解決に行った際使っていたものだ。
当然、彼女が使った技をこのナイフは『覚えている』。
――偽符「シルバーバウンド」
かつての記憶を再現し、無数のナイフが弾幕を迎撃するべく広がっていく。
道具の記憶を引き出す程度の能力。
父親から受け継いだ能力を、マナミは戦闘用に改良していた。
術者の実力が違うため完全再現とはいかないが、要は使い用だ。
無数のナイフで、無数の弾幕を撃墜し……。
「それくらいで安心しちゃったの?」
いつの間に近づいてきたのか、目前にフランドールの顔があった。
あくまで笑顔で。余裕を崩さぬまま。
「油断大敵だよ」
「くっ」
振りかぶられたフランドールの紅い杖に、七色のロッドで打ち合うマナミ。
手が痺れるほどの衝撃に、しかしマナミは違和感を覚えた。
「んー、惜しいね。ちょっと気付くのが遅かったかな」
後ろから声が聞こえた時には既に遅し。
目の前にあるのは力の残滓と残像だと、あと数秒早く気付かなければならなかった。
振り返ったマナミの目に映ったのは、自分の中からフランドールの手の中へと出て行く光。
「きゅっとして……どかーん」
あっさりと、フランドールはその光を握り潰す。
がくりと膝を付くマナミに、フランドールは楽しそうにステップを踏みながら近寄っていく。
「まだまだこんなもんじゃないでしょ、マナ。
コンテニューしようよ、早く早く早く!」
彼女の言葉に答えるように……マナミは膝を付いたまま、口を開いた。
「……エクステンド」
ロッドの一節が光り、再びマナミは立ち上がる。
彼女は自分の魂を8つに分け、7つをロッドに封じた。
つまり7回までは『死ねる』のだ。
心置きなく彼女たちと遊ぶために編み出した技術である。
基礎を作った母曰く、蓬莱人を参考にしたらしいが。
「そうこなくっちゃ」
トントンとつま先で地面を蹴りつつ、フランドールは両手を広げた。
「咲夜の技を使ったのはいいけど、手の内は知ってるもん。
それじゃ私は倒せないよ」
「そうですか。では……」
かつんとロッドの先端を床で叩くと、その拍子にロッドの節が7つに分解される。
7つの節はそれぞれ七曜に対応していた。
月火水目金土日。
「かつてフラン姉様を倒した技ならいかがでしょう」
そしてロッドの先端にあるのは賢者の石。
心臓部とも言えるその宝玉は、誕生石として母親から贈られたものだ。
賢者の石を頂点にして、七節がそれぞれ配置につく。
魔方陣としては歪なその形は……八卦を現していた。
――偽符「マスタースパーク」
「ふふん。そう来るわけね」
迸る光の奔流を、フランドールは真正面から睨み付けた。
「で、負けてしまったわけですか」
こくりと頷くマナミに、小悪魔は紅茶のカップを差し出した。
ハチミツたっぷりの小悪魔スペシャルブレンドだ。
製法や比率は秘密らしい。
この地下図書館で長い時間をかけて生み出されたその黄金比は、そのまま彼女たちの絆を示していた。
「で、敗因は何かしら?」
「根本的な力不足もありますが……ロッドの力を復活に力を使ってしまい、満足に八卦を描けなかったため、出力が上がりませんでした。それによる火力不足も一因かと」
「そう」
母親――パチュリーの質問に、淡々と答えるマナミ。
どこかイメージが重なるのは、やはり親子だからか。
「分析は魔法の基本。いかなる時も怠らないことね」
「はい」
そんなふたりのやりとりを眺め、呆れたように小悪魔は口を開く。
「しかし見事な教育ママになりましたね、パチュリー様は」
「それが魔法使いという種族だからね」
「パパとしてはどんな気分ですか?」
「魔法の教育に関してはパチュリーに一任してるんだ。僕が口を挟むことじゃないさ」
話を振られた霖之助は、苦笑を浮かべ首を振った。
それぞれの領分というものがある。本人が望んでいるなら尚更だ。
霖之助が出来ることと言えば、見守ることくらいだろうか。
「改善策としては……そうですね。
中身を使用しても容れ物としてのロッド自体に力があれば、また違った結果が出たかもしれません。
例えば……ヒヒイロカネ製にするとか」
「ごほっ」
その言葉を聞き、霖之助は思い切り咳き込んだ。
飲みかけた紅茶が気管に入ったらしい。
「どうかしましたか? 父様」
「いや、なんでもない」
小悪魔に手を振って返し、なんとか平静を取り戻す。
「それにしても、マスタースパークといいどこで覚えてきたんだい?
パチュリーが教えるはずはないと思うが」
「泥棒さんに教えてもらいました」
泥棒。
その言葉に、旧知の顔が思い浮かんだ。
浮かんでしまった。
「けどその泥棒さんは、お母様こそ幻想郷一の大泥棒だと」
「そう。忘れていいわ」
「はい」
「大正解」
「ノーコメント」
小悪魔のウィンクを見なかったことにする。
そしてひとまず、娘の成長を素直に喜ぶことにした。
意外と顔が広いことも喜ぶべき対象だろう。
普段は紅魔館にいるマナミだったが、母とは違い結構出掛けているらしかった。
最近は寺にも行っていろいろな魔法を習っているそうで。
「……僕より魔法を使えるかもしれないね」
「いいえ」
霖之助の言葉を、しかし否定したのはパチュリーだった。
「オリジナルを尊重し、そこにさらにオリジナリティを付加して残すのが魔法使いの誇り。
この子はまだ模倣してるだけに過ぎないわ。魔法使いとしては三流ね」
「精進します」
「手厳しいな」
魔法使いとしての評価に、霖之助は肩を竦めた。
マナミは特に表情は変わりないが……落ち込んでいないか少し心配になる。
「お母様の愛はわかりにくいですからね。
でもそれが愛情だって気付いてからはそれが気持ちよくなるんですよ!」
小悪魔の叫びを、あえてのスルー。
「というか、あまり危険なことはやらない方が……」
「遊びですよ、お父様」
「そうです」
「弾幕ごっこだもの」
「……そうかい」
霖之助の呟きは、少女達の即答によって却下された。
「ご心配なく、父様。
フラン姉様には手加減していただいてますので」
「そうかい?」
フランドールと手加減がいまいちすぐに結びつかなかった霖之助は、曖昧な表情を浮かべた。
とはいえこれまでだって無事だったし、対処法もある。
今更気にすることもないというのは重々承知なのだが……。
それでも心配なのは、やはり仕方のないことだろう。
家族なのだし。
「楽しそうですよ、フラン様」
紅魔館の中で、マナミは小悪魔の妹ということになっている。
そのせいか、フランドールを妹様と呼ぶ者はいなくなっていた。
そのことがフランドールにはちょっと嬉しいらしい。
だからだろうか、彼女がマナミを気にかけるようになっていたのは。
「でも、対等になるのはまだまだです」
不満げに、マナミは呟く。
――フランドールと対等なのは、よっぽどだと思うんだが。
霖之助はそう思ったが……。
あえて口には出さないでおく。
「それにしても、ボロボロになりましたねぇ」
「そうですか?」
マナミの服は弾幕ごっこの影響もあってか、あちこちがほつれているようだった。
霖之助作のそれはそれほど柔な作りではないのだが、ダメージの蓄積がそれ以上なのだろう。
「お父様製の服も、こうなっては形無しですか」
「…………」
「まあ、道具は壊れるものだからね」
ちょっと悲しそうなマナミに、霖之助は首を振った。
どのみち成長すれば作り直すのだし。
……成長すれば、だが。
「では、そろそろ先生の手伝いに行きますので」
時計を見て、マナミは立ち上がる。
先生というのは咲夜のことだ。いろいろと習っているらしい。
同時に美鈴にも師事しており、彼女のことは師匠と呼んでいた。
マナミは生まれながらにして人間であり、妖怪であり、魔法使いだった。
魔力素を身に纏う者であり、真名を見る者である。
しかも紅魔館全員で育てたようなものなので、いささか規格外になってしまったが。いろいろと。
「あ、行く前にお風呂入るなら、お姉ちゃんと一緒に入りましょうよー」
「自分で洗えますのでお断りします」
小悪魔の言葉に、マナミは首を振った。
そのまま去っていく彼女を見送り……くるりと小悪魔は振り返る。
「お父様、振られてしまったんですけど!」
「僕に言われても困るんだが」
言って、霖之助は肩を竦めた。
そんな彼に、小悪魔は意味深な笑みを浮かべる。
「娘が懐いてくれないことが最近の悩みなお父様なら私の気持ちがわかってくれると思うんですけど」
「そんなことはない」
「またまた強がっちゃって。代わりに私がいくらでも懐きますよ! そりゃもう尻尾を振りまくるくらい!」
「間に合ってるよ」
首を振る霖之助だったが、小悪魔が聞いている様子はない。
彼女はマナミが去った扉を見つめながら、切なげなため息を吐いた。
「洗ってあげるの得意なんですけどねぇ」
「貴方が変なところ触りすぎるからじゃないの」
「それはほら、姉妹のスキンシップってやつですよ」
パチュリーの言葉に、首を振る。
そしてニヤリと悪い笑みを作った。
「まあ、お母様を洗ってあげる技術に関してはお父様に負けますけどね!」
「そりゃあ、夫婦だものね」
あっさりと言い切るパチュリー似、小悪魔は困り顔。
「開き直られるといじり甲斐がないですね」
「だから僕に言われても困るよ」
半泣きの小悪魔に、霖之助はため息を吐いて見せた。
「しかし負けず嫌いに育ったものだね。誰に似たのやら」
そんな呟きに……しかしふたりは呆れた顔で見返す。
「……貴方が言うのかしら」
「お父様ったら……」
気まずい沈黙に、コホンと霖之助は咳払いひとつ。
話題を変えるように、小悪魔に疑問を投げかけた。
「結局、小悪魔の名前は何になったんだい?」
「教えてあげません」
彼女は首を振り、チチチと指を立てる。
「姉妹の秘密ってやつですよ!」
言いながらも嬉しそうな顔をしている小悪魔に、霖之助とパチュリーは笑みを交わした。
「あ、マナマナの様子を見に行ってきますね」
「ええ、よろしく」
マナミの後を追っていく小悪魔を見送り……やがてぽつりと、パチュリーが口を開く。
「……過保護じゃないかしら」
「何の話かな」
とぼける霖之助に、しかし彼女は尚も言葉を重ねた。
「駄目よ。貴方が作ったヒヒイロカネ製の道具なんて、私でも持ってないんだから」
「娘に嫉妬しないでくれないか」
ため息。
まったく変わってないと思う。
あの時から変わったのは――自分達の関係がはっきりしたこと、くらいだろうか。
「10年、か。あっという間だった気がするな」
「そうね。でも……」
パチュリーはそう言うと、少しだけため息を吐いた。
疲れたように、楽しそうに。
「これからもあっという間じゃないかしら。
いろいろと振り回されるわよ、きっと」
そう言って笑う彼女は、あの日から変わらず……いや。
あの日よりもずっと、綺麗に見えた。
「マナマナー」
「……姉さん」
随分先に出たはずなのに、小悪魔が先に立っていた。
本人曰く、悪魔だけが知っている抜け道があるらしい。
悪魔の館だけに。
「お風呂はひとりで入れます。たぶん」
「それはまあ、何かあったら呼んでくれればいいんですけど」
マナミの強がりに、小悪魔は苦笑を浮かべた。
「まぁ、とりあえず破けた服を回収しに来たんですよ。
咲夜さんの手伝いが終わるまでにはお父様が直してくれるでしょうし。
それで、ついでにこれ」
小悪魔はマナミに紙袋を渡す。
中を確認すると、青と白が基調のメイド服が入っていた。
「お父様が作った新しい服です。
お風呂から上がったら着て下さいね」
咲夜の手伝いをするときは、それにふさわしい服装をすることにしている。
美鈴に拳法を習う時も然りだ。
それにいろいろな服を着るのはマナミも好きだった。
「お父様の服……」
服を抱きしめ、マナミはぽつりと呟く。
「……はぁ」
その様子に、小悪魔はため息を吐いた。
「その顔をお父様に見せてあげたら、喜ぶと思うんですがねぇ」
「…………」
無言で顔を赤らめるマナミに、小悪魔は肩を竦めた。
本当に素直じゃない。
……誰に似たのやら、と思う。
「間違いなくおふたり似、ですか」
「なんのこと?」
「なんでもありませんよー」
だた、その輪の中に自分がいるのが、とても嬉しかった。
これからもずっと、一緒でありますようにと。
小悪魔は、そう思いながら。
そしてハzlさんに霖之助とパチュリーの娘をデザインしていただきました。
感謝感謝。
オリキャラ注意。
マナミ=モリチカ(9)
鼻先数ミリを、紅い衝撃が走る。
圧倒的な破壊力を内包したそれは、標的を見失って虚空へと消えていった。
「へー、アレをかわすんだ」
楽しそうに笑いながら、フランドールはゆっくりと手を下ろす。
放たれたのは、レーヴァテインの光。
まともに受けたなら無事では済まないだろう。
回避できたのは、何度もやられた経験によるものだった。
……発射を見てからでは間に合わなかった。
「成長したねー、マナ」
「……おかげさまで」
マナと呼ばれた少女――マナミ=モリチカは、紅い吸血鬼を無表情のまま睨み返す。
油断無くロッドを構え、反撃に転じようとした矢先……。
「じゃあ、これはどうかな」
先に動いたのは、フランドールの方だった。
――禁忌「クランベリートラップ」
彼女の宣言に呼応し、周囲の力場が一瞬で変質した。
的確にマナミをめがけ、四方から弾幕が襲いかかる。
的確すぎて回避するのは可能だが……如何せん、数が多すぎる。
「さぁさぁ、どう逃げるの?」
弾幕を回避するマナミに、高みの見物をするかのごとくフランドールは余裕たっぷりに微笑んだ。
「……逃げない」
マナミは服の裏側から、二振りのナイフを取り出した。
これは紅魔館のメイド長がかつて異変解決に行った際使っていたものだ。
当然、彼女が使った技をこのナイフは『覚えている』。
――偽符「シルバーバウンド」
かつての記憶を再現し、無数のナイフが弾幕を迎撃するべく広がっていく。
道具の記憶を引き出す程度の能力。
父親から受け継いだ能力を、マナミは戦闘用に改良していた。
術者の実力が違うため完全再現とはいかないが、要は使い用だ。
無数のナイフで、無数の弾幕を撃墜し……。
「それくらいで安心しちゃったの?」
いつの間に近づいてきたのか、目前にフランドールの顔があった。
あくまで笑顔で。余裕を崩さぬまま。
「油断大敵だよ」
「くっ」
振りかぶられたフランドールの紅い杖に、七色のロッドで打ち合うマナミ。
手が痺れるほどの衝撃に、しかしマナミは違和感を覚えた。
「んー、惜しいね。ちょっと気付くのが遅かったかな」
後ろから声が聞こえた時には既に遅し。
目の前にあるのは力の残滓と残像だと、あと数秒早く気付かなければならなかった。
振り返ったマナミの目に映ったのは、自分の中からフランドールの手の中へと出て行く光。
「きゅっとして……どかーん」
あっさりと、フランドールはその光を握り潰す。
がくりと膝を付くマナミに、フランドールは楽しそうにステップを踏みながら近寄っていく。
「まだまだこんなもんじゃないでしょ、マナ。
コンテニューしようよ、早く早く早く!」
彼女の言葉に答えるように……マナミは膝を付いたまま、口を開いた。
「……エクステンド」
ロッドの一節が光り、再びマナミは立ち上がる。
彼女は自分の魂を8つに分け、7つをロッドに封じた。
つまり7回までは『死ねる』のだ。
心置きなく彼女たちと遊ぶために編み出した技術である。
基礎を作った母曰く、蓬莱人を参考にしたらしいが。
「そうこなくっちゃ」
トントンとつま先で地面を蹴りつつ、フランドールは両手を広げた。
「咲夜の技を使ったのはいいけど、手の内は知ってるもん。
それじゃ私は倒せないよ」
「そうですか。では……」
かつんとロッドの先端を床で叩くと、その拍子にロッドの節が7つに分解される。
7つの節はそれぞれ七曜に対応していた。
月火水目金土日。
「かつてフラン姉様を倒した技ならいかがでしょう」
そしてロッドの先端にあるのは賢者の石。
心臓部とも言えるその宝玉は、誕生石として母親から贈られたものだ。
賢者の石を頂点にして、七節がそれぞれ配置につく。
魔方陣としては歪なその形は……八卦を現していた。
――偽符「マスタースパーク」
「ふふん。そう来るわけね」
迸る光の奔流を、フランドールは真正面から睨み付けた。
「で、負けてしまったわけですか」
こくりと頷くマナミに、小悪魔は紅茶のカップを差し出した。
ハチミツたっぷりの小悪魔スペシャルブレンドだ。
製法や比率は秘密らしい。
この地下図書館で長い時間をかけて生み出されたその黄金比は、そのまま彼女たちの絆を示していた。
「で、敗因は何かしら?」
「根本的な力不足もありますが……ロッドの力を復活に力を使ってしまい、満足に八卦を描けなかったため、出力が上がりませんでした。それによる火力不足も一因かと」
「そう」
母親――パチュリーの質問に、淡々と答えるマナミ。
どこかイメージが重なるのは、やはり親子だからか。
「分析は魔法の基本。いかなる時も怠らないことね」
「はい」
そんなふたりのやりとりを眺め、呆れたように小悪魔は口を開く。
「しかし見事な教育ママになりましたね、パチュリー様は」
「それが魔法使いという種族だからね」
「パパとしてはどんな気分ですか?」
「魔法の教育に関してはパチュリーに一任してるんだ。僕が口を挟むことじゃないさ」
話を振られた霖之助は、苦笑を浮かべ首を振った。
それぞれの領分というものがある。本人が望んでいるなら尚更だ。
霖之助が出来ることと言えば、見守ることくらいだろうか。
「改善策としては……そうですね。
中身を使用しても容れ物としてのロッド自体に力があれば、また違った結果が出たかもしれません。
例えば……ヒヒイロカネ製にするとか」
「ごほっ」
その言葉を聞き、霖之助は思い切り咳き込んだ。
飲みかけた紅茶が気管に入ったらしい。
「どうかしましたか? 父様」
「いや、なんでもない」
小悪魔に手を振って返し、なんとか平静を取り戻す。
「それにしても、マスタースパークといいどこで覚えてきたんだい?
パチュリーが教えるはずはないと思うが」
「泥棒さんに教えてもらいました」
泥棒。
その言葉に、旧知の顔が思い浮かんだ。
浮かんでしまった。
「けどその泥棒さんは、お母様こそ幻想郷一の大泥棒だと」
「そう。忘れていいわ」
「はい」
「大正解」
「ノーコメント」
小悪魔のウィンクを見なかったことにする。
そしてひとまず、娘の成長を素直に喜ぶことにした。
意外と顔が広いことも喜ぶべき対象だろう。
普段は紅魔館にいるマナミだったが、母とは違い結構出掛けているらしかった。
最近は寺にも行っていろいろな魔法を習っているそうで。
「……僕より魔法を使えるかもしれないね」
「いいえ」
霖之助の言葉を、しかし否定したのはパチュリーだった。
「オリジナルを尊重し、そこにさらにオリジナリティを付加して残すのが魔法使いの誇り。
この子はまだ模倣してるだけに過ぎないわ。魔法使いとしては三流ね」
「精進します」
「手厳しいな」
魔法使いとしての評価に、霖之助は肩を竦めた。
マナミは特に表情は変わりないが……落ち込んでいないか少し心配になる。
「お母様の愛はわかりにくいですからね。
でもそれが愛情だって気付いてからはそれが気持ちよくなるんですよ!」
小悪魔の叫びを、あえてのスルー。
「というか、あまり危険なことはやらない方が……」
「遊びですよ、お父様」
「そうです」
「弾幕ごっこだもの」
「……そうかい」
霖之助の呟きは、少女達の即答によって却下された。
「ご心配なく、父様。
フラン姉様には手加減していただいてますので」
「そうかい?」
フランドールと手加減がいまいちすぐに結びつかなかった霖之助は、曖昧な表情を浮かべた。
とはいえこれまでだって無事だったし、対処法もある。
今更気にすることもないというのは重々承知なのだが……。
それでも心配なのは、やはり仕方のないことだろう。
家族なのだし。
「楽しそうですよ、フラン様」
紅魔館の中で、マナミは小悪魔の妹ということになっている。
そのせいか、フランドールを妹様と呼ぶ者はいなくなっていた。
そのことがフランドールにはちょっと嬉しいらしい。
だからだろうか、彼女がマナミを気にかけるようになっていたのは。
「でも、対等になるのはまだまだです」
不満げに、マナミは呟く。
――フランドールと対等なのは、よっぽどだと思うんだが。
霖之助はそう思ったが……。
あえて口には出さないでおく。
「それにしても、ボロボロになりましたねぇ」
「そうですか?」
マナミの服は弾幕ごっこの影響もあってか、あちこちがほつれているようだった。
霖之助作のそれはそれほど柔な作りではないのだが、ダメージの蓄積がそれ以上なのだろう。
「お父様製の服も、こうなっては形無しですか」
「…………」
「まあ、道具は壊れるものだからね」
ちょっと悲しそうなマナミに、霖之助は首を振った。
どのみち成長すれば作り直すのだし。
……成長すれば、だが。
「では、そろそろ先生の手伝いに行きますので」
時計を見て、マナミは立ち上がる。
先生というのは咲夜のことだ。いろいろと習っているらしい。
同時に美鈴にも師事しており、彼女のことは師匠と呼んでいた。
マナミは生まれながらにして人間であり、妖怪であり、魔法使いだった。
魔力素を身に纏う者であり、真名を見る者である。
しかも紅魔館全員で育てたようなものなので、いささか規格外になってしまったが。いろいろと。
「あ、行く前にお風呂入るなら、お姉ちゃんと一緒に入りましょうよー」
「自分で洗えますのでお断りします」
小悪魔の言葉に、マナミは首を振った。
そのまま去っていく彼女を見送り……くるりと小悪魔は振り返る。
「お父様、振られてしまったんですけど!」
「僕に言われても困るんだが」
言って、霖之助は肩を竦めた。
そんな彼に、小悪魔は意味深な笑みを浮かべる。
「娘が懐いてくれないことが最近の悩みなお父様なら私の気持ちがわかってくれると思うんですけど」
「そんなことはない」
「またまた強がっちゃって。代わりに私がいくらでも懐きますよ! そりゃもう尻尾を振りまくるくらい!」
「間に合ってるよ」
首を振る霖之助だったが、小悪魔が聞いている様子はない。
彼女はマナミが去った扉を見つめながら、切なげなため息を吐いた。
「洗ってあげるの得意なんですけどねぇ」
「貴方が変なところ触りすぎるからじゃないの」
「それはほら、姉妹のスキンシップってやつですよ」
パチュリーの言葉に、首を振る。
そしてニヤリと悪い笑みを作った。
「まあ、お母様を洗ってあげる技術に関してはお父様に負けますけどね!」
「そりゃあ、夫婦だものね」
あっさりと言い切るパチュリー似、小悪魔は困り顔。
「開き直られるといじり甲斐がないですね」
「だから僕に言われても困るよ」
半泣きの小悪魔に、霖之助はため息を吐いて見せた。
「しかし負けず嫌いに育ったものだね。誰に似たのやら」
そんな呟きに……しかしふたりは呆れた顔で見返す。
「……貴方が言うのかしら」
「お父様ったら……」
気まずい沈黙に、コホンと霖之助は咳払いひとつ。
話題を変えるように、小悪魔に疑問を投げかけた。
「結局、小悪魔の名前は何になったんだい?」
「教えてあげません」
彼女は首を振り、チチチと指を立てる。
「姉妹の秘密ってやつですよ!」
言いながらも嬉しそうな顔をしている小悪魔に、霖之助とパチュリーは笑みを交わした。
「あ、マナマナの様子を見に行ってきますね」
「ええ、よろしく」
マナミの後を追っていく小悪魔を見送り……やがてぽつりと、パチュリーが口を開く。
「……過保護じゃないかしら」
「何の話かな」
とぼける霖之助に、しかし彼女は尚も言葉を重ねた。
「駄目よ。貴方が作ったヒヒイロカネ製の道具なんて、私でも持ってないんだから」
「娘に嫉妬しないでくれないか」
ため息。
まったく変わってないと思う。
あの時から変わったのは――自分達の関係がはっきりしたこと、くらいだろうか。
「10年、か。あっという間だった気がするな」
「そうね。でも……」
パチュリーはそう言うと、少しだけため息を吐いた。
疲れたように、楽しそうに。
「これからもあっという間じゃないかしら。
いろいろと振り回されるわよ、きっと」
そう言って笑う彼女は、あの日から変わらず……いや。
あの日よりもずっと、綺麗に見えた。
「マナマナー」
「……姉さん」
随分先に出たはずなのに、小悪魔が先に立っていた。
本人曰く、悪魔だけが知っている抜け道があるらしい。
悪魔の館だけに。
「お風呂はひとりで入れます。たぶん」
「それはまあ、何かあったら呼んでくれればいいんですけど」
マナミの強がりに、小悪魔は苦笑を浮かべた。
「まぁ、とりあえず破けた服を回収しに来たんですよ。
咲夜さんの手伝いが終わるまでにはお父様が直してくれるでしょうし。
それで、ついでにこれ」
小悪魔はマナミに紙袋を渡す。
中を確認すると、青と白が基調のメイド服が入っていた。
「お父様が作った新しい服です。
お風呂から上がったら着て下さいね」
咲夜の手伝いをするときは、それにふさわしい服装をすることにしている。
美鈴に拳法を習う時も然りだ。
それにいろいろな服を着るのはマナミも好きだった。
「お父様の服……」
服を抱きしめ、マナミはぽつりと呟く。
「……はぁ」
その様子に、小悪魔はため息を吐いた。
「その顔をお父様に見せてあげたら、喜ぶと思うんですがねぇ」
「…………」
無言で顔を赤らめるマナミに、小悪魔は肩を竦めた。
本当に素直じゃない。
……誰に似たのやら、と思う。
「間違いなくおふたり似、ですか」
「なんのこと?」
「なんでもありませんよー」
だた、その輪の中に自分がいるのが、とても嬉しかった。
これからもずっと、一緒でありますようにと。
小悪魔は、そう思いながら。
コメントの投稿
No title
いいですね~
まさに霖之助とパチュリーの娘って感じですね~
というかもう数年後にはボスキャラの仲間入りですねw
10年後シリーズとしての話も読めることを期待しつつ応援しています。
まさに霖之助とパチュリーの娘って感じですね~
というかもう数年後にはボスキャラの仲間入りですねw
10年後シリーズとしての話も読めることを期待しつつ応援しています。
幻想卿一の泥棒(猫)のパチェリーさまさま
No title
この娘さんかわいい鼻血出そう
No title
妖怪と人間と魔法使いの血を受け継いで、紅魔館メンバーから英才教育を受けてるなんて・・・将来が楽しみでしょうがないですねw
照れ屋で素直じゃないところが両親の特徴を受け継いでるんですねww
娘にヤキモチを妬くパチュリーとなだめる霖之助さんはいつまで経ってもお熱いですね(´∀`)
これは第三子誕生の予感がww
幻想郷一の泥棒か・・・まぁ彼女たちから奪ったモノは大きすぎましたね。
面白いお話でしたww
これでシリーズ化も読んでみたいです!
照れ屋で素直じゃないところが両親の特徴を受け継いでるんですねww
娘にヤキモチを妬くパチュリーとなだめる霖之助さんはいつまで経ってもお熱いですね(´∀`)
これは第三子誕生の予感がww
幻想郷一の泥棒か・・・まぁ彼女たちから奪ったモノは大きすぎましたね。
面白いお話でしたww
これでシリーズ化も読んでみたいです!
No title
幻想郷一の大泥棒・・・か、しまった盛大ににやけてしまった
No title
^q^<マナチャンカワユス
見えない所でデレる・・・・・これはなにデレだ・・・・・?
そして紅魔館で鍛えられたということはもはやスペックがとんでもないことになってそうな予感ww
ところで
>彼女は自分の魂を8つに分け、7つをロッドに封じた。
これは大丈夫なので?フランに殺られるたびに減っていく(んだと思う)んですが、そうなると最終的に魂が8分の1にされてしまうんじゃ・・・・・?これで弊害とかないんですかね?
しかし何年たっても安定して自重しない小悪魔であるww
見えない所でデレる・・・・・これはなにデレだ・・・・・?
そして紅魔館で鍛えられたということはもはやスペックがとんでもないことになってそうな予感ww
ところで
>彼女は自分の魂を8つに分け、7つをロッドに封じた。
これは大丈夫なので?フランに殺られるたびに減っていく(んだと思う)んですが、そうなると最終的に魂が8分の1にされてしまうんじゃ・・・・・?これで弊害とかないんですかね?
しかし何年たっても安定して自重しない小悪魔であるww
母に魔法を父に道具の事を教わり
美鈴に格闘、咲夜にマナーを学ぶ
そして妹様で実戦練習…
将来が楽しみですな
美鈴に格闘、咲夜にマナーを学ぶ
そして妹様で実戦練習…
将来が楽しみですな
No title
寝取られか・・・パチュリーピンチ
小悪魔からいろいろお父さんを落とす方法教えてもらってるんだろうな
さすが小悪魔、悪魔がつくだけあるぜ
小悪魔からいろいろお父さんを落とす方法教えてもらってるんだろうな
さすが小悪魔、悪魔がつくだけあるぜ