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酉京都幻想 第5話

『酉京都幻想 第4話』の続きっぽく。
メリー復活記念。かもしれない。
そんな蓮霖あるいは夢美霖。


霖之助 蓮子 メリー 夢美







「少し、気を許しすぎじゃないかしら」


 唇を尖らせ、紫……メリーは呟いた。
 メリーの服装でスキマから出てこられると、なんとも言えない違和感がある。

 というか、同じ家の霖之助の部屋に来る時くらい歩いてくればいいのにと思うのだが。


「あの娘はこの世界の普通の人間。そしてあなたは――」
「わかっているよ」


 彼女の言葉を遮り、霖之助は首を振った。


「僕のことも、君のことも、それから……蓮子のことも。……わかっているさ」
「そう。ならいいのだけど」


 長いため息は、果たしてどちらのものだったか。
 霖之助は苦笑を浮かべると、読んでいた教科書から視線を上げ、メリーに向き直る。


「心配をかけるね、紫」
「それは構わないわ。だって、霖之助さんがここにいるのは私の……」


 そこで彼女は言葉を切った。
 そして話題を切り替えるように笑顔を作り、霖之助にもたれかかる。

 幻想郷にいたころ、よくやっていた仕草だ。
 懐かしい感覚に、思わず安心感すら覚える。


「どう? この世界には慣れたかしら」
「ああ、おかげさまでね」
「なら結構」


 メリーはどこからか扇を取り出し、口元を隠した。
 今の彼女は、メリーなのか。それとも紫なのか。


「なんだか久し振りね。こうやってゆっくり話すのも」
「そうかい?」
「ええ」


 霖之助の言葉に、彼女はしっかりと頷く。


「だって霖之助さん、最近蓮子とばかり話してるんだもの」
「そうだったかな」


 とぼけるように、霖之助は視線を外した。
 目を合わせてはいけないと本能で悟ったせいかもしれない。

 首筋がなにやらチリチリするが、意識の外に無理矢理追い出す。


「君は少し、忙しそうだね。最近の幻想郷はどうだい?」
「いつものことよ。……いえ、ちょっとだけ慌ただしいけど。
 少し前なんて異変起す元気もないほどヘコんでたのに、最近は異変解決してたほうが早く時間が過ぎるって言い出して……。
 妖怪は妖怪で、騒いでた方が気が紛れるってあちこちで……はぁ」


 週末や……平日ですら、よくメリーは出掛けている。
 おそらく幻想郷に行っているのだろう。

 賢者の苦労は知る由もないが、出来るだけ労ってやりたいところだ。


「お疲れ様。僕に出来ることがあったら言ってくれて構わないよ、紫」
「そう? じゃあ霖之助さん、もしよかったら今日私と」
「霖之助君! 大変大変!」


 メリーが何か言いかけた矢先。
 ふたりの会話を遮るように、突然ドアが開く。


「あれメリー、いたの?」
「いたら悪かったかしら?」


 不満そうに、彼女は呟く。
 蓮子もメリーがいるとは思わなかったのだろう。驚いた表情を浮かべていた。


「ううん、ちょうどよかった。ちょっと来てよ、ふたりとも」


 しかしすぐに気を取り直したようで、蓮子はふたりの手を掴み、歩き出す。
 霖之助とメリーは腕を引かれながら目を瞬かせ、顔を見合わせた。


「そう言えば大変だって言ってたね」
「なにかあったの? 蓮子」
「うん、だから大変なのよ」
「……だからどう大変なんだい」
「来たらわかるって」


 実に簡単な説明だった。到着したのは玄関。目と鼻の先である。
 そして彼女の言う通り。


「……なるほど、大変だ」
「大問題ね」
「でしょう?」


 納得するふたりに、嘆息する蓮子。
 そんな3人の視線を平然と、あるいは気まずそうに受けながら。


「この家はいつまで客を待たせるのかしら」
「お邪魔してるぜ」


 夢美とちゆりが、そこにいた









「あ、飲み物はコーヒーでいいわよ。砂糖はふたつね、甘いものは脳の栄養になるから」
「お客はもう少し遠慮するものだと思うけど」


 夢美の言葉に、メリーは呆れ声を上げた。

 結局居間に移動し、話し合うことになったのだが。
 もともとふたりで住んでいた部屋のため、さすがに5人も入ると手狭になってしまう。

 霖之助の右側に蓮子、左側にメリー。
 対面に夢美が座り、その隣にちゆりが座っていた。


「ちゃんと話すのは久し振りかしら、マエリベリーさん?」
「ええ、そうですわね」


 彼女の視線に、メリーは笑顔で頷く。
 マエリベリーとしての顔。胡散臭くはない。


「君は何か飲むかい?」
「おかまいなくだぜ。私のことは置物とでも思ってくれればいいから」


 霖之助に尋ねられ、ちゆりは首を振った。
 よく出来た子だ、と思う。

 主人がアレでは当然かもしれないが。反面教師的な意味で。


「で、今日は家庭訪問ですか? 少々突然すぎると思うんですけど」
「あら、ちゃんと事前に連絡は取ったわよ」
「そうなんですか?」
「ええ。森近にね。返事はなかったけど」
「……ん、僕かい?」
「そう。メール、ちゃんと見てるかしら?」


 夢美の問いに、蓮子はピンと来たようだ。


「ちょっと霖之助君、PDA見せて」


 言うが早いが、蓮子は霖之助のPDAを取り、手早く操作した。

 そう言えば最後に確認したなはいつのことだろう。
 メリー曰く、宝の持ち腐れらしい。


「……確かに、来てるね。メール」
「霖之助さん……」
「……いや、すまない」


 視線が痛い。

 霖之助はPDAを返してもらいながら、メールチェックの習慣の重要さに今更気が付いた。
 ……もうここに来て何ヶ月も経つのだが。


「でも返事がなかったからって来るのはいささか性急に過ぎるんじゃないかな」
「確かに、そうね」


 霖之助の言葉に夢美はひとつ頷くと、姿勢を正して座り直る。


「……来ちゃった」


 少し上目遣いに、ポッと頬を染めた。


「似合わないぜ」
「似合わないですから、止めて下さい」
「……似合わないわね」
「…………」
「あんたたち……まあ、自分でもそう思うけど」


 全員からの全否定。
 そう言いながら……しかし悔しそうに見えるのは、気のせいではないだろう。


「で、何の用だったんだい? 結局用件は書いてないようだが」
「呆れた、忘れちゃったの?」


 いつもの調子で、夢美が肩を竦めた。
 先ほどの出来事をなかったことにするつもりらしい。


「あなた、先週言ったでしょう。もう少し学習のスピードを上げたいって」
「ああ……そんなことを言ったような、言わなかったような」


 もうすぐ大学の定期試験が行われる。
 夢美は当然試験を作らなければならないし、霖之助も試験勉強をしなければならない。

 そのためどうしても、夢美との勉強を休みがちになっていた。


「で、忙しい中休み返上で来てあげたというのに、この反応はないんじゃないかしら」


 言って、夢美は唇を尖らせる。
 実は根に持ってるらしい。意外と繊細のようだ。

 だからといって突然に手に来るのは、やはり無駄に行動力が有り余っていると言わざるを得ない。
 本当に忙しかったのだろうかと、思わず疑問に思ってしまう。


「そう言えば、霖之助さんに教えてるんでしたっけ」
「ええ、そうよ」


 夢美はじっとメリーを見つめた。


「夢を壊さない程度に、ね」
「…………」


 メリーはその言葉を聞き……。
 やがてため息を吐き、立ち上がる。


「お茶を用意してくるわ。コーヒーだったかしら。少しお願いね、蓮子」
「あ、うん」


 メリーを見送り、改めて蓮子は夢美に向き直る。
 夢美の相手をメリーから任された彼女は、少しだけ背筋と視線に力をこめた。


「……でも、なんでうちなんですか? その辺の喫茶店でもいいでしょう、勉強くらい」


 それはそれで気になるけど、とこぼす蓮子。

 まだ彼女は納得がいってないようだ。
 ……もっとも、何故メリーが納得したかも霖之助はわからないのだが。


「あら、宇佐見は非効率的なことを言うのね。無駄な経費だとわかってて、わざわざ使うのはもったいないでしょう?」
「……まあ、それは認めますけど」
「その点、森近の家なら場所代、お茶代、それにケーキもタダだしね」
「最初はともかく、後ろふたつはタダじゃありませんから」
「というか、ケーキを食べたかったのかい?」
「……わりと。出来れば苺のショートケーキ」


 コホン、と咳払いひとつして、夢美は霖之助に視線を送ってきた。
 挑発するような、誘うような。


「なんだったら、森近の部屋でもいいけど」
「それはダメです! 侵入を認めるのは居間までですから!」
「侵入ときたか……」


 ちゆりは思わずため息を吐いた。
 まるで泥棒だぜ、と肩を竦めるその姿に、思わず霖之助は笑みを浮かべる。


「と言うわけで、ちょっと森近を借りるわね。ちなみに返すつもりはあんまり無いわ。わかったらどこか行ってくれていいんだけど」
「あら、私がいたら邪魔なんですか?」
「森近に勉強を教えるのは私の役目のはずだけど?」
「ぐぬぬ……。で、でも」


 劣勢になった蓮子は、思わず声を張り上げた。
 細かいことだが、蓮子が霖之助の服の裾をギュッと握ったままなのは何故なのだろうか。


「霖之助君は私と過ごす時間を多く取るために教授を選んだんですよ! だから私がいても問題無いですよね、うん」
「そうね。でも今あなたが言った通り、森近が選んだのは私よね」
「……学習の面ではね」
「ええ。そして今は勉強の時間」
「でも今日は休日だし……」
「あら、人生においてすべてが勉強とも言うわよ?」
「それだと全部教授が持って行きそうじゃないですか」
「別に私はそれでも構わないけど」
「やれやれ」


 泥沼の様相を呈してきたその光景に、霖之助は思いきりため息を吐いた。
 議論とはお互いの終着点を探すべく行われる行為のはずである。
 今回の終着点は……一体どこにあるというのか。


「おまたせ……って、どうしたのふたりとも」


 状況が掴めないのか、コーヒーの乗ったお盆を持ったままメリーは目を瞬かせる。
 彼女の帰還で我に返ったのか、蓮子も夢美も気まずそうに咳払いひとつ。


「なんでもないわよ、メリー」
「ええ、なんでもないわ」
「そう? でも……」


 首を傾げ……それでも気になるのか、メリーは霖之助をじっと見つめた。


「なんだかとても重要なことを聞き逃した気がするわ」
「気のせいだ」
「聞いていても仕方のないことだぜ」


 ちゆりが賛同してくれたので、メリーはそれ以上追求することを諦めたようだ。

 まあ霖之助としても、聞かれなくて助かったと思う。
 よくわからないが、そう思う。本当に。


「あら、おいしい」
「メリーはコーヒー入れるのが上手なんですよ」


 自慢げに、蓮子は胸を張った。
 まるで自分のことのように、彼女は笑みを浮かべる。

 親友を褒められるのが嬉しいようだ。
 とてもいい友人関係だと思う。


「それに料理もとっても上手いんですよ。ねえメリー」
「あら、それは素敵ね。今度披露してくれないかしら」
「まあ、機会があれば……」


 予想外の賞賛に、メリーは照れたように視線を彷徨わせた。
 珍しい反応だ。少なくとも、幻想郷ではまず見られないだろう。


「で、宇佐見はどうなの?」
「え?」


 その言葉に、蓮子はピタリと動きを止めた。
 質問の意図がわからなかったなどではないようだ。
 しかしその返答は、彼女にしては珍しく歯切れが悪い。


「私はー……えっと、その」
「どうなのかしら?」
「言われてみれば、蓮子が料理したことないわね」
「僕も知らないな」
「そもそも貴方、料理は出来るのかしら?」
「……出来ません!」


 4人の視線に攻められ、蓮子は開き直ったようだ。
 自棄になったのか、自信たっぷりに言い放つ。


「別にいいんですよ、最近は買った方が安いし、栄養もあるんですから! 料理なんて出来なくても全く問題無いんです」
「まあ、そうだね。実に合理的だ」
「いい判断だと思うわよ」
「……ありがとう、ふたりとも」


 霖之助とメリーのふたりに褒められ……しかし彼女は嬉しくなさそうだった。
 少女の心というのはなかなかに気むずかしいらしい。


「そう言う教授はどうなんですか?」
「私はできないわよ」


 反撃とばかりに投げかけられた問いに、きっぱりと夢美は言い切った。
 全く隠すこともなく、当然と言わんばかりに。


「なら私と同じじゃないですか」
「けど、私にはちゆりがいるもの。出来る人間を扱えれば、それは私が料理が出来るのと同じことじゃないかしら」
「ふむ、一理あるな」
「確かにそうよね」


 頷く霖之助とメリー。
 式神や使い魔を考えてみれば、至極真っ当な意見だった。

 この世界でどうかは知らないが。


「私には……り、霖之助君がいますから!」


 苦し紛れかはたまた別の意図か。
 蓮子の漏らした言葉に、しかし夢美とメリーは予想以上の反応を見せる。


「そうね、森近が料理が出来るとして。それがあなたにどう関係するのかしら」
「そうよ蓮子。それは聞き捨てならないわ!」
「……で、僕の勉強はどうなったんだい」
「大丈夫だ、こうなると思ってあらかじめデータをもらってきたぜ」


 騒ぐ3人を見て、霖之助は肩を落とした。
 ちゆりの言葉に顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。


「お互い大変だな」
「ああ……慣れてるぜ」





 結局、白熱した議論は続き。
 夢美とちゆりは、夕ご飯まで食べて帰ったのだった。

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非公開コメント

蓮メリ夢美霖はほのぼの修羅場の境地やでぇ…
あと霖之助のちゆりに対する好感度が地味に上がってるw

No title

なにこのゆめみとれんこかわいい。私の中の教授の株が急上昇しましたヨ。蓮子&教授>ゆかメリー&ちゆり…みたいな感じで。
異変解決してた方が早く時間が過ぎる…まさか霖之助が帰還するまで、暇を持て余した少女による異変→暇を持て余した巫女と魔法使いが異変解決→別の暇を持て余した少女による異変…の無限ループが続くのだろうか…?

No title

メリー復活!
メリー復活!
メリー復活!

・・・・・・まぁ正直な話、今回の蓮子や教授を見たら至極どうでもいいけど(え

No title

幻想郷でも大変なのに外でも大変だな、霖之助さんは。
かしましい蓮メリ夢美がかわいいですねー。そして呆れて見守る霖之助とちゆり。

親しみを覚える金髪と語尾!そして割と常識的!・・・あれ?まさかのちゆり大勝利フラグ?

No title

おもしろかったです。
このシリーズ大好きだw
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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