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酉京都幻想 第4話

『酉京都幻想 第3話』の続きっぽく。
この話の夢美教授は旧作以前の時系列です。つまり学会追放前。


霖之助 蓮子 夢美







 最初に見た瞬間から、嫌な予感がしていた。
 そして嫌な予感というものは的中するものらしい。


「言ったでしょう? アルバイトなら私が紹介してあげるって」


 依頼主と勤務地を見た時点で引き返すべきだったかもしれない。
 だがルールはルールだ。守らなければならない。

 例え偶然選んだアルバイト内容が、岡崎教授の実験の手伝いだったとしても。


「あなたたちの行動パターンよね。
 ふたりで受けられる、一番上に表示されていたアルバイトを選択するのは」
「……霖之助君?」


 蓮子がゆっくりと霖之助を振り向いた。

 目が怖い。
 ものすごく怖い。

 おそらく、霖之助が彼女に何か伝えたのではないかと疑っているのだろう。


「大丈夫、彼は何も言ってないわ。
 調べればすぐにわかる、それだけよ。
 久しぶりね、宇佐見さん?」
「ええ、岡崎教授。こちらこそ――」


 そう言って、蓮子は深々と頭を下げた。
 ちらり、と霖之助に視線を送る。


「うちの霖之助君がお世話になっているようで」


 うちの、を強調して。

 その言葉に、夢美も礼を返す。


「あなたの事も彼から聞いているわ。
 森近のお友達、らしいわね」


 お友達、を強調して。


「ふふふ」
「うふふ」


 ふたりにこやかに笑みを交わす。
 外見上は。


「……寒いぜ」
「風邪かい? 気をつけたほうがいいよ」
「……鈍いぜ」


 震えるちゆりは、霖之助の言葉に深々とため息を吐いた。


「受けた以上はやるが……」


 わからないことは考えない。
 霖之助は肩を竦めると、口を開く。


「こんな横槍は、これきりにしてくれよ」
「ええ、もちろんよ」


 夢美は頷き……一歩、霖之助に近づいた。


「今度からは、個人的にお願いするから」
「……あら残念ですね。
 私と霖之助君はいつも一緒ですから。
 私もついてきますけど」


 割って入るようにして、蓮子が口を挟む。


「……寒いな」


 どこからかやって来た寒気に、霖之助は首を傾げた。
 空調は完璧なはずなのに。


「で、実験ってなんなんですか?
 さっさと終わらせて帰りたいんですけど」
「せっかちね。
 そのほうが話が早いからいいけど。
 とりあえず座ってちょうだい」


 夢美に席を勧められ、ふたりは腰を下ろした。
 ちゆりがケーキを配る。
 もてなすつもりはあるのだろう。


「簡単に言うと、被験者になって欲しいのよね」
「実験の手伝いが被験者ということかい?」
「そうよ。転移装置を開発中なの」


 夢美は頷き、壁へと視線を移す。
 あそこにあるのが件の転送装置らしい。

 ……確かに霖之助の目にもそう見える。
 ただ、動くかどうかは別問題だが。


「転移……危険じゃないんですか?」
「大丈夫よ、ちゆりで実験済だから」


 この世界でも転送装置はいまだ実現していないようだ。
 蓮子が驚いた表情を浮かべていた。


「……成功しなかったけど」
「今不吉なこと言いましたよね」


 蓮子の言葉に、夢美は首を振る。
 大したことではない、と言わんばかりに。


「問題無いわよ。
 融合してしまうなんてことはないから」
「なんですか、それ」
「遙か昔にそんなムービーがあったんだけど……まあそれはいいわ」


 話が通じなかったことを残念に思ったようだが、気を取り直して彼女は言葉を続けた。


「とにかく、必要なのはふたり分の観測データなのよ」
「自分ではやれないのかい?」
「実験は観測が何より重要なの。
 宇佐見さんにならわかると思うけど?」
「……それは、まあ」
「じゃあ決まりね」


 頷く蓮子に、夢美は勝ったような表情を浮かべた。

 物理学者同士、わかり合うものがあるのだろう。
 本人はあまり気にくわないようだが。


「ほらほら、入った入った」


 ちゆりに背中を押され、装置の中へ。


「狭いけど、気にしちゃダメだぜ」
「観測する空間を最小限にすることでより正確なデータを求めてるのよ。
 決して予算をケチっているわけじゃないわ」


 言い訳が苦しい気がする。
 だが霖之助は言葉に出さず、黙っていた。

 それ以上気になることがあったせいでもある。


「本当に狭いね、霖之助君」
「あ、ああ」


 言葉通り、装置の中は本当に狭かった。

 蓮子は霖之助の胸に手を当てるような格好でくっついているが、どう考えてもふたり分の広さがあるとは思えない。

 狭い室内、蓮子の髪の香りが鼻孔をくすぐる。
 背の高さの違いで、蓮子は霖之助の顔を見上げ、口を開いた。


酉京都幻想


「……ね、腕……回していいよ」
「…………」


 蓮子の背中が壁に押しつけられているようだ。

 霖之助は一瞬の逡巡のあと……ゆっくりと腕を伸ばした。
 それに答えるかのように、蓮子も霖之助の背中に手を回す。

 抱きつくような格好になり、吐息と鼓動の音が大きく聞こえてきた。


「……んっ……」


 蓮子がゆっくりと目を閉じ……。


「はい終了、出ていいぜ」


 ちゆりの声に、慌てて外に出る。
 深呼吸と、


「……早かったな」
「そうだね」


 残念そうな蓮子の声。

 ……何となく、顔を合わせづらい。


「う~ん、何がダメなのかしら……」


 外の景色に、何も変わった様子はない。
 転移装置のはずだったのだが。

 そもそも、どこに転送する予定だったのかも聞き忘れていたことに今更気付いた。


「お疲れさんだぜ」
「どうなったんだい?」
「見ての通りだ」


 ちゆりは夢美に視線を送った。
 難しい顔でデータを調べる教授の姿。

 それだけで、失敗したと理解出来た。


「残念ね」


 なんだかんだで蓮子も期待していたのだろう。
 肩を竦め、装置を振り返る。


「成功したら、月まで無料で行けるかと思ったんだけど」
「そんな都合よくは行かないだろう」


 蓮子はため息を吐き、夢美に向き直った。


「教授はどこか目的地があったんですか?」
「え? ああ、そうね。私は幻想郷に行きたいんだけど……」
「……え?」


 思わず霖之助は声を上げた。
 だがふたりは気付かなかったようだ。

 助かった、とばかりにいつもの表情を取り戻す。


「なんですか、幻想郷って」
「魔法が当たり前に存在する世界らしいわよ」
「魔法?」
「ええ。魔力の存在を証明するのに、これ以上のターゲットはないわ!」


 熱、重力、電磁気力、原子間力。
 全てのエネルギーは同じものであるという統一原理。

 夢美は統一原理に当てはまらない力……魔力が存在すると学会に発表し、
笑われたことがあると少し前にちゆりから教えてもらった。

 どうやら一部では有名な話らしい。
 もちろん、この世界に来たばかりだった霖之助は知らなかったのだが。


「ふぅん。霖之助君、わかる?」
「……ぼちぼちは」


 突然話を振られ、霖之助は曖昧に頷く。
 魔力の存在……蓮子は信じていないようだ。


「理論は出来てるのよ。
 何が足りないのかしら」
「時間と空間……ねぇ」


 夢美の言葉に、霖之助は首を捻った。

 時間と聞いて、紅魔館のメイド長の姿が思い浮かぶ。
 彼女は確か……。


「ルナ・ダイヤル……」
「なにか言った?」


 霖之助の呟きに、蓮子は首を傾げる。
 しかし夢美にはしっかり聞こえていたらしい。


「月……そうよ、空間と時間は同じ延長……同じものと考えれば……月を基準にして……そうだわ」


 弾かれたように、夢美はなにやら書き込み始めた。

 突然立ち上がり、ふたりを振り返る


「ありがとう、なんとか光明が見えた気がするわ!
 報酬は振り込んでおくから、またよろしくね!」


 それで話は終わり、とばかりに霖之助と蓮子は研究室から放り出された。
 だがそれもいつものことなのだろう。


「またよろしく、だぜ」


 ちゆりに見送られ、ふたりは研究室をあとにした。








「変な人」
「それについては、全く同意するね」


 学校のカフェテラスで、ふたりは向かい合って座っていた。
 以前ケーキを奢ると約束したものの延び延びになっていたため、この機会にということになったのだ。


「ずっとあの教授の所に行ってるの?」
「世話になってるからね」
「ふ~ん……」


 何故か不機嫌そうに、蓮子が霖之助を見つめる。

 こういう時はヘタにリアクションしないほうがいい。
 ここしばらくの付き合いで、霖之助はそう理解していた。

 やがて蓮子はひとつ息を吐くと、手元のケーキへと手を伸ばす。


「あ、これおいしい」


 笑顔になった彼女に、霖之助は安堵のため息を漏らす。

 甘味は心を和ませる。
 ……奢ってよかった、とここまで思ったのは初めてかもしれない。


「霖之助君も食べればよかったのに」
「甘いものはさっき頂いたからね」


 コーヒーを飲みながら、霖之助は首を振る。

 研究室で出されたケーキを彼女は完食していた。
 つまり蓮子は2個目ということになる。


「甘いものは頭の栄養になるのよ。
 私みたいな頭脳労働派には必須ってことよね」
「間違ってはいないがね……」


 だからと言って食べ過ぎていいと言うわけではないと思うのだが。
 もっとも、適切な量自体が不明なのでなんとも言えない。


「…………?」


 ふと、霖之助は視線を感じて振り向いた。
 だが気のせいだったらしく、誰も見てはいない。


「ねぇ、霖之助君。口開けて」
「ん? ……んぐ」


 呼ばれて向き直った霖之助の口に、フォークの先が押し込まれた。


「どう、おいしい?」
「いきなり何をするんだ、蓮子」


 口の中に広がった甘味を慌てて飲み込む。
 そんな彼に、蓮子はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。


「最後の一口だったんだから、ちゃんと味わってよね」
「突然すぎて味なんかわからなかったよ」


 首を振る霖之助。
 フォークが刺さったりしたらどうするつもりだったのだろう。

 もちろん、その辺も考えてのことだろうが。


「それに僕の奢りなんだから、全部君が食べても……」
「霖之助君と一緒じゃないと、味の感想が言えないでしょ?
 それじゃ一緒に来た意味があんまり無いじゃない」
「……そういうものかな」
「そういうものなの」


 頷く彼女に、霖之助は肩を竦める。
 それを降参の印と受け取ったのか、蓮子は笑顔で顔を寄せてきた。


「と言うわけで、味を確認するためにもうひとつ、ね?」
「僕の奢りでかい?」
「もちろん」


 当然と言わんばかりの彼女に、苦笑を浮かべる霖之助。
 まあ、予想以上にバイト代も出たしそれもいいだろう。

 そうでなくても……。


「すみませーん、これとこれとこれを」
「さすがに頼み過ぎだろう」
「いいの。甘いものは別腹別腹」
「甘いものしか食べてないじゃないか」


 彼女のためなら、たいした問題ではないかもしれない。

 蓮子の笑顔を見ながら、霖之助はコーヒーのおかわりを注文することに決めた。
 彼女と一緒に、ケーキを味わうために。

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非公開コメント

No title

は、鼻血が!!

No title

大学生の恋愛模様って感じがビンビンきてたまりません。
こんなキャンパスライフを送りたかった…

「ちゆり聞こえる?今二人は何処にいるの?」
「今カフェテラスでケーキ食べてるぜ」
「そう。それで二人の様子は?」
「……甘いぜ」

No title

やった!続編だ!!
…ユカリェ;

No title

・蓮子ちゃんの高まって溢れる彼女力が素敵すぎて眠れない。もう霖の字の唇奪っちゃえばイイと思うよ。
・遙か昔のムービー…「ザ・フ〇イ」でしたっけ?某漫画のドライバーネタでしか知りませんが。
・いよいよ蓮子VS夢美の構図が固まってきましたが、我等がゆかメリーの動向も気になるところです。それ以上に気になるのは、霖之助不在の幻想郷がどんな惨状になっているのか、ですがwww
・カフェテラスで霖之助が感じた視線は、巫女と妹分とメイドとみょんに詰め寄られた紫が渋々開いたスキマ越しのモノだと思いたい。

No title

・・・・・・・・・!(蓮子可愛いよ蓮子!)

・・・・・・・・・!!(密室で抱き合う男女とか萌えるんですけど!!)

・・・・・・・・・!!!(このシリーズが待ち遠しい俺がいる!!!)

No title

連子はメリーの居ぬ間にどんどん彼女みたいになってるなwメリーが帰ってきたらどうなるのか

No title

ケーキ以上の甘さですねぇ
うぼぅ

なんか秘封倶楽部にはもう一人メンバーが居たような気がするんですけど・・・
誰でしたっけ?

紫「あ、ありのまま起こった事を話すぜ ちょっと幻想郷に戻って帰って来たら親友が、気になってた男性とまるで恋人のようになっていた」

ふむ…蓮子に嫉妬する紫が見れそうだ

No title

大学生活のなかのほの甘青春の蓮霖がたまりませんね

蓮子の攻めがほんにたまらん

No title

ジー・・・
<●> <●>

No title

そして、7年くらい前の幻想郷に跳ぶことになるわけねw
それはそうと、そろそろメリーにも救いをー!

No title

霖之助さんと蓮子さんの距離も急接近な展開に顔面が…。
お茶してる間に感じた視線は誰のものなのか…続きが気になりますね!
そしてメリー(紫)さんがどんどんフェードアウt(スキマ

No title

映画は蝿男のヤツでしたっけか。研究者と蝿が合体しちゃう。リメイクは駄作でしたが。

映画はさておき、蓮子がかわいすぎるww

もう帰る時に、彼女の今後の人生を買ったとか言って連れて帰っちゃいなよ!

そして登場人物欄に斜線すら惹かれないメリーが哀れすぎるww

No title

蓮子かわいいよ蓮子
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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