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角砂糖の星空

「鳥居の隕石について書けよフヒヒ」(概訳)とドルルンさんが仰ったので書いてみました。
例えばこんなスター霖。

スターの髪はきっとさらさらだと思います。


霖之助 スターサファイア








「星は何でも知っている。
 隠し事はダメよ、道具屋さん」


 日も落ち、そろそろ店を閉めようかとしていた矢先、ひとりの来客があった。
 蝶のような羽根を持つ、星の光の妖精……スターサファイアだ。


「いらっしゃい、スター。
 入ってくるなり、なんのことかな?」
「あら、とぼける気かしら」


 彼女は慣れた様子で店内を進むと、カウンターの前に腰掛けた。
 大人びた仕草と澄ました表情のせいもあってか、あまり子供っぽくは見えない。


「ルナが言ってたわよ。
 鳥の妖怪が星の本を持ってきてたって」
「やれやれ、お見通しか。
 まあ、口止めはしなかったがね」


 肩を竦める霖之助に、スターサファイアはにっこりと微笑んだ。


「出して?」


 お客然としたその態度に、霖之助はため息を吐く。


「……高い買い物だったかな」
「お目が高い、の間違いでしょう?」


 小声で言ったつもりだが、聞こえていたらしい。


「実物を手に入れられたんだもの。
 知識くらい安いものだと思うけど」
「そうは言うがね。情報は財産、そして力だよ」
「ええ、知ってるわ。私はそれを求めに来てるんだもの」


 少し前、鳥居の描かれた隕石を彼女から買ったことがある。

 その対価は、星に関する知識。
 店にある本を見せてくれればいいと言うスターサファイアの条件を霖之助は承諾した。

 ただひとつ問題なのは……。


「……まあ、期限を切ってなかったのはこちらの落ち度だが」
「あら、ご不満かしら」
「いいや。妖精にしてはしたたかだと思っただけさ」
「褒め言葉と受け取っておくわ。
 妖精にしては、は余計だけど」


 背の低い彼女が、大人びた仕草で表情を作る。
 そのギャップはなんとも微笑ましいものの……同時に油断ならないものでもあると霖之助はわかっていた。

 だからこそ、面白いのだが。


「ところで、あの星の欠片はどうなったのかしら」
「先日メイドに売ろうとしたんだがね、断られたよ。
 どうやらまだ時期ではないらしい。
 まあ、河童の五色甲羅が売れたからよかったが」


 縁起の良い物を探しに来た咲夜には、信憑性に欠けると一刀両断だった。
 まあまた別の機会もあるだろう。


「あら、じゃあまだ道具屋さんが持ってるのね」
「……まあね」


 売れていないことに苦い表情を浮かべていた霖之助だったが、スターサファイアは何故か嬉しそうにしていた。

 霖之助は気を取り直したように首を振ると、本棚から数冊の本を取り出す、
 昼間、朱鷺色をした妖怪少女から買った星の本だ。


「これが入荷した本だよ。
 まだ内容はしっかり確認してないんだけど」
「じゃあ、私が確認しておくわ」


 本を受け取り、スターサファイアは笑う。
 と言っても本を持っていくわけではないのでそう困らないのだが。


「あ、そうそう。
 これ拾ったから鑑定お願いね」
「ああ、承ったよ。
 少し待っててくれ、お茶を入れてこよう」


 彼女から小包を受け取ると、霖之助は台所に向かった。

 霊夢専用の湯飲みの隣に、最近子供用のカップが3つほど増えた。
 その中のひとつ、青いカップを手に取り、コーヒーを注ぐ。

 ルナチャイルドはブラック。
 サニーミルクはミルクたっぷり。
 そしてスターサファイアは角砂糖ふたつ。

 最近よく来るようになった彼女たちの味の嗜好をすっかり覚えてしまった。
 とはいえ、スターサファイアは他のふたりの前ではルナチャイルドと同じくブラックを飲んでいるようだが。


「お茶請けはこれでいいか」


 彼女たち妖精はそれぞれの能力に関係する道具を持ってくることがある。
 咲夜とは別の意味でお得意様だった。
 もちろん、買い取れないようながらくたも多いのだが。

 今回のスターサファイアが持ってきたのは、スターテンビリオンという名の遊具だが……。
 状態がいいので、誰かが無くした物だろう。


「待たせたね」
「ええ……」


 戻ってきた霖之助に顔を上げることなく、スターサファイアは熱心に本を読みふけっていた。


「人間って、何考えてるのかしら」
「ん?」


 彼女の呟きに、本を覗き込む。
 そこには白鳥や蟹、獅子やペガサスなど様々な動物の絵が描かれていた。


「どうやったら星空がこんな風に見えるの?」
「どうと言われてもね」


 星座に関しては古来から神話や伝説に事欠かない。
 人間がそれだけ宇宙に想いを馳せていたという証拠だろう。

 だが人間の信仰や恐怖心から生まれる神や妖怪と違って、
自然現象そのものの具現たる妖精にはわかりにくい価値観かもしれない。


「幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉もあるが……。
 つまりはその逆だよ」
「すすきの穂と星を一緒にされたくはないけど」


 スターサファイアは肩を竦めると、手元の本を指さした。


「この星の並びで白鳥座って……よく見えたわね」
「人間の発想力は偉大、ということさ。
 あとは……」


 霖之助は香霖堂の窓から空を見上げた。


「星が綺麗だったんじゃないかな」
「え?」


 たったひとつのシンプルな答えだ。
 無限の星空には魅了されるだけの力がある。


「ん? どうかしたかい?」
「ううん、なんでもないわ」


 何故か顔を赤らめるスターサファイアに、霖之助は首を傾げた。
 彼女はなんでもないと言わんばかりに首を振ると、別の質問を投げかけてくる。


「ねえ、どれがふさわしいかしら」


 星座の一覧を見ながら、スターサファイアは微笑んだ。


「……まだ探してたのかい?」
「当然でしょう?」


 当たり前だと言わんばかりに、彼女は笑う。


「空に輝く天頂の星。私の星はどれかしらね」
「てっきり君は星空の妖精だと思ってたよ」
「だとしてもよ」


 ルナチャイルドは月。
 サニーミルクは太陽。

 どちらもひとつしかないものだ。
 スターサファイアは……どうなのだろう。


「壮大なのも好きだけど。
 いえ壮大こそが私だけど、例えば空を指したときに基準があったほうがいいじゃない?
 あれが私、みたいな」
「まあ、好きな物が増えることはいいと思うよ」


 ただ決めたいだけなのだろう。
 一度決めたとしても次には変わってるかもしれない。

 その程度のことだ。


「有名所で北極星なんてどうかな」
「いやよ」


 霖之助の言葉に、スターサファイアは首を振る。


「道標に使われる星なんて妖精らしくないわ」
「らしくない、ねぇ」
「道に迷わす星があったら大歓迎だけど。
 妖精はイタズラが仕事だもの」


 お気に召さなかったらしい。
 机に置いた本のページをめくり、次の星を指す。


「じゃあ……アンタレスとか」
「私、サソリっぽい?」
「いや全然」


 反応は予想通りの物だった。
 だが機嫌を悪くした様子がないのは……やはりこれも単なる暇つぶしだからだろう。


「ベガとかどうだい?」
「彦星もいないのに?
 それとも見つけてくれるのかしら」


 スターサファイアの言葉に、霖之助はため息を吐いた。


「難しいね」
「難しいからこそ探してるんじゃない」


 ……本気で探しているようには見えないが。
 その言葉を、霖之助は飲み込む。

 その難しさの原因の大半は、彼女の趣味なのだし。


「仕方ない、また今度探すことにするわ」


 そう言って、スターサファイアは本に目を落とす。
 今日は普通に内容を楽しむことにしたようだ。


「ところでこの光年ってどういう意味かしら」
「ああ、これは距離を表しているのさ」


 他の星は、遙か遠くの場所にある。
 手の届くことのない距離。
 だからこそ、美しい。


「読んで字の如く、光が1年に進む距離らしいよ」
「ふ~ん」
「つまり今幻想郷に届いているのは、何十年も前の光という話だ。
 この光が届くことには、もしかしたらもうその星はなくなってるのかもしれない。
 なんとも幻想的な話じゃないか」
「そうなんだ」


 と言ってもよくわかっていないようだ。
 まあ、遙か遠くということは理解出来ただろう。


「儚いわね、星って」
「自分で言うかね」


 霖之助は苦笑し、スターサファイアが持ってきた道具の鑑定を始めた。

 いつもの沈黙。
 だが、居心地のいい空気。

 お互いの存在を環境音にして、ふたりは静かな時間を楽しんでいた。







「そっか。時間がかかるんだ」


 ぽつりとスターサファイアは呟いた。
 甘いコーヒーに口を付ける。

 目の前にいる彼は、鑑定に集中しているのか視線に気付いてない。


「この想いは、いつ届くのかしら」


 そう言って、コーヒーをもう一口。
 優しい味だ。

 だからこそ……。


「届いてから決めようかな、私の星」


 一番近くて4年とちょっと。
 遠くの星だと見当も付かない。

 だけど、きっと大丈夫。

 例え何年かかろうとも、星の光は必ず届くのだから。

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非公開コメント

No title

星って意外と遠いんですよね。
でも、その間にじっくり、少しずつ関係を深めるというのもいいですね。
まぁ、この店主さんは牽牛星よりかは遥かに手ごわそうですがw

No title

星知識ラッシュに圧倒されましたが・・・・・・スター霖!そういうのもあるのかb


しかしまぁ大人びた幼女は良いなぁ、さくらまやとか

No title

聞き分けある魔理沙っぽいなと思ってしまった不覚にも、星つながりで

妖精って妖怪と同じで長命なんだっけか・・・?どちらにしろ実ってほしいなぁ
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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