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初雪の降る頃に

冬も近づいて参りました。いやもう冬かもしれませんが。
というわけでかなり前にリクエストがあった気がするレティ霖。

そうだ、基本に返ってみよう。
霖之助はツンデレという(ごく一部の)基本に……!


霖之助 レティ








 紅葉が舞う頃、ひとりの少女が香霖堂を訪れていた。

 少女が玄関をくぐると、香霖堂の店主は驚いた表情を浮かべる。
 窓の外を見、季節を確認。

 信じられない、といった顔で口を開いた。


「とんだフライングだよ」
「早くあなたに会いたかったの」


 頭を抱えながら、霖之助は肩を落とす。

 雪女……レティは、彼の表情を楽しそうに眺めていた。


「本格的な冬はもう少し先だと思ったがね。
 少し来るのが早すぎるんじゃないかい?」
「冬一番って感じかしら」
「春一番なら知ってるが……」


 春一番はその年に初めて吹く南風だ。
 冬の場合は……やはり北風だろうか。


「春一番は春の訪れを知らせて悲しくなるけど、
 そのあとしばらくはまた寒い日が続くのよね」
「ああ、そうだな。
 だがそのあとに訪れる春を思えばこそ耐えられるものだよ」
「ロスタイムってやつかしら」
「違うと思う」


 一体どこで覚えたのだろうか。
 少なくとも、使い方は間違っていると思う。


「君が現れるのは寒さの厳しい日のはずだろう。
 いや、君が現れるから寒さが厳しいのか……?」
「だって急がないと店に入れないじゃない。
 霖之助ったら、ストーブとか出しちゃうし」
「当然だろう。防寒対策は生活の基礎だからね」
「だから早めに来たのよ。あなたの顔を見にね」


 楽しそうなレティに、霖之助は首を振る。


「何か急ぎの用事があったとか……」
「いいえ? ないわよそんなもの」
「……マイペースだな、相変わらず」


 ため息を吐きながら、彼女の顔を見返した。
 初めて会ったのはもう随分昔のことだ。


「変わらないな、君は」
「変わってしまったわね、あなたは」
「そうかい?」
「そうよ」


 霖之助は首を傾げる霖之助に、レティはため息。


「昔はあんなにベタベタしてきたのに。
 散々酔わせて利用して弄んで。
 私の身体だけが目的だったのね」
「誤解を招く発言は慎んでもらおうか。
 そう言う契約だったはずだろう、元々」


 寒気を操る事の出来る彼女は、あまりやりたがらないが寒気を和らげることが出来る。

 香霖堂を構え、まだストーブが思い通りに使えなかった頃の話だ。
 酔わせた分だけ寒さを和らげてくれるという彼女の話に乗り、冬を一緒に過ごしていた時期があった。

 寒気を和らげると言っても、レティが下げた寒気を元に戻すだけだったのかもしれない。
 今となっては確認のしようもないが。


「またやらないの? 楽しかったんだけど」
「やらないよ。
 あの時とは違って暖を取る方法はいくらでもあるからね。
 燃料に対価は必要だが、ストーブもあるし。
 それに比べれば、君の酒代のほうが高く付く」
「……やっぱりこのストーブのせいね……」


 いまだ火の入らないストーブを見つめるレティの目には、剣呑な光が宿っていた。
 そろそろ燃料を持ってきてくれるはずなので出しておいたのだ。

 ……早まったかもしれない。


「道具に嫉妬するのは止めてくれないか」
「だって悔しいんだもん。
 私の霖之助がストーブなんかに取られちゃって……」
「誰が君のだ」


 ため息を吐く霖之助に、レティは笑顔を向ける。


「いっそ壊してやろうかしら」
「僕の生活が洒落にならなくなるから勘弁してくれ」


 ……笑顔で言うセリフではないと思うのだが。

 替えが効かないわけではないが、それなりに愛着もある。
 レティはストーブを軽く小突きながら、なにやら考え込んでいた。


「燃料が無いと動かないのよね」
「それはそうだが……何を企んでいるんだい?」


 予想は出来るが、一応聞いておく。


「ん~、でも燃料を持ってくる妖怪って強そうなのよね」
「弱そうだったら何をする気だったんだ」
「え、そりゃもう」


 そこで彼女は言葉を切った。

 毎度思うが、レティはわりといじめっ子気質だと思う。
 ちょっかいを出されるほうはたまったものじゃないが。


「そこまでして僕を寒がらせたいのかい」
「当たり前じゃない。
 でも、私よりあの女がいいのね……」
「確かに、君より温かそうではあるが」


 紫が直接灯油を入れてくれることもあるのだが、だいたいは藍がポリタンクを持ってくることが多い。
 どのみちひと冬分の燃料となるとかなりの量なので、一度の給油では足りないのだ。


「……えっち」
「失礼な」


 決して、藍の尻尾にくるまったりしたらさぞ温かいだろう等と言う事は考えていないのに。

 レティはなにやら霖之助を睨んでいたが、やがて大きく息を吐き出した。


「ずっと冬だったらいいのに。
 いつかみたいにまた異変起こしてくれないかしら」
「よしてくれ、縁起でもない」
「あら、どうして? 冬のほうが利点がいっぱいでしょう?」
「寒いことがかい? 君にとってはそうかもしれないがね」


 寒いほうがいいなんて思う人妖は彼女か氷精くらいのものだ。

 しかしそうすると、いつかの異変は誰が何のために起こしたのだろうか。


「いっそ私が起こそうかしら、永冬異変」
「そして霊夢に退治されるわけだね」
「あら、その時は霖之助が助けてくれるんでしょう?」
「庇い立てする義理もないな。むしろ僕も被害者だよ」
「ずっと私に会えるんだからむしろ幸運じゃないかしら」
「その自信はどこから来るんだい」


 霖之助は肩を竦めると、窓の外に視線を向けた。

 もう秋も終わりだ。
 本格的に彼女の季節がやってくる。

 今頃妖怪の山では秋の神が暗い表情をしていることだろう。


「まあ、完全に封印されそうになったら止めてやらなくもないがね」


 視線を外に向けたままぽつりと呟いた彼の言葉に、レティは笑みを浮かべる。


「ふふっ」
「なんだい?」
「あなたの顔、冬みたいね」
「……それは寒いということかな? それとも冷た……」
「違うわよ。もう、冬のイメージがひどいんじゃない?」


 彼女は憤慨したように腕を振った。
 そして深呼吸して口を開く。


「一見冷たく見えても、いろいろな表情を見せるところとかよ」


 レティは霖之助に近寄り、その頬を指でつつく。


「仏頂面に見えても、いろんな顔をするわよね。
 気付いてるかしら、霖之助?」
「…………」


 彼はなにも答えない。
 その様子に、レティはますます笑みを深める。


「驚いた顔も、悔しがってる顔も、苦笑いも、嬉しそうな顔も、寒そうな顔も。
 どれも見てると嬉しくなるわ」
「それで冬みたい、か」
「ええ」


 そこまで聞いて、霖之助は呆れた表情を浮かべた。
 ようやく思い至った、と言わんばかりに。


「……本当に、顔を見に来ただけなのかい?」
「最初からそう言ってるじゃない」


 何を今更、とレティが肩を竦める。
 そして彼女は、霖之助から距離を取った。


「じゃあ、今日は帰るわね」
「そうかい?」
「早めに起きて疲れちゃったし。諦めが早いのよ、私は」
「冬の妖怪だからかな」


 冬は必ず春になる。
 少々長いこともあるものの。

 別れは必ずやってくるのだ。


「……雪見酒なら、いずれ付き合おう」
「え?」


 帰ろうとしたレティの背中に届いた言葉に、彼女は思わず振り返った。


「初雪が降ったら、また来るといい。
 ただし、寒さは緩和してくれると嬉しいがね」


 霖之助はやはり視線を外したまま。

 照れているのだろうか。
 それとも……。


「わかったわ」


 レティは頷き、扉に手をかけた。

 言葉は要らない。
 顔を見ればわかるから。

 ずっと見てきたのだから。


「また会いましょう、霖之助」
「ああ、また」


 そう言って、ふたりは別れる。
 また会うために。

 初雪の、降る頃に。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

レティ霖きたああああ マイベストカップリング! 
ここでチルノをくわえて親子談とかもよし

No title

暖房なければレティさんと過ごせるというのであれば自分は暖房を投げ捨てよう

No title

色々と素直じゃない霖之助がかわいいw
けど、最後に少しだけ素直になった霖之助はもっとかわいかったです!

No title

レティ霖ワッホィ(´∀`)
清涼感ハンパじゃないカップルですねww

この二人の雰囲気好きですww
冬の間はずっとイチャついてても良いですね(*´∀`*)

No title

レティ霖じゃないですか!やったー!!
ありがてぇありがてぇ。お陰で色々と満たされました。(感謝

・・・うん、ちょっと香霖堂のストーブ壊しに行って来r(スキマ

ラストで、新雪のようにキラキラな笑顔になったレティさんが見えた気がします。
…さて、ストーブを買収するための金を稼いできますかな。

No title

レティ霖はいいものだ……
はじめまして。いつも楽しく拝見しております。
霖之助さんのツンデレっぷりとそれを見て楽しむレティさんウフフ。
レティ霖はもっとメジャーになってもいいと改めて思いました。

No title

 
レティさんマジ乙女。

部屋のストーブ封印したら添い寝しに来てくれないかな…(

No title

最初突き放しておいて、最後に条件付で受け入れる霖之助さんマジツンデレw
この二人は何だかんだで結構付き合い長そうですよね。
勿論夫婦的な意味d(ry
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道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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