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いぬのおまわりさん

恋の迷路
SAGさんの絵にSSをつけさせていただきました。


霖之助 咲夜









 扉を開けると、エントランスのホールが見えた。
 つまり、先ほど入ってきた場所だ。


「……間違えたかな」


 どうやらぐるりと回って一周してきてしまったらしい。

 紅魔館に配達に来たのはいいものの、霖之助は屋敷内で迷ってしまっていた。
 前回来た時と屋敷内の構造が変わっている気がする。

 先ほど開けた扉は妖精メイドの控え室だった。
 誰もいなかったのが幸いだったが、もし着替え中だったら大惨事になっていたことだろう。


「おや?」
「あら、霖之助さん」


 見ると、廊下の向こうから見知った顔が近づいてくるのが見えた。
 紅魔館の瀟洒なメイド。咲夜だ。

 向こうも霖之助に気付いたらしく、会釈を送ってくる。


「ああ、丁度よかった。実は少し迷ってしまったようで……というか、前に来た時より広くなってないか? この館」
「あら、ここは悪魔の館ですもの。広さくらい変わって当然ですわ。それより……案内役は必要かしら?」
「ああ、お願いするよ」


 咲夜の申し出に、霖之助は苦笑しながら頷いた。
 これ以上自分で探索するのも限界がある。

 吸血鬼の館というのはどこもこうなのだろうか。


「迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたの目的地はどこですか?」
「それだと僕が子猫になってしまうな」
「あら、いいじゃないですか。可愛いですよ、子猫」


 歩きながら歌う咲夜は、完璧な笑顔を浮かべる。
 霖之助はその笑顔を見ながら、自分と彼女を交互に指さした。


「すると君が犬のお巡りさんかい?」
「悪魔の犬ですから、当然ですわ。
 わんわん」


 犬の鳴き真似をする咲夜に、霖之助は肩を竦める。
 妙に似合ってて……似合いすぎてて返答に困るのだ。

 そうこうしているうちに、咲夜が足を止めた。


「はい、着きましたよ」
「ん?」


 目の前にあるのは壁、そして階段だ。
 しかも登りではなく、降りるための。


「こちらが地下の入り口ですわ」
「それは見ればわかる……が、こんな所に移動していたのか」


 何度も通ったことがあるそれに、ひとつ頷いた。
 記憶とは随分違う場所にあるようだ。

 頭の中で地図を描き直す。
 ……既に怪しい部分が多々あるのだが。


「パチュリー様や妹様にお会いになる場合は、こちらで」
「了解。しかしあいにくだが、今日は会う用事はないんだがね」
「まあひどい。
 パチュリー様ががっかりしてしまいますわ」


 咲夜は冗談めかしてため息を吐いた。
 そんな彼女に、霖之助は首を振る。


「いや、今日は仕事で来たからね。
 時間があったら寄るくらいのつもりだったんだが」
「あら、ではゆっくり案内しないといけませんわね」
「……ん?」


 なにか気になる言葉が聞こえた気がするのだが……。
 それが何かを確認する前に、彼女は歩き出した。


「どうしました?
 次に行きますよ」
「あ、ああ」


 わからないことは気にしないの精神で、忘れることにする。
 再び咲夜が足を止めたのは、それからしばらくしてのことだった。


「こちらが厨房ですわ。
 主に妖精メイドが自分たちの食事を作ってます」
「客用の食事は作らないのかい?」
「余力があれば、作るみたいですけど」


 なるほど、つまり作らないということか。
 人里で流れている紅魔館の噂を思い出し、霖之助は納得したかのように頷いた。

 曰く、食べられるものがない、と。


「なにか作りましょうか?」
「いや、腹は減ってないよ」
「そうですか。
 せっかく腕によりをかけようと思ったんですけど」


 咲夜はいつも通りの完璧な笑顔で微笑んだ。
 冗談なのか本気なのか判断に困るところだ。


「今は案内中だろう。
 食事はあとで頼むよ」
「それもそうですね。
 次にご案内します」


 歩く咲夜についていくこと数分。
 平坦な道のはずなのに登っているようでもあるし、降りているようでもある。

 ……おそらく空間を弄ってあるせいだろう。
 つまりはまあ、咲夜のせいということだ。


「こちらが浴室となっております。
 あ、男子禁制ですから入らないでくださいね」
「……咲夜」
「はい?」


 案内された場所に、霖之助は頭を抱えた。
 大きくため息。そして、正面から咲夜を見る。


「僕は案内を頼んだんだが」
「ですから案内をしておりますわ。
 この紅魔館の」


 確かにその通りだ。
 その通りだが……違う。


「僕は仕事で来た、と言っただろう。
 配達先……レミリアに用事があるんだよ」
「あら、そうなのですか?
 私はてっきり……」


 てっきり、何だと思ったのだろうか。
 はっきり言わなかった霖之助が悪いのだろうか。

 ……やや天然なところのある彼女は、たまにこういうことをやらかすから困る。


「レミリアの所まで、案内を頼むよ」
「はい、かしこまりました」


 改めて、霖之助は咲夜に注文を取り付けた。
 迷い無く歩く咲夜に、しかしやはり若干の不安がよぎる。


「こちらテラスです。
 お嬢様はよくここでお茶を飲んでいらっしゃいますわ」
「ああ、それは知ってる……」


 霖之助も紅魔館に呼ばされた際、お茶会に何度かお邪魔したことがある。
 テラスの場所は変わっていないようだ。
 ……行程は随分変わっているようだが。


「いないようだね」
「そのようですね」


 テラスの周辺を見渡し、肩を竦める。
 確かに彼女の言うとおり、あの特徴的なシルエットが見当たらなかった。


「じゃあ、こちらに来ていただけます?」
「ああ」


 言われるがままに、咲夜についていく。
 やがて彼女はあるドアの前で立ち止まった。


「こちらお嬢様の私室ですけど、無断では入らないでくださいね」
「わかっているよ。
 ……いるかい?」


 咲夜に案内されたのは、この館の主の部屋らしい。
 ……結局屋敷内を観光しているような気分になってきた。
 これではさっきと変わらない気がする。


「困りました」
「何がだい?」


 レミリアの部屋から出てきた咲夜は、肩を竦めてそう言った。


「どうやらお嬢様が屋敷内で迷……いえ、散歩されているようです」
「……ふむ。つまり?」
「書き置きを残しておきますから、探しに行くより待ったほうが確実かと」
「なるほどね。確かにその方が早そうだ」


 言いながら、咲夜は歩き出す。
 書き置きはすでに残してきたのだろう。

 相変わらず仕事が早いことだ。


「では、こちらで待つことにいたしましょうか」


 咲夜はとある扉に手をかけ、そう言った。
 その様子に、霖之助は思わず首を傾げる。


「ん? テラスで待つんじゃないのかい?」
「いえ、テラスには書き置きを残してきましたので」
「……そうか」


 あのあとテラスには寄っていない。
 となると、最初に訪れた時にだろうか。

 もしかしたら、こうなることを予想していたのかもしれない。


「こちらが私の部屋です。
 どうぞ、霖之助さん」
「……いいのかい?」
「何がです?」


 当然と言わんばかりの咲夜の表情に、霖之助は少々戸惑ってしまった。
 だが、変に気にしても仕方がない。


「いや……そうだな。お邪魔するよ」
「ええ。自分の部屋と思ってくつろいでくださいね」


 案内された部屋は、シンプルだが上品にまとまっていた。
 だがそれ故、部屋の一角を占める道具の山が異彩を放っている。

 香霖堂で仕入れた珍品などが山のように詰まれていた。
 だがよくよく見ると、ひとつひとつ綺麗にディスプレイされている。


「おや、これは……」
「はい、月の一件のあと頂いたんですよ」


 霖之助は並べられている中に河童の五色甲羅を見つけて声を上げた。

 振り向くと、咲夜はテーブルに紅茶を用意している。

 こうして彼女にもてなされるのは初めてかもしれない。
 今は紅魔館のメイドではなく、この部屋の主として、なのだろう。


「こうして並べられていると、道具屋冥利に尽きる気がするね」
「そうですか?」
「ああ。この道具たちも、君に買ってもらってよかったと思っているだろう」
「道具もやはりそのように思うのでしょうか」
「思って欲しい……というのは、僕のわがままかな」


 やや照れたように笑う霖之助に、しかし咲夜は首を振った。


「私も、とても素敵だと思います」
「……そうか」


 なんとなしに、見つめ合うふたり。
 ふたりの間には、紅茶の湯気だけが存在していた。

 一歩、咲夜が踏み出した瞬間……。
 コンコン、とノックの音。


「さくや~……」
「あらお嬢様。お待ちしておりました」


 続く声に、咲夜は一瞬でドアの前に移動していた。
 いつもの手品らしい。
 今の咲夜は紅魔館の……レミリアのメイドとしての顔なのだろう。

 涙目のレミリアは、あえて見なかったことにしておく。


「なんでおうちがいきなり広く……んん?」


 椅子に座り、紅茶を口に運ぶ霖之助に、レミリアはようやく気付いたようだ。
 慌てて背筋を伸ばし、いつもの態度に戻る。


「あら、来てたのね店主」
「ああ、お邪魔しているよ、レミリア」


 初めて気付いたような態度で、霖之助は顔を上げた。


「注文の品を持って来たんだよ。
 こちらから挨拶に行こうと思ったんだが、少々道に迷ってしまってね。
 探したんだが、君の姿が見つからなかったもので」
「あら、そうなの。
 屋敷内を少し散歩していたから、仕方ないわね」


 どこまで信じていいものやら。
 だが何も言わない。
 それが商売の……人生のコツというものだ。


「こんなところで悪いけど、くつろいで頂戴」
「ええ、こんなところですけど」


 こんなところ、と口を揃えて言うふたりに、少しおかしさがこみあげてきた。


「ああ、よくしてもらってるよ。
 この紅茶も素晴らしいね」
「当然よ。
 咲夜は優秀なメイドだもの」
「お嬢様、こちらへ」


 咲夜はレミリアを空いている椅子……霖之助の正面へと座らせる。
 確かによくできたメイドだ。


「咲夜も座ったらどうだい?」
「いえ、私は……」
「座りなさいよ。あなたの部屋なんだし」
「……はい」


 やはり主人命令は絶対らしい。
 咲夜は予備の椅子を引っ張り出し、レミリアの隣に腰掛けた。
 3人しかいないので、つまり霖之助の隣でもあるのだが。


「そう言えば店主、どれくらい待ったのかしら?」
「いや、ほとんど待ってないよ。
 この部屋について数分と言ったところかな」


 それ以前に、散々探し回りはしたのだが。


「そう、ならいいわ」
「まあ、もっとも……」


 霖之助はぽつりと呟く。
 咲夜にだけ、聞こえる声で。


「こんなところなら、ずっと待っていてもよかったかな」
「ふぇ?」


 その言葉の意味をゆっくりと噛み砕き……。
 ぽん、と顔を赤らめる咲夜に、レミリアは不思議そうに首を傾げる。


「あれ、どしたのさくや」
「い、いいえなんでもありません」


 そんな主従のやりとりを、霖之助は温かく見守るのだった。

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非公開コメント

No title

甘い!天然物の咲夜さんは甘すぎるぞー!
霖ちゃんが気づいているのかどうかはさておき,もうくっついちまえよ!

No title

>悪魔の犬ですから、当然ですわ。
つまりあそこも犬、と……。
犬プレイが望みか。

No title

レミリア…最後わかってて聞いたでしょw
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
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