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勝っても負けても

元ネタと挿絵をしゅまさんに描いていただきました。
感謝感謝。

『昔と今と』の続きかもしれないしそうでないかもしれない。
文は出てこないけど。


霖之助 幽香






「貴方は昔のほうが素敵だったわ」


 少女はそっと霖之助の胸に寄り添った。
 そして見上げるように、彼の顔に手を添え……。


「返してくれないか、幽香」


 霖之助はため息を付いた。
 幽香の手には、霖之助のかけていた眼鏡が握られている。


「こんなものをつけて、澄ました顔しちゃって。
 かつての貴方は、もっとギラギラした眼をしてたのに」
「昔の話はやめてくれないか」


 いろいろとやんちゃしていた時代は、確かにあった。
 人間と妖怪のハーフという境遇だ。
 そうでなければ生きていけなかったというのもある。

 しかしある時大妖怪に喧嘩を売り、そのまま返り討ち。
 そして大人しくなったわけだが……。


「これ、壊したら昔の貴方に戻ってくれるかしら」
「昔は昔、今は今だよ。
 ……本当に壊れる。やめてくれ」


 あくまで笑顔の幽香に、霖之助は首を振った。
 一見ほろ酔い気分で機嫌が良さそうに見える彼女だが……。
 幽香の笑顔ほど怖いものはない


「昔は昔。
 そうやって切り捨てていくのね。
 記憶も、私も」


 彼女は潤んだ瞳で霖之助に身を寄せる。
 服がはだけ、胸の谷間が露わになっている。

 いろいろと目に飛び込んできたので、慌てて目を逸らす。

 妖怪の山にある守矢神社で開催されている宴会は、どこでも喧噪に包まれているようだ。
 幽香がここまで来るのは珍しいと思ったが……霖之助も人のことは言えない。


「幽香、酔いすぎだよ」
「あら? せっかくの宴会だもの。
 楽しまなければ損じゃない?」
「絡まれる方の身にもなって欲しいね……まったく」


 霖之助は助けを求めるように、視線を彷徨わせた。

 しかし自ら望んで危険に近づこうというものはいないようだ。
 もともと霖之助が離れた場所で酒を呑んでいたせいもあるが……

 もしくは、些細なことに気付かないほど盛り上がっているのか。


「なになに、面白い話?」


 だがどこにでも例外はいるようで。
 チルノがなにやら楽しそうに近づいてきた。

 手にいっぱいの料理を持っているところを見ると、食べ歩きをしているようだ。


「昔の話よ。
 まだ霖之助がヘタレてなかった頃の話」
「待て。その言い方だと今の僕がヘタレているように聞こえるが」
「あら、だってそうじゃない。
 現に今も、手を出してこないし」


 幽香ははだけた胸元をひらひらさせつつ、鼻で笑う。


「今も昔も、手を出した覚えはない。
 ……こう言う場では」
「へー、りんのすけって強かったんだ」
「そうね、昔はね」


 言いながら、チルノは霖之助の前に置いてあったパスタに手を伸ばした。
 外の世界から来た神社らしく、出される料理も変わったものが多い。

 これだけで来た甲斐があるというものだ。


 幽香は頷きながら、チルノに答える。


「私はよく霖之助に泣かされてたわ。
 ええ、毎晩のように」
「僕もそのあと別の意味で泣いたよ。
 体力的にね……」


 首を振る霖之助。
 しかし彼女は楽しそうに笑う。


「あら? とても楽しんでいたように見えたのだけど」
「最初のほうはそんな余裕はなかったが、最後のほうは、ね。
 君の弱点もわかってきたから……」
「……そう……」


 最後、と聞いて幽香が沈んだ表情を浮かべる。
 別れたのはずっと昔だというのに。


「なんかよくわからないけど、なんかよくわかった!
 りんのすけが昔はさいきょうだったんだね!」


 チルノがよくわからないことを言っていたので、曖昧に頷いておいた。
 両手いっぱいに、来たときとは違う料理を抱えている。

 持ってきた料理はもう全部食べたらしい。


「でも今はあたいがさいきょうだけど」
「ふふ、そうかもね」


 胸を張るチルノの頭を撫でつつ、幽香は笑う。

 酔っているせいだろうか。
 その微笑みはとても優しいものに見えた。


「最後、か……」
「何か言ったかい?」
「いいえ、なんでも」


 幽香が答えないのを不思議に思ったが……。
 気を取り直して、呑むことしばし。


 周囲の様子がおかしいと気付いたのは、それからどれくらい時間が経った時だろうか。


「霖之助さん!」


 なにやら興奮した様子で、早苗が近づいてきた。


「本当なんですか? いや、私もそうじゃないかと思ってたんですが……」
「早苗、何の話だい?」


 突然言われても意味がわからない。
 しかし彼女はなにやら興奮している様子で、聞く耳を持っていないようだ。


「ふーん、りんのすけがねぇ。
 いやはや、荒事は出来ないなんて言っておいてずるいんだから」


 いつの間にか、背中に萃香がくっついていた。
 酒臭い息で、耳元で囁く。


「萃香まで、何を言ってるんだ?
 僕になにかあるのかい?」
「ん~? いやいや、楽しみが増えたなぁとね」


 要領を得ない彼女たちの返答。
 ぐいっと瓢箪を呷る萃香に、幽香が言葉をぶつける。


「あら、鬼が人のものに手を出すつもり?」
「出すより合わせて貰いたいところだねぇ。
 お望みとあらば出してもいいけど……。
 そもそも、今でもあんたのものなのかな?」
「……何か言ったかしら?」


 気が付けば、ふたりを中心にギャラリーが出来ているようだ。
 それに加え、萃香と幽香の間に高まる不穏な空気。


「早苗、説明を頼めるかな。
 どうもさっきから見られている気がしてね……」
「え? だから聞いたんですよ」


 霖之助に熱い視線を送りつつ、早苗は答えた。


「チルノが言ってたんです。
 霖之助さんは幽香さんより強いって」
「……なんだって?」









俺得漫画


「うっかりたまには宴会に出てもいいと思ったら……」


 本日何度目かのため息を吐く。


「これだから幻想郷の宴会は嫌なんだ」


 いつの間にか、霖之助は舞台の中央へと押し出されていた。
 特設ステージの設えられたそこで、幽香と向き合う。


「あら、逃げ出すつもりなのかしら」
「できればそうしたいところだがね。
 許してくれないだろう?」


 先ほどの会話を、チルノがさんざん言いふらしていたらしい。
 ただし、チルノがさいきょう、の部分は誰ひとりとして耳を貸さなかった結果、今に至る。
 簡単に言うとそう言うことらしい。

 もしくはチルノの言葉を真に受けるほど皆が酔っていたのか……。
 単に騒げれば何でもいいのかもしれない。


「森近霖之助。
 貴方が強いのか弱いのか、これで白黒付けましょう」


 ジャッジを務めるのは映姫だった。
 彼女までもこんな騒ぎに荷担するとは……少しだけ、頭が痛くなる。


「しかし腕相撲とはね。
 平和的で何よりだよ」


 再びため息。

 皆の注目を集める中、それならばということで何か勝負することになったのだが。
 河童の強い主張で相撲になりかけたところを、霖之助が断固として反対。
 周りの少女も反対したので、紆余曲折を経て腕相撲になったのだった。

 幽香が残念そうな顔をしていた気はするが。


「霖之助、賭けをしましょう」
「なんだい?」
「勝った方が、負けた方に何でも命令をしていいっていうの」
「……叶えられる範囲だろうね」
「それはもちろん」


 幽香の言葉に、ふむと考える。


「分の悪い賭けだが……」


 だが、嫌いではない。
 それに理由もある。

 やがて霖之助は大きく頷いた。


「いいだろう、受けよう。
 それより、条件を忘れないでくれよ」
「ええ。約束通り、妖力は使わないわ。
 でも、本気で行くわよ」
「本気はいいが、全力は勘弁してくれよ」


 妖力無し、能力無し。
 ただ純粋に、肉体的な能力だけで勝負が付く。

 賭けを受けたのは、万一にでも幽香に全力を出させないためだ。
 ルールを破ればその時点で賭けは無効になる。

 彼女が全力を出せば、霖之助は間違いなく無事では済まないだろう。


「では、始め!」


 映姫の言葉で、戦いの火蓋が切って落とされた。


「ぬん!」
「む……!」


 勝負は一瞬。
 ……そのつもりだった。


「あら、当てが外れた顔をしてるわね」
「……それはどうも」


 この細腕に、そこにそんな力があるのだろう。
 純粋な妖怪たる幽香相手に長期戦は不利と見て、一気に勝負を付けようかと思ったのだが。
 もしかしたら、読まれていたのかもしれない。

 ふたりの組んだ腕は、中央から動かない。

 額に汗を滲ませつつ、幽香が不敵に微笑んだ。


「……粘るわね。
 それほど私に命令したいのかしら」
「そう思ってもらっても構わないがねっ……」
「えっ……?」


 幽香の力が一瞬弱まったところで、霖之助は再び攻勢をかける。


「それ終わったら次私とやろうぜ~」
「誰がやるかっ!」


 萃香の野次に叫び返したところで……。


「ふふ、ふふふ」


 幽香の声が響き渡った。
 今にも倒れそうになっていた彼女の腕は、しかしある一点から頑として動かない。


「……ますます、勝ちたくなってきたわ」


 あと少しで霖之助が勝つ。
 その地点から、一気に逆転される。


「そして絶対、私は……!」
「ぐっ……」


 戦況は一転。
 今度は霖之助が防戦に回る番だった。

 ぴしり、という音が響く。
 肘を預けていた台にヒビが入ったらしい。


「ああっ、私の机が……」


 早苗の悲鳴を聞き流しつつ、耐える。
 しかし。


 次の瞬間、霖之助の身体は宙を舞っていた。


「痛っ……」


 背中から着地する。
 そして降りかかる木片。

 どうやら決着の衝撃で机は完全に破壊されたらしい。
 その勢い余って霖之助も投げ飛ばされた……という所だろうか。


「勝負あり!」


 勝敗を告げる映姫の宣言。
 立っていたのは、当然ながら幽香だった。


「負けたか……」


 まあ、これで霖之助が強いのではないかという噂も消えることだろう。
 そう考えると、これはこれでよかった気もする。


「私の机……」


 早苗はなにやら落ち込んでいるようだが。


「私の勝ちよ。霖之助」
「ああ、そうだね……」


 倒れた霖之助に、幽香が近寄ってきた。


「じゃあ、賭けだけど。覚えてるわよね。酒のせいにして忘れてたら……殺すわよ」
「大丈夫だ。覚えているよ。それで……何をすればいいんだい?」
「そ、そうね……」


 さっきの今だ。
 忘れるはずもない。

 どんな無茶を言うんだろう、と身構えていたが……。
 幽香は顔を赤らめるばかりで、一向に言う気配がない。

 やがて意を決し、彼女口を開く。


「霖之助、私ともう一度……」
「ちょーっと待った!
 その賭け、私が預かる!」


 瞬間、どーん、という効果音とともに、萃香が飛び出してきた。


「勝負見てたら久しぶりに血が滾っちゃって。
 相手してよ、幽香」


 酔ってふらふらの萃香。
 だが、その目は笑っていない。


「ふ、ふふふ……。
 いいわよ。やってあげる。徹底的に」


 そして幽香も笑っていなかった。
 肝心な場面を邪魔された怒りもあって、殺意の籠もった視線を向ける。


「でも、もう机はありませんよ。霖之助さんが壊しましたし」
「そういうことなら、私にお任せ~」


 諏訪子がパンと手を打ち鳴らすと、地面が盛り上がり強固な台が生成される。
 ……これなら鬼の力でもそう易々と壊されることはないだろう。


「諏訪子様!
 そう言うことが出来るなら最初からやってください!」
「えー、でも聞かれなかったし」


 早苗の言葉に、諏訪子は飄々と答える。


「ところで」
「……なによ」
「賭けの結果は、これで勝った方が使えるんだよね?」


 萃香はそう言うと、霖之助に視線を向けた。
 その様子に……幽香は笑顔で言い放つ。


「全力を出して、いいのよね?」
「全力出さないつもりだったの?
 あはは、面白い冗談だぁ~」


 和やかな宴会場の温度が急速に下がった気がした。

 霖之助は寝転んだまま……星を見上げる。


「霖之助さん」
「なんだい? 早苗」


 気が付くと、隣に早苗が座っていた。


「私の机、弁償してくださいね?」
「……とっておきのを進呈するよ」


 祭りの中心から出来るだけ視線を逸らしながら。
 霖之助は頭の中で、店の在庫を検索していた。

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非公開コメント

No title

おおう、アダルティ・・・そして修☆羅☆場

No title

うおーー 幽香
俺が腕相撲で萃香を倒してやるぜーーーーーー



ピチューーーン

No Title

修羅場はいいものだ


いいものだ

幽香に幸あれw
文に萃香に早苗にも幸あれw

続きが気になるますね←
続きのSSが出ないかワクワクして待ってますね!←←

久しぶりに見ました。次に幽香霖を書くときがあるなら、これの続きがみたいです。
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道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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