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昔と今と

同僚に嫉妬する文とかもいいな、とそんな事を思ってみた。
心温まる修羅場を書いてみたいと常々思っております。


霖之助 文 幽香









 春の空というのは気持ちがいいものだ。
 新しい一年が来た、という感じがする。

 もう4桁に達するほど経験していたが、文は毎年そう思っていた。

 空気はまだ冷たい。
 冬の名残がそこかしこに残っているからだろう。

 そんな名残も、柔らかな日差しのなかにやがて消えていく。
 春の陽気さが、とても愛しいものに感じられた。


「こんな日はやっぱり取材ですよね」


 文はそう呟くと、飛翔の速度を上げた。
 風を切り、目指すのは魔法の森のほど近く。


「到着っと。また少し世界を縮めましたね」


 香霖堂の前に降り立ち、文は身だしなみを整える。

 ……風で煽られるからどうしても髪が乱れてしまうのだ。
 それ以上でもそれ以下でもない。たぶん。

 ひとつ深呼吸をすると、ドアに手をかけた。


「毎度どうもー。
 文々。新聞をお持ちしました」
「ああ、いらっしゃい。いつものところに置いといてくれ」
「はいはい」


 貴重な文々。新聞の購読者である霖之助とは、もう長い付き合いだった。
 この店が出来たばかりの頃に、香霖堂の取材をしたこともある。

 ……あの時と今、ほとんど変わっていない気がする。
 見ると、ずっと同じところに置いてある道具もあった。


「あらま」
「……なによ」


 いつものところ……カウンターの横にある新聞棚へと近づいた文は、見知った顔を見つけ歩みを止めた。
 巫女や魔法使いならすぐに気が付いただろう。
 しかし彼女がこの店にいるとは思わなかったため、発見が遅れてしまった。


「珍しいですね、この店に客がいるなんて」
「そりゃあ、道具屋だからね。客もいるさ」
「あら、客じゃないと言えばタダになるのかしら」
「勘弁してくれよ……」


 客用の椅子で紅茶片手にくつろいでいるのはフラワーマスター……幽香だった。

 修理中だろうか。
 彼女がいつも持っている日傘は霖之助の手元にあった。

 そう言えば、弾幕も防げるというあの傘は彼が作ったという噂話があったことを思い出す。

 それにしても、肩を竦める彼女と軽口を叩く霖之助はなんだか楽しそうに見えた。
 ……何となく、気に入らない。


「幽香さんがここにいるとものすごく違和感がありますね」
「そうね。この店は道具屋より花屋にするべきだわ」
「でも香霖堂は道具屋のままでいいと思うので人里で開店するのをオススメしますよ。
 人気店になるかもしれませんね。いいアイデアだと思います」
「ふむ、そう言ってくれるとありがたいね」


 満足げに頷く霖之助の言葉に、文は勝ち誇った笑みを浮かべた。
 ……そんな彼女に、幽香は鋭い視線を向ける。


「……何が言いたいのかしら、天狗」
「いえいえ、強いものにしか興味がないあなたがどうして霖之助さんと一緒にいるのかな、と」
「いたら変かしら」
「変とまでは言いませんが、不思議には思いますよね。
 私みたいなしがない新聞記者ならともかく、しがない古道具屋とあなたみたいな大妖怪ですから」
「別に、答える必要はないわね」


 首を振る幽香。
 しかしその疑問に答えたのは、他ならぬ霖之助だった。


「おや、言ってなかったか……。
 そういえば言った覚えがないな」
「何をですか?」
「…………」


 幽香は慌てたように霖之助を見るが、しかし彼は気付かない。


「彼女とは昔、付き合っていたことがあってね」
「……へ?」


 衝撃の新事実に、文は思わず絶句していた。
 取材の時にはいつも手元に置いている、文花帖を出す暇もないほどに。


「烏天狗なら知っているかと思ったがね。
 まあ、改まって言うほどのことでもないし……」
「いえあの、初耳です。
 魔理沙さんもそんなことは言ってませんでしたし」
「そりゃまあ、彼女が生まれる前の話だからね
 知らないのも無理はないよ」
「……そうだったわね。
 もうそんなになるわ」


 幽香は大きなため息を吐き出した。
 その中に懐かしむような響きがあったことに……彼は気付いているのだろうか。


「どうしてまた……」
「そのどうしては、どこにかかっているのかな」


 苦笑する霖之助に、文はようやくネタ帳を取り出す。
 その目には好奇心、そして戸惑い……複雑な色が宿っていた。


「いえ、どうしてそうなったかにも興味がありますが、今は」


 言って、文はちらりと幽香に視線を送る。


「どうして別れたのかが気になりますね」
「なに、簡単なことだよ。
 そして、よくある話さ」


 彼の中では過去のこと、と整理が付いているのだろう。
 苦笑混じりに、肩を竦める。

 対して幽香は……なんだか少し、沈んでいた。


「ちょっとした喧嘩が原因でね。
 それからすっぱり、というわけさ」
「そうね。
 ……どうして喧嘩なんかしたのかしら」
「どうして喧嘩したかは、僕も忘れてしまったよ」


 どうして、の部分がふたり違うニュアンスのように思えたが……。
 文はあえて、何も言わなかった。

 言う必要も、ないと思った。


「それにしても、結構あっさりなんですね。
 男女の仲はもうちょっと粘着性のあるものだと思ってましたが」
「うん? さよなら、と言われてそれっきりさ。
 幸い、こうやってたまに客として顔を出してくれてるからね。
 僕は感謝しているよ」
「そうね……」


 霖之助の言葉に、幽香は複雑そうな表情を浮かべる。
 そんなふたりの顔を見比べ……文は大きく頷いた。


「な~るほど」


 ……きっと自分の予想は間違っていないだろう。
 だから、少し確認しておくことにした。


「粘着性のある植物って多いですよね。
 全く関係ない話ですけど」
「何か言った?」


 その言葉に、幽香は彼女を睨み付けた。
 しかし文はどこ吹く風だ。


「何の話だい?」
「いえいえ、こっちのことです。
 でも昔の女が客としてくる店主の気分というのは、どんな感じです?」
「……それはノーコメントにしておくよ」


 霖之助は苦笑して首を振った。

 ……そこが一番聞きたかったのだが、仕方ない。
 幽香も残念そうな表情を浮かべているようだったが……かえってよかったのかもしれないと思い直す。

 焼け木杭に火をつけるような真似はしたくない。


「昔の彼女は綺麗な長い髪をしていてね。
 だが喧嘩したすぐあと、長かった髪は今のようになっていたわけだよ。
 ああ、本当に愛想を尽かされたんだな、と理解したわけさ」
「割り切ってしまった、というわけですか」


 文は頷くと、そのまま幽香に視線を送る。


「割り切ってしまわれた、というわけですね」
「何が言いたいのかしら」
「いえいえ」


 首を振る文。
 どこからともなく団扇を取り出すと、口元を隠しながら笑みを浮かべた。


「本気で怒っていると思わせれば謝ってくるだろうと当てつけに髪を切る、とか」


 ぴくり、と幽香の身体が震える。


「今更本当は駆け引きのつもりでしたとは言いだせず、とか」


 わなわな、と幽香の身体が震えていた。
 このあたりが限界だろうか。

 ……まあ、この店の中でいきなり暴れ出すことはないだろう。


「まさか、そんなことはないですよね。いくら何でも」
「……天狗、死にたいのかしら」
「おお怖い怖い」


 全くそう思っていない声色で、文は笑う。
 幽香と睨み合ったまま、しばしの時が流れる。


「しかし、今日はいい取材が出来ました」


 やがて文は文花帖に一通り書き終えると、大事に懐にしまい込んだ。
 幽香から注意を逸らさないまま、霖之助に頭を下げる。


「そんな風に記事にしたら、きっと注目を集めそうですね」
「……!?」
「まさか僕のことを記事にするつもりかい?
 やめてくれよ。あまり見たがる人がいるとも思えないしね」
「ええ、それは冗談ですけど」


 正直、あまり記事にしたいわけではない。
 ……こんな情報を、みすみす他人に渡すことなど出来るわけがない。


「では記事に出来そうなネタを求めて取材に出ることにします」
「ああ。
 次の新聞を楽しみにしているよ」









「それにしても、綺麗な髪ですか……」


 文は霖之助の言葉を思い出すように、ひとり呟いた。
 宙を舞いながら、考える。

 肩に掛かるくらいの自分の髪に、そっと触れる。
 いつか自分にもあんな言葉を、かけてくれるのだろうか。


「……髪、伸ばしてみようかな」

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非公開コメント

No title

なんという2828展開
嫉妬っていいよねジェラシー

No title

ゆうかりんがあまりにもかわいそうだお
この場面で今でも好きだと言っても前みたいには行かないんだろうな
霖之助がひどい奴だよ

No title

このくらいのせめぎあいは見てて楽しいですね。
文はやっぱりこういう役が似合います。

No title

にやにやしてしまうが同時に霖之助はなんて罪な男なんだと思ってしまうな。

No title

幽香が絶賛恋愛中・・・だ・・・・と?
吐血!!

No title

心温まる修羅場、なんて心躍る言葉か。

読み終わってから素で続きのssを探してしまった。

No title

霖之助、幽香、文。この三角関係は神!
これは続編希望せざるを得ない!

No title

幽香がかわいそうな気が・・・。
でも2828w

No title

何回見てもにやにやしてしまうこのssが大好きだ。
拍手100回超えてるすげぇ!

拍手200越えすげぇ

甘ぇ!幽香可愛いよ幽香。
っていうか霖之助さん気づいてあげて
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同好の士は大ウェルカムだよね。
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