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一歩、外へ 02

姫海棠はたて、ダブルスポイラーより。
『一歩、外へ 01』の続き。
ダブルスポイラーの委託販売も始まるので、はた霖はもっと増えるといいと思います。
と言うか俺が増やす。


霖之助 はたて

 気まずい空気が店内を支配していた。

 つい先ほど元気よく店に入ってきた少女は、まるで裏切られたかのような視線で、
霖之助と……彼が手に持った新聞を見ている。


 理不尽だ、と思う。
 自分は何も悪くない。
 もちろん相手も悪くない。


 それなのに……。
 何となく、申し訳ないような気分になってしまうのは何故なのだろう。

 全く、心というものはままならないものだ。
 例えそれが、自分のものであっても。


「いらっしゃい、はたて。買い物かい?」


 霖之助はそっと、読んでいた文々。新聞を机の上に置いた。
 新聞の動きを追うように、はたての視線が動く。

 それからゆっくりと……彼女の眼が霖之助を捉えた。


「……うん……いや、そうじゃなくて……
 お兄さんに……取材……手伝い……」


 はたての視線が、心に痛い。
 なんというか、瞳孔開きっぱなしの瞳はやめて欲しい。是非に。


「お兄さんが……文々。新聞……読んで……花果子念報より……」


 言葉がだんだん呪詛めいて聞こえてきた。
 霖之助は咳払いをすると、話題を変えるかのように声を上げる。


「……そう言えば取材に協力するとはいったが、きちんと君の新聞を読んだことがないような気がするよ。
 どんな新聞を書いているんだい?」
「あ、うん!
 ちょっと待ってて!」


 はたてはぱっと顔を輝かせ、瞬く間に店を出て行った。

 まるで突風だ。
 引きこもっていたとは思えない行動力だと思う。


「……やれやれ……」


 大きく肩を竦める。
 待っている間に文々。新聞を読み直そうとして……やめた。

 また厄介なことになるのは困る。


「お待たせー。
 ちょっと部屋が散らかっててね、探しちゃった」


 それからさほど経たずに、はたては香霖堂に戻ってきた。
 さすが烏天狗といったところか。

 幻想郷最速の烏天狗。
 ……いや、そう言っているのは文くらいだった気もするが。


「はい、これ」
「ああ、ありがとう。
 早速読ませてもらうよ」


 はたてから新聞を受け取り、広げてみる。


「……うん?
 また随分前の新聞だね」
「えっと、原稿書いてはいたんだけど。
 最近ちゃんと発行したのってそれしかないのよね」


 そう言って、はたてはついっと視線を逸らした。


「……外に出るのが面倒で」
「はぁ……」


 霖之助はため息を吐いた。
 一体どれだけ引きこもっていたというのだろう。


「ああでも、身内の集まりとかには顔出してたよ。
 無礼講とか特に。
 そうじゃないと大天狗様の頭叩けないしー」
「……うん?」


 無礼講だからって叩いていいものではない気がするが……。

 霖之助ははたての言葉を耳に入れつつ、新聞を読み進めていく。


「ふむ……」


 どこかで見たような写真。
 昔の新聞というのを差し引いても、新鮮さが欠けていた。

 新聞とは新しく聞くと書く。
 新鮮さのない新聞は、それだけで価値の大半を失っているのだ。


「どうかな? どうかな?」


 はたては目を輝かせ、期待をこめた瞳で見上げてきた。
 そんな彼女に、霖之助は首を振る。

 それに何より……。


「人気がないのがわかる気がするね」
「ええー」


 はたてはがっくりと肩を落とした。


「一応考察はしているようだが……。
 浅いと言うか、合間合間を想像で埋めているような印象を受けるよ。
 それが悪いと言っている訳じゃないが、そう感じさせないように書くのがプロの仕事というものじゃないかな」
「で、でもでも……。
 私だってちゃんと考えてるよ」


 彼女はぶんぶんと腕を振って反論した。
 どこか子供っぽいその仕草に、霖之助は苦笑いを浮かべる。


「それにやはり気になるのはこの情報の遅さだね。
 既に起こったことをまとめ直しているだけでは……。
 いやもちろん、歴史書としてみた場合それは大変価値のあるものになるんだが」
「歴史なんてどうでもいいんだけど。
 そうだ、この前文の真似して写真撮ってきたのよ。
 それに記事の下書きみたいなの書いたから……」


 そう言って、彼女は文の文花帖のような手帳を霖之助に押しつけてきた。
 霖之助は思わず目を白黒させる。


「見ていいのかい?」
「いいよ。お兄さんなら」


 霖之助の問いに、はたては頷いた。

 ネタ帳は新聞記者の命のはずなのだが……。
 何となく、彼女の未熟さが窺い知れた。

 それとも……。


「とにかく、見せてもらうよ」


 霖之助は手帳を受け取り、開く。
 地下の妖怪から鬼、天人と被写体は様々だ。

 それに書かれた、彼女の一言一言。


「なるほど」


 読んでみて、わかった。

 どうやらはたては体験したことでないと上手く書けないのだろう。
 どこか的外れなコメントが多々見受けられる。

 天狗らしい傲慢さを含んだそれらに、霖之助は苦笑を漏らした。


「君は鬼のことをあまり知らないんだね」
「ん? そうかな?」


 ひょっとしたら彼女は年若いのかもしれない。
 烏天狗の年齢など、見ただけではわからないのだし。

 鬼がいた頃の妖怪の山を知らないのだろうか。

 ……まさかその頃から引きこもっていたわけでもあるまい。

 念写ができるという能力も、彼女の成長をゆっくりしたものにしてしまった要因だろう。
 外に出る気にはなったようなので、これからに期待と言ったところか。


「どうやらはたては……知らないことを書くのが苦手みたいだな」
「えー?
 そんなの、当たり前じゃない」


 霖之助の言葉に、はたては驚いたような声を上げる。
 ……よくこれで新聞記者を名乗れるものだ。


「だって知らないものは書きようが無いじゃない」
「知らないものは調べるか、深く考察するべきだよ。
 それに、それが新聞記者だと思うがね」
「む~……」


 苦い顔をするはたて。

 ……まあ、無理もないだろう。
 彼女の周りにいる天狗の新聞記者たちは、そもそも中身のない新聞ばかりなのだし。


「君に足りないのは経験だね。
 そう言えば今日、神社で宴会があって鬼も来るらしいから……。
 鬼の怖さを教えてもらってきたらどうだい?」


 はたての新聞を畳みつつ、霖之助はそう声を上げる。

 彼女の書く記事に期待をしていた。
 ……だからこそ、きっぱりと首を振る。

 出会ってまだ数日だが、はたての向上心はよくわかっている。
 数年もすれば、見違えるほどになるだろう。

 ……たぶん。


「あ、面白そう」


 しかし彼女は、予想に反して顔を輝かせる。

 完全に楽しんでいる顔だ。


「ねぇ、それってもう始まってるの?」
「ああ、多分そうじゃないかな」


 神社の宴会は早い。
 そして終わるのは遅い。

 ……いや、そもそもいつ終わるかなんて予想すら出来ない。


「じゃあ、急がないと」


 そう言うと、彼女は霖之助の腕を掴んだ。


「……ん?
 なんだい、この手は」


 首を傾げる霖之助に、はたては視線を向ける。


「だって、教えてくれるんでしょう?
 私の知らない、たくさんのコト」

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引きこもり&ツインテとかどれだけツボを突いてくるんだろうwww
脳内で革命が起きそうなんですが(汗
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