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カラオケシリーズ12

ただ霖之助が寝るだけのSS。
というわけでカラオケシリーズも次回がひとまずの最終回。

だってちょうど1クールだし。


霖之助 幽々子









「……君よ……になれ 我は……ろう
 ……とけし…… そなたに……」


 最初に感じたのは、春。幻想の春。
 儚く……儚すぎてどこか現実感のない、そんな光景。


「いとし君よ 花になれ 我は太陽になろう……
 振り向かせし顔貌を 我に見せ隠さん」
「ん……」


 次に感じたのは、やわらかな感触だった。
 遠くに聞こえていた歌は、急速に現実感を伴って耳に届く。

 幻想に色が付いたような気がしたのは……目を開けたせいか。
 やわらかな感触と春の日差しの中で、やわらかな視線とぶつかる。

 どうやら膝枕されているらしい、とわかったのは、頭にあたる感触と……目の前に広がる光景のせいか。


「あら。起こしちゃったかしら?」
「いや……むしろ、よく眠れた気がするよ」


 霖之助は現状を確認しようとして……頭の痛みに顔を顰める。
 だがそのおかげで思い出した。

 確か、二日酔いでダウンしていたのだ。
 一度は起きたものの、縁側で春の陽気に誘われ……また眠ってしまっていたらしい。


「どれくらいだい?」
「2時間くらいかしら」


 その一言で、彼女は察したようだった。
 となると、霖之助が寝てわりとすぐに、彼女はやって来たのだろう。


「店に来ても誰も出てこなかったから、勝手に上がらせてもらったわ」
「……それはすまなかったね。
 起こしてくれても構わなかったのに」
「あら、たまにはいいものでしょう? こういうのも」


 そう言って、彼女……幽々子は笑顔を浮かべる。
 春のような笑顔を。


「たまに、にしておきたいところだがね」
「私はいつでも構わないのだけど」
「宴会のたびにしてもらうわけにもね……」


 その言葉で、記憶が蘇ってきた。
 苦い記憶に、苦い笑みを浮かべる。

 昨日、神社で花見があった。
 霖之助もたまたま参加してみたのだが……。

 騒げれば何でもいいのだろう。
 花見とは名ばかりの酒宴に、さんざん呑まされたのだ。

 山の上の神もいたし、天狗も鬼も。それから、人間も。
 次々と注がれる酒に、霖之助はすっかり目を回してしまった。


「久し振りだよ、あんなに呑んだのは。それに……」


 久し振りの大失態である。
 霖之助は苦笑を浮かべると、深くため息を吐いた。


「勧められるままに呑むものじゃないな。
 やはり酒は静かに楽しむに限る」
「あら、たまにはいいものでしょう? ああいうのも」
「たまに、でもごめんだけどね。
 ……ん?」


 起き上がろうとして……首を傾げた。

 視界がいつもと違う。。
 あるはずのものがない、そんな違和感。


「探し物はこれかしら」


 幽々子の声に視線を向ける。
 いつの間にか、彼女は霖之助の眼鏡をかけていた。

 霖之助は上体を起こし、幽々子に向き直る。


「……返してくれないか」
「ダメよ」


 笑いながら、彼女は軽く霖之助の身体に手をかける。
 それだけで、霖之助は再び彼女の太股に頭を埋めた。

 寝てろ、と言うことだろうか。


「まだ本調子じゃないでしょ?」
「それはそうだが……」


 彼女の言うとおり、いまだに頭が痛い。
 ただ立って歩くと言うことが、今の霖之助には苦痛になるだろう。

 ……出来るなら、そんな姿を見せたくはないものだが。


「……みっともない所を見せてしまっているね」
「別にそうは思わないけど。
 痛みは生きてるってことだもの」


 幽々子は霖之助の眼鏡をそっと傍に置くと、額に手を乗せてきた。
 ひんやりとした感触が実に心地いい。


「私は嬉しかったわよ」


 その言葉が、宴会のことに繋がっているということに気付くまでしばし時間を要した。

 考え……首を振る。


「みんな面白がってるだけだろう。
 珍しいカモが来たとでも思ったんじゃないかな」
「それだけ好かれてるってことでしょう?」
「面白がって見てた筆頭が、よく言うね」
「だからこうやって、介抱してるんじゃない」
「それについては……礼を言うよ」


 霖之助の言葉に、幽々子はどういたしまして、と笑顔を浮かべた。

 早い者勝ちよね、と彼女が呟いた気がしたが……。
 気のせいだろう。


「……ところで、何か買いに来たんじゃないのかい?」
「そのつもりだったんだけど」


 幽々子はそう言うと、肩を竦める。


「今日じゃなくても、買い物は出来るもの」
「ああ……そうしてくれると助かる」


 唐突に沈黙が落ちる。

 だからと言って、気まずい空気ではない。
 沈黙すら楽しめるような、そんな雰囲気。

 春だからだろうか。
 それとも……。


「いい天気ね……」


 幽々子は縁側から空を見上げた。
 つられて霖之助も空を見て……眩しさに、眼を細める。


「永久に眠るる 契りかな
 青白き人 傍に寄りて慰むる……」
「別れの歌かい?」
「さぁ、どうかしら」


 幽々子が笑みを浮かべた。
 紫とはまた違ったタイプの、胡散臭い笑み。


「春は出会いの季節だが、別れの季節でもある。
 やはり冥界もこの時期は浮かれたりするのかい?」
「いつもと変わらないかしら。冥界は一年中騒がしいからね。
 でも夏は静だわ。みんな里帰りしちゃうから」
「……逆なのか。
 冥界の風情は全く別物みたいだね」
「ええ。楽しいところよ~」


 ぽん、と彼女は手を叩いた。
 まるでいいアイデアを思いついた、とばかりに。

 ……言いたくてたまらなかった、とばかりに。


「あなたも遊びに来てみる?
 きっと帰りたくなくなるわよ」
「しばらく行く予定はないね」
「そう、残念だわ」


 そんなやりとりをしているうちに、次第に眠くなってきた。

 この陽気と膝枕。
 ……寝るなと言う方が不可能に近い。


「私のことは気にしなくていいわよ」
「しかしだね……」
「膝枕は寝かせるためにするものだもの。
 正しい使い方じゃないかしら」
「いや、そもそも……」


 何故膝枕を、と聞こうとして……やめた。

 風が頬を撫でる。
 聞くだけ野暮、というものだろう。


「いとし君よ 海になれ 我は風になろう
 穏やかにときに激しく寄せ返さん」


 まるで子守歌のように、幽々子の歌声が響く。


「永久に帰らぬ 過ぎし日よ
 漆黒の髪梳いて 此処に眠らんと」


 霖之助の意識が、闇に落ちても。

 ずっと、ずっと。
 幽々子の歌声は、響いていた。


「永久の別れに 袖振りて……
 霞逝く様 瞼閉ざし残らんと……」


 誘うように。
 待ちわびるように。


「……別れの歌なんて無いのよ、霖之助さん。
 だってこの世での別れは、あの世での……」



膝の上で
くるみさんからイメージ画像を描いていただきました。
感謝感謝。

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