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指切り

嬉しくなるとつい病ry
病んだ鈴仙を書くと不思議と心が落ち着きます。


霖之助 鈴仙









「あれ、整腸剤が減ってますね。
 何か変なものでも食べました? 栄養剤も減ってるみたいですけど」
「ああ、ちょっと魔理沙の持ってきたキノコでね……。
 栄養剤もその時に魔理沙が使ったんだ。
 しばらく何も食べられなかったみたいだから……」


 あれはひどい出来事だった。
 食べてしばらく、霖之助も体調が悪くなったほどだ。

 病気にこそ強いが、やはり変なものは変なもの。
 毒物に強いわけではない。

 魔理沙も悪気があって持ってきたわけじゃないのだろうが……。


「二日酔いの薬が随分減ってますね。
 だんだん多くなってません?」
「効果は実証済みだからね。
 助かっているよ」


 すっかり今では手放せなくなってしまった。
 事前に飲むと悪酔い防止の効果もあるので、妖怪の山に登る時などに欠かせない。

 ……確かに、最近飲みすぎかも知れないが。


「あまり依存するのもダメですよ。
 薬は用法用量を守ってきちんと、ですから」
「心がけてはいるよ……。
 それにしても、随分しっかりしてきたね、鈴仙」
「そうですか?」


 霖之助は感心したように頷いた。
 鈴仙の仕事ぶりも随分と板についてきたように思う。

 最初の頃は、薬の説明もたどたどしかったというのに。

 思い出して、少し懐かしくなった。
 霖之助の不思議に思ったのか、彼女は首を傾げる。


「ああいや、少し懐かしくなってね。
 しかし、使った薬で暮らしぶりがわかるとは恐ろしいな」
「それだけ生活に密接な関係があるということです」


 香霖堂の薬箱の中には、人間用の薬、妖怪用の薬、それからハーフ……霖之助用の薬が入っていた。
 鈴仙が担当している置き薬の補充というのは、無料で家庭に薬箱を設置しておき、使った分だけの代金を取るというものだ。

 普通は季節の変わり目くらいにやってくるのだが、寺子屋など薬の消費の激しいところは頻繁に訪れていた。
 香霖堂も消費の激しい場所のひとつである。

 というのも、巫女や魔法使いが怪我をすることもあれば、怪我させることもある。
 そんな時、何故か少女たちがここにやってくるせいだ。
 病気もまた然り。

 小さな薬箱では多様な薬を少量ずつしか入れられないので、鈴仙がこまめに見に来ているのだった。


「とにかく、飲みすぎは毒ですからね」
「肝に銘じておくよ」


 薬というのは使い続けると効果が薄くなってしまうものだ。
 つまりより強い薬が必要になっていく。

 いくら永琳の薬が副作用がなくそこそこ効くと言っても、強力な薬まではわからない。
 だからこそ、鈴仙は注意しているのだろう。

 酒も少量で気持ちよく酔えるに越したことはないのだから。


「じゃあ薬箱、置いてきますね」
「ああ」


 いつもの場所にしまうため、鈴仙は薬箱を抱え、立ち上がる。
 勝手知ったる何とやらだ。

 薬に関してはすっかり任せきりだ。
 やってくれるならそのほうが楽だから、と思っているのだが、彼女はよくついでと言っては料理や掃除も行っていた。


「ん……? 鈴仙、何か落ちたようだ」
「はい? なんですか?」


 彼女が立ち上がった拍子に、なにやらポケットからこぼれ落ちる。


「これは……」


 ひらりひらりと舞うそれは、ちょうど霖之助の足下へとやって来た。

 淡い色遣いの便箋。
 ハートマークのシールで封がされている。

 霖之助はそれを拾い上げ……能力を使うまでもなく、名前がわかった。


「……ラブレター?
 すまない、勝手に拾ってしまって」
「……いえ、いいんです」


 首を振る鈴仙。
 その表情は、どこか寂しげなものを宿していた。


「捨てようと思ってたんです、それ」
「捨てる? どうしてだい?」
「ええ、渡す勇気もありませんから……まだ。
 それに、内容も上手く書けなくて……」
「そうか……」


 ふむ、と考える。
 まあ、女性の心理というのはえてして複雑なものだ。
 それが男女の関係ともなればなおさらである。


「しかし、君にそんな相手がいたとはね……」
「……いけませんか?」
「いや、そういう意味じゃなくてね。
 そういう年頃……ああ、妖怪に年頃は関係あるのかな……?」


 精神に外見が引っ張られる妖怪は、外見が年頃ならやはり年頃の少女と見ていいのだろうか。
 しかしそれが月の兎にもあてはまるかというと首を傾げるのだが。


「その、霖之助さんは……そういう相手はいなかったんですか?」
「僕かい?
 ……さぁね、忘れたよ」
「……そうですか」


 はぐらかす霖之助に、鈴仙はなにやら不満そうな表情を浮かべていた。
 霖之助は誤魔化すように苦笑を浮かべ、話を続ける。


「しかし君ほどの少女が惚れるのなら、さぞかししっかりとした相手なんだろうね」
「う~ん。
 しっかり……ですか……」


 だがその言葉に、首を捻る鈴仙。


「あんまりしっかりとは……ううん?」
「そうなのかい?」
「いえ、もちろんダメってわけじゃなくてですね」


 慌てて手を振るが……あまりフォローになっている気がしない。


「……まあ、そのあたりは人それぞれだからね。
 応援してるよ」


 あまり踏み込むのも悪いと思い、霖之助はそこで話を切ろうとした。


「あ、あの、霖之助さん。
 実はその、お願いがあるんですけど」
「お願い?」


 しかし鈴仙に上目遣いに詰め寄られ、霖之助は目を白黒させる。
 顔が近すぎて、彼女の耳が当たりそうだ。


「はい、あの、男性の視点からですね、告白の仕方と……ラブレターの内容を一緒に考えてほしいんです」


 鈴仙の予想外な提案に、しばし考える。

 長い彼女の髪が、さらりと揺れた。
 吐息がかかる距離で、見つめ合う。


「……気持ちが通じれば、手段は重視されないのではないかい?」
「同じくらい愛情たっぷりの料理でも、美味しいものと不味いものだと美味しいもののほうがいいと思うんですけど」
「ふむ……」


 確かに一理あるのかも知れない。

 第一印象というのは重要なものだ。
 第一印象が胡散臭かったりしたら、目も当てられないことになる。

 ……別に特に特定の誰かを指しているわけじゃなく、あくまで一般的に。


「……ダメですか?」


 鈴仙の捨てられそうな子犬の目――いや、子兎だろうか――に見つめられ、霖之助は悩むことしばし。
 断ってもデメリットは無いだろう。
 では受けてもメリットがないかというと……そうでもない。

 最近少し買い物をするようになった鈴仙が、より頻繁に来るようになる。
 何よりこれで女心を掴めば売り上げも上がるというものであるわけで。

 しばし迷ったが……頷くことにした。


「……僕でよければ、構わないよ」
「ありがとうございます、霖之助さん。
 じゃあ早速次来る時、何か書いて持ってきますね」
「今持っているそれは違うのかい?」
「あ、これはその……違いますから……」


 見せたくないと言うことは、大方手紙に相手の名前でも書いてあるのだろう。
 そう納得して、霖之助は肩を竦める。


「まあ、深くは聞かないよ」
「助かります……」


 そう言って、鈴仙は力なく笑うのだった。









 物事には順序というものがある。
 普通は好意があって愛になるのだと考える。

 もっとも、好きになるかどうかは付き合ってから考えるという者もいるし、身体だけの間柄というのもある。
 一筋縄ではいかないのが男女の仲というものだ。


「というわけで、いきなり愛していますといった書き方は気が早いと僕は考えるね。
 少なくともラブレターを渡すと言うことはそこまでの間柄ではない……のだろう?」
「……ええ、そうですけど」
「……そこまで拗ねなくてもいいじゃないか。
 あくまで現状の確認だよ」


 鈴仙の相談に乗るようになって、数週間が過ぎた。

 週に一度くらいの頻度で彼女が持ってくる恋文は、どれもたどたどしく、初々しい。
 そのような想いに触れるのは、霖之助としても思わず笑みが零れるものだった。


「相手の男が羨ましいなかもしれないな」
「え? 何か言いました?」
「……何でもない」
「そうですか……あ、そうだ」


 鈴仙はなにやら思いついたかのように手を叩いた。
 目が輝いている……文字通り。


「いっそ『好きです』ってだけ書いてみるというのはどうでしょうか。紙いっぱいに、でっかく」
「確かにインパクトはあるし、シンプルでいいね。
 ただ……」


 紙いっぱいに書きすぎて、差出人と相手の名前を書き忘れそうだ。
 ……それはともかく。


「ラブレターとは直接伝えられないことを手紙で託すことなのだから……。
 そんなことが出来るなら、直接言えそうな気もするんだが」
「そうだったら苦労しませんよ……」


 言って、鈴仙はがっくりと肩を落とした。
 彼女も苦労しているのだろう。


「とはいえ大抵のことは大丈夫だと思うけどね。
 好意を寄せられて困ることは……そう無いだろうし。
 君がその相手とどれくらい親しいのかは知らないが……」
「どれくらいですか……。
 どれくらいなんでしょう?」
「いや、僕に聞かれても困る」


 何故か不機嫌な表情を浮かべる彼女に、霖之助はため息。


「しかしどうなんだい? 少しは手紙が渡せるような関係になったのかな。
 それとも、渡してから仲良くなる算段なのかい?」
「え? ええ、その、なんというか。
 仲良くは……なってると思うんですが」


 鈴仙はもじもじと顔を赤らめながら、呟く。

 なるほど、どうやらわりと知っている仲のようだ。
 つまりステップアップのためのラブレター、と言うことなのだろう。


「それはよかった。
 協力している僕としては、ぜひ幸せになってもらいたいからね」
「そうですか?」
「ああ、もちろんだとも」


 頷く。
 それは確かに、霖之助の本心だった。


「君の気持ちは僕がよくわかっているよ。
 それだけ想われてるというだけで相手は幸せ者だ」
「そうですか……」


 彼女はその言葉を噛みしめるかのように、何度も頷く。


「なんだか自信が出てきました」
「ああ。がんばるといい」


 笑顔を浮かべる鈴仙。
 いつかこの笑顔が向けられなくなるのかと思うと、少しばかり寂しくもある。


「また持ってきますね」
「いや、そろそろ本命にだね……行ってしまったか」


 ひとりになった霖之助は、やれやれと肩を竦めた。

 彼女の相談に乗るのは良いのだが……。
 毎回手紙を置いていくのは、何故なのだろう。

 宛名のないラブレター。

 もう結構な数が溜まっていた。
 捨てるわけにもいかないので、保管しているのだが。

 これをその相手に見られたら、誤解されかねないだろうに。


 ……まあ彼女のことだ、その辺は上手くやるのだろう。
 きっと。









「もう十分、仲良いですよね?」


 永遠亭への帰り道。


「想われて、幸せなんですよね?」


 ひとり竹林を駆けながら、鈴仙は呟いた。
 懐に忍ばせた封筒に、そっと手を添える。

 そこに入っているのは、最初に彼が拾った、あの手紙。
 その中には、大好きな彼へと宛てた手紙が入っていた。

 そう。

 大好きな、霖之助さんへ。


「私の気持ち……よくわかってるんですよね?」


 宛名を書いたのはこの手紙だけだ。
 これだけで、十分だった。

 最初から、これだけで。


「必ず……伝わるんですよね?」


 だってあとは、渡すだけなのだから。
 彼が、そう言ったのだから。

 受け取って貰えないなんてことは、考える必要がないのだから。


「ゆーびきーりげーんまーん」


 ……もし、嘘だったら。
 その心配もない。

 だってこの国には、こんなに素敵な風習があるのだから。


「嘘ついたら針千本飲~ます♪」




指切り
しゃもじさんに絵を描いていただきました。

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非公開コメント

No title

いかん……
ここの作品を見てると霖之助さんなら攻略できない子はいないんじゃないかと思えてくるから困る。
「わたしも攻略されたいな、森近!」

あぁ、ヤンデ鈴仙かわいいなぁ。健気で良い娘じゃないですか。
ここはひとつ付き合い始めて、徐々に、這い寄るようにうどんげの病みが見えてくるシリーズを提案します。
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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