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幻想郷の中心

大寒小寒でSSを、というリクが来たので。
書いたのは結構前なんですが、アップするタイミングを逃してしまっていた聖霖。

霖之助の服を少女が着るにはどういうシチュエーションがいいだろう、シリーズ。
ごめん嘘。


霖之助 聖









 寒中見舞いを出すべきかもしれない。
 霖之助はふと、そんなことを考えた。

 1月の小寒から節分までを寒の内といい、年間で最も寒さが厳しくなる時期である
 その真ん中にある大寒は読んで字のごとく、一番寒いと言われている日だ。

 ある程度の寒さは覚悟していたのだが、今年の冷え込みは例年にないものだった。
 雪こそ積もっていないものの、単純に気温が低い。
 霜や氷は張り放題だ。


「まさか大寒まで幻想郷に流れ着いたわけでもあるまいに……」


 貼っただけで温かくなる、外の世界のカイロがなければ動こうという気も起きなかっただろう。
 それでも寒いものは寒い

 ……こんな日に外に出たのは、やはり失敗だったと思う。


「こんな日は、やはりストーブで読書に限るな……」


 今更そう思っても時既に遅し。
 凍える身体をさすりつつ、霖之助は妖怪の山を登っていく。


 昨日、ふと思い立って倉庫の整理を始めたのが運の尽き。
 当然ながら倉庫の容量は無限ではない。
 新しいお気に入りの道具が増えれば、優先順位の低い道具は売り物になる。

 霖之助は置き場所の無くなった、いわゆる『曰く付き』の道具を整理するため、
厄神に厄払いを頼んできたところだった。

 無事に交渉も終わり、せっかく妖怪の山の麓まで道具を持ってきたのだし、
河童の里まで足を運ぼうかと思ったのが先ほど。


 ……そこでどうしてそう思ったのか。
 霖之助は猛烈に後悔していた。


 言わずもがな、河童の里は水辺にある。
 水気が集まるところは火気が少ない。つまり、余計に冷えるのだ。


「火炉でも持ってくるべきだったか……」


 既に霖之助の心は折れかけている。
 だが、せっかくここまで歩いてきた努力を水泡に帰すのも残念な気がするのだ。
 何かきっかけでもあれば……と思った矢先。


「……ん?」


 なにやら声が聞こえてきた。
 お経、だろうか。

 滝壺の方向、水の落ちる轟音に混じるように流れてくる。
 神仏合習が一般的な幻想郷でも、ここまで熱心なお経は珍しい。


「……ふむ……」


 気になった霖之助は、正体を確認してみることにした。
 木々の隙間を抜け、滝壺に近づく。


 遮られていた視界が開けると、目的地は目の前だ。

 ……しかし、いつの間にかお経は止んでいた。
 そして、ちょうど女性が川から出ようとしているところだった。


「あら、こんにちわ」


 霖之助に気が付いたその女性は、たおやかな笑顔で会釈を交わす。

 不思議な光沢の黒髪に、成熟した身体。
 濡れた襦袢が肌に張り付き、そのラインを浮き彫りにしていた。


「……失礼」


 霖之助は目を逸らし、背中を向ける。
 女性の肌をしげしげと見るのはさすがにマナー違反だろう。


「あら、こんなおばあちゃんの身体なんて見ても嬉しくないでしょう?」


 そう言って、その女性の笑い声が響く。
 動じない人だ、と思う。

 もしこれが他の少女なら、スペルの一撃でも食らっていたかも知れない。
 ……気にしない少女もいそうではあるが。


「この幻想郷では、見た目もあてにならないが年齢もあてにならなくてね。
 女性に関しては特に、だ」


 言って霖之助は、自分の上着を脱ぎ、女性の身体にかけた。
 いつまでも目を逸らしているわけにもいかない。

 今日は肌着を多めに着ていて助かった
 そして、カイロも。


「……着物が濡れてしまいますわ」
「構わないよ。
 それに僕は人間ではないからね。
 病気には強いのさ」


 それでも寒いことは寒いのだが。

 ……まあ、だからと言ってこの女性を放っておいていいというわけでもない。
 なにしろ、もうここは天狗の領域なのだから。
 下手なことをして、変な報道が紙面を踊るのは勘弁願いたかった。

 それにお経と言うことはおそらく仏教関係者だろう。
 だとすれば仏具が売れるかも知れない。
 またとない上客獲得のチャンスというわけだ。

 いつか来た、小さな賢将のように。


「ああ、それではあなたが、あの……」


 霖之助の言葉を聞いて、女性は驚いたような表情を浮かべていた。
 心当たりがあるのだろうか。


「申し遅れました。
 私は聖白蓮。
 命蓮寺の住職をやっております」









 山道というのは歩きにくい。
 慣れた者でも、気をつけないと転んだりといった危険が常につきまとう。

 飛べるならその心配もないのだろうが霖之助は飛ぶことが出来ないし、
ましてや今回のように荷物を運んでいては邪魔になって仕方がない。


「……すまないね、荷物を持ってもらって」
「いえ、これくらいおやすいご用ですわ」


 霖之助が引っ張っていたリアカーを軽々と持ち上げ、白蓮は微笑んだ。
 最初は驚いたものの、彼女が魔法使いと知って合点がいった。
 本人は大魔法使いと名乗っていたが。

 念のため彼女を住居まで送っていくことにしたのだが……これではどっちが送られているかわかったものではない。

 彼女のことは話だけならナズーリンに聞かされ知っていたのだが、実際に会うのは初めてだった。


「なるほど、寒稽古か」
「そうです。
 魔法使いたる者、修行は欠かせませんからね」


 それでわざわざ大寒の日に滝に打たれていたらしい。
 まったく魔法使いというのは難儀なものだ。

 ……まあ、そういう人種だからこそ魔法使いになったのだろう。


「しかし、せっかく乾いていた服だったのに……」
「いいえ、私はこれでいいんです」


 白蓮は滝壺から上がると身体を拭き、自分の服に着替えた。
 ……何を思ってか、その上に霖之助の上着を羽織ったのである。

 服が濡れてしまうのではないかと言ったのだが、彼女は嬉しそうに首を振るだけ。


「……まあ、どのみち濡れたまま僕が着るわけにもいかないから、構わないと言えば構わないが……。
 それにしても便利な力だね、その魔法というのは」


 彼女が得意としているのは身体能力を強化する魔法という話だった。

 霖之助も人外の身、力は普通の人間よりあるつもりだが彼女ほどではない。
 無縁塚から帰る時、荷物を欲張りすぎて帰るのに難儀することもたまに……いや、結構あったりする。


「少し訓練すれば、誰でも使えますよ。
 よろしかったら教えて差し上げましょうか?」
「ほう、それは興味深いね」


 頷く霖之助に、白蓮は笑顔を浮かべた。


「貴方はもともと魔法も使える様子。
 数日で使えるようになると思いますよ」
「……そういえば、僕を知っているようだったね」
「はい、よく存じておりますわ。
 話しに聞いたとおりですから」


 その言葉を聞いて、だいたいの予想が出来た。
 大方あの3人の誰かだろう。
 もしくは、ナズーリンか。


「ツケの効く人、やる気のない道具屋、蘊蓄の長い人、面白いやつとそれはもう様々な評価で」
「……まさか全員とは、恐れ入ったよ」


 肩を竦める霖之助。
 その様子を見て、白蓮はますます笑みを強める。


「好かれてるんですね」
「どうやったらその結論になるのかが僕にはわからないんだが……」
「もしよかったら、私たちに協力していただけませんか?」
「協力? 僕がかい?」
「はい。実は……」


 首を傾げる霖之助に、白蓮は一歩歩み寄る。


「魔法の先生をやっていただきたいと思いまして」
「……魔法使いは他にも何人かいるはずだが。
 どうして僕なんだい?」
「それは、貴方が人と妖怪のハーフだからです」


 霖之助を見つめる白蓮の瞳は、本気の色を宿していた。
 熱く輝く、情熱の色を。


「身体的に弱い人間が妖怪と対等になるには、何が必要だと思いますか?」
「それはスペルカードといったルールか、もしくは人間が妖怪並みに強く……」


 そこまで言って、気が付いた。
 彼女の言っていることの意味。


「まさか、先生というのは」
「ええ、人間がすべて強化魔法を使えるようになれば……少なくとも、一方的に襲われるなんてことにはならないでしょう。
 ひょっとしたら、人間の子供と妖怪の子供が気兼ねなく一緒に遊べるようになるかもしれません。
 そのための……貴方なのです」


 今でも遊んでいる子供がいないわけではない。
 だがやはり、子供というのは加減が出来ないものだ。
 その心配を無くしたいのだろう。

 人間と妖怪のハーフである霖之助なら……人間にも、あるいは妖怪にも教えやすいのかもしれない。
 彼女が教えたいのは一定のレベルまで身体を強化する魔法なのだろう。


「人間をすべて魔法使いにでもするつもりかい?
 随分と壮大な計画だね」


 霖之助はため息を吐いた。


「それなら、妖怪を恐れない人間が増えるかも知れない。
 だがそうすると、妖怪はどうなる?」
「そうですね、妖怪は消えるかも知れません」


 言って、彼女は首を振る。
 大したことではない、と言わんばかりに。


「恐れの対象でなくなった妖怪は、人間との距離が近くなるでしょう。
 今でも少しいるように、人間相手に商売をする妖怪、人里に住む妖怪、人間と暮らす妖怪が出てくるかも知れません。
 人間が妖怪を尊重するようになれば……」
「……総魔法使い化のあとは、妖怪をすべて神にしようというのかい、君は」


 全く呆れた話である。

 とんだ住職もいたものだ。
 彼女の寺を信仰している人間が聞いたらどう思うだろうか。


「……いけませんか?」
「ああ、とても危険な思想だと思うね。
 妖怪の賢者が聞いたらなんて言うか」
「そう……ですか……」


 ため息を吐く白蓮。

 霖之助だって、すぐにそんなことが出来るようになるとはとても思えない。
 ……だけど。


「……僕は商人だからね。
 少なくとも、魔法を教えてもらうくらいの恩は返そうと思う」
「え? じゃあ……。
 そ、そうですか! よろしくお願いしますね!」


 先ほどとはうって変わって、白蓮は笑顔で霖之助の手を取った。
 まるで少女のようなはしゃぎようだ。

 これが1000年以上生きている大魔法使いだとはとても信じられない。
 ……片手でリアカーを支えてなければ。


「あ、見えてきましたよ」


 どうやら目的地に到着したらしい。
 聖輦船が着陸して出来たという寺……命蓮寺。


「では、上がってください」
「今からかい?」
「はい。善は急げ、早いほうがいいでしょう?」


 妖怪の山には妖怪が住み、人間の里には人間が住む。
 今まではそうだった。

 これからは……どうだろうか。


「それに……みんなにも紹介したいですし」


 ひょっとしたら幻想郷の中心は変わりつつあるのかも知れない。
 そうなると、香霖堂も引っ越さなければならないのだろうか。

 白蓮に手を引かれて歩きながら、霖之助はそんなことを考えていた。

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No title

動かない古道具屋が命蓮寺に・・・ッ
これで、船長や一輪さんや星さんとも接点が!

来たぜ!聖霖!これで勝つる!!
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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