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バレンタインSS20

バレンタインSSは今回で終了。
1日1本、20日で20本。
伺かと同時進行でも何とかなるもんですね。


霖之助 霊夢









「たまには玉露が飲みたいわ、霖之助さん」
「玉露は一定期間日光に当てないことで旨味を増す栽培方法だ。
 太陽の世界で生きる人間より妖怪向きの飲み物だよ。
 博麗の巫女たる君が飲むものじゃないとは思わないかい?」
「美味しければ何だっていいわよ。
 それにそんなこと言って、玉露を出すのが惜しいだけなんでしょ?
 棚の2番目の奥に置いてあった、高そうなやつ」
「……あれは来客用のとっておきだからね。
 というか、霊夢」


 霖之助はため息を吐いた。

 今更霊夢が、隠しておいたはずの玉露を見つけてることについては……気にしないでおく。
 勝手に持って行かなかっただけマシだろう。

 それより。


「店に来たらまず挨拶だろう。
 何事かと思うじゃないか」
「あら、別にいいじゃない。
 私と霖之助さんの仲なんだし」
「親しき仲にも礼儀あり、だよ。
 それにしてもここに来るのが当たり前のように来るね」
「そう?」


 霊夢は首を傾げると、いつも通りの歩調で霖之助の前を横切った。
 ……そのまま通り過ぎる彼女に、一応声をかける。


「それで、今日は何の用だい?」
「道具屋でやることと言ったら買い物に決まってるじゃない
 もちろんツケで、だけど」


 そう言うと霊夢は靴を脱ぎ、奥へと入っていく。
 何をしているか……はわかっている。
 いつものことだ。
 自分のお茶を用意しているのだろう。
 自分の、湯飲みに。

 霖之助は肩を竦めると、奥に向かって言葉を投げる。


「言うまでもないが、玉露は出さないよ」
「冬はお茶の味が落ちるから嫌よねぇ」
「外の世界には真空パックとかの技術があるんだがね。
 どちらにしろお茶の旬は八十八夜だ。
 冬のお茶は、我慢するんだね」
「せめて湿気対策の道具は欲しいわね」


 霊夢はお盆に急須と自分の湯飲みを乗せ、再び店内に現れた。
 欲しい、ということは持って行くつもりなのだろう。
 ……もちろん、ツケで。


「はい、霖之助さん」
「ああ、ありがとう……というのかな、これは」


 残り少なくなっていた霖之助の湯飲みに、霊夢はお茶を注ぎ足す。
 そして幸せそうにお茶を啜る彼女に……霖之助はふと思い出したように呟いた。


「そう言えば、外の世界ではお茶を使った製品も増えてきたらしいよ。
 お茶入りのクッキーやあめ、羊羹、素麺にケーキ、あと変わったところでは石鹸やシャンプーとかもあるみたいだね」
「いろいろあるのね。
 でも私は普通のお茶が一番だわ」
「ああ、そう言うと思ったよ」


 予想通りの霊夢の言葉に、微笑む霖之助。

 霊夢はお茶と一緒に持ってきた煎餅をかじりつつ、首を振る。
 ……ついでに言うと、この煎餅も隠しておいたはずなのだが。


「でも、抹茶味のお菓子なんて昔からたくさんあったじゃない。
 霖之助さんから貰ったこともあったし。
 それとどう違うの?」
「うん、抹茶ではなくあくまで緑茶らしいんだ。
 苦みとかをより抑えてあるみたいだよ」
「ふぅん」
「チルノや早苗にあげたら喜んでたからね。
 抹茶は苦手だったのに」
「……そうなんだ」


 霊夢はその言葉を聞いて……何故だか肩を落とした。
 何か言いたそうに霖之助を見ていたが……ややあって、口を開く。


「ねぇ、私の分は?」
「うん?
 いや、霊夢はあまり好きじゃないだろうって思って……。
 さっき自分でもそう言ったじゃないか」
「そうだけど……。
 ……私の……」


 霊夢の沈んだ声に、霖之助は困惑していた。
 ……どうにも調子が狂う。


「わかったわかった。
 今度手に入れたら霊夢にあげるよ」
「約束よ? 約束だからね」


 そんなにお茶のクッキーが食べたかったのだろうか。
 それとも、他の要因か。

 霖之助が首を傾げていると……霊夢は懐から何かを取り出した。


「じゃあ、約束ついでにこれあげる」
「これは……チョコレート?」


 思わず驚いた表情を浮かべる霖之助。
 霊夢から進んで何かをくれるというのは……ものすごく珍しいかもしれない。


「早苗が言ってたんだけど、今日は女が男にチョコ渡す日なんだって」
「ああ、バレンタインのことかい?」
「確かそんな名前だったわね」


 どうやらイベントの名前には興味がなかったようだ。
 霊夢らしいと思いながら、霖之助はため息を漏らす。


「そもそもバレンタインというのは、ウァレンティヌスが当時禁止されていた兵士の結婚を……」
「あら、早苗はそんなこと言ってないわよ」


 霖之助の言葉に、しかし霊夢は首を振った。


「早苗はお菓子会社の陰謀だって言ってたわ」
「ふむ……。
 じゃあ幻想郷のバレンタインは何になるのかな」
「天狗の陰謀かしら」


 ……あり得そうだから困る。


「しかし陰謀とは文字通り、密かに企てるはかりごとのことだよ。
 ここまで大々的にやっていたら、陰謀でもないと思うがね」
「まあ、別にどうでもいいわよ。細かいことは」
「……それもそうか」


 わからないことは考えない。
 ……と言うより、妖怪のやることをいちいち真剣に考えてても仕方がない。


「そうそう、この前萃香がね……」


 それからしばらく、ゆったりとした時間が過ぎていった。
 日常とも言える、彼女との会話。





 やがて太陽が傾いた頃、霊夢は立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ帰るわ」


 すっかり味の無くなってしまった茶葉を尻目に、霊夢はドアに手をかける。


「ああ……またおいで」


 霖之助は彼女の背中を見送ると……貰ったチョコレートに手を伸ばす。


「……ん?」


 包装を開けて、驚いた。

 名称:本命チョコ。
 用途は……愛の告白。


「あ、そうそう霖之助さん」


 帰ったはずの霊夢が、再びドアから顔を覗かせた。
 霖之助は慌てて振り返るが、咄嗟に言葉が出てこない。


「チョコレート、早めに食べてね。
 ストーブがあると溶け……あ、大丈夫みたいね」
「……霊夢、入ってくる時は一声かけてくれ。
 吃驚するじゃないか」
「あら、霖之助さんでも驚くことあるのかしら」
「ああ、それはもちろん。
 現に今も……」


 言いかけて……口を噤む。
 軽く咳払い。


「……とにかく。いいね、霊夢」
「ええ、わかったわ」


 霊夢はひとつ頷くと、居住まいを正した。
 じゃあ……と深呼吸。


「ただいま、霖之助さん」

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非公開コメント

No title

しかしあれだな、ラストが霊夢ってそこは魔理沙じゃないのかよ、って思ってしまうのはなぜだ。

やっぱり考えすぎだろうか。

No title

霊夢が最後ってのは予想してたし覚悟もしてた。はず。
予想をはるかに上回るラストすぎて鼻血とときめきが止まらないんですが…

No title

最後のは殺し文句だろjk・・・GJです。

霊霖は俺様のジャスティス
もう結婚しちゃいなよお前ら

No title

最後が霊夢・・・これこそ、ラスト霊夢(ン)

初めての書き込みがこんなんですいませんorz
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