バレンタインSS18
雛祭りだけに雛のバレンタインを。どういう理屈だって話ですね。
嬉しくなるとつい病んじゃうんだ。
霖之助 雛
「厄は天下の回りものね」
「……ふむ?」
対面に座る厄神の言葉に、霖之助は首を傾げた。
「金は天下の回りもの、とは聞いたことがあるがね。
厄もそうなのかい?」
「ええ、そうよ」
ココアの入ったカップを置き……雛は頷く。
妖怪の山の麓にある厄神様の家。
霖之助は俗に言う『曰く付きの道具』の厄払いを頼みに、彼女を尋ねてきたのだった。
もっとも、本当に危険で魅力的な道具の数々は、きちんと厳重に封印して非売品になっているのだが。
……それはともかく。
「人から人へ次々と移り渡る。
今はなくてもいつか手に入ったり、今持っててもいつか無くなる。
そういうものでしょ?」
「どちらもためすぎるとロクなことになりそうにはないね」
雛の言葉に、霖之助は苦笑いを浮かべた。
どちらのほうがたまりやすいかは……考えないようにしておく。
「それはそうね。
だから私は回転させることで、厄がこれ以上回るのを防いでるのよ」
「なるほど、さすがは厄神様だ」
感心する霖之助に、雛は頷く。
……しかしふと彼は首を傾げた。
「だけど金は貯まる人には一方的に貯まったりするじゃないか。
……僕もぜひそうなりたいところだが」
「あら、厄だってそうよ。
厄を溜め込む体質の人っているわよね」
言って……雛はじっと、霖之助を見つめる。
「……どうして僕を見るんだい」
「いえ別に。深い理由はないけど」
ないと言われても気になってしまう。
……聞いても答えてくれそうにないので、霖之助は話題を変えることにした。
「でも今は回ってないじゃないか。
……大丈夫なのかい? その、なんと言うか」
「厄が回ってこないかって?
大丈夫よ。私がいる限りはね。
もっとも、厄を集めてるのも私なんだけど」
彼女はそう言って笑うと、指をくるくると回した。
歪んで見えるほどの厄が、見る見るうちに集まっていく。
「厄は厄を呼ぶ。
溜まった厄は……固めてしまえばいいのよ。
こんな風にね」
凝縮された厄はやがて不思議な色合いの固まりへと姿を変える。
雛はそれを宝石箱のようなものに大事に仕舞った。
「お金も金庫にしまって触らなければ減らないでしょう?」
「それはそうだが……同じ理屈でいいのかな」
その答えは神のみぞ知る、だろうか。
……まあ、神がそう言うならそうなのかも知れない。
「さっきあなたの持ってきた道具たちの厄が、これ。
人斬り包丁とか呪いの掛け軸とか……う~ん、ロクでもないわね、ほんと」
何故だか嬉しそうに、彼女は笑う。
「持ってみる?」
「……やめておくよ」
呪いの道具や人形くらいなら対処のしようもあるが、厄そのものでは手の打ちようがない。
厄に触れて大丈夫なのは神くらいのものだ。
「あら、死にはしないわよ」
可笑しそうに、彼女は厄玉を弄んでいた。
「死んだほうがマシ、って思うでしょうけど。
そうそう簡単に楽にはさせてくれないわよ~」
「そいつはぞっとしない話だね。
……でも、死んだら厄から解放されるのかな」
「あら、どうしてそう思うの?」
首を傾げる雛に、霖之助は苦笑を浮かべた。
「最近は随分簡単に冥界に行けるようになったみたいだからね」
「そうね。
妖怪の山でも幽霊をよく見るわ。
あと、刀を持ったのとか……」
香霖堂にもよく幽霊が来たり半霊少女が来たりする。
最近は冥界との結界が薄くなったらしい。
さすがに彼岸まで行くことは出来ないようだが。
「この前天狗の新聞に冥界の記事が載ってたんだ。
あれには驚いたな」
「ああそうそう、天狗と言えば」
ぽん、と雛は手を叩いた。
そのまま立ち上がり、棚から何かを取り出す。
「バレンタインって知ってるかしら」
「バレンタイン?
知ってはいるが……」
予想外の言葉に、霖之助は驚きの表情を浮かべた、
……まさかこんなところで聞くとは思わなかった。
「なんだか天狗が幻想郷に広めようとしててね。
私のところにもきたのよ。
バレンタインいりませんかって」
霖之助はその光景を想像しようとして……何故か行商している文と椛が思い浮かび、慌てて打ち消した。
まさかそんなはずもないだろう。
……たぶん。
「……それで、どうしたんだい?」
「別に、どうもしないけど」
雛はひとつ笑うと、後ろ手に隠していたものを差し出してきた。
「せっかくだから、私も参加してみようと思って。
はい、本命チョコよ」
彼女から渡されたのは、大きなハートマークを象ったチョコレート。
一見すると、随分立派なものに見える。
しかし。
「……義理チョコ、と見えるね」
「あら、相変わらず便利な能力ね」
「それはどうも」
そのチョコレートの名前は義理チョコ、と見えた。
未知のアイテムの名前と用途がわかる程度の能力。
「でも、残念そうな顔してる」
「本命チョコと持ち上げられ、落とされればね」
冗談交じりに……ため息混じりに、霖之助は呟いた。
「受け取ってくれるかしら」
「ああ、ありがたくね」
「……ありがとう」
雛は微笑みながら、一歩ずつ……彼に近づく。
「しかしそれにしても、甘そうなチョコレートだね」
「あら、そうかしら」
首を傾げる雛。
いつの間にか、彼女は霖之助の目の前へとやって来ていた。
「私の本命は、とびきり苦いわよ」
「何が……んぐ」
疑問を発した唇は、すべて言い終わる前に塞がれる。
「……ね?」
ゆっくりと唇を離し……神は妖艶に微笑む。
雛の身につけているリボン。
霖之助はそれらに『本命』という名が付いているように見えた。
・おまけ。
没にしたルート。
「ねえ、そのチョコレート、おいしいかしら?」
「そう。よかった。
そうだ、ひとつ言ってなかったことがあるのだけど」
「固めた厄は、溶かし込むことも出来るのよ」
「……なに?
大丈夫よ。
私から離れなければ、何も問題ないわ……」
雛霖バレンタインのイメージを相方に描いて貰いました。
表
裏
嬉しくなるとつい病んじゃうんだ。
霖之助 雛
「厄は天下の回りものね」
「……ふむ?」
対面に座る厄神の言葉に、霖之助は首を傾げた。
「金は天下の回りもの、とは聞いたことがあるがね。
厄もそうなのかい?」
「ええ、そうよ」
ココアの入ったカップを置き……雛は頷く。
妖怪の山の麓にある厄神様の家。
霖之助は俗に言う『曰く付きの道具』の厄払いを頼みに、彼女を尋ねてきたのだった。
もっとも、本当に危険で魅力的な道具の数々は、きちんと厳重に封印して非売品になっているのだが。
……それはともかく。
「人から人へ次々と移り渡る。
今はなくてもいつか手に入ったり、今持っててもいつか無くなる。
そういうものでしょ?」
「どちらもためすぎるとロクなことになりそうにはないね」
雛の言葉に、霖之助は苦笑いを浮かべた。
どちらのほうがたまりやすいかは……考えないようにしておく。
「それはそうね。
だから私は回転させることで、厄がこれ以上回るのを防いでるのよ」
「なるほど、さすがは厄神様だ」
感心する霖之助に、雛は頷く。
……しかしふと彼は首を傾げた。
「だけど金は貯まる人には一方的に貯まったりするじゃないか。
……僕もぜひそうなりたいところだが」
「あら、厄だってそうよ。
厄を溜め込む体質の人っているわよね」
言って……雛はじっと、霖之助を見つめる。
「……どうして僕を見るんだい」
「いえ別に。深い理由はないけど」
ないと言われても気になってしまう。
……聞いても答えてくれそうにないので、霖之助は話題を変えることにした。
「でも今は回ってないじゃないか。
……大丈夫なのかい? その、なんと言うか」
「厄が回ってこないかって?
大丈夫よ。私がいる限りはね。
もっとも、厄を集めてるのも私なんだけど」
彼女はそう言って笑うと、指をくるくると回した。
歪んで見えるほどの厄が、見る見るうちに集まっていく。
「厄は厄を呼ぶ。
溜まった厄は……固めてしまえばいいのよ。
こんな風にね」
凝縮された厄はやがて不思議な色合いの固まりへと姿を変える。
雛はそれを宝石箱のようなものに大事に仕舞った。
「お金も金庫にしまって触らなければ減らないでしょう?」
「それはそうだが……同じ理屈でいいのかな」
その答えは神のみぞ知る、だろうか。
……まあ、神がそう言うならそうなのかも知れない。
「さっきあなたの持ってきた道具たちの厄が、これ。
人斬り包丁とか呪いの掛け軸とか……う~ん、ロクでもないわね、ほんと」
何故だか嬉しそうに、彼女は笑う。
「持ってみる?」
「……やめておくよ」
呪いの道具や人形くらいなら対処のしようもあるが、厄そのものでは手の打ちようがない。
厄に触れて大丈夫なのは神くらいのものだ。
「あら、死にはしないわよ」
可笑しそうに、彼女は厄玉を弄んでいた。
「死んだほうがマシ、って思うでしょうけど。
そうそう簡単に楽にはさせてくれないわよ~」
「そいつはぞっとしない話だね。
……でも、死んだら厄から解放されるのかな」
「あら、どうしてそう思うの?」
首を傾げる雛に、霖之助は苦笑を浮かべた。
「最近は随分簡単に冥界に行けるようになったみたいだからね」
「そうね。
妖怪の山でも幽霊をよく見るわ。
あと、刀を持ったのとか……」
香霖堂にもよく幽霊が来たり半霊少女が来たりする。
最近は冥界との結界が薄くなったらしい。
さすがに彼岸まで行くことは出来ないようだが。
「この前天狗の新聞に冥界の記事が載ってたんだ。
あれには驚いたな」
「ああそうそう、天狗と言えば」
ぽん、と雛は手を叩いた。
そのまま立ち上がり、棚から何かを取り出す。
「バレンタインって知ってるかしら」
「バレンタイン?
知ってはいるが……」
予想外の言葉に、霖之助は驚きの表情を浮かべた、
……まさかこんなところで聞くとは思わなかった。
「なんだか天狗が幻想郷に広めようとしててね。
私のところにもきたのよ。
バレンタインいりませんかって」
霖之助はその光景を想像しようとして……何故か行商している文と椛が思い浮かび、慌てて打ち消した。
まさかそんなはずもないだろう。
……たぶん。
「……それで、どうしたんだい?」
「別に、どうもしないけど」
雛はひとつ笑うと、後ろ手に隠していたものを差し出してきた。
「せっかくだから、私も参加してみようと思って。
はい、本命チョコよ」
彼女から渡されたのは、大きなハートマークを象ったチョコレート。
一見すると、随分立派なものに見える。
しかし。
「……義理チョコ、と見えるね」
「あら、相変わらず便利な能力ね」
「それはどうも」
そのチョコレートの名前は義理チョコ、と見えた。
未知のアイテムの名前と用途がわかる程度の能力。
「でも、残念そうな顔してる」
「本命チョコと持ち上げられ、落とされればね」
冗談交じりに……ため息混じりに、霖之助は呟いた。
「受け取ってくれるかしら」
「ああ、ありがたくね」
「……ありがとう」
雛は微笑みながら、一歩ずつ……彼に近づく。
「しかしそれにしても、甘そうなチョコレートだね」
「あら、そうかしら」
首を傾げる雛。
いつの間にか、彼女は霖之助の目の前へとやって来ていた。
「私の本命は、とびきり苦いわよ」
「何が……んぐ」
疑問を発した唇は、すべて言い終わる前に塞がれる。
「……ね?」
ゆっくりと唇を離し……神は妖艶に微笑む。
雛の身につけているリボン。
霖之助はそれらに『本命』という名が付いているように見えた。
・おまけ。
没にしたルート。
「ねえ、そのチョコレート、おいしいかしら?」
「そう。よかった。
そうだ、ひとつ言ってなかったことがあるのだけど」
「固めた厄は、溶かし込むことも出来るのよ」
「……なに?
大丈夫よ。
私から離れなければ、何も問題ないわ……」
雛霖バレンタインのイメージを相方に描いて貰いました。
表
裏