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バレンタインSS16

もし霖之助からチョコをもらったら少女達はどんな反応をするんだろう。

……さとりの出番が多すぎのような気がする。
だって好きなんだもの。


霖之助 さとり









 間欠泉異変が終わってから、地下の妖怪が地上に姿を見せるようになった。

 封印されていた地下の解放……と言うほど大層なものではなく、
単に地下と地上の壁がうやむやになっただけ、とも言う。
 物理的にも、精神的にも。

 つまりは……幻想郷は平和だった。
 やがて間欠泉騒ぎもUFO騒ぎも収まり、しばらく経った頃。


「あ、これ可愛いわ。
 お燐にあげたら喜ぶかしら」
「……猫に猫のぬいぐるみをあげてどうするんだい」


 地霊殿の主が、香霖堂の常連に加わっていた。
 なかなか家に帰ってこない妹を捜しに来たついでだったり、地上の宴会に呼ばれて来たついでだったり。
 人の集まるところの苦手な宴会を早々に退散してここにやってくる。
 苦手なら初めから出なければいいのではないか……と霖之助は考えたこともあるのだが。


「私、買い物ってあんまりしたこと無いのよね。
 どうしても、人の多いところに店ってあるじゃない?
 ……普通は」
「まるでここが普通じゃないみたいじゃないか」
「そうね、普通じゃないわ。
 ここなら……好きなだけ冷やかしができるもの。
 他の客もいないし……ね」


 そんなやりとりをしたのは、もう随分前のことだった。

 月に一度くらいの頻度で、さとりは買い物に来ていた。
 買う時もあれば、ただ冷やかす時もある。

 ……そんな冬のある日のこと。









「そう言えば、今日はバレンタインだな」
「なにそれ?
 ……ふぅん、そんなイベントがあったの」
「心が読めるというのは便利なものだね」
「そう思うのはあなたくらいのものよ」


 覚妖怪の嫌われる原因でもあるのだが、この店主はそんなことを考える素振りがない。
 だからこそ……さとりは安心してこの店で買い物ができる。


「それにしてもあなたがそんなのに興味があったなんてね。
 ちょっと意外だわ」
「……どういう意味か……は、聞かなくてもわかるよ。
 自分ではそんなつもりないんだけどね」


 さとりの視線に、霖之助は肩を竦めた。


「ま、そういうことにしておきましょうか。
 でも、先に言ってくれれば用意したのに。
 義理チョコくらいはね」
「いや、その必要はないよ」


 首を振る霖之助に、さとりは首を傾げる。
 チョコが嫌いなのだろうかと思うが……そんな思考はない。


「せっかくだから、僕が君にチョコレートをあげようと思ってね」
「……え?」


 何を言っているのか、わからなかった。
 もう一度、情報を整理する。


「……えーっと……」


 心が読めるのに相手の考えがわからないのは久し振りの感覚だった。
 読んだバレンタインの情報と、霖之助の言葉。
 ……あまりにもかけ離れすぎている。


「バレンタイン……よね?」
「ああ」
「その、好意を持ってる相手にチョコと渡すイベント……よね。
 女の子が、男の子に」
「そう……言われているね」


 ここまでは間違いないようだ。
 ……あり得ないと思うが、一応確認しておく。


「あなたは男で、私は女よね」
「僕が女に見えるのかい?」


 わからない。
 こんなに混乱したのはいつ以来だろう。

 目の前の男からバレンタインに関する記憶を読み取っても、ますます混乱するばかり。
 ……どうして、さとりがチョコを貰わなければならないのか。


「逆チョコ、というものがあってね」


 霖之助は満足したかのように、口を開いた。
 覚妖怪を混乱させるのが楽しかったのだろう。

 ……意地の悪いことだ。


「……逆?」


 さとりは悔しそうに、唇を尖らせる。


「そう、逆さ。
 普通バレンタインは女性から男性にチョコレートを渡す。
 しかし男性から女性に渡すのが……これさ」


 そう言って霖之助は、机の中から箱を取りだした。
 どうやら件のチョコレートらしい。

 ああなるほど、とさとりは納得する。
 彼の中では逆チョコとバレンタインは別物になっているのだ。
 素直にチョコレートに関する記憶を読めば、混乱しなかったのだろう。
 そう、こんな風に。


「名前は友チョコ。
 用途は……そうね。
 親愛の情を表す、かしら」
「……なんだかすごくどこかで聞いたことのあるような言い方だね」


 さとりの言葉に、霖之助は笑みを浮かべる。


「あなたの心を通して見た道具は、違った見え方をするのね……。
 でもどうして、逆チョコを?」


 思考は所詮情報に過ぎない。
 質問することによってまとまり、意志となる。

 いくら覚妖怪とはいえ、会話の先読みや過去の記憶を引き出すのならともかく、
自分が知りたいことを確認するにはやはり言葉で確かめてみるしかないのだった。


「外の世界では、全く根付かなかったらしいと聞いてね。
 どうして根付かなかったのか、考えてみたくなったのさ」
「ふぅん」


 さとりは霖之助からチョコレートを受け取り……彼を見つめた。
 彼と、彼の心の中を。


「それにしても、友チョコね……。
 義理チョコみたいなものかしら」
「日ごろの感謝だと思ってくれればいいよ」


 彼の心を通して、チョコレートにこめられたいくつもの感情を読み取る。
 感謝、期待、打算……そして、確かな愛情。


「……!?」
「……どうした」
「な、なんでもないわよ」


 さとりは思わず、顔を真っ赤にして俯く。
 あろう事か……霖之助の記憶から、このチョコが手作りであることも読み取ってしまった。

 もちろん愛情と言っても様々だ。
 しかしさとりはペットや妹からではなく、赤の他人……それも異性からそんな感情を向けられたことがない。

 ……赤面する理由としては、十分だった。


「やはり男からはおかしいかな。
 ……やれやれ、通りで流行らないはずだ」


 反応がないことに、落胆したのだろう。
 霖之助はチョコレートを手にとり、捨ててしまおうかと考え……。

 反射的に、さとりは叫んでいた。


「待って……!」


 慌てていたせいだろう。
 思い切り、目測を見誤った。


「きゃっ……」
「おっと……」


 足がもつれて霖之助を押し倒してしまう。
 鼓動の音が、近くに聞こえた。


「……大丈夫かい?」
「え、ええ」


 目が合う。

 咄嗟に支えてくれたおかげだろう。
 どこもぶつけた様子はない。

 代わりに……抱きかかえられているような格好になってしまっているが。


「さとり、大丈夫かい?」
「……わからない……」


 覚妖怪なのに。


「さとり?」
「……わからないのよ」


 ……自分の、心が。


「霖之助……さん……」


 無意識に唇を霖之助の顔に寄せる。
 潤む瞳、そっと目を閉じ……。


「んむ……」


 唇に触れる感触。
 そして口に感じる、甘い味――。


「そんなにがっつかなくても、チョコは逃げやしないよ」


 さとりはゆっくりを目を開けた。
 口に入ったチョコを、同じくゆっくり飲み込む。


「……落ち着いたかい?」
「ええ……おかげさまで」


 霖之助は少し驚いただけで、さとりほど慌てた様子はない。
 ……きっとドジな妖怪の相手は慣れているのだろう。

 そう思われるのは、いささか心外だったが。

 だが、それ以上に……。


「……苦いわね」
「カカオでもビターでもないはずだけど?」


 彼女の言葉に、霖之助は首を傾げた。
 ため息を吐き……さとりは続ける。


「……甘いわね」


 私が、とは言えず。
 飲み込むついでに、チョコをもうひとつ口に入れる。


「気に入っていただけたようで何よりだよ」


 なんとまあ、気楽なものだ。
 さとりがどんな気分でいるかも知らずに。

 ……そんな嬉しそうに、笑うなんて。


「……今はこれで、我慢しておくわ」


 友チョコというのも……。
 こういう距離感も……悪くないのかも知れない。

 さとりは何となく、そんなことを考えていた。

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非公開コメント

No title

ニヤニヤガ止まらないです。
さと霖いいですねぇ。
これからもちょくちょく見に気まーす。

病んでない…だと……!?
このさとりもあると思います。

No title

あかん……
やはりさと霖はジャスティスすぐる……
思わず胸キュンしてしまった(←死語
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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