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バレンタインSS14

14日は天子の日ってはみゅんさんが言ってた。
そして空気を読んだらこうなりました。


霖之助 天子 衣玖









「ん」
「……桃?」


 霖之助の眼前へ、ぶっきらぼうに桃が突き出された。
 無意味だと半ば諦めつつ、相手の意図を考察する。


「今日は2月14日だね。
 はて、桃の節句はまだ随分先のはずだが」
「違うわよ」


 桃の主……天人の天子は、偉そうに腰に手を当て、胸を張る。
 小柄な彼女がそういうポーズを取っていると、なんだか微笑ましく見てしまうのだが……。
 本人は気付いていないのだろう。


「今日は2月14日。
 つまりバレンタインよ、バレンタイン」
「バレンタイン……?」


 ますますもって霖之助は首を傾げた。
 自分の記憶と随分違う気がする。


「今日はチョコを配る日だと聞いたんだが」
「う、うるさいわね!
 貰えるだけでもありがたいと思いなさいよ!」


 呆れ顔の霖之助に、天子は逆ギレしたかのように叫んだ。
 それにしても、バレンタインの風習は天界にまで届いているようだ。
 ……幻想郷に広まったのはごく最近のことなのに。


「で、どうなのよ。
 受け取るの? 受け取らないの?」


 天子の表情がにわかに曇る。
 受け取って貰えないのかと心配しているのだろうか。


「ありがとう。
 受け取らせてもらうよ」
「ふん、最初からそうしてればいいのよ」


 霖之助に桃を手渡し、天子は笑う。
 ……安心したかのように。


「しかしこれは天界の桃かい?
 冬に実がなるものではないと思うんだが」
「そうよ。
 天界じゃ一年中桃が取り放題なのよ。
 ……桃くらいしかないんだけどね」


 天界の食事はマズい、というのは彼女の弁だ。
 しかしそれは天人の感覚であり、人間には極上の味……らしい。

 天界に行ったことはないが、阿求がそう書いていた。
 どのみち信憑性は微妙だが。


「……しかし随分傷だらけじゃないか。
 どうしたんだい?」
「こ、これは……」


 慌てて天子は指を隠す。
 頑丈な天人の肌を傷つけるとは、どれほどのことがあったのだろうか。


「……別に、気を抜いてたら普通に怪我するわよ。
 それくらいで死ぬことはないけど」
「なるほど、そうなのか」
「うん、たぶんそう」


 たぶん、というのが引っかかったが……気にしないでおく。
 どのみち聞いても考えてもわからないことだ。


「せっかく桃を貰ったのだから、美味しく食べてみたいところだね。
 丁度この間、デザートのレシピ本を拾ったところで試してみたかったんだ。
 君も食べていくかい?」
「……わ、私も手伝うわよ。
 ここ最近で、料理できるようになったんだから……」
「ほう? それは楽しみだね」


 霖之助は笑いながら、桃を手に立ち上がる。
 天子は霖之助について行こうとして……。


「こんにちは、香霖堂さん」
「おや、いらっしゃい」


 店内に響いた声に、足を止めて振り返った。
 その様子に不満そうな表情を浮かべる天子だったが、声の主を確認して驚いた声を上げる。

「衣玖?
 何しに来たのよ」
「何って、チョコレートを配りにですよ
 今日はそう言う日だと聞きましたからね」


 衣玖はそう言うと、緋色の羽衣をひらひらとなびかせながら、霖之助の前へと歩いてきた。
 そこでふと、思い出したように天子に向き直る。


「それと忘れ物を届けに……と思ったんですが、必要無かったみたいですね」
「何の話だい?」
「いえいえ、こっちの話ですよ」


 彼女はそう言って、懐から小箱を取り出した。
 綺麗にリボンでラッピングされた、緋色の小箱。


「はい、香霖堂さん。
 総領娘様の手前、義理チョコですけど」
「はっきり言うね。
 まあ、構わないが」
「ええ。正直に……ではありませんけど」


 衣玖の言葉に、天子は何か言いたそうに口を開け……やめる。
 そんな彼女に視線を送り……衣玖はニヤリと微笑んだ。
 天子にだけ見える角度で。


「そうそう、香霖堂さんは刀剣に興味がおありなんでしたっけ」
「ああ……まあ、ね」


 丁度よかった、とばかりに衣玖は
 立ち話もなんなので、再び椅子に腰を落ち着ける。


「天界の秘宝に、緋想の剣というものがあるんですよ」
「ほう?」
「緋想の剣は
 必ず相手の弱点を突く事が出来る、天人にしか扱えない剣。
 ……その剣を」
「それはまた、どうしてそんなことを」


 草薙の剣で料理をする自分を想像し……苦笑を浮かべた。
 あり得ない、と思いながら。


「それで料理したら相手の好みの味になるんじゃないかというところですかね」
「無茶苦茶だな」
「ええ、普通はそう思いますよね」


 天子が苦い顔をしていたことに……霖之助は気付かない。


「それで、どうなったんだい?」
「失敗しました。ものの見事に」
「うぐ」


 衣玖の言葉に、天子は呻き声を上げる。
 霖之助が不思議そうな表情を浮かべると……慌てて彼女は首を振った。
 なんでもない、と言いながら。


「まぁ……それはそうだろうね」


 肩を竦め、ため息を吐く。
 衣玖も合せて、ため息。
 天子は肩を落として、ため息。


「面白い話を聞かせてくれたお礼に、君もどうだい?
 丁度デザートを作ろうかと思っていたところでね。
 義理だというのなら、一緒に食べようじゃないか。
 ……そうだ、桃とチョコレートのデザートにしよう」
「ええ、ご相伴にあずからせていただきますわ」


 キッチンへと向かう霖之助を見送り……店には衣玖と天子のふたりが残される。
 しばしの沈黙。

 ……やがて天子が、口を開く。


「……失敗作は捨ててきたはずだけど」
「食べ物は粗末にしてはいけませんからね。
 そこはほら、空気を読んでスタッフが美味しく頂く流れですから」


 衣玖の言葉に、天子はしばしの逡巡。


「失敗作をここで出さなかったことについては感謝してあげるわ。
 恥ずかしくて見せられないもの」
「香霖堂さんなら、普通に受け取って普通に食べてくれそうな気もしますけどね」
「……だから嫌なのよ」


 失敗したチョコレートを自分の実力だと思われると困る、ということだろうか。
 衣玖は首を振り……キッチンへと視線を送る。


「香霖堂さん、行っちゃいましたよ。
 追いかけなくていいんですか?
 せっかく料理の練習してたんですから」
「……言われなくても」









「やれやれ、私もまだまだ甘いですね」


 ひとり残された衣玖は、ため息を漏らす。
 今頃ふたりでデザートでも作っていることだろう。

 ……まあ、14日という今日くらいはそれでもいい。
 だけど。


「せめて空気を読んで、正々堂々と勝負することにしましょうか」


 衣玖はそう言うと、持ってきたチョコレートを懐に仕舞った。
 代わりにもうひとつ……別のチョコを取り出す。


「正々堂々と本命チョコを渡して、ね」

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No title

キャーイクサーン
さすが空気のわかる女はちがった

キャーイクサーン!
大人の女やで!

諸事情により携帯の使用を1年禁止しますので道草さんのSSが見れなくなります
残念ですwww
来年戻ってきた時に、また道草さんの東方SSを見れることを楽しみにこの1年頑張っていこうと思います
1ファンとして応援してます
がんばってくださいっ!!!!

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