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バレンタインSS10

バレンタインSSもようやく折り返し地点……のような気がする。
そしてこいしを書くのは初めてだよ。
これで地霊殿キャラはキスメ以外全部書いたよw


霖之助 こいし








 サンドイッチ伯は無類のトランプ好きで、食事にかける時間も惜しむ程だった。
 ゲームの合間に片手で食事が取れるよう作られたのが現在のサンドイッチである……という話はよく聞く。

 しかし彼は海軍大臣という要職にあり、きちんと食事をする暇もない激務の中で必要に駆られて作られたものだった、という説もある。

 そもそもパンに具を挟んだものがサンドウィッチ以前になかったわけでもないし、はっきりとしたことは定かではない。


 なんにせよ、片手間に取れる食事というのが忙しい人間たちの間で人気だったと言うことは今も昔も同じなのだろう。
 そう、例えばこの……霖之助のように。





「……うん、美味い。
 これはなかなかに当たりかもしれないな」


 本から目を離すことなく、霖之助は片手間にお菓子をつまんでいた。
 期間限定の商品というものは定期的に無縁塚に流れ着く。
 もう外の世界では春に向けた商品があふれかえっているのだろう。
 そのせいか、真冬をモチーフにしたお菓子などを結構見かけるようになっていた。

 当たりもあれば外れもある。
 ……一時期小豆や紫蘇の炭酸水を見つけた時はどうしようかと思ったが、流れ着くべくして流れ着いたのかも知れない。


「名前が少し気になるが……」


 霖之助が囓っているのは、外の世界のチョコレート菓子だ。
 知り合いの吸血鬼の妹と名前が同じなので見つけた時から気になっていた。

 なかなか味が濃厚で、すっかり気に入ってしまった。
 残りがあまり無いのが残念であるが。


「……ん?」


 ふと、唇に柔らかいものが触れる。
 同時に、視界いっぱいに広がる少女の顔。

 いつの間にか目の前にこいしが立っていた。


「……こいし、何をやっているんだい」
「ほへ?」


 彼女は驚いたように目を見開くと、ようやく身体を離す。


「えっとねー、んむんむ」
「……その前にまず飲み込むといい」


 こいしは霖之助が食べていたチョコレート菓子を、反対の端から食べていたらしい。
 ……唇が触れるのも道理である。

 またいつもの悪戯かと思い、霖之助はため息を吐いた。


「こいし、チョコが食べたいなら置いてるのをこっそり食べなさい」
「え? え?」


 やや強い口調で言ったせいだろうか。
 こいしは慌てたように視線を彷徨わせる。

 無意識で動いたからだろう。
 自分でも何をしたか、理解していないらしい。


「私、そのつもりだったんだけど」
「君がそのつもりでも実際食べてたのは僕の分だがね」
「霖之助の顔を見てたら無意識の内に体が動いてたの」
「なにを言ってるんだ……」


 肩を竦め、ため息。
 その様子にますます彼女は慌てたような表情を浮かべる。


「だって……霖之助が……」


 こいしの言い訳は要領を得ないものだった。
 だんだんと涙目になっていく彼女に、霖之助もどうしたものかと考える。

 別に怒っているわけではないのだが……。


「あらこいし、こんなところにいたのね。
 ……何をしているの?」


 天の助けとばかりに降ってきた声に、霖之助は思わず振り返った。


「……いらっしゃい、さとり」


 そんな彼に、さとりは訝しむような視線を送る。


「来てくれて助かった、ね。
 そんな事を思われたのは初めてだわ」
「お姉ちゃん」


 こいしは涙に揺れた瞳でさとりに向き直った。
 そんなふたりを見比べ……さとりはジロリと霖之助を睨む。


「どういうことか、説明してもらいましょうか」
「まさか君からそんなことを言われるとは思わなかったよ」


 こいし絡みだからだろうか。
 覚りの能力も十分に発揮されているわけではないようだ。

 助かった、と思う。
 先ほどとは別の意味で。


「……で?」
「でと言われても、いきなりこいしが来たから吃驚しただけさ」
「こいしもそうなの?」
「うん、ビックリした」


 霖之助に合せるように、こいしはコクコクと頷いた。


「ふ~ん」


 彼女は半信半疑のようだったが……今はそれ以上追求する気はないようだ。
 霖之助は居住まいを正すと、カウンターの席に座り直した。


「ところで、君はどうしてここに来たんだい?
 こいしを探しに来た……というわけでもなさそうだが」
「何って、買い物よ。
 チョコを買いに来たの。
 なんだか知らないけど、バレンタインデーって行事があるらしいじゃない。
 地下でみんなに配ろうと思って」
「なるほどね。
 地霊殿の主も大変だな」
「感謝の気持ちよ。そういうイベントみたいだし」
「バレンタイン……そんなのがあるんだ」


 こいしはなにやら感心したように頷いていた。

 ……まあ確かにそういう側面があることも否定は出来ないが、どちらにしろ本来の意味からは離れている気がする。


「地下に帰るなら、ついでにこの子を連れて帰ってくれないか」
「構わないけど」
「こいしもそれでいいね?」
「うん」


 こいしは頷くと、さとりの手を取った。
 こうしてみるとやはり仲のいい姉妹なのだろう。


「わ、私もチョコレート買う。
 いいよね、お姉ちゃん」
「もちろんよ。
 じゃあ一緒に買いましょうか」
「ああ、ちょっと待っててくれ」


 ふたりの少女に言われ、霖之助は商品棚からダンボールを引っ張り出した。
 香霖堂は道具屋だが、外の世界の食糧も少しは取り扱っている。

 保存が簡単で、腐りにくいものに限るが。


「好きなのを選んでくれ」


 ダンボール一杯のチョコレートを、カウンターの上に置く。
 幸いにして大半は最近入荷したばかりである。
 保存状態や食べられるか怪しかったのは処分済みだ。


「ね、お姉ちゃん」
「なに?」


 こいしがさとりになにやら耳打ち。
 ……話を聞いた彼女は、笑顔を浮かべ、頷く。


「何かこいしが迷惑かけたみたいだから。
 全部買わせてもらうわ」
「そうかい? ありがたいが、別に迷惑でもないけどね」


 それにしても豪快な買いっぷりだ。
 地霊殿の主ともなるとやはりひと味違う。

 ……違わなくてもいいからぜひ皆に見習ってもらいたいものだ。


「じゃあ、あなたにはこれあげる」


 さとりはチョコレートの山の中から、ひとつのチョコを取り出した。


「僕にかい?」
「ええ。バレンタインだもの」


 それを受け取り、霖之助は驚きの表情を浮かべる。
 予想していなかったせいか、売ったものだとはいえ、もらえるとなんだか嬉しいものだ。


「じゃあ私はね、これー」


 こいしはカウンターの脇に置いてあったチョコレート菓子を手に取った。
 先ほど霖之助が食べていた菓子、その残りだ。


「それも買うのかい?」
「全部、って言ったじゃない」
「いや……それはそうだが」


 確かに言葉通りならそれも売ったことになる。
 ……気に入っていたのだが、仕方ない。


「はい、霖之助」


 しかしそう思っていると、こいしはおもむろにチョコレートの片方を自分の口にくわえた。


「さっきの続き、しよ?」


 そして反対側を、霖之助に向かって突き出してくる。


「……さっきの……?」


 さとりは3つの目で、霖之助を睨んでいた。
 こいしは目を瞑り、霖之助が訪れるのを待ち望んでいる。


 どちらを選ぼうと……。
 今日という日が無事に終わるとは、とても思えなかった。

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非公開コメント

好きなんです……修羅場が

最近こいし絡みの話に弱いんすよwww
いいっすね

とうとうペプシソも幻想入りかww

良い修羅場だ

No title

「天の助けとばかりに降ってきた声に、霖之助は思わず振り返った。」のところの
「天の助」を間違えて「てんのすけ」って読んでしまって僕は病気かもしれない・・・・

よし、ちょっと反省するために、東方香霖堂が発売する前に「ボボボーボ・○ーボボ」を
もう一回読み直してくる!
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