バレンタインSS08
伺かの初回起動のセリフに誤字とは……泣けるw
温かい目で見守ってください。はい。
というわけでまだまだ続く予定のバレンタイン。
霖之助 チルノ
自信はあったのに。
出来ると信じていたのに。
「どうしてこうなった……」
霖之助はがっくりと肩を落とした。
香霖堂の台所には甘い匂いが充満している。
その発信源……金属で出来たトレイに並べられたチョコレート菓子の表面には、白い粉のような模様が浮かんでいた。
ブルーム現象というやつである。
チョコレートに含まれている油脂成分の融点の違いによって起こるものだ。
それを防ぐためにテンパリングという作業を行うのだが……。
「……おかしい。
手順は完璧だったはずなんだが」
ひとり呟く霖之助。
テンパリングが失敗していた、としか考えられない。
……自信はあったのに。
「……やり直すしかないか」
大きくため息を吐く。
既に今日はバレンタイン当日だ。
今更商品にチョコレートを追加したとしても時既に遅い気もするが、やりかけたまま投げ出す気にはなれなかった。
「せめてあと1週間早ければな……」
早苗からバレンタインのことを聞いたのが2日前。
バレンタイン自体は前から知っていたが、幻想郷には根付かないだろうと思っていた。
しかし早苗の神社や天狗が大々的に宣伝をするというので商売のチャンスと思い、
霖之助もチョコレートを商品に加えようと画策したのが昨日のこと。
材料は譲ってもらった。
チョコレート作りの知識もある。
ただ、肝心の技術が追いついていなかったようだ。
「まさかこんなに難しいとは思ってもいなかったな」
少し離れた場所には、失敗したチョコレート菓子が並べられていた。
これで何度目の失敗だろう。
「……もう一度、やってみるか」
まだ材料はある。
もう一度分、くらいは。
「チョコレートは出来るだけ細かく、均一に刻むこと……と」
霖之助はお菓子作りの本を凝視しながら、再びチョコレートに立ち向かう。
「刻んだチョコレートを湯煎にかけ、50度ほどに温める……」
温度が重要である。
実は量も重要らしい。
「このとき湯気や水蒸気が入らないように気をつける、と」
チョコレートの様子をこまめにチェックしながら、霖之助は何度も手順を確認していた。
集中していたせいだろう。
いつものなら気付くはずの音……。
玄関のカウベルが鳴った音に、気が付かなかったのは。
「あ、いた。りんのすけー。
あそびにきたよー」
「……チルノ?」
キッチンのドアを開けて入ってきた妖精に振り返り……慌てて視線を戻す。
氷精の冷気に当てられた水蒸気は、空中で凝固し、重力に従って落下していく。
水滴は止める間もなく、そこかしこに現れていた。
……無論、チョコレートの入ったボウルの中にも。
「…………」
「ん? どうしたの?」
霖之助に見つめられ、チルノは首を傾げる。
「え? え?
……あたい、何かした……?」
何も言わない霖之助の表情に怯えたように、チルノは涙を浮かべた。
……そんな表情をしていたのだろうか。
霖之助はため息を吐き、苦笑を浮かべる。
「そんなことはないよ。
ちょっと料理に失敗してね、落ち込んでいたのさ」
「へー、そうなんだ。
りんのすけも失敗するんだね」
「……チョコレートというお菓子でね。
綺麗に作るのが難しいんだ……」
「あ、あたい知ってる! メイドにもらったことがあるよ!」
思い出しているのだろう。
チルノは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「甘くておいしかったよ!
りんのすけも作ってるの?」
「作ろうとしたんだけどね」
霖之助は再び肩を落とした。
失敗したチョコレート菓子に視線を送る。
「ごらんの通り、さ」
「ん~?」
チルノは霖之助の肩に乗るようにして、彼の視線を追った。
ひんやりとした彼女の身体が密着し、いい具合に頭が冷えてくる。
……なんだから落ち着いてくるから不思議だ。
「これがりんのすけのチョコレート?」
「ああ、そうだよ」
失敗作しかないが、霖之助のチョコレートであることに違いはない。
自分で作ったものには責任を持ちたいところだ。
そして、その処理も。
「ね、ね、食べていい?」
チルノは嬉しそうに、チョコレート菓子に飛びついた。
本当は霖之助がすべて食べてしまおうと思っていたのだが。
「別に構わないが……あまりおいしくは」
「やったー! じゃあこれとね、これとね……」
霖之助の言葉を聞かず、チルノは次々にチョコレートを口に放り込んでいく。
ブルーム現象の出てしまったチョコレートはどうしても口溶けが悪いのだが……。
「おいしいよ、りんのすけ!
さすがどーぐやだね!」
「そうかい? ……道具屋は関係ないと思うけどね。
どれどれ」
チルノの笑顔に、霖之助は思わず首を傾げた。
自分でもひとつ、食べてみることにする。
「…………」
……やはりというかなんというか。
失敗した味、ではある。
しかし。
「ね?」
口の周りをチョコレートでベタベタにしながら、チルノは笑った。
……彼女の美味しそうな笑顔を見ていると、まあいいか、という気分になってくる。
「……ああ、そうだね」
霖之助もつられて笑う。
そしてこの笑顔のお礼に、ひとつ約束を交わすことにした。
「来年は、もっと美味しいチョコレートを食べさせてあげるよ」
温かい目で見守ってください。はい。
というわけでまだまだ続く予定のバレンタイン。
霖之助 チルノ
自信はあったのに。
出来ると信じていたのに。
「どうしてこうなった……」
霖之助はがっくりと肩を落とした。
香霖堂の台所には甘い匂いが充満している。
その発信源……金属で出来たトレイに並べられたチョコレート菓子の表面には、白い粉のような模様が浮かんでいた。
ブルーム現象というやつである。
チョコレートに含まれている油脂成分の融点の違いによって起こるものだ。
それを防ぐためにテンパリングという作業を行うのだが……。
「……おかしい。
手順は完璧だったはずなんだが」
ひとり呟く霖之助。
テンパリングが失敗していた、としか考えられない。
……自信はあったのに。
「……やり直すしかないか」
大きくため息を吐く。
既に今日はバレンタイン当日だ。
今更商品にチョコレートを追加したとしても時既に遅い気もするが、やりかけたまま投げ出す気にはなれなかった。
「せめてあと1週間早ければな……」
早苗からバレンタインのことを聞いたのが2日前。
バレンタイン自体は前から知っていたが、幻想郷には根付かないだろうと思っていた。
しかし早苗の神社や天狗が大々的に宣伝をするというので商売のチャンスと思い、
霖之助もチョコレートを商品に加えようと画策したのが昨日のこと。
材料は譲ってもらった。
チョコレート作りの知識もある。
ただ、肝心の技術が追いついていなかったようだ。
「まさかこんなに難しいとは思ってもいなかったな」
少し離れた場所には、失敗したチョコレート菓子が並べられていた。
これで何度目の失敗だろう。
「……もう一度、やってみるか」
まだ材料はある。
もう一度分、くらいは。
「チョコレートは出来るだけ細かく、均一に刻むこと……と」
霖之助はお菓子作りの本を凝視しながら、再びチョコレートに立ち向かう。
「刻んだチョコレートを湯煎にかけ、50度ほどに温める……」
温度が重要である。
実は量も重要らしい。
「このとき湯気や水蒸気が入らないように気をつける、と」
チョコレートの様子をこまめにチェックしながら、霖之助は何度も手順を確認していた。
集中していたせいだろう。
いつものなら気付くはずの音……。
玄関のカウベルが鳴った音に、気が付かなかったのは。
「あ、いた。りんのすけー。
あそびにきたよー」
「……チルノ?」
キッチンのドアを開けて入ってきた妖精に振り返り……慌てて視線を戻す。
氷精の冷気に当てられた水蒸気は、空中で凝固し、重力に従って落下していく。
水滴は止める間もなく、そこかしこに現れていた。
……無論、チョコレートの入ったボウルの中にも。
「…………」
「ん? どうしたの?」
霖之助に見つめられ、チルノは首を傾げる。
「え? え?
……あたい、何かした……?」
何も言わない霖之助の表情に怯えたように、チルノは涙を浮かべた。
……そんな表情をしていたのだろうか。
霖之助はため息を吐き、苦笑を浮かべる。
「そんなことはないよ。
ちょっと料理に失敗してね、落ち込んでいたのさ」
「へー、そうなんだ。
りんのすけも失敗するんだね」
「……チョコレートというお菓子でね。
綺麗に作るのが難しいんだ……」
「あ、あたい知ってる! メイドにもらったことがあるよ!」
思い出しているのだろう。
チルノは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「甘くておいしかったよ!
りんのすけも作ってるの?」
「作ろうとしたんだけどね」
霖之助は再び肩を落とした。
失敗したチョコレート菓子に視線を送る。
「ごらんの通り、さ」
「ん~?」
チルノは霖之助の肩に乗るようにして、彼の視線を追った。
ひんやりとした彼女の身体が密着し、いい具合に頭が冷えてくる。
……なんだから落ち着いてくるから不思議だ。
「これがりんのすけのチョコレート?」
「ああ、そうだよ」
失敗作しかないが、霖之助のチョコレートであることに違いはない。
自分で作ったものには責任を持ちたいところだ。
そして、その処理も。
「ね、ね、食べていい?」
チルノは嬉しそうに、チョコレート菓子に飛びついた。
本当は霖之助がすべて食べてしまおうと思っていたのだが。
「別に構わないが……あまりおいしくは」
「やったー! じゃあこれとね、これとね……」
霖之助の言葉を聞かず、チルノは次々にチョコレートを口に放り込んでいく。
ブルーム現象の出てしまったチョコレートはどうしても口溶けが悪いのだが……。
「おいしいよ、りんのすけ!
さすがどーぐやだね!」
「そうかい? ……道具屋は関係ないと思うけどね。
どれどれ」
チルノの笑顔に、霖之助は思わず首を傾げた。
自分でもひとつ、食べてみることにする。
「…………」
……やはりというかなんというか。
失敗した味、ではある。
しかし。
「ね?」
口の周りをチョコレートでベタベタにしながら、チルノは笑った。
……彼女の美味しそうな笑顔を見ていると、まあいいか、という気分になってくる。
「……ああ、そうだね」
霖之助もつられて笑う。
そしてこの笑顔のお礼に、ひとつ約束を交わすことにした。
「来年は、もっと美味しいチョコレートを食べさせてあげるよ」
コメントの投稿
おっふっ!!!!
死角から回り込まれた感じだ……
流石は道草さん…
チルノ……恐ろしい子っ!!
死角から回り込まれた感じだ……
流石は道草さん…
チルノ……恐ろしい子っ!!
チルノがチョコレート!?
と思ったらこう言う展開か!
うまいなぁ、してやられたぜww
と思ったらこう言う展開か!
うまいなぁ、してやられたぜww