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バレンタインSS05

甘いのはきっとチョコレートのせい。


霖之助 パチュリー









 読書というのはひとりで楽しむもの。
 霖之助はずっとそう思っていた。

 しかしある少女に出会って、その価値観は大きく変わることになった。
 同じ趣味を持つ、七曜の魔法使いに。





「この本の続きはまだ入らないのかしら」
「残念ながらね。
 僕も探してはいるんだが……」


 パチュリーの言葉に、霖之助は首を振った。

 声とは振動である。
 霖之助は彼女の声を、耳と……そして背中で聞いていた。


「僕も探してるんだけどね」
「そう」


 魔女と背中合わせに座り、霖之助は本のページをめくる。
 ぽつりと呟くように喋る彼女の言葉は、むしろ背中から伝わる響きのほうが感情を読み取りやすい。

 顔も見ていないし声も聞いていない。しかし確かに伝わっている。
 覚妖怪ほどではないが、考えていることすらわかり合える距離。

 ひょっとしたら彼女にとって、霖之助の感情もそうなのかも知れない。
 そんなことを考えていると、パチュリーがなにやら疑問に思ったようだ。


「なんでもないよ。
 しかしちょうどいい時に来たね、パチュリー」
「そうね。運がよかったわ」


 今日はちょうど無縁塚で商品を仕入れてきたところだった。

 本が結構落ちていたので、帰るなり霖之助は読書……ではなく、商品のチェックを行っていたのである。
 そんな時、パチュリーがやってきたのだ。

 ちなみに彼女が今読んでいるものもその中のひとつで、霖之助もまだ未読の本だ。


「占いをしたかいがあったというものね」
「ほう、君は占いもやるのかい」
「ええ。運は魔術にも重要な要素だもの」


 彼女はたまにふらりと香霖堂に立ち寄っては、本を読んで帰ることがある。
 いつからだろう。
 きっと魔理沙あたりに聞いてきたのかも知れないが……出会った頃のことはもう忘れてしまった。

 彼女は店に来ると、すとんと腰掛け、霖之助の背中に体重を預ける。
 気に入った本は買っていくし、騒がしくないので霖之助の邪魔になることもない。
 霖之助が手放したくない本はレンタルという手段で手を打っていた。

 対価は彼女が持っている本や道具だ。
 彼女を迎えに来たメイドや小悪魔が何か買っていってくれることもあるし、香霖堂にとってはかなりの上客になる。

 そして、霖之助にとっても。


「確かに、一足早ければ無駄足だからね。
 ちなみに何の占いだったんだい?」
「それは秘密。
 ……はい」


 背中越しに、本が差し出された。
 先ほどまで彼女が読んでいたものだ。読み終わったのだろう。

 ちょうど霖之助も読了したところだ。
 本を交換し、読書を再開する。


「何点?」
「……72と言ったところか」
「辛口なのね」
「そちらはどうだい?」
「85、かしら。なかなか目新しかったわよ」
「君にしては甘口じゃないか」
「そういう気分なのよ」


 評価は点数のみ。
 お互いが読み終えたあと、改めて意見を交わすことにしている。


「……忘れてたわ」


 思い出したように呟き、ぽん、と彼女が何か置いた。
 ……と言っても、その気配がしただけで霖之助から見えるわけではないのだが。


「今日はバレンタインデーらしいから、一応ね」
「そう言えばそんな話も聞いたね。
 君がそんなイベントに参加するとは思わなかったが……」
「ただの気まぐれよ。
 いつものお礼だと思ってちょうだい」


 そう言うことなら、と霖之助は頷く。
 それに読書とチョコは相性がいい。


「甘いものは疲れた時や頭を使った時にいいと聞くからね。
 ありがたく頂くとしよう」
「……ひょっとして、今食べたいの?」


 何故か彼女は驚いたような慌てたような、困った声を上げた。
 珍しいそれに、霖之助は思わず首を傾げる。


「ん? ……いや、あとで食べるつもりだが」
「……そう。じゃあここに置いておくわね」


 今度は安心したような、残念そうな、複雑な声。
 たまにはそんなこともあるのだろう、と霖之助は深く考えずにおく。

 本に目を落とし……そこでふと、思い出した。


「パチュリー、お礼ついでにひとつ聞いてくれないか」
「……なに?」
「また本の処分を頼んでいいかな。
 そろそろ書庫が一杯でね」


 いくらお気に入りの本だと言っても、香霖堂の空間は有限である。
 読み終わった本をいつまでも置いておくわけにはいかない。


「ええ、構わないわよ」


 もちろん処分と言っても捨てるわけではない。
 パチュリーに預かってもらうのだ。

 彼女の図書館は、空間をいじることが出来るメイドもいるので許容量に限界がない。

 図書館に行けばいつでも読めるし……。
 それにパチュリーも霖之助が来るのを歓迎しているようだった。


「今度持ってくるといいわ。
 何だったら、誰かに手伝わせるけど」
「ああ、そうさせてもらうよ。
 手伝いを頼むほどは……ないかな」


 頭の中で本の量を計算する。
 たぶんリヤカーいっぱいに収まるはずだ。


「そう言えば、最近何か面白い本を見つけたかい?」
「そうね……見つけたわけじゃないけど。
 最近は魔導書を開くのも面倒になってきたから頭の中に記憶できないかって考えてたの。
 そのための魔導書を作ってるところよ」
「……記憶の魔導書?」
「どっちかと言うと片付けの魔導書かしら。頭の中に」


 片付けるために新たな魔導書を作るあたりがなんとも彼女らしい。
 霖之助は感心したようにため息を吐いた。
 それだけでパチュリーに伝わったのだろう。
 照れたように、身じろぎをする。

 それから程なくして、会話は途切れた。
 だからと言って居心地が悪いわけではない。

 背中から伝わる鼓動、ページをめくる音。
 そのどれも、心地いいものだ。


「……パチュリー?」


 ふと、背中にかかる体重が不規則に揺れていることに気が付いた。
 いつの間にかページをめくる音が止んでいる。


「くぅ……すぅ……」


 可愛らしい寝息が、霖之助の耳に届いた。
 思わず動きを止め……苦笑を漏らす。


「……やれやれ」


 肩を竦める霖之助の手に、箱の感触が当たる。

 そう言えば、少し疲れてきたかも知れない。
 頭に栄養をと思い、霖之助はパチュリーを起こさないようにして箱をたぐり寄せた。


「ん……?」


 チョコレートの箱を開け、見る。

 送り主と同じような、可愛らしいそのチョコレートは、ハートの形をしていた。
 霖之助の瞳に映る名前と同じように、甘い甘いチョコレート。


「……参ったな……」


 霖之助は手元の本に目を落とす。
 彼女が高評価を与えたのは、何の変哲もない恋愛小説。


「……参った」


 口ではそう言っているが……不思議と心は穏やかだった。
 むしろ嬉しくもある。

 彼女が起きたら、なんて声をかけようか。
 なんて返事をするべきだろうか。


「まさかパチュリーから先に言われるとは、ね」


 ひょっとしたら、もう伝わってるかも知れない。
 そんなことを、思いながら。

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俺の東方キャラ初恋の人がりんのすけに攻略されていくぅぅwww
パッチェさんのキャラが俺の中のパッチェさんと一緒で興奮しながら読ませていただきました

No title

これを某所で読んだ後、遠くでこあくまが2828しているのだろうと妄想していました。
小悪魔シリーズも楽しみにしております。

ssとは関係のない話になっていここに書いてもいいものか分からないのですが、勝手ながら道草さんとリンクを結ばせていただきました。
自分もブログにて霖之助さんのssを書いたりしてます。

No title

甘い!!甘すぎるぞ!!!
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道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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