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肩の上から出来ること

先日絵チャにお邪魔させていただいたので、リンクに潤田さんのサイトを追加しました。

リクエストの上海霖……と見せかけて、上海→霖之助×アリス。
これでリクエストは一通り終わった気がしなくもない。

アリスと言えば結婚式なイメージがあるのは僕だけでしょうか。


霖之助 上海 アリス








「心配事かい?」


 霖之助はそう尋ねると、優しく彼女の髪を撫でる。
 彼女の髪は柔らかく、まるで人間の……生物のようだ。


「……アリスのことかな」


 その言葉に、彼女は静かに頷いた。
 そして、頭の上に置かれた霖之助の手のひらを抱きしめる。


(アリス、最近ずっと頑張ってた。
 でも、頑張り過ぎじゃないかって心配。
 ……私がそう思うのって、変?)


 触れた指から、想いが伝わってきた。
 声にならない言葉。

 香霖堂のカウンターの上に腰掛ける彼女……上海人形は、不安そうな瞳でじっと霖之助を見つめていた。


「変じゃないよ」
(私……人形なのに?)
「大事な者を思う気持ちは、人も妖怪も動物も、道具だって変わりはないさ」


 上海は一応声を発することも出来るのだが、単語レベルに過ぎず、まだ満足に操ることも出来ない。

 そんな上海の思考と感情が、触れた手のひらから霖之助の心に直接響く。

 霖之助の能力のせいか、はたまた別の要因か。
 いつからか、霖之助は彼女と会話出来るようになっていた。


(アリス、自律人形を作るんだって……もう少しで完成しそうだって。
 最近ずっと休んでないの)


 妖怪に分類されるアリスにとって、必ずしも休息が必要というわけではない。
 だからと言って大丈夫かというと、それはまた別問題なのだ。

 力の強い妖怪ほど、活動と休息の境界がはっきりしている。
 もっとも、休んでいるときに討伐される逸話にも事欠かないのだが……。


「自律とは、自分で考え、動くことだよ。
 自らが従う法則を、自分で作り出せる者のことさ」


 他人に命令され、他の枠組みに取り込まれること。
 ……それすら自分が考えた結果なら、やはりそれも自律なのだろう。


「今の君のようにね、上海」


 上海は自らの意志を持っている。
 そして今も、アリスの元にいた。

 アリスの命令を聞くし、断ることもない。
 だがそれは、彼女自身が判断してそこにいる結果なのだから。


(でも、アリスは私のこと……)


 上海が意志を持っているということを、アリスは知らないはずだった。
 そしてそのことで彼女が悩んでいることも、霖之助は知っていた。


(私……アリスに嘘付いてる……)
「それは君がそう望んだからだ。
 その方がいいと判断したんだろう?」
(うん……)


 上海は力なくうなだれた。
 自分が選んだ物事の結果に悩むその姿は、もう人形ではないのかもしれない。


「目的を達成してしまったら、アリスの夢がなくなってしまうと思ったのかい?」
(…………。
 でもアリス、最近ね……)
「ああ、僕も聞いたよ」


 霖之助は近くにおいてある文々。新聞に目を向けた。
 少し前、河童のバザーが行われたときの記事だ。


「巨大自律人形の起動実験、だったね。
 大きなものには宿りやすいから……アリスはそこに目をつけたのだろう」


 霖之助の手の中で、上海はますます表情を陰らせる。
 変わらないはずの、人形の表情を。


(アリス、最近ずっと忙しそうだった。
 ずっと、あの子にかかりきりだった)
「……ひょっとして、君は寂しかったのかな」


 根拠はない。
 だけど、霖之助の中にそんな言葉が浮かんできた。


「もし君が自律する人形だとわかったら、君を参考にしてアリスはすぐに次の人形を作り始めるだろう。
 次の人形を作っている間は……いや、完成してからもずっと、アリスは君に構ってくれないかもしれない、と」


 上海は何も応えない。
 応えないからこそ、それが本当のことなのだろうと、霖之助はそう考えていた。


「そんなことにはならないよ。
 アリスがそんな人物じゃないことくらい、君にもよくわかっているだろう?」
(わかってる。
 わかってるけど……不安なの)


 霖之助は苦笑を浮かべた。
 これは論理的な思考ではない。
 もっと感情よりの……人間らしい判断だ。

 なんと言うか……親離れ出来ない子供のような。

 それが悪いことだと思う気持ちも、否定する気も霖之助にはない。
 彼は上海を抱え上げると、自らの肩に乗せた。


「寂しければうちに来るといい。
 不安な時、話し相手にくらいはなってあげられるから。
 いつか君が決断する、その時まで」
(……いいの?)
「ああ。
 と言っても、今と大差ないだろうけどね」


 実際、上海がここに来ているのをアリスは知らないはずだ。
 彼女が頼れるのは霖之助だけ。
 なら、出来る範囲で、出来ることをしてあげたい。

 ……上海は、アリスが作った人形なのだから。


「それに君は、アリスのことをまだまだ知らないみたいだね」
(……そう?)


 確かに、上海はずっとアリスの近くにいた。
 だがそれ故、頑張っている彼女を見つめてきた故、見えないものもある。


「夢は叶えたらそこで終わりじゃないよ。
 夢を叶えてからスタートラインに立つことだってあるものさ」
(そうなの?)


 このあたり、人形だった彼女にはまだわかりにくいのかもしれない。
 目的のために存在する道具だった、彼女には。


(よくわかるのね)
「ああ、まあね。
 ……アリスのことだしね」
(…………)


 上海はなんとか元気になったようだが……。
 今度は黙ってしまった。
 そればかりか、心なしか不機嫌になった気がする。

 彼の顔のすぐ横で、見つめる視線がなんだか痛い。

 霖之助は何か言おうとして……。


「お邪魔するわよ」


 突然降ってきた声に、思わず振り向いた。
 玄関のカウベルの音とともに現れる、金髪の女性。


「やあ、アリス。
 いらっしゃい」
「残念だけど買い物じゃないのよね、今日は」


 彼女は首を振りつつ、店内を進む。


「ねえ、上海見なかった?
 探したけど見つからないのよ」


 照れたように笑いながら、アリスは首を傾げた。


「どこかに遊びに行ってるのかしら。
 そんなに私から離れられないはずだけど……」


 アリスの人形たちの中には、彼女の魔力を受けてある程度自由行動出来る人形もいる。
 それは彼女の研究成果であり、上海もそのひとつだった。

 ……かつては。


「ああ、彼女なら……」


 霖之助は、机の影から上海人形を抱え上げる。
 アリスが来た拍子に肩から落ちたのだ。

 上海はふよふよと浮かび、霖之助の肩に乗った。


「あら、そこにいたのね」
「ああ。実は先ほど、森の中で拾ってね。
 服の修復ついでに預からせてもらったよ」


 嘘だった。
 ……が、アリスの家から上海がひとりでやって来た、と言うわけにもいかない。
 言うのは、彼女自身の口からだ。


「幸い、というか、僕のことを気に入ってくれてるみたいだからね。
 創造主に似て、だと嬉しいんだが」
「……し、知らないわよ。そんなこと」


 そう言って、アリスは顔を背ける。
 何となく頬が紅く染まっているように見えるのは……気のせいだろうか。


「痛っ」
「あら、どうしたの?」
「いや、ちょっとね……」


 霖之助は突然頬をつねられ、驚きの表情を浮かべた。


(……ばか)


 その犯人……上海は、不機嫌な様子で霖之助の肩から飛び上がり、アリスの元へと移動していく。


「見つかって良かったわ。
 どうしようかと思ってたもの」
「ああ。
 ……愛されているね、その娘は」


 霖之助は痛む頬を押さえながら……それでも笑顔を浮かべていた。

 彼女の気持ちは、上海に届いているはずだ。
 なら、わかり合う日はそう遠くないかもしれない。


「アリス」


 思い出したように、霖之助はアリスに声をかける。


「もし君の望むような自律人形が完成したら、どうするつもりだい?」
「そうね」


 考える素振りを見せていたアリスだったが、それほど悩んでいるわけでもないようだ。
 上海の様子を確認しながら、いつもの調子で応える。


「しばらく休んで……次の目標を見つけるわ。
 やりたいことはいろいろあるし。
 上海の妹を作るのもいいわよね」
「はは、君らしいね」
「どうせなら、私にしかできないことがいいじゃない?」


 上海を肩に乗せ、彼女は微笑んだ。
 明るい楽しそうな笑顔。
 思わず霖之助は眼を細める。


「次の目標は……そうね……」


 そこでふと、アリスと目が合った。


「お嫁さん、なんてどうかしら」


アリス
相方にアリスを描いて貰いました。
感謝感謝。

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