鵺の呼び声ぷち 10
ぬえ霖紅魔郷編その3。
霖之助を出さなくてもぬえ霖は出来るのもだって誰かが言ってた。
霖之助 ぬえ
紅魔館の庭は平和である。
招かざる客は門の外で止められるし、それを突破した侵入者は真っ先に館の中へと入っていくため、
庭が戦場になることなどほとんど無い。
せいぜい、逃げるときに中から突き破った壁やガラスの破片が散らかるくらいだ。
管理している美鈴の手腕もあって、紅魔館の庭はいつでも花でいっぱいだった。
「だからね、大根を植えるといいと思うのよ。
あ、ジャガイモでもいいわね」
「え、え? ダメですよ。お嬢様に怒られます」
「なんでよー。
私の正体不明の種でカモフラージュしておくからばれないって。
なんかそれっぽい花に見えると思うし」
花壇の一角を熱心に見つめるぬえに、美鈴はため息を吐いた。
彼女は最近美鈴の主……レミリアと仲良くなった妖怪だ。
いわゆるマブダチらしい。
どういう知り合いかはわからなかったが……たまに館の中から聞こえてくる、
なんとも言えない名前のスペルカードの叫びは聞こえなかったことにしておく。
「だいたい収穫したらどうするんですか。
なくなったらカモフラージュも意味ないでしょう?」
「ん? う~ん……それもそうね」
頭を悩ませるぬえに、美鈴は肩を竦める。
「じゃあトマトとかどうかな。
あれなら実だけ取ればいいし」
「ダメですって。
だいたいここは花壇なんですから」
「えー、霖之助は花も野菜も一緒に育ててたけど」
「その花は」
「食べたわよ。おひたしにして」
「結局食用じゃないですか。
ここは観賞用ですよ、もう」
多分菜の花か何かなのだろう、と美鈴は思った。
ただし彼女の言うことだ。
花っぽい野菜だったのかもしれない。
カリフラワーとか。
……おひたしにはしないだろうが。
「そもそもなんでそんなに野菜を育てたいんですか?
買ったほうが早いと思いますけど」
「んとね、野菜は自分で育てた方が美味しくなるかなと思って」
そこでようやく、ぬえは当初の目的を思い出したようだ。
瞳を輝かせ、美鈴に詰め寄る。
「ね、ね。あなた、中国人よね。
足のあるものは机と椅子以外食べるって評判の」
「どんな評判か知りませんしそもそも人ではないんですが、まあだいたい食べますね」
食べなければ死ぬわけではないのだが、食べるときは食べる。
幻想郷の妖怪はだいたいそんなものだ。
「私に料理を教えて欲しいの!」
中華の基本は火力である……と、誰かが言っていた。
美鈴もその通りだと考える。
なので、館の魔女に頼んで自分の部屋に専用の火炉を備え付けてもらった。
気前よく了承してくれたのは……多分、火炉が余っていたからだろう。
一時期黒白の魔法使いが泥棒にやってきた頃、パチュリーは撃退のために相手の武器を研究していたことがある。
もっとも、すぐに飽きてしまったらしく魔法の火炉を作って放置してしまったようだが。
そう言えば、あの頃は調べ物をすると言ってよく出かけていたような気がするが……どこに行っていたのだろう。
「だってひどいのよ。
せっかく手伝ってたのに手伝いになってないなんて言われてさ。
美味しいものが出来るんだからいいじゃない」
「でも、『この料理を作りたい』っていう目的があったのかもしれませんし……」
ぬえの話を聞きながら、美鈴は中華鍋を火にかけていた。
もう何十年も使っている愛用の鍋だ。
残念ながらそろそろ限界なのでこの辺でひとつ新調したいところではあるが、やはり使い慣れたものを手放すのも惜しい。
「例えばどんな風に手伝ったんですか?」
「ん~、この前はラーメン作ってたから……。
焼きラーメンにしてあげたわ」
「ラーメンを焼きラーメンに、ですか」
汁気たっぷりのラーメンの気分の時に、焼きラーメンを出されたらどんな気分になるだろう。
美鈴は想像してみて……苦笑を漏らした。
「そう。美味しかったよ?」
「でも、ラーメン作ってたんですよね。
食べたかったんじゃないですか?」
「美味しかったらいいじゃーん。
それにラーメンなのに焼くなんて正体不明感が最高じゃない?
どっちかと言うと炒めてた気もするけど焼きそばも同じだから焼きラーメンって呼んでいいのよね。
そうそう、焼きそば作ってたから塩焼きそばにしてあげたこともあるけど、そっちはあんまり驚いてなかったな」
ぬえは思い出し、首を捻った。
……まあ焼きそばを頼んで塩焼きそばが出てきても、それほど驚きはなかったのだろう。
霖之助の中で。
「だって霖之助って料理作るのすごく時間がかかるんだもん。
これはイタズラしてくれって言ってるようなものでしょ」
どうやらイタズラだとは認めているらしい。
ぬえは椅子に座ったまま、ぶらぶらと足を揺らした。
「でも最近、どうも慣れてきた感じがしてさー。
っていうか、イタズラ待ちのような気がするのよ。
据え膳食わねばって言うじゃない?」
「それは意味が違うと思うんですけど」
むしろ彼女は据え膳を用意する側ではないのだろうか。
……まあ香霖堂の店主のことだ。
食事も娯楽の一種と割り切って、彼女に自由にさせているのかもしれない。
「それで、どうにかして驚かそうと新レシピを模索中なのよ」
「どうあっても驚かさないと気がすまないんですね」
「えー、だって料理には驚きが必要でしょ?」
「随分偏ったイメージのような気がしますけど」
そう言って美鈴は、中華鍋の中身を皿へと移し替えた。
火を止め、綺麗に盛りつける。
料理が出来たときには、道具の片付けもほとんど終わっていた。
「同じ驚きでも、こういうのはどうですか?」
「こう言うのって……」
テーブルの上に現れた料理を見て、ぬえは首を傾げる。
「普通の炒飯に見えるけど」
「ええ、普通の炒飯ですよ」
「これが驚き?」
「そうです。とりあえず食べてみて下さい」
美鈴に言われ、ぬえはレンゲですくってみた。
米粒のひとつひとつが卵でコーティングされ、黄金色に見える。
「……んん?」
口に入れた瞬間、ぬえは目を丸くする。
確かに驚きがそこにあった。
「なんだかいろんな味がする。
具も卵だけなのに……どうして?」
「これはご飯を炊くときから下ごしらえをしたんですよ。
つまりチャーハン用にご飯を炊いたというわけですね」
美鈴は自分も炒飯を口に運ぶ。
上々の出来だ。
彼女の得意料理のひとつである。
「出汁にも干し貝柱とか干し椎茸とか、いろいろ使ってるんですよ。
見た目はシンプルですけど、こう言うのもいいでしょう?」
「うん。驚いたって言うか……」
なにやら言葉で言い表せないようだ。
美鈴はひとつ微笑むと、得意げな表情を浮かべる。
「驚きもいいけど、やはり感動があってこそだと思うんですよね」
「感動かぁ……」
そのセリフに、ぬえはなにやら考え込んでいた。
それでも手を動かすスピードが落ちないのは料理の力だろう。
やがて皿が空になった頃、彼女は再び口を開いた。
「ところで、貝柱ってどこで手に入るの?
地下でも地上でも、作ってるとこ見たことないんだけど」
「え? 私はパチュリー様に頼めば取り寄せて貰えたんですけど……。
そう言えば、どうやってでしょうね。
多分、スキマ妖怪と取引してるんだと思いますけど」
「ふ~ん。
……まあいいわ、材料は適当に用意するとして……。
なるほどー、こういう驚きもあるのねー」
うーん、と考えるぬえ。
どうやら彼女にとっても大きな驚きだったようだ。
「私にも作れるかな~」
「きっと出来ますよ」
美鈴は自信を持って頷いた。
その様子に、しかしぬえは首を傾げる。
「なんでそう思うの?
変な料理ばっかり作ってるって言われてるよ?」
「だって、ぬえさんは最高の調味料を持ってるじゃないですか。
だからきっと、大丈夫なんです」
「最高の調味料?」
美鈴の言葉に、ぬえはますますわからないと言った表情を浮かべた。
そんな彼女の様子を、美鈴は楽しそうに見守る。
「聞いたことありませんか?」
「うん、ないね」
「古今東西、料理をもっとも美味しくするのは食べてくれる人に対しての愛情、だそうですよ」
「へー、そうなんだ」
ようやく合点がいった、というように頷く。
しかし次の瞬間、ぬえは動きを止めた。
「……愛?」
「はい、そうですよ。
好きなんでしょう? 香霖堂さんのこと」
霖之助を出さなくてもぬえ霖は出来るのもだって誰かが言ってた。
霖之助 ぬえ
紅魔館の庭は平和である。
招かざる客は門の外で止められるし、それを突破した侵入者は真っ先に館の中へと入っていくため、
庭が戦場になることなどほとんど無い。
せいぜい、逃げるときに中から突き破った壁やガラスの破片が散らかるくらいだ。
管理している美鈴の手腕もあって、紅魔館の庭はいつでも花でいっぱいだった。
「だからね、大根を植えるといいと思うのよ。
あ、ジャガイモでもいいわね」
「え、え? ダメですよ。お嬢様に怒られます」
「なんでよー。
私の正体不明の種でカモフラージュしておくからばれないって。
なんかそれっぽい花に見えると思うし」
花壇の一角を熱心に見つめるぬえに、美鈴はため息を吐いた。
彼女は最近美鈴の主……レミリアと仲良くなった妖怪だ。
いわゆるマブダチらしい。
どういう知り合いかはわからなかったが……たまに館の中から聞こえてくる、
なんとも言えない名前のスペルカードの叫びは聞こえなかったことにしておく。
「だいたい収穫したらどうするんですか。
なくなったらカモフラージュも意味ないでしょう?」
「ん? う~ん……それもそうね」
頭を悩ませるぬえに、美鈴は肩を竦める。
「じゃあトマトとかどうかな。
あれなら実だけ取ればいいし」
「ダメですって。
だいたいここは花壇なんですから」
「えー、霖之助は花も野菜も一緒に育ててたけど」
「その花は」
「食べたわよ。おひたしにして」
「結局食用じゃないですか。
ここは観賞用ですよ、もう」
多分菜の花か何かなのだろう、と美鈴は思った。
ただし彼女の言うことだ。
花っぽい野菜だったのかもしれない。
カリフラワーとか。
……おひたしにはしないだろうが。
「そもそもなんでそんなに野菜を育てたいんですか?
買ったほうが早いと思いますけど」
「んとね、野菜は自分で育てた方が美味しくなるかなと思って」
そこでようやく、ぬえは当初の目的を思い出したようだ。
瞳を輝かせ、美鈴に詰め寄る。
「ね、ね。あなた、中国人よね。
足のあるものは机と椅子以外食べるって評判の」
「どんな評判か知りませんしそもそも人ではないんですが、まあだいたい食べますね」
食べなければ死ぬわけではないのだが、食べるときは食べる。
幻想郷の妖怪はだいたいそんなものだ。
「私に料理を教えて欲しいの!」
中華の基本は火力である……と、誰かが言っていた。
美鈴もその通りだと考える。
なので、館の魔女に頼んで自分の部屋に専用の火炉を備え付けてもらった。
気前よく了承してくれたのは……多分、火炉が余っていたからだろう。
一時期黒白の魔法使いが泥棒にやってきた頃、パチュリーは撃退のために相手の武器を研究していたことがある。
もっとも、すぐに飽きてしまったらしく魔法の火炉を作って放置してしまったようだが。
そう言えば、あの頃は調べ物をすると言ってよく出かけていたような気がするが……どこに行っていたのだろう。
「だってひどいのよ。
せっかく手伝ってたのに手伝いになってないなんて言われてさ。
美味しいものが出来るんだからいいじゃない」
「でも、『この料理を作りたい』っていう目的があったのかもしれませんし……」
ぬえの話を聞きながら、美鈴は中華鍋を火にかけていた。
もう何十年も使っている愛用の鍋だ。
残念ながらそろそろ限界なのでこの辺でひとつ新調したいところではあるが、やはり使い慣れたものを手放すのも惜しい。
「例えばどんな風に手伝ったんですか?」
「ん~、この前はラーメン作ってたから……。
焼きラーメンにしてあげたわ」
「ラーメンを焼きラーメンに、ですか」
汁気たっぷりのラーメンの気分の時に、焼きラーメンを出されたらどんな気分になるだろう。
美鈴は想像してみて……苦笑を漏らした。
「そう。美味しかったよ?」
「でも、ラーメン作ってたんですよね。
食べたかったんじゃないですか?」
「美味しかったらいいじゃーん。
それにラーメンなのに焼くなんて正体不明感が最高じゃない?
どっちかと言うと炒めてた気もするけど焼きそばも同じだから焼きラーメンって呼んでいいのよね。
そうそう、焼きそば作ってたから塩焼きそばにしてあげたこともあるけど、そっちはあんまり驚いてなかったな」
ぬえは思い出し、首を捻った。
……まあ焼きそばを頼んで塩焼きそばが出てきても、それほど驚きはなかったのだろう。
霖之助の中で。
「だって霖之助って料理作るのすごく時間がかかるんだもん。
これはイタズラしてくれって言ってるようなものでしょ」
どうやらイタズラだとは認めているらしい。
ぬえは椅子に座ったまま、ぶらぶらと足を揺らした。
「でも最近、どうも慣れてきた感じがしてさー。
っていうか、イタズラ待ちのような気がするのよ。
据え膳食わねばって言うじゃない?」
「それは意味が違うと思うんですけど」
むしろ彼女は据え膳を用意する側ではないのだろうか。
……まあ香霖堂の店主のことだ。
食事も娯楽の一種と割り切って、彼女に自由にさせているのかもしれない。
「それで、どうにかして驚かそうと新レシピを模索中なのよ」
「どうあっても驚かさないと気がすまないんですね」
「えー、だって料理には驚きが必要でしょ?」
「随分偏ったイメージのような気がしますけど」
そう言って美鈴は、中華鍋の中身を皿へと移し替えた。
火を止め、綺麗に盛りつける。
料理が出来たときには、道具の片付けもほとんど終わっていた。
「同じ驚きでも、こういうのはどうですか?」
「こう言うのって……」
テーブルの上に現れた料理を見て、ぬえは首を傾げる。
「普通の炒飯に見えるけど」
「ええ、普通の炒飯ですよ」
「これが驚き?」
「そうです。とりあえず食べてみて下さい」
美鈴に言われ、ぬえはレンゲですくってみた。
米粒のひとつひとつが卵でコーティングされ、黄金色に見える。
「……んん?」
口に入れた瞬間、ぬえは目を丸くする。
確かに驚きがそこにあった。
「なんだかいろんな味がする。
具も卵だけなのに……どうして?」
「これはご飯を炊くときから下ごしらえをしたんですよ。
つまりチャーハン用にご飯を炊いたというわけですね」
美鈴は自分も炒飯を口に運ぶ。
上々の出来だ。
彼女の得意料理のひとつである。
「出汁にも干し貝柱とか干し椎茸とか、いろいろ使ってるんですよ。
見た目はシンプルですけど、こう言うのもいいでしょう?」
「うん。驚いたって言うか……」
なにやら言葉で言い表せないようだ。
美鈴はひとつ微笑むと、得意げな表情を浮かべる。
「驚きもいいけど、やはり感動があってこそだと思うんですよね」
「感動かぁ……」
そのセリフに、ぬえはなにやら考え込んでいた。
それでも手を動かすスピードが落ちないのは料理の力だろう。
やがて皿が空になった頃、彼女は再び口を開いた。
「ところで、貝柱ってどこで手に入るの?
地下でも地上でも、作ってるとこ見たことないんだけど」
「え? 私はパチュリー様に頼めば取り寄せて貰えたんですけど……。
そう言えば、どうやってでしょうね。
多分、スキマ妖怪と取引してるんだと思いますけど」
「ふ~ん。
……まあいいわ、材料は適当に用意するとして……。
なるほどー、こういう驚きもあるのねー」
うーん、と考えるぬえ。
どうやら彼女にとっても大きな驚きだったようだ。
「私にも作れるかな~」
「きっと出来ますよ」
美鈴は自信を持って頷いた。
その様子に、しかしぬえは首を傾げる。
「なんでそう思うの?
変な料理ばっかり作ってるって言われてるよ?」
「だって、ぬえさんは最高の調味料を持ってるじゃないですか。
だからきっと、大丈夫なんです」
「最高の調味料?」
美鈴の言葉に、ぬえはますますわからないと言った表情を浮かべた。
そんな彼女の様子を、美鈴は楽しそうに見守る。
「聞いたことありませんか?」
「うん、ないね」
「古今東西、料理をもっとも美味しくするのは食べてくれる人に対しての愛情、だそうですよ」
「へー、そうなんだ」
ようやく合点がいった、というように頷く。
しかし次の瞬間、ぬえは動きを止めた。
「……愛?」
「はい、そうですよ。
好きなんでしょう? 香霖堂さんのこと」
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外堀からだんだん埋められていってますねぇ。
そしてパチュリーが調べモノをしに行ったのはまさか…?
そしてパチュリーが調べモノをしに行ったのはまさか…?
No title
ああもうかわいいなぁ、ぬえかわいいよぬえ。
ていうか道草さんの書くキャラがみんなかわいいなぁ。
・・・・・・いや、まて。むしろ道草さんがかわ(ry
ていうか道草さんの書くキャラがみんなかわいいなぁ。
・・・・・・いや、まて。むしろ道草さんがかわ(ry