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雨上がりの空に

アリ霖。
『非売品の法則』の続きかもしれないし違うかもしれない。
きっと時期的には緋想天則の前あたりの話。
……非想天則かw


霖之助 アリス








 窓を叩く雨音に、霖之助は読んでいた本から顔を上げた。
 このところずっと不安定な天気が続いていたが……。
 ようやく、と言ったところか。

 店内に客の姿はない。いつもどおり。

 まだ日暮れまでには時間はあるが、雨が降れば客足が遠のくことになる。
 つまり今日はもう来客は見込めないだろう。
 いつぞやのように異変の雨なら、霊夢あたりが来るだろうが。


 そんなことを考えていた矢先、予想に反して玄関のベルが音を立てた。


「……もう、いきなり降るんだもの。
 ちょっとお邪魔させてもらうわよ」
「ああ、君か。いらっしゃい」


 彼女は玄関で水滴を振り落としていた。
 雨の中にいたのはわずかな時間なのだろう。
 肩が少し濡れている程度だ。

 その珍しい物言いに、霖之助は少し思考を巡らせる。
 お邪魔するだけ、と言うことはつまり……。


「……今日はお客じゃない、ということかな。
 それにしても大荷物だね、アリス」
「そういうこと。買い物はもう済ませてきたのよ」


 そう言って、アリスは香霖堂の中へ歩みを進める。

 金色の髪にまだ水滴が残っているせいか、なんだかやけに艶っぽく見えた。
 霖之助は上客のために暖かい紅茶を入れる。
 冬も近いこの季節に雨に打たれるのはなかなか厳しいものがある。
 ……魔法使いたる彼女に影響があるかはわからないが。


「それにしても君にしては珍しい失敗だね。
 雨が降りそうなことはわかってただろう?」
「わかってたわよ。この雨が何日か降り続けることもね。
 だから降る前に、買い物を済ませたかったんだけど……」


 アリスはそこで言葉を切り、肩を竦ませた。
 苦笑混じりに頭を振る。


「帰れなかったら意味がないわね。
 失敗したわ」
「買い物の成果が雨に濡れるのはまずい、ということかな」
「そういうこと。
 物自体は普通の品なんだけど、濡れたらしばらく乾きそうにないし……この量だし」


 アリスの視線につられるように、霖之助は彼女の荷物に視線を送る。
 大荷物から顔を覗かせているのは、色鮮やかな色彩だった。


「これは布、かい? それにしても大量だね」
「ええ。ちょっと大きな人形を作っててね」


 これだけの布を使うとなると、どれほどの大きさになるのだろう。
 そしてこれだけの量だ。
 どれだけの金額に……。


「……あら? ここで買わなかったのが不満そうな顔してるわね」
「いや、それだけの量は香霖堂に置いてないからね。
 里で買ったのは正解だよ」
「でも不満そうな顔」
「商店としてはお客のニーズに応えられなかったこと自体が不満かな。
 といってもここは布屋じゃないからね。単純にそう思っただけだよ」
「まるで商人みたいな事を言うのね。
 いつもそうだといいのだけど」


 からかうようなアリスの視線に、霖之助は顔を背けた。
 その様子にますます彼女は楽しそうに笑みを浮かべ……。

 窓に映る空を見て、ため息をこぼす。


「家が心配かい?
 泥棒が入りそうで」
「鍵はかけてきたからその心配はないけど……。
 作りかけの人形がそのままなのが心配ね。
 あの子、まだ裸だから
 ……裸と呼べるほどまだ身体も出来てないんだけど」
「そうか。大事にしているんだな」


 アリスは諦めたように窓から視線を外し、椅子に霖之助に戻した。
 残ったお茶を口に運び、湯飲みが空になったところで霖之助は急須を傾ける。

 ありがとう、の一言でしばし沈黙が落ちる。
 聞こえるのは雨音だけ。
 だからと言って決して嫌な時間ではない。

 ややあって、再びアリスが口を開いた。


「自分で考え、言葉を理解し、行動する。
 それは人形かしら、妖怪かしら」
「……自立した人形の話かい?」
「そう。今度の研究で自立に関しては何となく目処がつきそうなんだけどね……。
 あと一押しが足りないのよ」


 大きいものにはそれだけで何かが宿りやすい。
 彼女はそれを利用しようとしているのだろう。
 そういえば、何度か質問を受けたことがあった。


「魂を宿らせる研究をしてたときに思ったんだけど。
 ほら、九十九神とかいるじゃない?」
「万物に神は宿っているからね。
 魂を宿らせる、とはちょっと語弊があるかもしれないな」


 首を振る霖之助だったが、特に重要な部分ではないのだろう。
 アリスは特に気にした様子もなく、話を続ける。


「何かが憑依するのと、そのものに意志が芽生えるの、このふたつに違いってあるのかしら?」
「ふむ……。
 もし記憶も自覚もなかったら……難しいだろうね」
「やっぱりそうよねぇ」


 霖之助は道具の名前を知ることが出来る。
 ただそれでも、道具の声なのか、道具に宿る神の声なのか、はたまた道具に移ってきた使い手や作り手の声なのか、区別することは難しい。


「どうしたら人形が自立するのかしら」
「そうだね……」


 霖之助は考え込んだ。
 人形はその名の通り人の形をしたものだ。
 人の形というのはそれだけで意味がある。


「……色をつけてみたらどうかな」
「色?」


 その言葉に、アリスは首を傾げる。
 言葉通りの意味ではないだろう事はすぐにわかる。
 じゃあ何か、と聞かれるとすぐには出てこないのだが


「君のような万能の魔法使いには気付きにくいかもしれないけどね。
 単一の属性しか扱えない魔法使いというのはたくさんいるものだよ」
「まぁ、そうね……」


 アリスにしろパチュリーにしろ、すべての属性を扱えると言っても過言ではない。
 そういえば、魔理沙は……あまり多様な属性を行使していなかった気がする。


「もっともひとつだけだからと言って、能力が低いかと言えばそうではないけどね」
「そうよね。それは知ってるわ」


 霖之助は妹紅やお空の姿を思い浮かべた。
 彼女たちは魔法使いではないが……とりあえず、火しか扱えない。
 ただその扱う熱量や能力が桁違いなだけで。


「ひとつしか色が付かないのは習得や制御が楽だというのもあるが……。
 何より、その個人に合っていると言うことが重要なんだと僕は思うよ」
「……そうね、合ってるわね」


 アリスも同じ人物を思い浮かべたようだ。
 頷く彼女に、霖之助は言葉を続ける。


「属性は即ち性質、性格、そして色さ。
 だから色をつけるということはそれだけ何かが宿りやすくなると考えるわけだよ」
「なるほど。わかったけど……。
 それで、火の人形でも作ればいいのかしら?」
「いや、この場合の色はそうではないね」


 霖之助はそこで湯飲みが空になっていることに気が付いた。
 喋っていたせいで気付かなかったらしい。

 空になっていた急須に魔法瓶からお湯を注ぎ、しばし待つ。


「さっきも出てきたが、色というのは人の性質も表す
 例えば魔理沙が使う魔法だったら……」
「恋符、ね。
 確かに、魔理沙らしい魔法だわ」


 つまりその『らしい』と言うことが重要なのだろう。
 納得した様子のアリスに、霖之助は頷いた。


「理解が早くて助かるよ。
 あとは見た目、かな。
 魔理沙が魔法使い然とした格好をしているのは、そういった意味もあるだろうからね」
「……さっきから、魔理沙の話ばかりね」
「ああ、君にもわかりやすい例えを出してみたんだが」
「確かにわかりやすいけど……」


 アリスは複雑な表情で再び空を見上げた。
 注ぎ足されたお茶で喉を潤す。

 ――もやもやした空と自分の心、一気にリフレッシュしてしまいたいものだ。


「降り止みそうにないわね」
「数日続くんだろう?
 君が言った言葉だよ」
「そうよ。確認したかっただけ」


 はぁ、とため息を吐いた。


「止まないと帰れないのよね……」


 本来なら雨が降る前に買って帰り、作業を行う予定だった。
 荷物を置いてアリスだけ帰っても、やることがないのなら意味がない。


 途方に暮れるアリスに、霖之助は助け船を出すことにした。


「じゃあ、うちで作業していくといい」
「いいの? 結構散らかると思うけど。端布とか」
「ああ。この雨ならお客もこないだろうしね。
 数日間は貸し切りだ」


 それに幻想郷屈指の裁縫術をじっくり見る機会だ。
 時間を有効に使えるならそれに越したことはない。

 そんな霖之助の考えもアリスもよくわかっていた。
 アリスは一瞬考え、頷く。


「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「ああ。ゆっくりしていくといい。
 ……早速だが、夕食の準備でもしてこようか。
 いつの間にか、もうこんな時間だ」
「なら私が……」
「いや、君はその荷物の整理をするといいよ。
 あそこの一角を使っていいから」
「わかったわ」


 アリスは荷物に手を伸ばし……思い出したように声を上げる。


「……そういえば、泊まりになるけどいいのかしら?」
「来客用の布団は用意しているからね。
 君がいいなら、僕は構わないよ」









 台所へと去っていく霖之助の背中を見送り……アリスはひとつ、ため息を吐いた。


「恋符か……。
 私も負けてないんだけどな」


 こうもあっさり泊まることを許可されるのは、嬉しくもあり複雑でもある。
 他の誰かもこうやって泊まったりしているのだろうか。
 少なくとも、魔理沙や霊夢は可能性が高い。

 ……やはり、胸がもやもやする。
 天気のせいだろうか。


「期待して……いいのかしら」


 この雨が上がるころには、何かが変わることを。

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