幽香と幽香
乙女ゆうかりんという話だったので。
シュマさんの絵を見て思いついたネタ。
つまり巨乳は素晴らしい。
タイトルをツンとデレにしようか迷った。
霖之助 幽香
ドアというものは外と内を隔てる境界である。
つまり、結界だ。
店のドアともなれば、客とそれ以外を区別するまさに境界……のはずだったのだが。
あいにくと香霖堂のドアはその役目を果たせていなかったらしい。
だから……だから。
壊されてしまっても、仕方がないのだろう。
「そこの雑種。聞きたいことがあるのだけど」
「ドアは持ち歩くものではないよ、幽香。
それに、ちゃんと直してくれるのだろうね?」
「あら、忘れてたわ」
言って、幽香はドアだったものを放り投げた。
香霖堂の床に残骸が散らばる。
眉をひそめる霖之助を気にも留めず、幽香は彼の鼻先に傘を突きつけた。
「雑種。ここに私が来なかったかしら」
「……言っている意味がわからないな」
それに、君にそう呼ばれるのも久し振りだね」
「余計なことは言わなくていいわ。
イエスかノーか。それだけ答えなさい」
眼前に魔力の光が収束していくのを見て、霖之助は首を振った。
スペルのひとつでも放たれればこの店はおろか霖之助自身もただでは済まないだろう。
だがこんな場所で商売をしている以上今までも何度かあったことであるし、何より今回は解決策がはっきりしている。
ただ首を振ればいいだけだ。
「今日君を見たのはこれが初めてだよ。
これで満足かい?」
「……来てないの?」
「そもそも僕には状況が飲み込めないんだが、来てないというのは君のことかい?
言葉をそのまま受け取ると、実に不思議な質問だね。
……つまりこれは何かの暗喩だと考えるんだが、自分の行き先を知るのは要するに」
「そんなはずはないわ!」
「人の話を聞いてないね、君は」
どうも幽香の様子がおかしい。
いつもよりピリピリしている。
何か無くし物をした……というだけではないようだ。
「ここに来るはずなのよ。来ないはずがないもの。
……まさか隠してるんじゃないでしょうね」
「そんなことをして、僕になんの得があると言うんだい」
「得がない!? 本気でそう思ってるの!?
この私がこんな雑種のことを……」
「……だからなんのことかわからないと言っているだろう」
「そうだったわね……。
いいわ、勝手に捜させてもらうから」
そう言うと幽香は乱暴に奥の扉を開け、居間へと上がっていった。
なんだったんだ、と霖之助は肩をすくめる。。
店の中はまるで台風が通り過ぎたかのように荒れ果てていた。
奥の方でドタンバタンと音がしているが……あちらもあとで片付けなくてはならないだろう。
霖之助はため息を吐き、手元の本に視線を落とした。
このページを読み終えたら片付けよう……と考えていた矢先。
むに、と頭に柔らかいものが触れる。
「霖之助、ごめんね……」
「……幽香?」
先ほども聞いた声。
しかしあまりにも様子の違うそれに戸惑いながら振り返ると、白いブラウスが視界いっぱいに広がった。
すぐにそれが幽香のものだ、と思い当たったのは先ほども見たからである。
「私、霖之助に迷惑かけるつもりじゃ……。
本当にごめんね……」
「幽香……?」
思わず霖之助は困惑していた。
本当にさっきの幽香と同一人物なのだろうか。
……どうでもいいが、頭に抱きついたままなのはやめて欲しい。
その豊かな乳房を乗っけられると、こう……。
それにこのままでは、幽香のヘソと胸の下半分しか見えないわけだが。
「な・に・を、しているのかしら~?」
バキ、と何かが折れる音が響いた。
嫌な予感しかしないが……恐る恐る振り返る。
話し声が聞こえたから戻ってきたのだろう。
少し離れた場所にも、幽香が立っていた。
あくまで笑顔。
しかし彼女の掴んだ柱にはみるみるうちにヒビが刻まれていく。
まったく力が入っているように見えないのだが、そこはそれ、さすが大妖怪というところだろう。
「何を……ね。むしろ僕が教えて貰いたいくらいだよ」
その言葉に、幽香は睨み付けるような視線で霖之助を見やり……すぐに戻す。
敵意さえこもった視線を幽香がぶつけるのは、あろう事かもうひとりの幽香だった。
つまり自分自身だ。
二人目の幽香はその視線に対抗するかのように……ますます強く、霖之助を抱きしめる。
霖之助はふたりの幽香に挟まれ、困惑していた。
……分身魔法を使える妖怪が珍しいわけではないが……。
単に分身したにしては、やはり様子がおかしい。
「やあ、幽香。
探し物は見つかったかい?」
「ええ、捜し者は見つかったわよ。たった今ね」
幽香はヒビの入った柱から手を離すと、傘を突きつけてきた。
彼女の捜し者とはつまり、このもうひとりの幽香のことだろう。
幽香はいまだに霖之助に抱きついたままの幽香を見て、頭に怒りのマークを浮かべる。
「そろそろ離れたらどうかしら。
私ならわかると思うのだけど」
「いやよ。ずっとこうしていたいの。
私ならわかるはずでしょう?」
「よくもぬけぬけと……」
「あら? 本心は同じはずなのに……そこで指をくわえて見てればいいわ」
その言葉に、幽香は壮絶な笑みを浮かべると眼前に巨大な光球を出現させる。
……しかし、次の瞬間には霧散していた。
もうひとりの幽香がかき消したのだろう。
力はまったく同等のようだ。
「……頼むから、店を壊さないでくれよ。
もう手遅れみたいだけど」
「ごめんなさいね、あっちの私は乱暴で」
霖之助に抱きついたままの幽香はそう言うが……霖之助にはそれが嘘だということを感じていた。
今のは単にあちらの幽香がわずかに早く行動しただけで、こっちの幽香も攻撃の機を窺っていた。
つまり基本的な性格は一緒と言うことだ。
「見たところ、分身に失敗した……ようだね」
「ええ、そうよ」
「私がふたりいるのは別にいつものことだけど、今回は少し困るかしらね」
「寝起きに分身なんてするんじゃなかったわ……」
「どっちが本体というわけでもないのかい?」
「どっちも私だもの」
「自分がふたりいる感覚なんて大したことじゃないわよ」
そういえば、幽香の寝起きはかなりの悪さだと聞いたことがあった。
……それにしても、両サイドから答えられるとかなり混乱してしまう。
「……それで、君たちは一体何と何に別れたんだい?」
さっきから考えているのだがさっぱりわからない。
攻撃的か否か、ではない。
正直と嘘つき、でもなさそうだ。
積極的と消極的……であろうはずがない。
「それは……その……」
「あの……ね?」
霖之助の言葉に、ふたりの幽香は揃って口をつぐんだ。
ここでもやはり、基本的な性格が出ると言うことか。
行動は大胆な割に、この思い切りの悪さはどういうことだろう。
「幽香。君はもうひとりの幽香が必ずここに来ると言ったね。
確かにそうなったわけだが、その理由はなんなんだい?
僕はそれがふたりを分けている要因だと思うんだが……」
「……そこまでわかってるなら気付きなさいよ!」
「そうよそうよ!」
今度はふたりの幽香に揃って睨まれた。
さすが自分自身だ。これ以上なく息が合っている。
「……つまり、何かしら相反する性格で分かれたと言うことだろうか。
じゃあ中心にあるのは……この香霖堂だな」
「はぁ……」
「……予想通りね……」
しかし霖之助の考察に、ふたりはがっくりと肩を落とす。
自信たっぷりだった霖之助は、なんともやるせない気持ちになった。
「……まあいいわ。偽物は倒せば消えるのが道理だもの」
「それが上手く行くと思ってるのかしら。
私の割に浅はかよね。
全くの互角だってこと、さっきも見たでしょう?」
再び睨み合いを開始するふたりに、霖之助はため息を吐いた。
しばらく終わりそうになさそうだ。
「とりあえず、店の中で暴れないでくれないかな。
どのみち君には修復を手伝って貰うことになるけどね」
「なんで私が……」
「霖之助がそう言うなら……」
霖之助の言葉に、しかしふたりの反応は正反対だった。
「……幽香、そろそろ離れてくれないか?」
「そうよ、離れなさいよ!」
「なんで? 私に抱かれるのは嫌?」
「いや、嫌というわけでは……」
「そこは否定するところでしょう!?
したら殺すけど」
「どうしろというんだ……」
そこでふと、霖之助の頭にひとつの考えが思い浮かんだ。
普段ならばかばかしいと切り捨てる考えなのだが……。
今の状況では、むしろそれしか考えられない。
ふたりの幽香、その中心にあるのは、霖之助との距離なのではないか、と。
「いいから、帰るわよ!」
「いやよ。もっと霖之助と一緒にいるの!」
「子どもみたいに駄々こねないの! それでも私?」
「私だから言ってるんでしょ!
もうここに住むわ!」
とんでもないことを言いだした幽香に、霖之助は頭を抱えていた。
……抱える頭は、幽香の胸の中に埋もれっぱなしだったのだが。
シュマさんの絵を見て思いついたネタ。
つまり巨乳は素晴らしい。
タイトルをツンとデレにしようか迷った。
霖之助 幽香
ドアというものは外と内を隔てる境界である。
つまり、結界だ。
店のドアともなれば、客とそれ以外を区別するまさに境界……のはずだったのだが。
あいにくと香霖堂のドアはその役目を果たせていなかったらしい。
だから……だから。
壊されてしまっても、仕方がないのだろう。
「そこの雑種。聞きたいことがあるのだけど」
「ドアは持ち歩くものではないよ、幽香。
それに、ちゃんと直してくれるのだろうね?」
「あら、忘れてたわ」
言って、幽香はドアだったものを放り投げた。
香霖堂の床に残骸が散らばる。
眉をひそめる霖之助を気にも留めず、幽香は彼の鼻先に傘を突きつけた。
「雑種。ここに私が来なかったかしら」
「……言っている意味がわからないな」
それに、君にそう呼ばれるのも久し振りだね」
「余計なことは言わなくていいわ。
イエスかノーか。それだけ答えなさい」
眼前に魔力の光が収束していくのを見て、霖之助は首を振った。
スペルのひとつでも放たれればこの店はおろか霖之助自身もただでは済まないだろう。
だがこんな場所で商売をしている以上今までも何度かあったことであるし、何より今回は解決策がはっきりしている。
ただ首を振ればいいだけだ。
「今日君を見たのはこれが初めてだよ。
これで満足かい?」
「……来てないの?」
「そもそも僕には状況が飲み込めないんだが、来てないというのは君のことかい?
言葉をそのまま受け取ると、実に不思議な質問だね。
……つまりこれは何かの暗喩だと考えるんだが、自分の行き先を知るのは要するに」
「そんなはずはないわ!」
「人の話を聞いてないね、君は」
どうも幽香の様子がおかしい。
いつもよりピリピリしている。
何か無くし物をした……というだけではないようだ。
「ここに来るはずなのよ。来ないはずがないもの。
……まさか隠してるんじゃないでしょうね」
「そんなことをして、僕になんの得があると言うんだい」
「得がない!? 本気でそう思ってるの!?
この私がこんな雑種のことを……」
「……だからなんのことかわからないと言っているだろう」
「そうだったわね……。
いいわ、勝手に捜させてもらうから」
そう言うと幽香は乱暴に奥の扉を開け、居間へと上がっていった。
なんだったんだ、と霖之助は肩をすくめる。。
店の中はまるで台風が通り過ぎたかのように荒れ果てていた。
奥の方でドタンバタンと音がしているが……あちらもあとで片付けなくてはならないだろう。
霖之助はため息を吐き、手元の本に視線を落とした。
このページを読み終えたら片付けよう……と考えていた矢先。
むに、と頭に柔らかいものが触れる。
「霖之助、ごめんね……」
「……幽香?」
先ほども聞いた声。
しかしあまりにも様子の違うそれに戸惑いながら振り返ると、白いブラウスが視界いっぱいに広がった。
すぐにそれが幽香のものだ、と思い当たったのは先ほども見たからである。
「私、霖之助に迷惑かけるつもりじゃ……。
本当にごめんね……」
「幽香……?」
思わず霖之助は困惑していた。
本当にさっきの幽香と同一人物なのだろうか。
……どうでもいいが、頭に抱きついたままなのはやめて欲しい。
その豊かな乳房を乗っけられると、こう……。
それにこのままでは、幽香のヘソと胸の下半分しか見えないわけだが。
「な・に・を、しているのかしら~?」
バキ、と何かが折れる音が響いた。
嫌な予感しかしないが……恐る恐る振り返る。
話し声が聞こえたから戻ってきたのだろう。
少し離れた場所にも、幽香が立っていた。
あくまで笑顔。
しかし彼女の掴んだ柱にはみるみるうちにヒビが刻まれていく。
まったく力が入っているように見えないのだが、そこはそれ、さすが大妖怪というところだろう。
「何を……ね。むしろ僕が教えて貰いたいくらいだよ」
その言葉に、幽香は睨み付けるような視線で霖之助を見やり……すぐに戻す。
敵意さえこもった視線を幽香がぶつけるのは、あろう事かもうひとりの幽香だった。
つまり自分自身だ。
二人目の幽香はその視線に対抗するかのように……ますます強く、霖之助を抱きしめる。
霖之助はふたりの幽香に挟まれ、困惑していた。
……分身魔法を使える妖怪が珍しいわけではないが……。
単に分身したにしては、やはり様子がおかしい。
「やあ、幽香。
探し物は見つかったかい?」
「ええ、捜し者は見つかったわよ。たった今ね」
幽香はヒビの入った柱から手を離すと、傘を突きつけてきた。
彼女の捜し者とはつまり、このもうひとりの幽香のことだろう。
幽香はいまだに霖之助に抱きついたままの幽香を見て、頭に怒りのマークを浮かべる。
「そろそろ離れたらどうかしら。
私ならわかると思うのだけど」
「いやよ。ずっとこうしていたいの。
私ならわかるはずでしょう?」
「よくもぬけぬけと……」
「あら? 本心は同じはずなのに……そこで指をくわえて見てればいいわ」
その言葉に、幽香は壮絶な笑みを浮かべると眼前に巨大な光球を出現させる。
……しかし、次の瞬間には霧散していた。
もうひとりの幽香がかき消したのだろう。
力はまったく同等のようだ。
「……頼むから、店を壊さないでくれよ。
もう手遅れみたいだけど」
「ごめんなさいね、あっちの私は乱暴で」
霖之助に抱きついたままの幽香はそう言うが……霖之助にはそれが嘘だということを感じていた。
今のは単にあちらの幽香がわずかに早く行動しただけで、こっちの幽香も攻撃の機を窺っていた。
つまり基本的な性格は一緒と言うことだ。
「見たところ、分身に失敗した……ようだね」
「ええ、そうよ」
「私がふたりいるのは別にいつものことだけど、今回は少し困るかしらね」
「寝起きに分身なんてするんじゃなかったわ……」
「どっちが本体というわけでもないのかい?」
「どっちも私だもの」
「自分がふたりいる感覚なんて大したことじゃないわよ」
そういえば、幽香の寝起きはかなりの悪さだと聞いたことがあった。
……それにしても、両サイドから答えられるとかなり混乱してしまう。
「……それで、君たちは一体何と何に別れたんだい?」
さっきから考えているのだがさっぱりわからない。
攻撃的か否か、ではない。
正直と嘘つき、でもなさそうだ。
積極的と消極的……であろうはずがない。
「それは……その……」
「あの……ね?」
霖之助の言葉に、ふたりの幽香は揃って口をつぐんだ。
ここでもやはり、基本的な性格が出ると言うことか。
行動は大胆な割に、この思い切りの悪さはどういうことだろう。
「幽香。君はもうひとりの幽香が必ずここに来ると言ったね。
確かにそうなったわけだが、その理由はなんなんだい?
僕はそれがふたりを分けている要因だと思うんだが……」
「……そこまでわかってるなら気付きなさいよ!」
「そうよそうよ!」
今度はふたりの幽香に揃って睨まれた。
さすが自分自身だ。これ以上なく息が合っている。
「……つまり、何かしら相反する性格で分かれたと言うことだろうか。
じゃあ中心にあるのは……この香霖堂だな」
「はぁ……」
「……予想通りね……」
しかし霖之助の考察に、ふたりはがっくりと肩を落とす。
自信たっぷりだった霖之助は、なんともやるせない気持ちになった。
「……まあいいわ。偽物は倒せば消えるのが道理だもの」
「それが上手く行くと思ってるのかしら。
私の割に浅はかよね。
全くの互角だってこと、さっきも見たでしょう?」
再び睨み合いを開始するふたりに、霖之助はため息を吐いた。
しばらく終わりそうになさそうだ。
「とりあえず、店の中で暴れないでくれないかな。
どのみち君には修復を手伝って貰うことになるけどね」
「なんで私が……」
「霖之助がそう言うなら……」
霖之助の言葉に、しかしふたりの反応は正反対だった。
「……幽香、そろそろ離れてくれないか?」
「そうよ、離れなさいよ!」
「なんで? 私に抱かれるのは嫌?」
「いや、嫌というわけでは……」
「そこは否定するところでしょう!?
したら殺すけど」
「どうしろというんだ……」
そこでふと、霖之助の頭にひとつの考えが思い浮かんだ。
普段ならばかばかしいと切り捨てる考えなのだが……。
今の状況では、むしろそれしか考えられない。
ふたりの幽香、その中心にあるのは、霖之助との距離なのではないか、と。
「いいから、帰るわよ!」
「いやよ。もっと霖之助と一緒にいるの!」
「子どもみたいに駄々こねないの! それでも私?」
「私だから言ってるんでしょ!
もうここに住むわ!」
とんでもないことを言いだした幽香に、霖之助は頭を抱えていた。
……抱える頭は、幽香の胸の中に埋もれっぱなしだったのだが。