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ブンキシャ! 第08.5話

たまには基本に立ち返るべきだと思い立ったので。
ゆうまさんから貰った絵を見て思いついたネタ。
やっぱり素晴らしいよね、いろいろと。


霖之助 阿求












「朝ですよー」
「ぐっ……」


 胸を押しつぶす衝撃に、たまらず霖之助は目を覚ました。
 記憶を頼りに手を伸ばし、眼鏡をかける。
 寝起きでぼやけた思考の中、衝撃の原因に目を向けた。


「阿求……」
「お姉ちゃん」


 霖之助の言葉に、少女の声がすかさず割り込んでくる。


「阿求」
「お姉ちゃんって呼んでいいんですよ?
 むしろ呼びなさい。はりーあっぷ」


 どーん、と胸を張り、腕組み。
 偉そうに霖之助に命令する阿求に、霖之助はため息を吐いた。

 変わらないな、と思う反面、変わってないことに嬉しさを感じながら


「よっと……」
「わわっ」


 霖之助は腕を支えにして、布団に阿求を乗せたまま上体を起こす。
 バランスを崩して倒れそうになる彼女を、手を伸ばして抱き留めた。


「『お姉ちゃん』ならもう少し落ち着きがあって欲しいところだが」
「『弟』の面倒を見るのも、『弟』に面倒を見させるのも、お姉ちゃんの特権です」


 阿求は霖之助の胸に頭を押しつけるように、そっと呟いた。









「……それで、どうしてあんなことを」


 霖之助は布団を押し入れにしまいながら、隣に佇む阿求に尋ねた。

 かつてこの家で自分が使っていたものとは違い、来客用の布団である。
 そのわりに、端っこのほうに森近霖之助と名前が書いてあるのはどういうことだろうか。


「心配しなくても、売らないから大丈夫ですよ」
「……誰もそんな心配をした覚えはないよ」
「結構問い合わせあるんですけどねえ」


 阿求の言っている言葉の意味がわからない。
 ……わからないことは考えない。
 間違いなく今はその方が幸せになれる気がした。


「一言で言うと、朝だから起こしに来たんですよ」
「寝ている人間を圧殺しようとするのが君流の起こし方なのかい?」
「あれ、お気に召しませんでしたか?」
「召すも何も、潰されて喜ぶはずがないだろう」
「私の体重ならちょうどいい刺激になるかなって」
「……体重がどうであれ、気を抜いているところには結構効くものだよ」
「そうですか、では次から別の起こし方にしますね」


 じゃあおはようバズーカで……となにやら不吉なことを呟く阿求に、霖之助はため息。

 このやりとりも、よくあることだ。
 この少女は、たまにこうやってハイテンションになるから困る。
 ノリがいい、というよりは思いついたことを試したがるのだ。
 幻想郷縁起に関わる者の性だろうか。
 実験台にされる側の身にもなって欲しいのだが。


「……だいたい、昨日は遅くまで起きていたんだから、寝かせておいてくれてもいいじゃないか」
「でも朝は起きるものですよ。
 朝ご飯も出来てるので、呼びに来たわけです」
「別に食べなくても平気なのは知っていると思うが」
「郷には入れば郷に従えと言うでしょう。
 この稗田家では私がルールです」
「それは理解している。
 ……痛いほどにね」


 言って、霖之助は胸をさすった。
 ここ稗田の家で、彼女に言われれば強く反発することも出来ない。

 稗田の家は幻想郷では数少ない書店を経営している。
 印刷技術を持っている天狗はともかく、人里では本と言えば手書きの写本だった。

 幼少の頃稗田家に世話になっていた霖之助は、たまにこうやって稗田の手伝いをしている。
 手伝いがてら教え込まれたのだ。

 ……もっとも、普通の本なら余程のことがない限り従業員で間に合うのだが。
 今霖之助が手伝っているのは魔導書の写しだった。
 写本とは言え、細心の注意を払う必要があり、また誰にでもできるというわけでもない。

 そして手伝いに呼ばれたということは注文が入ったということだ。
 最近増えてきた気がする。
 商売繁盛、実に結構なことだ。


「なにか羨ましそうな顔をしていますね」
「おかしな事を言うね。
 僕は普段の生活に満足している。
 羨むとは、自分にない者を求める感情に他ならない」
「ええ、まさにその表情をしていましたよ」
「……気のせいだよ」


 霖之助は押し入れに布団を押し込み、襖を閉めた。
 少しずれた気がするが、どうせ今夜も使うことになるのだ。
 写本作業は一日二日で終わるものではない。
 魔導書ともなればなおさらだ。


「朝食を済ませたら早速取りかかるとしようか」
「そうですね、早速取材に取りかかりましょう」


 しかし、阿求から帰ってきた返答は予想しないものだった。


「……この前も行ったじゃないか、取材」
「前は前。だって全員に会えたわけじゃないですから」
「そうは言うがな……。
 だいたい、僕も行く必要があるのかい?」
「むしろ霖之助さんがいかなきゃ始まらないんですよ」


 そう言って阿求は自信たっぷりに腕を組む。
 対して霖之助は苦い顔。


「それに一度しかない人生、楽しまなきゃ損でしょう?」
「君が言うと説得力がないな」
「……それもそうですね」


 阿求はあっさりと頷くと、霖之助の手を取った。
 そのまま彼の手を引いて歩き出す。


「せっかく霖之助さんと過ごす時間ですから、楽しまなきゃ損じゃないですか」

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