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鵺の呼び声ぷち 05

ぬえ霖強化週間。
週間なので強化限界まであと2回。

正体不明の種の設定については正体不明ということでひとつ。


霖之助 ぬえ









 テーブルの上に、徳利がずらりと並べられていた。

 霖之助は首を傾げる。
 そろそろ晩飯でも食べようかと、店じまいしたのがつい先ほど。
 明かりを消しただけで店じまいになるから楽なものだ。

 それにほとんどの客は、この店の営業時間を知らないだろう。
 来たいときに来て、帰りたいときに帰る。
 客でなくても、それは一緒なのだが。


「あ、もう来た。
 もうちょっと待っててね」


 そう、目の前の少女もその中のひとりだった。


「……なにをやっているんだい、ぬえ。
 てっきり帰ったものだと思ってたんだが」
「ん~、ちょっとね」


 台所と居間をぬえは言ったり来たりしていた。
 そういえば、夕方あたりからなにやら音がしていた気もする。

 ようやく準備が整ったのか、ぬえは霖之助に向き直り、宣言した。


「利き酒勝負よ!」


 何故か得意げな彼女に、訝しげな視線を送る霖之助。
 ……なんとも身の程知らずなことを言うのだろう。


「あいにくだが、勝負にならないと思うがね」


 道具の名称のわかる霖之助は、そもそも利き酒というものをやったことがない。
 霖之助にとっては聞き酒であり、つまり向こうの方から語りかけてくるのだ。

 もしくは本の時のように呑んだ記憶を判らなくするのだろうか。
 しかしそうしてしまうと利き酒が成り立たなくなってしまう。

 ぬえは勝負、と言った。
 つまり彼女が言っているのは銘柄を当てる方の利き酒だ。
 品質を評価する利き酒ではないはず。
 しかしそう考えると――。


「ふふん、そんなこと言っていいのかしら」


 霖之助の思考を邪魔するかのように、ぬえの言葉が響く。


「私の能力をわかった気になって貰っちゃ困るわね」


 自信満々なぬえの態度に、霖之助は興味が湧いた。


「……どれ」


 試しに徳利に手を伸ばす。
 名称、酒。用途、飲み物。


「……うん?」


 別の徳利を持ってみても、結果は変わらない。
 いつもなら、もう少し細かい情報まで読み取れるのだが。


「ちょっと方向を変えてみたのよ。
 知らないものを知らないままにさせるのなんて、難しいことじゃないわ」


 確かに酒とはわかっているので正体不明というわけではないが……。
 霖之助の能力を打ち消しているわけではないと言うことだろうか。

 曖昧になった名称に、霖之助は笑みを浮かべた。


「面白いな。
 なかなか無い機会だ。受けて立とうか」
「そう来なくっちゃ」
「ああ。だから……君が勝手に酒瓶を空けまくったことは不問にしておくよ」
「……もう、いつも大目に見てよ!」


 不満な表情を浮かべるぬえだったが、とんでもない。
 秘蔵のあの酒やその酒まで勝手に使われたら……。

 ――いや、それはそれで面白いかもしれない。

 そんなことを考える。
 霖之助にとって、先入観が全くない手探りの状態は新鮮なものだった。


「じゃあこれが銘柄表ね。
 どれも霖之助が呑んだことあるやつのはずよ」
「……ああ」


 とはいえ、貴重な酒が使われていないのを確認し、胸をなで下ろす。


「全部正解したらご褒美をあげるわ!」
「……失敗したら?」
「罰ゲームに決まってるじゃない」


 どこの決まりかは知らないが、そう言うことらしかった。
 霖之助はそれには返答しないまま、テーブルの前に座る。

 色、温度ともにすべて同じ条件のようだ。
 近い条件の銘柄ばかりチョイスしたのだろう。

 近くには水の入ったグラス。
 霖之助は改めて酒の名前の書かれたリストを凝視する。


「じゃあ、出来たら持ってくるからね」


 そう言ってぬえは台所に戻っていった。
 なにが出来たら持ってくるのか……考えている暇はない。


「……ふむ」


 一番近くの徳利から、酒を少量お猪口に移す。
 そして口に含み……舌の上で転がして味を見る。
 味、香り、のどごし。

 聞いた話によると感覚を衰えさせないために吐き出すこともあるらしいが、
この量と種類ならば呑んでも問題ないだろう。

 しかし、この酒はどうだ。
 最初に覚えたイメージは草原。
 抜けるような清涼感と、確かに存在する力強さが同居した銘酒だ。
 確かにかつて呑んだことはある。

 ……しかし名前が出てこない。


「……保留」


 3つの種類に候補を絞り、次の酒へ。

 この酒は繊細だった。
 例えるなら……羽衣、だろうか。
 竜宮の遣いの姿がイメージに浮かぶ。

 ……なんのことはない。
 彼女が店に来たとき呑んだ酒だ。


「……これで間違いないな」


 自信たっぷりに書き込みかけて……ふと首を傾げた。
 ひとつ下にある酒も似たような名前をしている。
 そういえば、同時に二本飲んで話題にした気がする。
 その話題の対象は……どっちがどっちだっただろう。

 ひとりだというのに、まるで過去の自分とふたりで呑んでいるような気がしてきた

 ……実に興味深い。
 霖之助はさらに深く酒と対話するため、次の銘柄へと手を伸ばしていき……。


「あれ? まだ半分も書いてない」
「……ああ、ぬえか。
 利き酒というのは実に素晴らしいな」
「いや、それほどでも……」


 なにやらよくわからなかったが、とりあえずぬえは照れたように頭をかいた。


「時間切れということで罰ゲームね」


 どん、とテーブルの上に大皿を置くぬえ、


「はいこれ。食べてみて」
「ちなみに正解していたら、なにが貰えたんだい?」
「ん? 私の手料理」
「じゃあこれは?」
「私の手料理」


 結果の違いがわからない。


「……ところでなんだいこれは」


 皿に盛られたのは、黒くてどろどろした物体だった、

 見たことのない料理だ。
 正体不明の種のせいでこう見えるのだろうか。

 しかしぬえの作る料理はいつも正体不明なので、そればかりが原因でもないはずだが……。


「罰ゲームだからヒントなしよ」


 ぬえは楽しそうに笑う。

 試しに能力で調べてみても食べ物、としか出てこない。
 毒などではないようだが……。


「僕は利き酒に忙しいんだが」
「第2回のチャンスもなくなるよ?」
「……さて、食べてみるとしようか」


 逃げ場はないらしい。
 恐る恐る、その料理を皿に取り分ける。

 どうやら麺類のようだ。


「……どう?」


 ぬえから見守られながら、口に運ぶ。


「……意外だ」


 ねっとりとした風味は、幻想郷にないものだった。
 塩……いや、磯の香りだろうか。


「イカスミ?」
「せいか~い」


 嬉しそうに、ぬえが笑う。


「ね、おいしい?」
「……ああ……意外なほど」
「意外ってなによ!」


 無理もない。
 何故なら普段のぬえの料理は、美味しい以前に正体不明なのだから。

 利き酒を用意したのはこの料理のための前座なのだろう。
 それにしては、手が込んでいたが。


「……どこでこんなものを?」
「スキマ妖怪がくれたの。レシピと一緒に」
「ほう」
「昼霖之助は出かけてたから。
 霖之助さんに渡しておいて、だって。
 結果は同じだからいいわよね」
「……あとで紫に謝っておくよ。
 君も謝るように」
「えー、なんでー」


 それにしても、本当に美味しい。
 どこかで隠れて料理の練習をしていたのかもしれない。


「……ぬえ」
「なに?」
「ありがとう。おいしいよ」
「どういたしまして!」


 霖之助は料理と一緒に、うやむやになった利き酒を続けながら……。
 ひょっとしたらぬえは一緒に夕食を食べたかっただけなのかもしれない、と考えていた。


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