○×日誌
咲夜さんはかなり天然の入った乙女。
という訴えを続けて早数ヶ月。
さっさとくっつけばいいのに。
霖之助 咲夜
紅魔館のメイド長の自由時間は多い。
というのも雑務は時間を止めて片付けてしまうため、実時間でやることと言ったらレミリアの側に控えることか、妖精メイドに指示を出すことくらいである。
そのレミリアも昼間は寝ているし、妖精メイドに関しては最初から諦めているため実質昼は暇と言っても過言ではない。
たまに時間を止めずに仕事をしてみても、周りが変な目で見てくるので諦めた。
つまり、屋敷にいてもやることがないのだ。
だから、こうやって仕方なく散歩に出ているのである。
仕方なく。
「……というわけなのよ」
「寝てればいいじゃないか」
「それも時間を止めて……」
「やれやれ」
霖之助は咲夜が入れたお茶を飲みながら、肩を竦めた。
客として来たときはよくできたメイドとして振る舞う彼女だが、単に店にやってきたときはいろいろといじったりしていた。
お茶を入れたり、掃除をしたり、料理を作ったり。
同時にそれは買い物をする気が無いという宣言のようなもので、店主としては少し残念ではあるのだが、霖之助個人としては……。
「……なにかしら?」
「いいや、なんでもないよ」
いつの間にか咲夜の顔をじっと見つめていたらしい。
霖之助は慌てて視線を逸らした。
咲夜のため息が聞こえたような気がしたが……気のせいだろう。
「それにしても、吸血鬼が夜行性というのは本当なんだな」
「ええ。でもお嬢様は我儘ですから、たまに昼も起きてますけど」
「それは夜更かし……みたいなものなのかい?」
昼の場合はなんと呼ぶのだろう。
一瞬迷ったが、諦めた。どのみち大したことではない。
「そうか、君の主人は日光も平気だったな」
「ええ、嫌いなだけで天敵ではないそうです」
日光に触れただけで灰になるということはないらしい。
……実に興味深い。
「……もう少し、聞かせて貰えるかな?」
「というわけで。今日はずっとお嬢様について聞かれました」
「そう、立派に主人を立ててきたというわけね。
……それで、どうしてそんなに不機嫌そうなのかしら?」
「いいえ、とんでもない」
咲夜は首を振る。
起きてきたレミリアに今日あったことの報告をするのが日課になっていた。
もっとも、報告される側のレミリアはいつも興味なさげで、
何故か一緒に聞いているパチュリーが楽しそうに記録しているのだが。
「あ、もう最後のページだわ」
「また? 何冊目よ、その……香霖堂日誌?」
「違います。紅魔館のメイド長の活動記録です」
「メイド長の活動と言っても……」
レミリアはひとつため息を吐くと、パチュリーから件の日誌を受け取った。
ぱらぱらとめくっていく。
「……見事にあの店のことしか書いてないわね」
「え? そうですか?」
「もっと報告すべきことがあるでしょう、館の警備とか」
「えっと、今日も黒白と天狗を撃退しましたけど、とりたて報告するほどのものではないので……」
「……ん? いやいや」
店のことのほうが要らない、と言おうとしてやめた。
咲夜の機嫌が悪くなって。変な料理を出されては困る。
メイドの機嫌を伺う当主というのも情けない気がしたが、胃袋には逆らえない。
どのみち……どの情報もたいして価値はないのだ。この紅魔館では。
「まあ、そっちは門番の日誌でわかるからいいわ。
例えば……えっと……料理が被らないようにするとか……」
「献立表はお嬢様にばれると駄々をこねられるので別のところに書いてます」
「初耳よそれ。というか誰が駄々をこねるのよ」
「え? だって……」
ついっと目を逸らす咲夜に、パチュリーが割って入った。
どうやら替えのノートを用意してきたらしい。
「そうよ、そんな事はいいから早く続きを聞かせてよ」
目を輝かせるパチュリー、
こう言うことには妙に行動的なのだ、彼女は。
そういえば、最近恋愛小説にハマっていると小悪魔から報告を受けていた気がする。
「ちょっとパチェ、そんな事とは何よ」
「はい、そんなことよりですね。えっと……」
嬉々として話し始めるふたりに、レミリアはため息を吐いた。
「はぁ……もういっそくっついてしまえばいいのに」
しかし、ひとつ懸念がある。
離れていてこれなのだ、
もし一緒になったとして、毎日どんな報告があるか。
考えただけでちょっと怖い。
「くくく、くっつくってなんのことです?」
それに、当の本人はこれだ。
人間はこんなに回りくどい生き物だっただろうか。
レミリアの記憶にある人間というのは、もっとこう……。
「そうよ、くっつけばいいのだわ!」
そして友人はこんなだし。
単に紅魔館に変人が集まっているだけ、という可能性は考えないことにした。
その当主であるレミリアがどう評価されるかなど、考えたくもない。
「じゃあパチェ、代わりにくっつく?」
「だ、ダメです!」
大声を上げるメイドに、やっぱりとレミリアは頷いた。
さっさとくっつけばいいのに。
という訴えを続けて早数ヶ月。
さっさとくっつけばいいのに。
霖之助 咲夜
紅魔館のメイド長の自由時間は多い。
というのも雑務は時間を止めて片付けてしまうため、実時間でやることと言ったらレミリアの側に控えることか、妖精メイドに指示を出すことくらいである。
そのレミリアも昼間は寝ているし、妖精メイドに関しては最初から諦めているため実質昼は暇と言っても過言ではない。
たまに時間を止めずに仕事をしてみても、周りが変な目で見てくるので諦めた。
つまり、屋敷にいてもやることがないのだ。
だから、こうやって仕方なく散歩に出ているのである。
仕方なく。
「……というわけなのよ」
「寝てればいいじゃないか」
「それも時間を止めて……」
「やれやれ」
霖之助は咲夜が入れたお茶を飲みながら、肩を竦めた。
客として来たときはよくできたメイドとして振る舞う彼女だが、単に店にやってきたときはいろいろといじったりしていた。
お茶を入れたり、掃除をしたり、料理を作ったり。
同時にそれは買い物をする気が無いという宣言のようなもので、店主としては少し残念ではあるのだが、霖之助個人としては……。
「……なにかしら?」
「いいや、なんでもないよ」
いつの間にか咲夜の顔をじっと見つめていたらしい。
霖之助は慌てて視線を逸らした。
咲夜のため息が聞こえたような気がしたが……気のせいだろう。
「それにしても、吸血鬼が夜行性というのは本当なんだな」
「ええ。でもお嬢様は我儘ですから、たまに昼も起きてますけど」
「それは夜更かし……みたいなものなのかい?」
昼の場合はなんと呼ぶのだろう。
一瞬迷ったが、諦めた。どのみち大したことではない。
「そうか、君の主人は日光も平気だったな」
「ええ、嫌いなだけで天敵ではないそうです」
日光に触れただけで灰になるということはないらしい。
……実に興味深い。
「……もう少し、聞かせて貰えるかな?」
「というわけで。今日はずっとお嬢様について聞かれました」
「そう、立派に主人を立ててきたというわけね。
……それで、どうしてそんなに不機嫌そうなのかしら?」
「いいえ、とんでもない」
咲夜は首を振る。
起きてきたレミリアに今日あったことの報告をするのが日課になっていた。
もっとも、報告される側のレミリアはいつも興味なさげで、
何故か一緒に聞いているパチュリーが楽しそうに記録しているのだが。
「あ、もう最後のページだわ」
「また? 何冊目よ、その……香霖堂日誌?」
「違います。紅魔館のメイド長の活動記録です」
「メイド長の活動と言っても……」
レミリアはひとつため息を吐くと、パチュリーから件の日誌を受け取った。
ぱらぱらとめくっていく。
「……見事にあの店のことしか書いてないわね」
「え? そうですか?」
「もっと報告すべきことがあるでしょう、館の警備とか」
「えっと、今日も黒白と天狗を撃退しましたけど、とりたて報告するほどのものではないので……」
「……ん? いやいや」
店のことのほうが要らない、と言おうとしてやめた。
咲夜の機嫌が悪くなって。変な料理を出されては困る。
メイドの機嫌を伺う当主というのも情けない気がしたが、胃袋には逆らえない。
どのみち……どの情報もたいして価値はないのだ。この紅魔館では。
「まあ、そっちは門番の日誌でわかるからいいわ。
例えば……えっと……料理が被らないようにするとか……」
「献立表はお嬢様にばれると駄々をこねられるので別のところに書いてます」
「初耳よそれ。というか誰が駄々をこねるのよ」
「え? だって……」
ついっと目を逸らす咲夜に、パチュリーが割って入った。
どうやら替えのノートを用意してきたらしい。
「そうよ、そんな事はいいから早く続きを聞かせてよ」
目を輝かせるパチュリー、
こう言うことには妙に行動的なのだ、彼女は。
そういえば、最近恋愛小説にハマっていると小悪魔から報告を受けていた気がする。
「ちょっとパチェ、そんな事とは何よ」
「はい、そんなことよりですね。えっと……」
嬉々として話し始めるふたりに、レミリアはため息を吐いた。
「はぁ……もういっそくっついてしまえばいいのに」
しかし、ひとつ懸念がある。
離れていてこれなのだ、
もし一緒になったとして、毎日どんな報告があるか。
考えただけでちょっと怖い。
「くくく、くっつくってなんのことです?」
それに、当の本人はこれだ。
人間はこんなに回りくどい生き物だっただろうか。
レミリアの記憶にある人間というのは、もっとこう……。
「そうよ、くっつけばいいのだわ!」
そして友人はこんなだし。
単に紅魔館に変人が集まっているだけ、という可能性は考えないことにした。
その当主であるレミリアがどう評価されるかなど、考えたくもない。
「じゃあパチェ、代わりにくっつく?」
「だ、ダメです!」
大声を上げるメイドに、やっぱりとレミリアは頷いた。
さっさとくっつけばいいのに。