幻想郷で一番の
久し振りに文を書いた気がします。
文霖はマイジャスティス。
まあすべてが正義なんですがね。
霖之助 文
「新聞ですよ、霖之助さん」
ドアを開けて、黒髪の少女が元気よく店内に入ってきた。
高下駄のような靴に黒い羽根。
文はカウンターの前まで歩み寄ると、霖之助に新聞を差し出した。
「やあ、いつもすまないね」
「いえいえ、読んでいただいているのはこちらですから」
「そうは言うが、今ではかなりの購読者数らしいじゃないか」
「ええ、まあ。おかげさまで」
照れたように、文は笑う。
文の新聞が広まるきっかけを作ったのは本当に霖之助のおかげだった。
彼をモデルにしたエッセイが、里の若者の間に広まったのである。
……霖之助自身は気づいていないようだが。
「昔はすぐに配り終えて、うちの店内でくだを巻いてたものだがね」
「はい、その節はお世話になりました……」
恥ずかしそうな表情を見せる文。
昔懐かしい気持ちになった。思えば、こうやって話すのは久し振りかもしれない。
「立ち話もなんだな。お茶でも入れようか」
「いえ、これからすぐに次の配達先に行かねばならないので。それでは」
霖之助が立ち上がろうとしたところ制し、文は店から出て行った。
まったく忙しい。
幻想郷最速と言えど、幻想郷中を回るのには時間がかかるということか。
「行ってしまったか……」
呟いて、霖之助は漠然とした寂しさを覚える。
……自分は話し好きである。なのに満足に話が出来なかったせいだ。
そう結論づけて、霖之助はカウンターの椅子に腰を下ろした。
「……最近、なんだか寂しいです」
「このあたりですか? 確かに人通りが少ないですねえ」
妖怪の山への帰り道。
ずれたことを言う椛に、文は曖昧な笑顔で返した。
今日の配達がどうしても間に合いそうに無かったので急遽応援に呼んだのだ。
これもそれも香霖堂で話をした上、配達する肝心の新聞を彼の分しか持って行かなかったせいだ。
慌てて山に引き返し、のんびりしている椛を連れ出したのだった。
「……やっぱり寂しい」
「もうすぐ秋ですからねぇ」
あくまでのほほんとした椛。
千里先まで見えても、妖怪の心は見えないらしい。
……見られても困るが。
「お祭りでもあれば賑やかになるんでしょうけど」
「お祭りねぇ。行ったところで結局取材でしょうね。時間もないですし」
「あれ? 先輩、時間は作るものだって言ってたじゃないですか」
「それはそうだけど……いえ、そうね」
目が醒める思いだった。
まさか彼女に教えられるとは。
やはり基本は大事と言うことだろう。
時間を縮めるのには慣れている。
なんと言っても、幻想郷最速の女なのだから。
新聞というものは作り置きが効くものではない。
発行の間隔が開いているからこそ過去に取材したネタはあっという間に風化し、または新たな真実によって無価値なものへと変わる。
真実はひとつではない。
新聞に書いた時点で、真実となる。
他の天狗は事件の一番面白いところだけを切り取って真実にしたがるが、文は違う。
それでは100人が見ても全員が同じ感想しか持たないだろう。
文は100人が見たらすべて違う感想を持つような記事を追い求めていた。
どこから見ても、誰が見ても変わらないのはただの事実でしかない。
誰もが違う感想を持つことで全方向から見られるようになる。
それに耐えうる自分、そして新聞でなければならない。
だから彼女はこう言うのだ。
清くて正しい射命丸、と。
「どうもー」
「……文? こんな時間に珍しいね。配達かい?」
「いいえ、時間を作ってきました……」
文がいつも時間がないのは、締め切りギリギリまでネタを追い求めているからである。
それが終われば、すぐに次のネタへ。
例え載せる記事が一杯になっても、より面白い記事があればそちらが優先される。
終わりのない仕事。
ならば時間を作るにはどうするか。
「今は新聞の印刷中なんですよ……さすがに今ネタを集めてもどうしようもないですからね……」
「妖怪の山からここまで? ……つまり明日は配達だろう? 大丈夫かい?」
「そうなんですけど……私は霖之助さんに」
言いかけた文を、霖之助は手で制す。
「最近、どうも変な気分でね」
「変、ですか?」
「ああ」
いきなり話題を変えた霖之助に、文は首を傾げた。
いつも通り、カウンターの横にある来客用の椅子に腰掛ける。
普段は寝ている時間だ。
疲れで意識が飛びそうになるが、彼の前でみっともない姿を見せるわけにはいかない。
「一言で言うと寂しさ、かな」
「……へ?」
予想外の言葉に、情けない声を出してしまった。
しかし悔やむ暇も無く、言葉の意味をよく考えてみる。
「ずっと理由を考えていたんだが、先日ようやくわかったんだ。
僕は君と会えないのが寂しいらしい」
照れたように笑う霖之助。
文も思わず笑いかけ……無理矢理渋い表情を作った。
「残念です」
「何がだい?」
「この瞬間を記事に出来たら、きっと幻想郷でのトップは私のものだったでしょう」
「新聞のかい?」
「いいえ」
幸せのです、と言って、文は微笑んだ。
「私も寂しかったですよ、霖之助さん。
貴方に会えないときは、ずっと」
文霖はマイジャスティス。
まあすべてが正義なんですがね。
霖之助 文
「新聞ですよ、霖之助さん」
ドアを開けて、黒髪の少女が元気よく店内に入ってきた。
高下駄のような靴に黒い羽根。
文はカウンターの前まで歩み寄ると、霖之助に新聞を差し出した。
「やあ、いつもすまないね」
「いえいえ、読んでいただいているのはこちらですから」
「そうは言うが、今ではかなりの購読者数らしいじゃないか」
「ええ、まあ。おかげさまで」
照れたように、文は笑う。
文の新聞が広まるきっかけを作ったのは本当に霖之助のおかげだった。
彼をモデルにしたエッセイが、里の若者の間に広まったのである。
……霖之助自身は気づいていないようだが。
「昔はすぐに配り終えて、うちの店内でくだを巻いてたものだがね」
「はい、その節はお世話になりました……」
恥ずかしそうな表情を見せる文。
昔懐かしい気持ちになった。思えば、こうやって話すのは久し振りかもしれない。
「立ち話もなんだな。お茶でも入れようか」
「いえ、これからすぐに次の配達先に行かねばならないので。それでは」
霖之助が立ち上がろうとしたところ制し、文は店から出て行った。
まったく忙しい。
幻想郷最速と言えど、幻想郷中を回るのには時間がかかるということか。
「行ってしまったか……」
呟いて、霖之助は漠然とした寂しさを覚える。
……自分は話し好きである。なのに満足に話が出来なかったせいだ。
そう結論づけて、霖之助はカウンターの椅子に腰を下ろした。
「……最近、なんだか寂しいです」
「このあたりですか? 確かに人通りが少ないですねえ」
妖怪の山への帰り道。
ずれたことを言う椛に、文は曖昧な笑顔で返した。
今日の配達がどうしても間に合いそうに無かったので急遽応援に呼んだのだ。
これもそれも香霖堂で話をした上、配達する肝心の新聞を彼の分しか持って行かなかったせいだ。
慌てて山に引き返し、のんびりしている椛を連れ出したのだった。
「……やっぱり寂しい」
「もうすぐ秋ですからねぇ」
あくまでのほほんとした椛。
千里先まで見えても、妖怪の心は見えないらしい。
……見られても困るが。
「お祭りでもあれば賑やかになるんでしょうけど」
「お祭りねぇ。行ったところで結局取材でしょうね。時間もないですし」
「あれ? 先輩、時間は作るものだって言ってたじゃないですか」
「それはそうだけど……いえ、そうね」
目が醒める思いだった。
まさか彼女に教えられるとは。
やはり基本は大事と言うことだろう。
時間を縮めるのには慣れている。
なんと言っても、幻想郷最速の女なのだから。
新聞というものは作り置きが効くものではない。
発行の間隔が開いているからこそ過去に取材したネタはあっという間に風化し、または新たな真実によって無価値なものへと変わる。
真実はひとつではない。
新聞に書いた時点で、真実となる。
他の天狗は事件の一番面白いところだけを切り取って真実にしたがるが、文は違う。
それでは100人が見ても全員が同じ感想しか持たないだろう。
文は100人が見たらすべて違う感想を持つような記事を追い求めていた。
どこから見ても、誰が見ても変わらないのはただの事実でしかない。
誰もが違う感想を持つことで全方向から見られるようになる。
それに耐えうる自分、そして新聞でなければならない。
だから彼女はこう言うのだ。
清くて正しい射命丸、と。
「どうもー」
「……文? こんな時間に珍しいね。配達かい?」
「いいえ、時間を作ってきました……」
文がいつも時間がないのは、締め切りギリギリまでネタを追い求めているからである。
それが終われば、すぐに次のネタへ。
例え載せる記事が一杯になっても、より面白い記事があればそちらが優先される。
終わりのない仕事。
ならば時間を作るにはどうするか。
「今は新聞の印刷中なんですよ……さすがに今ネタを集めてもどうしようもないですからね……」
「妖怪の山からここまで? ……つまり明日は配達だろう? 大丈夫かい?」
「そうなんですけど……私は霖之助さんに」
言いかけた文を、霖之助は手で制す。
「最近、どうも変な気分でね」
「変、ですか?」
「ああ」
いきなり話題を変えた霖之助に、文は首を傾げた。
いつも通り、カウンターの横にある来客用の椅子に腰掛ける。
普段は寝ている時間だ。
疲れで意識が飛びそうになるが、彼の前でみっともない姿を見せるわけにはいかない。
「一言で言うと寂しさ、かな」
「……へ?」
予想外の言葉に、情けない声を出してしまった。
しかし悔やむ暇も無く、言葉の意味をよく考えてみる。
「ずっと理由を考えていたんだが、先日ようやくわかったんだ。
僕は君と会えないのが寂しいらしい」
照れたように笑う霖之助。
文も思わず笑いかけ……無理矢理渋い表情を作った。
「残念です」
「何がだい?」
「この瞬間を記事に出来たら、きっと幻想郷でのトップは私のものだったでしょう」
「新聞のかい?」
「いいえ」
幸せのです、と言って、文は微笑んだ。
「私も寂しかったですよ、霖之助さん。
貴方に会えないときは、ずっと」