肩を並べて
鳥威さんに絵をいただいたのでSSを付けさせていただきました。
はたては涙目可愛い。ウフフ。
霖之助 文 はたて
「霖之助さん、私とはたてのどっちが好きですか!?」
「……甲乙付けがたいね」
「えー、つまりお兄さんはどっちも好きってこと?」
「優柔不断ですねぇ」
文に詰め寄られ、霖之助は言葉を濁す。
照れたように頬を染めるはたてとまんざらでもないといった感じで笑う文を見て、しかしゆっくりと首を振った。
そうじゃない、と言わんばかりに。
「どちらも等しくお呼びじゃないってことだよ。
もしこれが本番だったら購読中止を検討に入れるね」
「うぐ」
「そ、そんなぁ」
霖之助の前に広げてあるのは、文々。新聞と花果子念報。
ただし正式なものではなく、技術向上のためにと練習用にふたりが作ったものだ。
練習とは言っても作りはいつもの新聞と同じものだ。
そしてふたりの実力をはっきり出すため、記事の題材は同じものを選んだようだ。
萃香が酔って暴れた、と言うだけの。
忌憚のない意見が欲しいというのでそのまま述べたのだが、もう少しまともなネタはなかったのだろうか。
「じゃ、じゃあせめて、どっちの写真がお好みですか?」
「写真ねぇ」
文の言葉に、霖之助はふたりの新聞を見比べた。
同じネタで記事を書いたと言っても、やはり特色というものは出る。
やがて霖之助は文の新聞を指さし、口を開いた。
「こっちかな」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
「私の写真だってよく撮れてるよぅ!」
「よく撮れているのは認めるがね。
写真自体の出来より、全体的なバランスが重要だと思ったんだよ」
「ふむふむ、バランスですか」
慌てて主張を始めるはたてを手で制し、霖之助は新聞の写真に注目する。
「文の写真は少し引き気味に、はたては萃香をアップで写しているね」
「暴れてるのは鬼なんだから、鬼を撮るでしょ?」
「でもこの記事は鬼が暴れて神社を壊したんだから、対比となる神社を写していることが重要だと思ったんだよ。もちろん僕個人の意見だがね」
「そうなんです、重要なんですよ! そして私の方が霖之助さん好みなんですよ!
わかったかしら、はたて?」
「ぐぬぬ」
悔しそうに口をゆがめるはたてと、勝ち誇ったように笑う文。
なんだか論点がずれているような気がしなくもない。
「記事は!? 記事はどっちの方が好き?」
「今考えるからそんなに詰め寄らないでくれ」
食い下がるはたてに、霖之助は苦笑を浮かべた。
よっぽど負けたくないらしい。
霖之助は改めて記事を読み返し……。
「記事ははたてのほうかな」
「えええー」
「やった! やった!」
飛び上がって喜ぶはたてと、ショックを受ける文。
さっきとは逆転、はたては自信満々な顔で口を開く。
「ちなみに決め手はなんなの?」
「霊夢のインタビューが載ってたことかな。
よくインタビューできたね、と言う気持ちも込めて」
「怖いもの知らずですからね、はたては。わかってないだけのような気もしますけど」
「ううん? 負け惜しみならもっと言っていいよぅ」
まあ、どっちにしたって内容はほとんどないものなのだが。
ふたりとも、落第前提だと言うことを覚えているのだろうか。
「一勝一敗一引き分けですか……はたて、決着は次に持ち越しね」
「望むところよ!」
「褒められたことじゃないってことだけは忘れないでくれよ」
しかしなんだかんだで仲がいいふたりだと思う。
対等な友達と言うべきかはわからないが。
霊夢と魔理沙のようなものだろうか。
「というか、決着は実際の新聞で付けたらどうだい」
「え、ええ。それはまあ、いいネタが拾えたらと言うことで……」
「異変でも起きないかなー」
ふたりは同時に遠い目を浮かべた。
……練習をし出したのはネタがないというのもひとつの要因かもしれない。
「あ、そうだ。すっかり忘れてた」
話題を変えたかったのか、それとも単に忘れていたのか。
はたては自分の鞄から封筒を取り出した。
「にとりから預かってきたよ。香霖堂に行くならお兄さんに渡してくれって」
「ああ、そうだったのか。ありがとう」
彼女から受け取った茶封筒は、薄く軽い。
河童の得意とする機械の類ではないことは容易に見て取れた。
「で、なんなの? それ」
「気になりますねぇ。にとりとなにをやっているのやら」
「別に、君たちもやっていることだよ」
興味津々と言った様子で見つめるふたりの目の前で、霖之助は封筒を開けた。
中に入っていたものを取り出し、机の上に並べる。
「これは、写真ですか」
「ああ。余ってるカメラを分けてもらってね。
河童製のカメラなら河童が現像してくれるだろう?」
「へぇ……でも、霖之助さんがそんなことやってるなんてのは初耳ですね」
「ああ、現像したのは今回が初めてだからね」
「そうなの?」
「というか、前回君に頼んだじゃないか。にとりに渡してくれって」
「そうだっけ? そうだったような」
「あー、なるほど」
首を傾げるはたてをよそに、文はポンと手を打った。
「もしかして、私たちの新聞評価を引き受けてくれたのって」
「そう、僕のためでもあるというわけさ」
霖之助が制作しようとしている幻想郷の歴史書。
今はまだ単なる日記帳だが、ゆくゆくは他人の目にも触れることになることを考えると写真もあった方がいいだろうと考えたのだ。
阿求の幻想郷縁起は自分で絵を描いているらしいが、あいにく霖之助はそういう技能を持ち合わせていない。
それに道具を使って撮った絵の方がきっと霖之助らしいだろう。
「定期的に香霖堂の写真を撮っていこうと思っているんだよ」
「へぇ」
「なるほどー」
霖之助は机の中から真新しいアルバムを取り出し、現像された写真をしまっていく。
それらの写真を見比べながら、ふと文が首を傾げた。
「……あれ、これっていつの写真ですか?」
「一週間ごとに撮ったから、たぶんそれは先月かな」
「商品、変わってませんね」
「たまたまだよ」
「あれ、でもここに写ってるやつってあそこにまだ並んでるよ?」
はたてが指さした先にあるのは、1ヶ月前の写真と変わらぬ商品棚。
いや、いくつか新たに入荷しているので変化がないわけではない。
減った商品はないわけだが。
「……日付の入る写真機を借りてきた方がよかったかもしれないな」
「いえいえ、もっといい手段がありますよ」
「ふむ……?」
「さっき霖之助さんが言ったことです。対比ですよ、対比」
ちちち、と指を振り、文は胸を張った。
その様子にピンと来たのか、はたてが言葉を続ける。
「ははーん、つまりなんか参考になるやつを一緒に写そうってことね」
「そういうことです」
「むう」
自分で言ったことなら否定するわけにも行かない。
それにそこまで言われたらなんだかそんな気がしてくる。
……何より、この調子で写真が増えていったら自分でも時期がわからなくなりそうだった。
「しかし何か都合よくあるかな、そんなもの」
「ここにいるじゃないですか」
「はいはーい!」
元気よく手を挙げるふたりに、考えることしばし。
「何を言わんとしているかは理解したが……」
つまりこのふたりは自分たちを写せと言っているのだろう。
確かに子供の成長写真などででは使える手段かもしれないが。
「しかし妖怪を撮ってもね、見た目変わらないだろう、君ら」
「いいえ、自分ではわかりますよ? そりゃもうバッチリ」
「君たちがわかってもね……」
「だったら、お兄さんも写ればいいよ!」
「ん? 僕もかい?」
「ええ、つまりツーショット写真と言うことです」
「そうそう」
「まあ、確かにそれもいいかもしれないね」
考えてみれば店の写真に店主が写っても当然のことだ。
ツーショットはともかくとして、なかなかいい案に思えた。
「やる気になりました?」
「ああ、かまわないよ」
「やった! ではちょっとお待ちくださいね」
「ふっふっふ、こんなに早く決着を付ける時が来るなんてね」
「……決着?」
戸惑っている霖之助をよそに、文とはたては真剣な顔で向き合う。
そして次の瞬間、お互いに向かって拳を突き出した。
「はいっ!」
「ほっ」
あいこと見るや、次は平手。
……いわゆるじゃんけんだ。
「勝った!」
「負けた……」
「お待たせしました、霖之助さん。本命が決まりましたよ」
「前座よ、前座!」
「では早速撮りましょうか」
「あ、ああ」
脱力した霖之助が見守る中、 目にもとまらぬ早業を何度か繰り返し、やがて勝敗は決したようだ。
正直どうでもいいのだが、どうやら順番を決めていたらしい。
霖之助のカメラをはたてに預け、店内を背景に文は霖之助と並ぶ。
「使い方は……」
「言わなくてもわかるよー。昔触ったことあるタイプだし。
でも文、ちょっとくっつきすぎじゃないの」
「敗者は黙ってなさい。当然の権利です」
「むぅ。私の番の時も同じこと言うからね。まあいいや、撮るよー」
小気味よい音を立てて、シャッターが切られた。
「もういっちょー」
「ん?」
だがすぐさまはたてはカメラを持ち替え、構える。
「君のカメラじゃないか」
「いいじゃないですか、せっかくツーショットなんですから」
「お兄さん、次私、私!」
はたては文にカメラを返し、彼女と立ち位置を交代した。
その際、自分のケータイ型カメラを文に預ける。
「お兄さん、もっとこっち」
「ちょっとはたて、度が過ぎるわよ」
「文だってさっきやってたじゃん!」
「いや、メインは写真だからね」
「そりゃもう、はたての使いにくいカメラでもバッチリ撮れますよ」
「余計なことは言わないでよぅ」
文は喋りながらも、鮮やかな手並みでふたりを写真に納めた。
手際がよすぎたせいではたてが霖之助の横にいた時間はごくわずかだった気がする。
「でも霖之助さんって、現像するのはある程度撮り溜めてからなんですよね」
「そうだね、フィルムがもったいないし……」
霖之助が店内の写真を撮り始めたのはもうずっと前の話だ。
今回ようやくフィルム一本分になったから現像を頼んだわけで。
もう少しいろいろな写真を撮った方がいいのかもしれない。
「じゃあ、現像するまでどんな写真撮ったかわからないんだね」
「まあ、そうなるね」
「私はフィルム一本なんてすぐ使ってしまうんですけど。私の写真の方が先にできそうですね」
「ふーん、なんだか不便だね」
そこではたては自信たっぷりに胸を張った。
「私のカメラはその場で見れるから便利だよ!」
「ほう、そうなのかい?」
「そうですね、こんな感じで」
「ん?」
文はまだ返してなかったらしいはたてのケータイカメラを操作すると、中のフォルダを呼び出した。
霖之助の写真がいっぱい納められている一覧が目に入る。
「これは僕かい?」
「ちょ、ちょっと! 勝手に見ないでよぅ!」
「ちょっとはたて、危ないって」
「うわっ」
涙目になりながら、はたてはカメラを取り返すべく慌てて突進してきた。
……その拍子に何かにぶつかったのか、思い切りバランスを崩して文と霖之助にぶつかる。
「ちょっとはたて、なにしてるのよ!」
「文のせいじゃないよぅ」
もつれ合ったように倒れ、何とかはたては身を起こした。
「はたて、とりあえず僕の上からどいてくれないか」
「ごめんなさ……ひゃわわ」
無事ケータイを取り戻したらしい彼女は、しかしなにやら妙な声を上げた。
文に手を引かれて立ち上がり、霖之助は首を傾げる。
「どうかしたかい?」
「な、なんでもないよ」
どう見ても挙動不審なのだが、何でもないと言われればそれ以上聞くことはできない。
「私先に帰るね! 来週また来るから!」
そのまま慌ててはたては出て行ってしまった。
結局写真のことも聞くことができなかったのだが……。
まあ、また機会もあるだろう。
「なんだったんだ……」
「大したことではないでしょう。では私も次回の写真の時に来ることにしましょうか」
「配達じゃなくてかい?」
「その前に新聞ができればいいんですがね。では、また」
「ああ、またおいで」
文は苦笑し、手を振った。
霖之助は彼女を見送り、ため息をつく。
こんな騒ぎが毎週続くのかと思ったが……。
それはそれで、悪くない気がした。
「待ちなさい」
「ひゃい!?」
後ろから呼び止められ、はたては身を硬直させる。
わりと本気で飛んできたのだが、追いつかれてしまったらしい。
「ど、どうしたの文。顔が怖いけど」
「独り占めは感心しませんね」
「な、なんのことよ!」
「とぼける気ですか?」
距離を詰めてくる文に、はたては思考を巡らせた。
逃げるのは無理、となれば。
「でもあれは文が……」
「次は開き直る、と」
「え? えっと」
「はたて?」
「うぅ」
はたては頭を垂れると、大人しくケータイを差し出した。
そこからさっきまで見ていた画面を呼び出す。
さっき撮ったばかりの写真を。
「偶然だったのよぅ。それで、つい……その、消されるかと思って」
「…………」
はたてがぶつかった際、シャッターが切られたのだろう。
見ようによっては、3人で抱き合ってるようにも見える。
沈黙を続ける文に、はたては恐る恐る口を開いた。
「……文? あの、私、こんなのもいいかなって……」
「独り占めは、感心しませんね」
文ははたてにケータイを返すと、にっこりと微笑んだ。
「まずは焼き増しをしてから、でしょう?」
「うん!」
つられてはたても笑顔になる。
ケータイを大事にしまうと、データをコピーすべく河童の里へと向かって羽ばたいた。
「とはいえ、私の方が霖之助さんとの付き合いは長いですからね。差が出てしまうのは否めないでしょう」
「そんなもの、関係ないもん! 次はもっとくっつくんだから!」
「では私はその上を行きましょうか」
文とふたり、そんな軽口を叩き合いながら。
こんな関係が続きますように、と。
はたては涙目可愛い。ウフフ。
霖之助 文 はたて
「霖之助さん、私とはたてのどっちが好きですか!?」
「……甲乙付けがたいね」
「えー、つまりお兄さんはどっちも好きってこと?」
「優柔不断ですねぇ」
文に詰め寄られ、霖之助は言葉を濁す。
照れたように頬を染めるはたてとまんざらでもないといった感じで笑う文を見て、しかしゆっくりと首を振った。
そうじゃない、と言わんばかりに。
「どちらも等しくお呼びじゃないってことだよ。
もしこれが本番だったら購読中止を検討に入れるね」
「うぐ」
「そ、そんなぁ」
霖之助の前に広げてあるのは、文々。新聞と花果子念報。
ただし正式なものではなく、技術向上のためにと練習用にふたりが作ったものだ。
練習とは言っても作りはいつもの新聞と同じものだ。
そしてふたりの実力をはっきり出すため、記事の題材は同じものを選んだようだ。
萃香が酔って暴れた、と言うだけの。
忌憚のない意見が欲しいというのでそのまま述べたのだが、もう少しまともなネタはなかったのだろうか。
「じゃ、じゃあせめて、どっちの写真がお好みですか?」
「写真ねぇ」
文の言葉に、霖之助はふたりの新聞を見比べた。
同じネタで記事を書いたと言っても、やはり特色というものは出る。
やがて霖之助は文の新聞を指さし、口を開いた。
「こっちかな」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
「私の写真だってよく撮れてるよぅ!」
「よく撮れているのは認めるがね。
写真自体の出来より、全体的なバランスが重要だと思ったんだよ」
「ふむふむ、バランスですか」
慌てて主張を始めるはたてを手で制し、霖之助は新聞の写真に注目する。
「文の写真は少し引き気味に、はたては萃香をアップで写しているね」
「暴れてるのは鬼なんだから、鬼を撮るでしょ?」
「でもこの記事は鬼が暴れて神社を壊したんだから、対比となる神社を写していることが重要だと思ったんだよ。もちろん僕個人の意見だがね」
「そうなんです、重要なんですよ! そして私の方が霖之助さん好みなんですよ!
わかったかしら、はたて?」
「ぐぬぬ」
悔しそうに口をゆがめるはたてと、勝ち誇ったように笑う文。
なんだか論点がずれているような気がしなくもない。
「記事は!? 記事はどっちの方が好き?」
「今考えるからそんなに詰め寄らないでくれ」
食い下がるはたてに、霖之助は苦笑を浮かべた。
よっぽど負けたくないらしい。
霖之助は改めて記事を読み返し……。
「記事ははたてのほうかな」
「えええー」
「やった! やった!」
飛び上がって喜ぶはたてと、ショックを受ける文。
さっきとは逆転、はたては自信満々な顔で口を開く。
「ちなみに決め手はなんなの?」
「霊夢のインタビューが載ってたことかな。
よくインタビューできたね、と言う気持ちも込めて」
「怖いもの知らずですからね、はたては。わかってないだけのような気もしますけど」
「ううん? 負け惜しみならもっと言っていいよぅ」
まあ、どっちにしたって内容はほとんどないものなのだが。
ふたりとも、落第前提だと言うことを覚えているのだろうか。
「一勝一敗一引き分けですか……はたて、決着は次に持ち越しね」
「望むところよ!」
「褒められたことじゃないってことだけは忘れないでくれよ」
しかしなんだかんだで仲がいいふたりだと思う。
対等な友達と言うべきかはわからないが。
霊夢と魔理沙のようなものだろうか。
「というか、決着は実際の新聞で付けたらどうだい」
「え、ええ。それはまあ、いいネタが拾えたらと言うことで……」
「異変でも起きないかなー」
ふたりは同時に遠い目を浮かべた。
……練習をし出したのはネタがないというのもひとつの要因かもしれない。
「あ、そうだ。すっかり忘れてた」
話題を変えたかったのか、それとも単に忘れていたのか。
はたては自分の鞄から封筒を取り出した。
「にとりから預かってきたよ。香霖堂に行くならお兄さんに渡してくれって」
「ああ、そうだったのか。ありがとう」
彼女から受け取った茶封筒は、薄く軽い。
河童の得意とする機械の類ではないことは容易に見て取れた。
「で、なんなの? それ」
「気になりますねぇ。にとりとなにをやっているのやら」
「別に、君たちもやっていることだよ」
興味津々と言った様子で見つめるふたりの目の前で、霖之助は封筒を開けた。
中に入っていたものを取り出し、机の上に並べる。
「これは、写真ですか」
「ああ。余ってるカメラを分けてもらってね。
河童製のカメラなら河童が現像してくれるだろう?」
「へぇ……でも、霖之助さんがそんなことやってるなんてのは初耳ですね」
「ああ、現像したのは今回が初めてだからね」
「そうなの?」
「というか、前回君に頼んだじゃないか。にとりに渡してくれって」
「そうだっけ? そうだったような」
「あー、なるほど」
首を傾げるはたてをよそに、文はポンと手を打った。
「もしかして、私たちの新聞評価を引き受けてくれたのって」
「そう、僕のためでもあるというわけさ」
霖之助が制作しようとしている幻想郷の歴史書。
今はまだ単なる日記帳だが、ゆくゆくは他人の目にも触れることになることを考えると写真もあった方がいいだろうと考えたのだ。
阿求の幻想郷縁起は自分で絵を描いているらしいが、あいにく霖之助はそういう技能を持ち合わせていない。
それに道具を使って撮った絵の方がきっと霖之助らしいだろう。
「定期的に香霖堂の写真を撮っていこうと思っているんだよ」
「へぇ」
「なるほどー」
霖之助は机の中から真新しいアルバムを取り出し、現像された写真をしまっていく。
それらの写真を見比べながら、ふと文が首を傾げた。
「……あれ、これっていつの写真ですか?」
「一週間ごとに撮ったから、たぶんそれは先月かな」
「商品、変わってませんね」
「たまたまだよ」
「あれ、でもここに写ってるやつってあそこにまだ並んでるよ?」
はたてが指さした先にあるのは、1ヶ月前の写真と変わらぬ商品棚。
いや、いくつか新たに入荷しているので変化がないわけではない。
減った商品はないわけだが。
「……日付の入る写真機を借りてきた方がよかったかもしれないな」
「いえいえ、もっといい手段がありますよ」
「ふむ……?」
「さっき霖之助さんが言ったことです。対比ですよ、対比」
ちちち、と指を振り、文は胸を張った。
その様子にピンと来たのか、はたてが言葉を続ける。
「ははーん、つまりなんか参考になるやつを一緒に写そうってことね」
「そういうことです」
「むう」
自分で言ったことなら否定するわけにも行かない。
それにそこまで言われたらなんだかそんな気がしてくる。
……何より、この調子で写真が増えていったら自分でも時期がわからなくなりそうだった。
「しかし何か都合よくあるかな、そんなもの」
「ここにいるじゃないですか」
「はいはーい!」
元気よく手を挙げるふたりに、考えることしばし。
「何を言わんとしているかは理解したが……」
つまりこのふたりは自分たちを写せと言っているのだろう。
確かに子供の成長写真などででは使える手段かもしれないが。
「しかし妖怪を撮ってもね、見た目変わらないだろう、君ら」
「いいえ、自分ではわかりますよ? そりゃもうバッチリ」
「君たちがわかってもね……」
「だったら、お兄さんも写ればいいよ!」
「ん? 僕もかい?」
「ええ、つまりツーショット写真と言うことです」
「そうそう」
「まあ、確かにそれもいいかもしれないね」
考えてみれば店の写真に店主が写っても当然のことだ。
ツーショットはともかくとして、なかなかいい案に思えた。
「やる気になりました?」
「ああ、かまわないよ」
「やった! ではちょっとお待ちくださいね」
「ふっふっふ、こんなに早く決着を付ける時が来るなんてね」
「……決着?」
戸惑っている霖之助をよそに、文とはたては真剣な顔で向き合う。
そして次の瞬間、お互いに向かって拳を突き出した。
「はいっ!」
「ほっ」
あいこと見るや、次は平手。
……いわゆるじゃんけんだ。
「勝った!」
「負けた……」
「お待たせしました、霖之助さん。本命が決まりましたよ」
「前座よ、前座!」
「では早速撮りましょうか」
「あ、ああ」
脱力した霖之助が見守る中、 目にもとまらぬ早業を何度か繰り返し、やがて勝敗は決したようだ。
正直どうでもいいのだが、どうやら順番を決めていたらしい。
霖之助のカメラをはたてに預け、店内を背景に文は霖之助と並ぶ。
「使い方は……」
「言わなくてもわかるよー。昔触ったことあるタイプだし。
でも文、ちょっとくっつきすぎじゃないの」
「敗者は黙ってなさい。当然の権利です」
「むぅ。私の番の時も同じこと言うからね。まあいいや、撮るよー」
小気味よい音を立てて、シャッターが切られた。
「もういっちょー」
「ん?」
だがすぐさまはたてはカメラを持ち替え、構える。
「君のカメラじゃないか」
「いいじゃないですか、せっかくツーショットなんですから」
「お兄さん、次私、私!」
はたては文にカメラを返し、彼女と立ち位置を交代した。
その際、自分のケータイ型カメラを文に預ける。
「お兄さん、もっとこっち」
「ちょっとはたて、度が過ぎるわよ」
「文だってさっきやってたじゃん!」
「いや、メインは写真だからね」
「そりゃもう、はたての使いにくいカメラでもバッチリ撮れますよ」
「余計なことは言わないでよぅ」
文は喋りながらも、鮮やかな手並みでふたりを写真に納めた。
手際がよすぎたせいではたてが霖之助の横にいた時間はごくわずかだった気がする。
「でも霖之助さんって、現像するのはある程度撮り溜めてからなんですよね」
「そうだね、フィルムがもったいないし……」
霖之助が店内の写真を撮り始めたのはもうずっと前の話だ。
今回ようやくフィルム一本分になったから現像を頼んだわけで。
もう少しいろいろな写真を撮った方がいいのかもしれない。
「じゃあ、現像するまでどんな写真撮ったかわからないんだね」
「まあ、そうなるね」
「私はフィルム一本なんてすぐ使ってしまうんですけど。私の写真の方が先にできそうですね」
「ふーん、なんだか不便だね」
そこではたては自信たっぷりに胸を張った。
「私のカメラはその場で見れるから便利だよ!」
「ほう、そうなのかい?」
「そうですね、こんな感じで」
「ん?」
文はまだ返してなかったらしいはたてのケータイカメラを操作すると、中のフォルダを呼び出した。
霖之助の写真がいっぱい納められている一覧が目に入る。
「これは僕かい?」
「ちょ、ちょっと! 勝手に見ないでよぅ!」
「ちょっとはたて、危ないって」
「うわっ」
涙目になりながら、はたてはカメラを取り返すべく慌てて突進してきた。
……その拍子に何かにぶつかったのか、思い切りバランスを崩して文と霖之助にぶつかる。
「ちょっとはたて、なにしてるのよ!」
「文のせいじゃないよぅ」
もつれ合ったように倒れ、何とかはたては身を起こした。
「はたて、とりあえず僕の上からどいてくれないか」
「ごめんなさ……ひゃわわ」
無事ケータイを取り戻したらしい彼女は、しかしなにやら妙な声を上げた。
文に手を引かれて立ち上がり、霖之助は首を傾げる。
「どうかしたかい?」
「な、なんでもないよ」
どう見ても挙動不審なのだが、何でもないと言われればそれ以上聞くことはできない。
「私先に帰るね! 来週また来るから!」
そのまま慌ててはたては出て行ってしまった。
結局写真のことも聞くことができなかったのだが……。
まあ、また機会もあるだろう。
「なんだったんだ……」
「大したことではないでしょう。では私も次回の写真の時に来ることにしましょうか」
「配達じゃなくてかい?」
「その前に新聞ができればいいんですがね。では、また」
「ああ、またおいで」
文は苦笑し、手を振った。
霖之助は彼女を見送り、ため息をつく。
こんな騒ぎが毎週続くのかと思ったが……。
それはそれで、悪くない気がした。
「待ちなさい」
「ひゃい!?」
後ろから呼び止められ、はたては身を硬直させる。
わりと本気で飛んできたのだが、追いつかれてしまったらしい。
「ど、どうしたの文。顔が怖いけど」
「独り占めは感心しませんね」
「な、なんのことよ!」
「とぼける気ですか?」
距離を詰めてくる文に、はたては思考を巡らせた。
逃げるのは無理、となれば。
「でもあれは文が……」
「次は開き直る、と」
「え? えっと」
「はたて?」
「うぅ」
はたては頭を垂れると、大人しくケータイを差し出した。
そこからさっきまで見ていた画面を呼び出す。
さっき撮ったばかりの写真を。
「偶然だったのよぅ。それで、つい……その、消されるかと思って」
「…………」
はたてがぶつかった際、シャッターが切られたのだろう。
見ようによっては、3人で抱き合ってるようにも見える。
沈黙を続ける文に、はたては恐る恐る口を開いた。
「……文? あの、私、こんなのもいいかなって……」
「独り占めは、感心しませんね」
文ははたてにケータイを返すと、にっこりと微笑んだ。
「まずは焼き増しをしてから、でしょう?」
「うん!」
つられてはたても笑顔になる。
ケータイを大事にしまうと、データをコピーすべく河童の里へと向かって羽ばたいた。
「とはいえ、私の方が霖之助さんとの付き合いは長いですからね。差が出てしまうのは否めないでしょう」
「そんなもの、関係ないもん! 次はもっとくっつくんだから!」
「では私はその上を行きましょうか」
文とふたり、そんな軽口を叩き合いながら。
こんな関係が続きますように、と。
コメントの投稿
No title
この度は大変お世話になりました。仲良しな文はた霖…堪らんですたい! また機会が御座いましたらよろしくお願いしますっ
なにこのイチャイチャ具合……可愛過ぎて悶える。
霖之助さんの優柔不断っぷりを「それも有りかな」と思いはじめた文はたの未来には燦然と光り輝く3Pの文字g(ピチューン
いやぁ、素敵でした眼福でした。
ちなみに、道草さんにリクエストする際は絵を贈るのがしきたりなのでせうか?
霖之助さんの優柔不断っぷりを「それも有りかな」と思いはじめた文はたの未来には燦然と光り輝く3Pの文字g(ピチューン
いやぁ、素敵でした眼福でした。
ちなみに、道草さんにリクエストする際は絵を贈るのがしきたりなのでせうか?
No title
未来の3Pフラグである(マテ
鳥威さんの絵も良かったですしラストの文はたの仲の良さも実に良かった^q^
鳥威さんの絵も良かったですしラストの文はたの仲の良さも実に良かった^q^
No title
なんかいとこのお兄ちゃんを取り合ってる姉妹って感じがしました。
それにしても記者だからカメラを持っていて素敵な写真を取れて、
でも記者だから写真を保持してても思いに気づいてもらえない。
ジレンマですねぇ。
それにしても記者だからカメラを持っていて素敵な写真を取れて、
でも記者だから写真を保持してても思いに気づいてもらえない。
ジレンマですねぇ。
No title
さすが霖之助歪みねぇw
んで、なんだかんだで仲がいい文とはたてがほほえましいですねー。
もういっそ、2人で霖之助を共有しちゃえばいいよw
んで、なんだかんだで仲がいい文とはたてがほほえましいですねー。
もういっそ、2人で霖之助を共有しちゃえばいいよw
No title
ホント仲の良さそうな姉妹みたいで可愛いでする。
決着を付けるのもアリだけどこのまま仲良しだと良いなぁ、と思うのです。
決着を付けるのもアリだけどこのまま仲良しだと良いなぁ、と思うのです。