バレンタインSS03
辛そうで辛くない少し辛いものが食べたくて困る。
それはそうとバレンタインなんてとっくに終わってるのでいつ飽きられるかが心配です。
スレにアップしてレスがなかったら終了かな、うん。
霖之助 お空
「できたー」
地霊殿の台所に、お空の叫びが響き渡った。
ずっと悪戦苦闘しながら作り続けていたチョコレートが、ようやく完成したのだ。
「できたよー、お燐ー!」
キッチンは無残なほどに散らかり、お空の顔や手、服も粉まみれ、チョコまみれになっている。
しかしそんなことを全く気にせず、彼女は嬉しそうに喜び続けるのだった。
「うん、なかなか美味しいね、これ」
お燐が余ったチョコレートを口に運び、しきりに頷く。
中には大量の失敗作もあるのだが……。
それもそのうち、食べることになるだろう。
……そのことを思うと、ちょっとだけ気が滅入る。
「猫にチョコレートって毒じゃなかったかしら」
「そんなの地上の猫だけですよ、さとり様。
タマネギだって大丈夫です」
飼い主の疑問に答えつつ、ひょいぱくひょいぱくとチョコを口に放り込むお燐。
そんな親友の鼻先に、お空は先ほどラッピングしたばかりの包みを突きつけた。
「はい、さとりさまとお燐にあげる~♪」
「あら、ありがとう」
「あたいにくれるつもりだったの?
あたい、お空の分作ってないよ」
「いいのよ。お空はあなたと一緒に作りたかったんだから」
「うんー」
お空がいきなりチョコを作りたいなんて言い出すから、お燐はさとりに頼み込んでキッチンを貸してもらったのだ。
そう言えば、さとりはあまりチョコを食べてなかった気がする。
きっと貰えることをわかっていたのだろう。
「何か言いたいことがあるのかしら」
「いえ、何でもありません……」
「これはこいしさまの分、さとりさまに預けておきますね」
「ええ、確かに」
さとりは包みを受け取り、大事に抱えた。
きっと妹も喜ぶことだろう。
今日帰ってくればいいのだが。
「ん? もうひとつあるけど、どうするのそれ」
「え? えへへ」
お燐の言葉に、お空は照れたような表情を浮かべる。
珍しい反応だ、とお燐は思った。
いつもは1か0かとてもわかりやすいのに。
「お燐、キッチンを貸す条件はわかってるわよね」
「……はい」
さとりの言葉に、お燐の尻尾がしゅんと垂れる。
使った物はきちんと元に戻すこと。
そして、掃除をすること。
当然と言えば当然の条件なのだが……。
この惨状から復帰させるのは、なかなか根気が要りそうだった。
だけどふたりでやれば、なんとか今日中には終わるだろう。
しかし。
「じゃあ片付けを始めましょうか。
ああ、お空からはチョコレートを貰ったからいいわよ。
お燐が全部やってくれるって」
「え、えええ?」
「ほんと?
え、でもお燐に悪いよぅ」
そうだそうだと頷くお燐を、さとりは黙らせる。
お空は今にも飛び出しそうなほどそわそわしていた。
あまり待てというのもかわいそうだろう。
「悪いと思うなら、地上で何かお土産でも探してらっしゃい」
かつて、冬が寒いのは太陽神がサボっているからじゃないか、と考えたことがある。
もちろん読書好きな霖之助は外の世界の知識も取り入れ、今ではその考えが間違いだったと言うことも知っている。
冬でも暖かい地方に行ったことがあるし、冬が寒いのは太陽からの距離が遠くなることだということも読んだ。
そして何より。
「うにゅー!」
太陽の化身が活動的でも、暑いと言うより騒がしいのだから。
「いらっしゃいお空。
なんだか機嫌が良さそうだね」
「うん!
はい、バレンタインのチョコレート。
霖之助にあげる」
「君がかい? ほぅ……」
太陽のような笑顔を輝かせながら、お空はぶんぶんと腕を振った。
確かにその手にはチョコレートらしき包みが握られている。
「ありがとう、お空。
嬉しいよ」
お空から貰えるとは思ってもみなかった。
純粋な好意が真っ直ぐに霖之助に向いており、なんだか気恥ずかしくもある。
「ね、一緒に食べよ」
「一緒にか。はは、君らしいね。
少し待っているといい。お茶を入れてこよう」
「うん、待ってる」
落とさないようにだろう。
しっかりと握られたその手には、卵くらいの大きさの包みが収まっていた。
「ちょっと前にね、霖之助が言ってたやつを作ってみたのよ。
ほら、卵で出来たチョコレートで、おもちゃが入ってるやつ」
「ああ、そう言えば話したことがあったね。
覚えてたのか」
ついでにその時、バレンタインの話も一緒にした気がする。
よほどお空の印象に残ったのだろう。
「ちゃんとおもちゃも入れたのよ。
ほらこれ」
そう言ってお空はもう片方の手を開いた。
そこには白と黒のサイコロが握られている。
「……あれ、何でこれがあるんだろう」
「まさか入れ忘れたのかな?
まあ……そう言う時もあるさ」
言いながら、霖之助はお空の前に湯飲みを置いた。
元気づけるように、彼女の頭を撫でる。
「これじゃただのたまごだよぅ」
「チョコレートのたまごには違いないね。
たまご、好きだろう?」
「うん!」
少し悲しそうな表情を浮かべていたお空だったが、霖之助の言葉で笑顔が戻る。
やはり彼女は笑っていたほうがいい。
霖之助はそう思いながら、お茶を口に含んだ。
「そうそう、チョコレートと言えば甘いお菓子だけあって虫歯に気をつけないといけないと思われがちだがね」
「うん、さとり様からきちんと歯を磨きなさいって言われたよ」
「実は虫歯を予防する効果もあるらしい」
「そうなの?」
「ああ。
竹林の薬師に聞いた話なんだが……」
いつもより、霖之助も上機嫌だった。
お空にチョコレートを貰ったせいだろうか。
「まあもっとも、甘いチョコでは効果はあまり無いらしいから、さとりの言ったことは正しいんだよ。
君もちゃんと飼い主の言うことを聞くといい」
「はーい」
嬉しそうに霖之助の話を聞くお空。
本当にわかっているのか怪しいのだが……どのみち些細な問題だ。
「さて、早速チョコレートを頂こうか」
あまり待たせても悪いと思い、霖之助は話を切り上げた。
一緒に食べるのが嬉しいのだろう。
お空の翼がパタパタと動く。
「じゃあ、開けるね」
彼女は持っていた包みをテーブルの上に置き、広げようとした。
しかし置いた途端、チョコレートはまるで力尽きたかのようにくたりと垂れる。
「うにゅ?」
「溶けている……ようだね」
つい先ほどまで握りしめていたせいだろう。
そうでなくても太陽の力を宿したお空だ。
チョコが溶けるのは当然かも知れない。
「お空……?」
原形をとどめていないチョコレートを前に、彼女はどんな表情をしているのだろう。
思わず心配する霖之助だったが……対する彼女の反応は、あっさりしたものだった。
「あ、溶けちゃった」
慌てた様子もなく、お空は溶けたチョコに指ですくい、舐める。
その途端、ぱっと顔を輝かせた。
自信作はやはり変わらず自信作だったのだろう。
そしてそのまま、彼女はその指を霖之助に突き出す。
「ねえ、食べて。霖之助」
「ん? ……ああ」
霖之助は苦笑を浮かべた。
本当に、他意はないのだろう。
他意はなく……純粋に、好意。
「いただくよ、お空」
「うん。たくさんあるからね!」
それはそうとバレンタインなんてとっくに終わってるのでいつ飽きられるかが心配です。
スレにアップしてレスがなかったら終了かな、うん。
霖之助 お空
「できたー」
地霊殿の台所に、お空の叫びが響き渡った。
ずっと悪戦苦闘しながら作り続けていたチョコレートが、ようやく完成したのだ。
「できたよー、お燐ー!」
キッチンは無残なほどに散らかり、お空の顔や手、服も粉まみれ、チョコまみれになっている。
しかしそんなことを全く気にせず、彼女は嬉しそうに喜び続けるのだった。
「うん、なかなか美味しいね、これ」
お燐が余ったチョコレートを口に運び、しきりに頷く。
中には大量の失敗作もあるのだが……。
それもそのうち、食べることになるだろう。
……そのことを思うと、ちょっとだけ気が滅入る。
「猫にチョコレートって毒じゃなかったかしら」
「そんなの地上の猫だけですよ、さとり様。
タマネギだって大丈夫です」
飼い主の疑問に答えつつ、ひょいぱくひょいぱくとチョコを口に放り込むお燐。
そんな親友の鼻先に、お空は先ほどラッピングしたばかりの包みを突きつけた。
「はい、さとりさまとお燐にあげる~♪」
「あら、ありがとう」
「あたいにくれるつもりだったの?
あたい、お空の分作ってないよ」
「いいのよ。お空はあなたと一緒に作りたかったんだから」
「うんー」
お空がいきなりチョコを作りたいなんて言い出すから、お燐はさとりに頼み込んでキッチンを貸してもらったのだ。
そう言えば、さとりはあまりチョコを食べてなかった気がする。
きっと貰えることをわかっていたのだろう。
「何か言いたいことがあるのかしら」
「いえ、何でもありません……」
「これはこいしさまの分、さとりさまに預けておきますね」
「ええ、確かに」
さとりは包みを受け取り、大事に抱えた。
きっと妹も喜ぶことだろう。
今日帰ってくればいいのだが。
「ん? もうひとつあるけど、どうするのそれ」
「え? えへへ」
お燐の言葉に、お空は照れたような表情を浮かべる。
珍しい反応だ、とお燐は思った。
いつもは1か0かとてもわかりやすいのに。
「お燐、キッチンを貸す条件はわかってるわよね」
「……はい」
さとりの言葉に、お燐の尻尾がしゅんと垂れる。
使った物はきちんと元に戻すこと。
そして、掃除をすること。
当然と言えば当然の条件なのだが……。
この惨状から復帰させるのは、なかなか根気が要りそうだった。
だけどふたりでやれば、なんとか今日中には終わるだろう。
しかし。
「じゃあ片付けを始めましょうか。
ああ、お空からはチョコレートを貰ったからいいわよ。
お燐が全部やってくれるって」
「え、えええ?」
「ほんと?
え、でもお燐に悪いよぅ」
そうだそうだと頷くお燐を、さとりは黙らせる。
お空は今にも飛び出しそうなほどそわそわしていた。
あまり待てというのもかわいそうだろう。
「悪いと思うなら、地上で何かお土産でも探してらっしゃい」
かつて、冬が寒いのは太陽神がサボっているからじゃないか、と考えたことがある。
もちろん読書好きな霖之助は外の世界の知識も取り入れ、今ではその考えが間違いだったと言うことも知っている。
冬でも暖かい地方に行ったことがあるし、冬が寒いのは太陽からの距離が遠くなることだということも読んだ。
そして何より。
「うにゅー!」
太陽の化身が活動的でも、暑いと言うより騒がしいのだから。
「いらっしゃいお空。
なんだか機嫌が良さそうだね」
「うん!
はい、バレンタインのチョコレート。
霖之助にあげる」
「君がかい? ほぅ……」
太陽のような笑顔を輝かせながら、お空はぶんぶんと腕を振った。
確かにその手にはチョコレートらしき包みが握られている。
「ありがとう、お空。
嬉しいよ」
お空から貰えるとは思ってもみなかった。
純粋な好意が真っ直ぐに霖之助に向いており、なんだか気恥ずかしくもある。
「ね、一緒に食べよ」
「一緒にか。はは、君らしいね。
少し待っているといい。お茶を入れてこよう」
「うん、待ってる」
落とさないようにだろう。
しっかりと握られたその手には、卵くらいの大きさの包みが収まっていた。
「ちょっと前にね、霖之助が言ってたやつを作ってみたのよ。
ほら、卵で出来たチョコレートで、おもちゃが入ってるやつ」
「ああ、そう言えば話したことがあったね。
覚えてたのか」
ついでにその時、バレンタインの話も一緒にした気がする。
よほどお空の印象に残ったのだろう。
「ちゃんとおもちゃも入れたのよ。
ほらこれ」
そう言ってお空はもう片方の手を開いた。
そこには白と黒のサイコロが握られている。
「……あれ、何でこれがあるんだろう」
「まさか入れ忘れたのかな?
まあ……そう言う時もあるさ」
言いながら、霖之助はお空の前に湯飲みを置いた。
元気づけるように、彼女の頭を撫でる。
「これじゃただのたまごだよぅ」
「チョコレートのたまごには違いないね。
たまご、好きだろう?」
「うん!」
少し悲しそうな表情を浮かべていたお空だったが、霖之助の言葉で笑顔が戻る。
やはり彼女は笑っていたほうがいい。
霖之助はそう思いながら、お茶を口に含んだ。
「そうそう、チョコレートと言えば甘いお菓子だけあって虫歯に気をつけないといけないと思われがちだがね」
「うん、さとり様からきちんと歯を磨きなさいって言われたよ」
「実は虫歯を予防する効果もあるらしい」
「そうなの?」
「ああ。
竹林の薬師に聞いた話なんだが……」
いつもより、霖之助も上機嫌だった。
お空にチョコレートを貰ったせいだろうか。
「まあもっとも、甘いチョコでは効果はあまり無いらしいから、さとりの言ったことは正しいんだよ。
君もちゃんと飼い主の言うことを聞くといい」
「はーい」
嬉しそうに霖之助の話を聞くお空。
本当にわかっているのか怪しいのだが……どのみち些細な問題だ。
「さて、早速チョコレートを頂こうか」
あまり待たせても悪いと思い、霖之助は話を切り上げた。
一緒に食べるのが嬉しいのだろう。
お空の翼がパタパタと動く。
「じゃあ、開けるね」
彼女は持っていた包みをテーブルの上に置き、広げようとした。
しかし置いた途端、チョコレートはまるで力尽きたかのようにくたりと垂れる。
「うにゅ?」
「溶けている……ようだね」
つい先ほどまで握りしめていたせいだろう。
そうでなくても太陽の力を宿したお空だ。
チョコが溶けるのは当然かも知れない。
「お空……?」
原形をとどめていないチョコレートを前に、彼女はどんな表情をしているのだろう。
思わず心配する霖之助だったが……対する彼女の反応は、あっさりしたものだった。
「あ、溶けちゃった」
慌てた様子もなく、お空は溶けたチョコに指ですくい、舐める。
その途端、ぱっと顔を輝かせた。
自信作はやはり変わらず自信作だったのだろう。
そしてそのまま、彼女はその指を霖之助に突き出す。
「ねえ、食べて。霖之助」
「ん? ……ああ」
霖之助は苦笑を浮かべた。
本当に、他意はないのだろう。
他意はなく……純粋に、好意。
「いただくよ、お空」
「うん。たくさんあるからね!」