かぼちゃの馬車
『紅の王』の続きのようなおじさまフランちゃん。
ハロウィンと思ってる限りハロウィンです。
嘘です明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
霖之助 フランドール
選択肢というものは一見選べるように見えても、実際はその余地が残されていない場合が多い。
重要な局面になればなるほどその傾向が強く……。
唐突に突きつけられるような選択肢なら言わずもがな、というやつである。
「とりっくおあとりーと!」
だから、ではないが。
店内に響く喜色を含んだそれに、霖之助は思わず苦笑を漏らす。
「いらっしゃいフラン。今日はずいぶん可愛い格好だね」
「えへへ、ありがと。咲夜が用意してくれたのよ」
フランドールはフリルのついた衣装を見せびらかすように、くるりと一回転してみせる。
上質な布を惜しげもなく使用し、気合いの入ったその仕立ては西洋で語られる天使をモチーフにしているようだ。
吸血鬼に天使の衣装とは、どういう皮肉なのだろうか。
……まああのメイドのやることなので、可愛いから以外に特に意味は無いのかもしれない。
ちなみに日付が変わってしまっているのですでにハロウィンは終わっているのだが、彼女の笑顔の前には小さな問題だろう。
「いたずらされちゃ困るから、フランにはお菓子をあげよう」
「えー」
霖之助の言葉に、しかし不満そう唇を尖らせるフランドール。
その拍子に天使の羽根がぱたぱたと動き……よく見ると吸血鬼の羽根と連動するようになっているらしい。芸の細かいことだ。
「お菓子は嬉しいんだけど、みんな同じ答えでちょっとつまんない」
「ふむ?」
「パチュリーとか、私が言う前からお菓子を出してくるしー」
よほどいたずらされたくなかったらしい。
……とはいえその気持ちはわからないわけではない。
「がんばってとっておきのいたずらを考えてたのに」
「とっておき?」
「知りたい?」
「……いや、やめておこう」
「えーなんでー?」
彼女の瞳に危険な輝きを見て、霖之助は首を振った。
さすがにこればかりは耳を貸すわけにはいかず、フランドールを宥めることにする。
ハロウィンはトリックオアトリートであってほしい。
いたずらかお菓子かというほのぼのとしたイベントである。
……決して命を天秤に掛けるような代物ではない。
「せっかくのハロウィンだから、今日のところはこれで勘弁してくれないかな」
「ううん、ありがとうおじさま。ちゃんと用意してくれたんだ」
「まあね」
といったものの、実は今朝メイド長から館のハロウィンについて教えて貰ったのだ。
でなければこんな時間になる前に寝てしまっていただろう。
幸いフランドールがそれに気付いた様子はなく、一抱えほどのプレゼントの包みを受け取り喜色満面の笑みを浮かべている。
……と、そんな彼女はプレゼントを手で弄びながら、ふと首を傾げて見せた。
「でもなんでハロウィンはお菓子を貰えるの?」
「それはまあ、そう言うイベントだからね」
「おじさままでパチュリーと同じ事を言う……」
「うん?」
予想外の答えに、霖之助は目を瞬かせる。
どういうことかと尋ねると、フランドールは困ったように口を開いた。
「この前ね、お姉様が自信たっぷりにハロウィンをやるわよ! なんて言うから驚いちゃって。それで私、ハロウィンがなんなのか知らなかったからパチュリーに聞いたのよ」
「ふむ、それはいい心がけだね」
疑問があれば調べる。勉学の第一歩である。
その心が一番重要なのだ。書物で調べるにも人に聞くにも、まずはそこから始まるのだから。
「でも聞けば聞くほどよくわからなくって。ううん、ハロウィンがなんなのかはわかったんだけど、それがどうしてお菓子が貰えるのかがさっぱりで。
パチュリーに聞いても、そういうものだってしか言わないし」
「なるほどね。それはまあ何ともあの魔女らしいと言うか」
「で、おじさまも同じ事言うでしょ? 何か理由でもあるの?」
「あるといえばある、のかな」
曖昧に頷きつつ、霖之助は苦笑を浮かべる。
本来のハロウィンを正しく知れば知るほど、現状のハロウィンと繋がらなくなる……なるほど、彼女の言い分ももっともだ。
最後までパチュリーが答えなかったのは、きっと霖之助にも見せ場を残しておいてくれたからだろう。
たぶん。
……もしくは、突然のレミリアの思いつきに振り回されて忙しかったのかもしれない。
「つまるところ、収穫祭を起源としたハロウィンが何故今のようなイベントとなったか、というのが君の疑問というわけだね」
「うんそう。かぼちゃが魔除けでどうのこうのって説もたくさんパチュリーから聞かされて疲れちゃったわ」
「それはそれは」
フランドールの知識欲は素直に賞賛に値する。
今まで閉じこもっていた分、それが顕著なのだろう。
おおっぴらでこそないが、ちょこちょこ外出するようになってその傾向が加速したように思える。
まあ外出と言っても、香霖堂に来るのが精一杯のようだが。
「結論から言うとパチュリーの言葉は的を射ているんだよ。限りなく正解に近い、と言うべきかな」
「……どういうこと?」
ぽかんとしているフランドールに楽しげな笑みを浮かべ、霖之助は言葉を続ける。
こういった素直な反応をしてくれると、実に語り甲斐があるというものだ。
最近妹分が蘊蓄を聞いてくれなったので余計にそう思ってしまうのかもしれない。
「今のハロウィンというのは、イベントを楽しむためのイベントと言うことさ。……起源はともかく、ね」
「そうなの? おじさまは結構そういうの、気にしそうなのに」
「何、別に珍しいものじゃないさ。土用の丑の日なんかもそうだし、バレンタインやホワイトデー、最近だと恵方巻きなんてのもそのひとつかな」
「ふーん、お姉様が勝手に言ってるだけじゃなかったんだ」
「さすがにそう言うわけじゃ……ないと思うけど」
確かにあの吸血鬼なら勝手に記念日を作りかねないから困りものだ。
とにかく、宗教的な是非はともかくとしても、ああいった手法は商人として大いに参考にしたいところである。
だから……というかなんというか、由来を聞かれてもパチュリーのようにそう言うものだから、といしか言いようがなかったりする。
「幻想郷のハロウィンに関しては、豊穣の神が色々画策してたみたいだから……君のお姉さんもそれに乗った形だと思うよ。
まあ、そのせいで余計に変な伝わり方をしている気がするのは否めないけど」
「要するにただのお祭りってこと?」
「ああ、そう思っておけば間違いないだろうね」
「ふーん」
ああ見えて豊穣神業界というのもなかなか熾烈な生存競争に晒されているらしい。
古来から作物の収穫というのは人間にとって最大の関心事と言っても過言ではなく、それに伴い様々な豊穣神が信仰されてきた。
そんな中でより多くの信仰を集めようとすれば、他と違ったことをして目立つ必要があるわけで。
そこで今回妖怪の山の麓に住む秋姉妹が目を付けたのが、ハロウィンなのである。
些末事はともかく、秋神のおかげでお菓子を貰えたと広まれば子供達の信仰を得たも同然だ。それを確たるものに出来るかどうかは、また別の問題だが。
鰯の頭も信心からとは言うが、信仰を得るため他のイベントを積極的に取り入れる神々というのもなかなか逞しいものがある。
それだけ幻想郷が平和だと言うことだろうか。
「昔ながらの収穫祭と合わせて、結構盛大に人里でお祭りをやってたみたいだよ」
「そうなの? お屋敷から出たの久しぶりだから知らなかったわ」
「……そうか」
「でも、なんだか楽しそう。私も見てみたかったなあ」
「見れるさ」
「本当?」
「ああ」
霖之助はひとつ頷き、視線を下げた。
彼女の手元、綺麗に包まれたラッピングを眺め、口を開く。
「フラン。さっきあげたお菓子だけど、開けて確認してみてくれるかな」
「いいの?」
「もちろんさ。君のために用意したものだからね」
「そう? じゃあ早速……」
待ちきれなかったのだろう。
フランドールは嬉しそうに羽根をはためかせながら、包装を解いていく。
包みは破いても構わなかったのだが、綺麗に畳んでいるところを見ると柄が気に入ったのかもしれない。
そして中から現れた物を見て、彼女は声を上げた。
「わあ、かわいいかぼちゃのぬいぐるみ」
「この前あげた馬のぬいぐるみがあるだろう? そのかぼちゃはあれとサイズが合わせてあって……」
「お馬さん? ……ひょっとしてこれ、かぼちゃの馬車かしら」
「ご明察」
お菓子の詰まったぬいぐるみを胸に、フランドールは顔をほころばせる。
「それならおじさまは魔法使いさん?」
「そんなところかな。ガラスの靴は用意出来てないけどね」
霖之助は咳払いをすると、彼女の頭を優しく撫でた。
ハロウィンは大きな問題も無く、無事に閉幕したようだ。
単なるかぼちゃ祭りで西洋的な要素がほとんど見受けられなかったが、これはこれで幻想郷らしい……と、先ほど取材帰りの鴉天狗が話していた。
だから。
「今年のハロウィンが上手くいったみたいだし、来年もやると思うよ。きっと、その次も」
「……じゃあそれまでに、ちゃんとお姉様から外出許可とらないとね」
「そしたら僕が君を収穫祭に連れて行くよ」
「かぼちゃの馬車で?」
「ネズミの妖怪なら知り合いにいるが、あいにくと馬車を引いてくれるほど心が広くなくてね」
そう言って彼は肩を竦めた。
今年の収穫祭はつい先ほどまでやっていたらしい。
つまり日が沈んでから参加しても十分楽しめると言うことだ。
太陽が苦手なシンデレラが参加する舞踏会としては申し分ないだろう。
あとは意地悪な姉に許可を貰えるか、だが。
それは本人のがんばり次第である。
「とっても素敵。ありがとう、おじさま」
「どういたしまして。気に入ってくれたみたいで安心したよ」
「もちろん、だっておじさまが私のために選んでくれたんだもの」
「それはなにより」
この目標は二人の秘密にしよう、と言って笑い合う。
……意地悪な姉、なんて呼んでいるのがばれたら噛み付かれそうなので黙っておいてもらいたいというのもあったりする。
「でも」
「うん?」
フランドールはかぼちゃをぎゅっと抱きしめ、霖之助の胸に頬を寄せた。
首を傾げる彼を見上げ、目を輝かせて言葉を続ける。
「私としては、おじさまは王子様のほうが嬉しかったかも。
私は悪い子だから、12時過ぎても帰ってあげないけどね」
「……トリックするならトリートはおあずけだよ」
「おじさまのいじわる」
そう言っていたずらっぽく笑うフランドールに、霖之助は苦笑を浮かべるのだった。
ハロウィンと思ってる限りハロウィンです。
嘘です明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
霖之助 フランドール
選択肢というものは一見選べるように見えても、実際はその余地が残されていない場合が多い。
重要な局面になればなるほどその傾向が強く……。
唐突に突きつけられるような選択肢なら言わずもがな、というやつである。
「とりっくおあとりーと!」
だから、ではないが。
店内に響く喜色を含んだそれに、霖之助は思わず苦笑を漏らす。
「いらっしゃいフラン。今日はずいぶん可愛い格好だね」
「えへへ、ありがと。咲夜が用意してくれたのよ」
フランドールはフリルのついた衣装を見せびらかすように、くるりと一回転してみせる。
上質な布を惜しげもなく使用し、気合いの入ったその仕立ては西洋で語られる天使をモチーフにしているようだ。
吸血鬼に天使の衣装とは、どういう皮肉なのだろうか。
……まああのメイドのやることなので、可愛いから以外に特に意味は無いのかもしれない。
ちなみに日付が変わってしまっているのですでにハロウィンは終わっているのだが、彼女の笑顔の前には小さな問題だろう。
「いたずらされちゃ困るから、フランにはお菓子をあげよう」
「えー」
霖之助の言葉に、しかし不満そう唇を尖らせるフランドール。
その拍子に天使の羽根がぱたぱたと動き……よく見ると吸血鬼の羽根と連動するようになっているらしい。芸の細かいことだ。
「お菓子は嬉しいんだけど、みんな同じ答えでちょっとつまんない」
「ふむ?」
「パチュリーとか、私が言う前からお菓子を出してくるしー」
よほどいたずらされたくなかったらしい。
……とはいえその気持ちはわからないわけではない。
「がんばってとっておきのいたずらを考えてたのに」
「とっておき?」
「知りたい?」
「……いや、やめておこう」
「えーなんでー?」
彼女の瞳に危険な輝きを見て、霖之助は首を振った。
さすがにこればかりは耳を貸すわけにはいかず、フランドールを宥めることにする。
ハロウィンはトリックオアトリートであってほしい。
いたずらかお菓子かというほのぼのとしたイベントである。
……決して命を天秤に掛けるような代物ではない。
「せっかくのハロウィンだから、今日のところはこれで勘弁してくれないかな」
「ううん、ありがとうおじさま。ちゃんと用意してくれたんだ」
「まあね」
といったものの、実は今朝メイド長から館のハロウィンについて教えて貰ったのだ。
でなければこんな時間になる前に寝てしまっていただろう。
幸いフランドールがそれに気付いた様子はなく、一抱えほどのプレゼントの包みを受け取り喜色満面の笑みを浮かべている。
……と、そんな彼女はプレゼントを手で弄びながら、ふと首を傾げて見せた。
「でもなんでハロウィンはお菓子を貰えるの?」
「それはまあ、そう言うイベントだからね」
「おじさままでパチュリーと同じ事を言う……」
「うん?」
予想外の答えに、霖之助は目を瞬かせる。
どういうことかと尋ねると、フランドールは困ったように口を開いた。
「この前ね、お姉様が自信たっぷりにハロウィンをやるわよ! なんて言うから驚いちゃって。それで私、ハロウィンがなんなのか知らなかったからパチュリーに聞いたのよ」
「ふむ、それはいい心がけだね」
疑問があれば調べる。勉学の第一歩である。
その心が一番重要なのだ。書物で調べるにも人に聞くにも、まずはそこから始まるのだから。
「でも聞けば聞くほどよくわからなくって。ううん、ハロウィンがなんなのかはわかったんだけど、それがどうしてお菓子が貰えるのかがさっぱりで。
パチュリーに聞いても、そういうものだってしか言わないし」
「なるほどね。それはまあ何ともあの魔女らしいと言うか」
「で、おじさまも同じ事言うでしょ? 何か理由でもあるの?」
「あるといえばある、のかな」
曖昧に頷きつつ、霖之助は苦笑を浮かべる。
本来のハロウィンを正しく知れば知るほど、現状のハロウィンと繋がらなくなる……なるほど、彼女の言い分ももっともだ。
最後までパチュリーが答えなかったのは、きっと霖之助にも見せ場を残しておいてくれたからだろう。
たぶん。
……もしくは、突然のレミリアの思いつきに振り回されて忙しかったのかもしれない。
「つまるところ、収穫祭を起源としたハロウィンが何故今のようなイベントとなったか、というのが君の疑問というわけだね」
「うんそう。かぼちゃが魔除けでどうのこうのって説もたくさんパチュリーから聞かされて疲れちゃったわ」
「それはそれは」
フランドールの知識欲は素直に賞賛に値する。
今まで閉じこもっていた分、それが顕著なのだろう。
おおっぴらでこそないが、ちょこちょこ外出するようになってその傾向が加速したように思える。
まあ外出と言っても、香霖堂に来るのが精一杯のようだが。
「結論から言うとパチュリーの言葉は的を射ているんだよ。限りなく正解に近い、と言うべきかな」
「……どういうこと?」
ぽかんとしているフランドールに楽しげな笑みを浮かべ、霖之助は言葉を続ける。
こういった素直な反応をしてくれると、実に語り甲斐があるというものだ。
最近妹分が蘊蓄を聞いてくれなったので余計にそう思ってしまうのかもしれない。
「今のハロウィンというのは、イベントを楽しむためのイベントと言うことさ。……起源はともかく、ね」
「そうなの? おじさまは結構そういうの、気にしそうなのに」
「何、別に珍しいものじゃないさ。土用の丑の日なんかもそうだし、バレンタインやホワイトデー、最近だと恵方巻きなんてのもそのひとつかな」
「ふーん、お姉様が勝手に言ってるだけじゃなかったんだ」
「さすがにそう言うわけじゃ……ないと思うけど」
確かにあの吸血鬼なら勝手に記念日を作りかねないから困りものだ。
とにかく、宗教的な是非はともかくとしても、ああいった手法は商人として大いに参考にしたいところである。
だから……というかなんというか、由来を聞かれてもパチュリーのようにそう言うものだから、といしか言いようがなかったりする。
「幻想郷のハロウィンに関しては、豊穣の神が色々画策してたみたいだから……君のお姉さんもそれに乗った形だと思うよ。
まあ、そのせいで余計に変な伝わり方をしている気がするのは否めないけど」
「要するにただのお祭りってこと?」
「ああ、そう思っておけば間違いないだろうね」
「ふーん」
ああ見えて豊穣神業界というのもなかなか熾烈な生存競争に晒されているらしい。
古来から作物の収穫というのは人間にとって最大の関心事と言っても過言ではなく、それに伴い様々な豊穣神が信仰されてきた。
そんな中でより多くの信仰を集めようとすれば、他と違ったことをして目立つ必要があるわけで。
そこで今回妖怪の山の麓に住む秋姉妹が目を付けたのが、ハロウィンなのである。
些末事はともかく、秋神のおかげでお菓子を貰えたと広まれば子供達の信仰を得たも同然だ。それを確たるものに出来るかどうかは、また別の問題だが。
鰯の頭も信心からとは言うが、信仰を得るため他のイベントを積極的に取り入れる神々というのもなかなか逞しいものがある。
それだけ幻想郷が平和だと言うことだろうか。
「昔ながらの収穫祭と合わせて、結構盛大に人里でお祭りをやってたみたいだよ」
「そうなの? お屋敷から出たの久しぶりだから知らなかったわ」
「……そうか」
「でも、なんだか楽しそう。私も見てみたかったなあ」
「見れるさ」
「本当?」
「ああ」
霖之助はひとつ頷き、視線を下げた。
彼女の手元、綺麗に包まれたラッピングを眺め、口を開く。
「フラン。さっきあげたお菓子だけど、開けて確認してみてくれるかな」
「いいの?」
「もちろんさ。君のために用意したものだからね」
「そう? じゃあ早速……」
待ちきれなかったのだろう。
フランドールは嬉しそうに羽根をはためかせながら、包装を解いていく。
包みは破いても構わなかったのだが、綺麗に畳んでいるところを見ると柄が気に入ったのかもしれない。
そして中から現れた物を見て、彼女は声を上げた。
「わあ、かわいいかぼちゃのぬいぐるみ」
「この前あげた馬のぬいぐるみがあるだろう? そのかぼちゃはあれとサイズが合わせてあって……」
「お馬さん? ……ひょっとしてこれ、かぼちゃの馬車かしら」
「ご明察」
お菓子の詰まったぬいぐるみを胸に、フランドールは顔をほころばせる。
「それならおじさまは魔法使いさん?」
「そんなところかな。ガラスの靴は用意出来てないけどね」
霖之助は咳払いをすると、彼女の頭を優しく撫でた。
ハロウィンは大きな問題も無く、無事に閉幕したようだ。
単なるかぼちゃ祭りで西洋的な要素がほとんど見受けられなかったが、これはこれで幻想郷らしい……と、先ほど取材帰りの鴉天狗が話していた。
だから。
「今年のハロウィンが上手くいったみたいだし、来年もやると思うよ。きっと、その次も」
「……じゃあそれまでに、ちゃんとお姉様から外出許可とらないとね」
「そしたら僕が君を収穫祭に連れて行くよ」
「かぼちゃの馬車で?」
「ネズミの妖怪なら知り合いにいるが、あいにくと馬車を引いてくれるほど心が広くなくてね」
そう言って彼は肩を竦めた。
今年の収穫祭はつい先ほどまでやっていたらしい。
つまり日が沈んでから参加しても十分楽しめると言うことだ。
太陽が苦手なシンデレラが参加する舞踏会としては申し分ないだろう。
あとは意地悪な姉に許可を貰えるか、だが。
それは本人のがんばり次第である。
「とっても素敵。ありがとう、おじさま」
「どういたしまして。気に入ってくれたみたいで安心したよ」
「もちろん、だっておじさまが私のために選んでくれたんだもの」
「それはなにより」
この目標は二人の秘密にしよう、と言って笑い合う。
……意地悪な姉、なんて呼んでいるのがばれたら噛み付かれそうなので黙っておいてもらいたいというのもあったりする。
「でも」
「うん?」
フランドールはかぼちゃをぎゅっと抱きしめ、霖之助の胸に頬を寄せた。
首を傾げる彼を見上げ、目を輝かせて言葉を続ける。
「私としては、おじさまは王子様のほうが嬉しかったかも。
私は悪い子だから、12時過ぎても帰ってあげないけどね」
「……トリックするならトリートはおあずけだよ」
「おじさまのいじわる」
そう言っていたずらっぽく笑うフランドールに、霖之助は苦笑を浮かべるのだった。
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No title
天使衣装のフランちゃんとはまた可愛らしい……!
次の収穫祭では霖之助さんがフランちゃんの王子様になってくれるのかどうか……ごちそうさまでした!
次の収穫祭では霖之助さんがフランちゃんの王子様になってくれるのかどうか……ごちそうさまでした!
No title
トリック・オア・トリート(あけましておめでとうございます
行事ごとに様々なことを学んで、自他ともに認める一人前のれでぃ目指すフランが可愛らしいです。
また一歩、フランの香霖堂お姫様計画が進んだようで何よりでした!
行事ごとに様々なことを学んで、自他ともに認める一人前のれでぃ目指すフランが可愛らしいです。
また一歩、フランの香霖堂お姫様計画が進んだようで何よりでした!
No title
あけましておめでとうございます。
霖之助さんとフランちゃんの、まるで洋画のワンシーンの様な遣り取り、・・・ええわーw
・・・おじさまと呼ばれている霖之助さんに違和感が全くなかったのはここだけの話。
フランちゃんの方が歳(きゅっとしてドカーン
霖之助さんとフランちゃんの、まるで洋画のワンシーンの様な遣り取り、・・・ええわーw
・・・おじさまと呼ばれている霖之助さんに違和感が全くなかったのはここだけの話。
フランちゃんの方が歳(きゅっとしてドカーン
No title
光(天使コス)と闇(吸血鬼)が交わり最強のフランちゃん降臨ですな\(^o^)/
てかシンデレラって魔法使いが男性だったらむしろ魔法使いの方を好きに
なる方が自然じゃないかと思ったりwww 来年は王子にがんばってもらって
収穫祭に行けるといいですね。
てかシンデレラって魔法使いが男性だったらむしろ魔法使いの方を好きに
なる方が自然じゃないかと思ったりwww 来年は王子にがんばってもらって
収穫祭に行けるといいですね。
No title
明けまして、おめでとうございます!
トリートという英単語を調べたら楽しみと出てきました。
あれ?最初から楽しみはもらえてるだろうから、それを上回る楽しみでないとトリックして良いってことなんですね!←おい
トリートという英単語を調べたら楽しみと出てきました。
あれ?最初から楽しみはもらえてるだろうから、それを上回る楽しみでないとトリックして良いってことなんですね!←おい
霖之助「昔々ハロウィンというのは忙しい収穫祭の時期に、
死者を蘇らせて手伝いをさせたのが始まりだ。
だが、死者は起こされた挙句働かされてどうすると思う?
当然怒るだろうね、そしてその結果血塗れの「イタズラ」が起こってしまうのさ。
そういう由来としてもてなしの象徴であるお菓子を渡すイベントとなったのだろうね」
という嘘八百を自慢げに話す霖之助
死者を蘇らせて手伝いをさせたのが始まりだ。
だが、死者は起こされた挙句働かされてどうすると思う?
当然怒るだろうね、そしてその結果血塗れの「イタズラ」が起こってしまうのさ。
そういう由来としてもてなしの象徴であるお菓子を渡すイベントとなったのだろうね」
という嘘八百を自慢げに話す霖之助